65 / 354
第一章 第四部 シャンタリオへの帰還
4 噂の方
しおりを挟む
とにかく「連絡を取るために」と、アルロス号の船長ディレンと同じ宿に滞在すると船員たちにも言っておいた。
船員たちは大部分が船に寝泊まりするか、もしくはもっと安い宿に滞在する。ディレンは船以外にも色々と用があるので、やはり連絡が取りやすいようにそこそこの宿に泊まるのだそうだ。
「実際は船にいることも多いんだがな、なんかそういう慣習らしい」
ディレンが淡々とそう言うのにベルが、
「でもさ、途中の島や港はともかく、ここじゃ結構長く泊まるんだろ?金かかるよなあ」
「そうだな」
率直なベルの言い様にディレンが笑いながら、そうだなと答える。
「まあ、そのへんも雇い主の必要経費だから、俺には問題ないしな」
「そうなのか、いいなあ」
そう言ってため息をつくベルを見てまた笑った。
「まあ、できるだけ早く、なんとかもっと安く落ち着ける場所を見つけるさ」
トーヤがそう言う。
何しろアルディナでは戦場暮らし、そうではない時は1人半の宿が大部分なので、なにより宿代がもったいないように思えるのも仕方がない。
「それで、これからどうするんだ?」
ディレンがそう聞くのに、
「さあて、どうしようかね~」
と、トーヤが他人事のように言う。
「おい、大丈夫なのかよ、それで」
「どうかねえ、けど、とりあえず分かってることがいくつかある」
トーヤが指を折って言う。
「まず、シャンタルはここでは自由に動けない、これは決まったことだ」
「そうだな」
「そんで、俺も会っちゃいけねえ人が何人かいる」
「そうだな」
「そんで、アランとベルもここではすごく目立つ、つまり動きにくい、ってこった」
「なんだそりゃ」
ディレンが呆れる。
「そこでだな、船長、色々よろしく頼むわ」
「はあっ?」
「あんたは見た目はここの人間とは違うが、堂々と入ってきてるから自由に動ける、だから別に色々と動いてくれたら助かる」
ディレンは白髪がそこそこ目立つものの、元は黒に近い茶、ベルよりさらに暗い茶色だ。目も同じ色。なので、ベルやアランよりはこの国の人間に近いと言えるが、よくよく見ると外の国の人間だな、と分かる程度には色が違う。
「そんで俺たちは奥様御一行としてちょっと街をふらふらする」
「また話のタネにしたいわけか」
「そうだ」
トーヤがニヤリと笑う。
「とにかく、目立って目立って目立ちたい」
「俺はともかく、トーヤは面が割れちゃやばくないか?」
「そうだな」
アランの言葉にトーヤが頷く。
「だから俺も顔を隠して動く。そのために考えてることがあるんだが、すぐにってわけにはいかねえ。だから、しばらくはおまえら3人でうろうろしろ」
「ええっ、右も左も分からねえのに?」
ベルが文句を言うが、
「大丈夫だ、この宿さえ覚えておきゃなんとかなるさ。そんじゃみんな頼むな」
「トーヤはどうするの?」
シャンタルがそう聞くのに、
「俺は別行動する。顔隠してちょっと色々調べることもあるし」
皮肉にも、この国にいて一番違和感がない容姿のトーヤが自由に動けない。
仕方なく、翌日から3人で馬車であちらこちらを見て回ることになった。
「せいぜい目立っとけ」
と、トーヤが言うもので、いかにも「奥様」が行きそうな場所で、なるべく目につく店を選んで入り、なるべく話題になりそうな物を買ったりする。
そうしてる間に、思った通り、街でも「そういう方がいらっしゃるそうだ」と、ちらほら話題になってきた。
まずは船員たちが集まる酒場から、そして実際にお買い物いただいた「良い店」、はさすがにお客様のことを触れ回ることはなく、そこに出入りする姿を見た一般人たち、そして船で一緒だった船客たちのうち、リュセルスに戻った者たちから少しずつ広まっていった。
「なあ、トーヤどこ行ってるんだろな」
部屋で衣装を脱いですっきりしたベルが言う。
「さあ、どこだろね」
シャンタルが特に何も問題ないように言うもので、
「なあ、シャンタルは気になんねえのか?」
「何が?」
「だって、ここ、おまえの生まれ故郷じゃん。街に出てみてなんか思ったりしねえの?」
「うーん、しないねえ」
「そのへんがなあ」
ベルが不思議そうに言うが、
「考えたら仕方ないだろ、こいつ、街に出たことなんてないんだろうし」
「そうなんだよなあ、なんかかわいそうだよな」
アランに言われてそうも答える。
「そう、かわいそう?」
「うん、だって、ずっと閉じ込められたわけだからさ」
ベルが言うのは物理的に宮にしかいられなかったというのと、自我を封じ込められていた、の両方なのだろう。
「それにさ、ここまで戻ってきたらラーラ様やマユリアにも会いたいだろ?」
「おい」
ベルの無遠慮で素直過ぎる質問をアランが咎めるようにするが、
