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第一章 第三部 絶海の孤島
10 旗印
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「いかんいかん」
トーヤはそう言ってブルブルと首を振り、なんとなくおセンチになってしまった気分を振り切ろうとした。
どうしてこんな気分になってしまったのか?ディレンと会って昔のことを思い出したり、思い出話(碌でもない思い出だが)をしたりしたせいだ。そんなことのためにこの島に寄ったというわけではあるまい。
きっとなにか理由があるはずだと考えるものの、何も浮かばない。
「けど一つだけ気がついたのは、俺たちがあそこに戻ったというのをすぐには知らせない方がいいってこった」
ディレンに自分がシャンタルを連れ出したことを推測されたように、宮やその近くにいた人間に気づかれていたとしてもおかしくない。
「ってことは、『奥様』をもっと印象づけておいた方がいいな」
考えついたのはそんなことであったが、その方法はいくつか思いついた。
「よし!」
トーヤは「奥様」の客室から出て鍵をしっかり閉めると、次に「船長室」へと向かった。
ここの鍵はディレンが持っているが、元倉庫の鍵ぐらい問題ではない。
誰も見ていないのを確認すると、昔とった杵柄とばかり、かちゃりと簡単に解錠して部屋に入る。そして何かを持って出てきた。もちろん、もう一度鍵をかけるのも忘れない。
「悪かったな、邪魔して。軽いがかさばる土産だったもんで、置いてきてすっきりした」
そう言って、船に乗り込む時に話した船員に空の手提げ袋を振って見せる。
「何買ったんだ?」
「ん?べっぴんさんにはきれいなハンカチ、野郎どもにはカップだ。どっちにもこの島の意匠が入っててなかなかいい土産になると思うぞ」
「へえ、そんなもん売ってるのか」
「ああ、まだこの島のことはあまり知られてないからな、いい話の種になると思って10ずつ買っておいた」
「ほう」
船員の興味ありそうな様子に、
「買うんだったら場所教えるぜ。値段も手頃でいいめっけもんだと思う」
そう言って店の場所を教えてやる。
「交代したら行ってみるか。そういやこの島の土産なんて考えてもなかったな」
「俺は昔一度あっちに行ったことがあるんだがな、べっぴんが多かったぞ、持って行ってやったら喜ばれるんじゃねえの?俺も半分はそのつもりで買ったしな」
「そうなのかよ」
そう言って笑い合っていると、他の船員も来て土産の話で盛り上がる。
「ああ、そういや」
ふと思い出した、という風に言い出す。
「なんか、奥様がな、途中で降りるのなら欲しいもんがあるとか言ってたんだが、それも見て帰って報告しなきゃならん。そろそろ帰るわ。そんじゃまたな」
ひらりと馬にまたがると、町へと向かった。
「さっき見た職人街に行きゃなんとかなるだろう」
そうしていくつかの店を回り、約束を取り付けて宿へ戻った。
宿に戻り、3人に考えていたことを話す。
「へえ、そりゃまた、なんて言やあいい作戦だ」
アランが戸惑ったように言葉を探す。
「とにかく『中の国から来たぶっとんだ大金持ちの奥様』の旗印を、しっかりあの船にくくりつけるのが目的だ」
「それにしても大盤振る舞いだな」
ベルが不満そうに両目を顰め、
「そんな金あるのか?」
そう聞いた。
「おまえは金のことばーっかり言ってんな」
「そりゃそうだろ!」
思い出し怒りの表情で続ける。
「命がけで貯めた金を全部使い込まれたら、金のことばっか気になるに決まってんだろ!」
「だから~それも言ったでしょ、ベルちゃんって」
「きしょい!」
せっかく下手に出たのにベルに一蹴されるが、
「って言っても、いまさらどうにもなんねえし、乗っちまった船だ……」
ベルが一つ呼吸を整えてそう言った。
「そうそう、よく分かってんじゃねえか、いい女だ~」
「でもちゃんと全部返してもらうからな!」
「分かった分かった、そのうちにな」
「絶対返せよな!」
これは地獄の果てまで追いかけて返金要求されそうだな、とトーヤが一つ身震いした。
「ま、まあ、とにかく今はこの通りに」
「で、そのブツはいつ届くんだ?」
アランに聞かれ、落ち着いて話を進める。
「船が出るのが予定では3日後ってことだが、本当のところはよく分かってねえからな、早めに2日後に間に合わせろって言っといた」
「一番でかいのはその日として、細かいのは?」
「ああ、それは明日仕入れて船に持ってこうかと思ってる」
「俺も行こうか?」
「うーん……」
トーヤが少し考え、
「よし、みんなで行こう」
そう言った。
「奥様のご意向も伺った方がいいだろう。馬車借りて行くぞ」
「おれも色々見たい!」
さっきまでの怒りを引っ込め、ベルがうきうきと言う。
「ああ、おまえも色々好きなもん買っていいぞ」
「って、それ結局自分の金だけどな!」
「気づいたか」
「気づかいでか!」
「気づかなければ幸せだったのになあ……」
「んなはずあるかい!」
「まあまあ、不幸な気分になったとこ悪いけどな、とっとと侍女になってくれ」
「こんの……エロ」
その先を口にさせるとまた心にダメージを受ける、そう思ったトーヤはすばやくベルの口を押さえると、
