黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第一章 第三部 絶海の孤島

11 爆買い 

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 その日の午後、リル島の中央に位置する唯一の町は大騒ぎとなった。
 
 発端ほったんはある一台の馬車である。その馬車にはどうやらある「中の国なかのくに」の上流婦人が乗っているらしく、そこからありとあらゆる店を覗いては、侍女に命じて買い物を続けている。その様子が物珍しく人が集まってきたのだ。

 まず馬車がこれと決めた店に横付けになる。一番最初に寄ったのは、トーヤがハンカチとカップを買った例の店だ。

「よう、親父」
「ああ、これはこれは、さきほどはたくさんお買い上げいただきありがとうございました」
「いやな、あれから宿に戻ってあのハンカチを奥様に差し上げたところ、いたく気に入られて自分もその店に行きたいとおっしゃったものでお連れした」
「おお、それはありがとうございます」

 そう言って、朝の客の横にいるストールで目だけ出した女性に頭を下げると、

「いや、この方は侍女の方だ。奥様は馬車の中にいらっしゃるので、いくつかこれはという品を見せてさしあげられないかな。あのハンカチやカップについてるのと同じ意匠のついた品がいいってことなんだが」
「ああ、はい、お待ち下さい」

 そう言ってもう一度侍女に頭を下げ、いくつかの品を持ってくる。

「こちらはハンカチとカップ、そしてこれは同じように食器に意匠がついております。そしてこちらは壁飾りなど装飾、それから耳飾りや首飾りなどのアクセサリー、他には、そうそう、朝お渡しした品を入れるための手提げ袋などがございます」

 侍女が受け取ってそれを馬車の中の奥様にお見せする。店主が馬車の中の様子を伺うようにするが、肝心の奥様は絹のヴェールに包まれて布以外見えない。侍女の耳元に口を寄せているようにも見えるが、もちろん声も聞こえない。

「奥様が、こちらはどのぐらいの数があるのか、とお聞きですが」
「は、数ですか、ええと……」

 正直、まだできて間もない町のこと、そして船が来るのも月に一度もない、数ヶ月に一度あればいいぐらいだ。そんな中で、これからのために、と先を見越して作っているもので、在庫は有り余るほどある。

「あの、いかほどご入用でしょうか?」
「そうですね、ハンカチとカップをまず100ほどと」
「ええっ!」

 先にも言った通り、数としてはまだまだ売上は少ない。朝、トーヤが船員と話していても、そんな土産物があるのも知らなかった、というぐらいだ。トーヤが買った10個ですら大口のお買い上げ、というところへ100とは……

「あ、親父、それで全部売り切れってことになったりするか?」
「いえ、あの、まだ多少は残りますが」
「ああよかった。俺がハンカチ見せびらかしたもんでな、船のやつらが自分も土産に買いたいって言ってたんだよ。全部買い占めちまったらそいつらに悪いからな」
「いえ、いえいえ、まだまだございますので!あの、それでハンカチとカップを100ですね」
「ええ、それから、あの香木でできた耳飾りと首飾り、素朴でよいとおっしゃって10ばかりいただきたいと」
「あれをですか!」

 アクセサリーはハンカチの数十倍の価格である。

「あ、ありがとうございます!」
「それと、あの手提げ袋も100用意してそこにハンカチとカップを入れておいてほしいと」
「あ、は、はい、ありがとうございます!」

 そうして他にもいくつか食器などを買い、船に届けさせる約束をして次の店へと進んだ。
 そこは食べ物を売っている店で、そこでも日持ちがする菓子を大量に買い占め、船に届けさせるように手配した。
 どこの店でも買い物を終えて計算が済むとすっきりと、配達のための手間賃、チップを上乗せして現金で支払いを終えるので店の者もありがたがる。

 次の店でも、次の店でも、色々な物を買っては次の店へとまわっていく。その後ろから出港までを待つ船客たち、前の船で来てしばらくこの島に滞在する者たち、そして島の住人たちが付いて歩いては、その様子を見、一体どんな方だと話題にする。
 島の小さな繁華街は、そうしていまだかつてない大賑わいとなっていた。

 そうやってその日の夕刻までに、アルロス号に大量の荷物が運び入れられ、船員たちが目を向いて驚く。

「おいおい、ルギさんよ、こりゃ一体……」

 トーヤは手形の不愉快な名前を気にかける風もなく、

「奥様のお買い物だ、積めるか?」
「いや、そりゃまあこっち来るまでに減ってるもんもあるし、なんとかなると言やあなるが」
「あ、そうそう、明日にはもっと大きい荷物が来るんでそれもよろしくな」
「って、なんだそりゃ!」
「明日のお楽しみだ。悪いな、いらん仕事増やしちまって、これでみんなでよろしくやってくれ」

 買ってきた酒樽を渡す。

「今はだめだろうが、また飲んでいい時間見つけてみんなでやってくれ」
「いや、すまんな」

 トーヤが軽々と持っていた酒樽を船員がドシッと受け取り、

「お、あんた、すごい力だな」

 とびっくりした。

「ガキの頃から重い荷物持つのには慣れてるからな。コツがあるんだよ、そういうのも」
「そうなのか」

 1人が船の中に運び入れていく。

「そんじゃ、また明日荷物が届いたら頼むな」
「おう、まかせとけ」

 船員の肩をぽんぽんと叩いて船から降り、奥様の馬車を操って宿へと戻っていった。
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