「奥様の侍女でしょ、お上品にあそばせ」
そう言ってから笑って突き放した。
トーヤはそう言ってブルブルと首を振り、なんとなくおセンチになってしまった気分を振り切ろうとした。
どうしてこんな気分になってしまったのか?ディレンと会って昔のことを思い出したり、思い出話(碌でもない思い出だが)をしたりしたせいだ。そんなことのためにこの島に寄ったというわけではあるまい。
きっとなにか理由があるはずだと考えるものの、何も浮かばない。
「けど一つだけ気がついたのは、俺たちがあそこに戻ったというのをすぐには知らせない方がいいってこった」
ディレンに自分がシャンタルを連れ出したことを推測されたように、宮やその近くにいた人間に気づかれていたとしてもおかしくない。
「ってことは、『奥様』をもっと印象づけておいた方がいいな」
考えついたのはそんなことであったが、その方法はいくつか思いついた。
「よし!」
トーヤは「奥様」の客室から出て鍵をしっかり閉めると、次に「船長室」へと向かった。
ここの鍵はディレンが持っているが、元倉庫の鍵ぐらい問題ではない。
誰も見ていないのを確認すると、昔とった杵柄とばかり、かちゃりと簡単に解錠して部屋に入る。そして何かを持って出てきた。もちろん、もう一度鍵をかけるのも忘れない。
「悪かったな、邪魔して。軽いがかさばる土産だったもんで、置いてきてすっきりした」
そう言って、船に乗り込む時に話した船員に空の手提げ袋を振って見せる。
「何買ったんだ?」
「ん?べっぴんさんにはきれいなハンカチ、野郎どもにはカップだ。どっちにもこの島の意匠が入っててなかなかいい土産になると思うぞ」
「へえ、そんなもん売ってるのか」
「ああ、まだこの島のことはあまり知られてないからな、いい話の種になると思って10ずつ買っておいた」
「ほう」
船員の興味ありそうな様子に、
「買うんだったら場所教えるぜ。値段も手頃でいいめっけもんだと思う」
そう言って店の場所を教えてやる。
「交代したら行ってみるか。そういやこの島の土産なんて考えてもなかったな」
「俺は昔一度あっちに行ったことがあるんだがな、べっぴんが多かったぞ、持って行ってやったら喜ばれるんじゃねえの?俺も半分はそのつもりで買ったしな」
「そうなのかよ」
そう言って笑い合っていると、他の船員も来て土産の話で盛り上がる。
「ああ、そういや」
ふと思い出した、という風に言い出す。
「なんか、奥様がな、途中で降りるのなら欲しいもんがあるとか言ってたんだが、それも見て帰って報告しなきゃならん。そろそろ帰るわ。そんじゃまたな」
ひらりと馬にまたがると、町へと向かった。
「さっき見た職人街に行きゃなんとかなるだろう」
そうしていくつかの店を回り、約束を取り付けて宿へ戻った。
宿に戻り、3人に考えていたことを話す。
「へえ、そりゃまた、なんて言やあいい作戦だ」
アランが戸惑ったように言葉を探す。
「とにかく『中の国から来たぶっとんだ大金持ちの奥様』の旗印を、しっかりあの船にくくりつけるのが目的だ」
「それにしても大盤振る舞いだな」
ベルが不満そうに両目を顰め、
「そんな金あるのか?」
そう聞いた。
「おまえは金のことばーっかり言ってんな」
「そりゃそうだろ!」
思い出し怒りの表情で続ける。
「命がけで貯めた金を全部使い込まれたら、金のことばっか気になるに決まってんだろ!」
「だから~それも言ったでしょ、ベルちゃんって」
「きしょい!」
せっかく下手に出たのにベルに一蹴されるが、
「って言っても、いまさらどうにもなんねえし、乗っちまった船だ……」
ベルが一つ呼吸を整えてそう言った。
「そうそう、よく分かってんじゃねえか、いい女だ~」
「でもちゃんと全部返してもらうからな!」
「分かった分かった、そのうちにな」
「絶対返せよな!」
これは地獄の果てまで追いかけて返金要求されそうだな、とトーヤが一つ身震いした。
「ま、まあ、とにかく今はこの通りに」
「で、そのブツはいつ届くんだ?」
アランに聞かれ、落ち着いて話を進める。
「船が出るのが予定では3日後ってことだが、本当のところはよく分かってねえからな、早めに2日後に間に合わせろって言っといた」
「一番でかいのはその日として、細かいのは?」
「ああ、それは明日仕入れて船に持ってこうかと思ってる」
「俺も行こうか?」
「うーん……」
トーヤが少し考え、
「よし、みんなで行こう」
そう言った。
「奥様のご意向も伺った方がいいだろう。馬車借りて行くぞ」
「おれも色々見たい!」
さっきまでの怒りを引っ込め、ベルがうきうきと言う。
「ああ、おまえも色々好きなもん買っていいぞ」
「って、それ結局自分の金だけどな!」
「気づいたか」
「気づかいでか!」
「気づかなければ幸せだったのになあ……」
「んなはずあるかい!」
「まあまあ、不幸な気分になったとこ悪いけどな、とっとと侍女になってくれ」
「こんの……エロ」
その先を口にさせるとまた心にダメージを受ける、そう思ったトーヤはすばやくベルの口を押さえると、
「奥様の侍女でしょ、お上品にあそばせ」
そう言ってから笑って突き放した。
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