「そうだね、会いたいね」
こともなくシャンタルが答えるのに、この2人の間には口を挟みにくいと思ってしまう。
いつもそうなのだ、ベルもシャンタルも、お互いに何も気にすることがないように、遠慮することがないように仲良くする。実はそれが、兄としてアランがトーヤよりもシャンタルを気にする理由の一つなのだ。
目に見えぬ不思議な絆があるようで、シャンタルの過去を知って以来、余計にアランが心配する理由になっていた。少しだけそれが怖いと思っていた。
船員たちは大部分が船に寝泊まりするか、もしくはもっと安い宿に滞在する。ディレンは船以外にも色々と用があるので、やはり連絡が取りやすいようにそこそこの宿に泊まるのだそうだ。
「実際は船にいることも多いんだがな、なんかそういう慣習らしい」
ディレンが淡々とそう言うのにベルが、
「でもさ、途中の島や港はともかく、ここじゃ結構長く泊まるんだろ?金かかるよなあ」
「そうだな」
率直なベルの言い様にディレンが笑いながら、そうだなと答える。
「まあ、そのへんも雇い主の必要経費だから、俺には問題ないしな」
「そうなのか、いいなあ」
そう言ってため息をつくベルを見てまた笑った。
「まあ、できるだけ早く、なんとかもっと安く落ち着ける場所を見つけるさ」
トーヤがそう言う。
何しろアルディナでは戦場暮らし、そうではない時は1人半の宿が大部分なので、なにより宿代がもったいないように思えるのも仕方がない。
「それで、これからどうするんだ?」
ディレンがそう聞くのに、
「さあて、どうしようかね~」
と、トーヤが他人事のように言う。
「おい、大丈夫なのかよ、それで」
「どうかねえ、けど、とりあえず分かってることがいくつかある」
トーヤが指を折って言う。
「まず、シャンタルはここでは自由に動けない、これは決まったことだ」
「そうだな」
「そんで、俺も会っちゃいけねえ人が何人かいる」
「そうだな」
「そんで、アランとベルもここではすごく目立つ、つまり動きにくい、ってこった」
「なんだそりゃ」
ディレンが呆れる。
「そこでだな、船長、色々よろしく頼むわ」
「はあっ?」
「あんたは見た目はここの人間とは違うが、堂々と入ってきてるから自由に動ける、だから別に色々と動いてくれたら助かる」
ディレンは白髪がそこそこ目立つものの、元は黒に近い茶、ベルよりさらに暗い茶色だ。目も同じ色。なので、ベルやアランよりはこの国の人間に近いと言えるが、よくよく見ると外の国の人間だな、と分かる程度には色が違う。
「そんで俺たちは奥様御一行としてちょっと街をふらふらする」
「また話のタネにしたいわけか」
「そうだ」
トーヤがニヤリと笑う。
「とにかく、目立って目立って目立ちたい」
「俺はともかく、トーヤは面が割れちゃやばくないか?」
「そうだな」
アランの言葉にトーヤが頷く。
「だから俺も顔を隠して動く。そのために考えてることがあるんだが、すぐにってわけにはいかねえ。だから、しばらくはおまえら3人でうろうろしろ」
「ええっ、右も左も分からねえのに?」
ベルが文句を言うが、
「大丈夫だ、この宿さえ覚えておきゃなんとかなるさ。そんじゃみんな頼むな」
「トーヤはどうするの?」
シャンタルがそう聞くのに、
「俺は別行動する。顔隠してちょっと色々調べることもあるし」
皮肉にも、この国にいて一番違和感がない容姿のトーヤが自由に動けない。
仕方なく、翌日から3人で馬車であちらこちらを見て回ることになった。
「せいぜい目立っとけ」
と、トーヤが言うもので、いかにも「奥様」が行きそうな場所で、なるべく目につく店を選んで入り、なるべく話題になりそうな物を買ったりする。
そうしてる間に、思った通り、街でも「そういう方がいらっしゃるそうだ」と、ちらほら話題になってきた。
まずは船員たちが集まる酒場から、そして実際にお買い物いただいた「良い店」、はさすがにお客様のことを触れ回ることはなく、そこに出入りする姿を見た一般人たち、そして船で一緒だった船客たちのうち、リュセルスに戻った者たちから少しずつ広まっていった。
「なあ、トーヤどこ行ってるんだろな」
部屋で衣装を脱いですっきりしたベルが言う。
「さあ、どこだろね」
シャンタルが特に何も問題ないように言うもので、
「なあ、シャンタルは気になんねえのか?」
「何が?」
「だって、ここ、おまえの生まれ故郷じゃん。街に出てみてなんか思ったりしねえの?」
「うーん、しないねえ」
「そのへんがなあ」
ベルが不思議そうに言うが、
「考えたら仕方ないだろ、こいつ、街に出たことなんてないんだろうし」
「そうなんだよなあ、なんかかわいそうだよな」
アランに言われてそうも答える。
「そう、かわいそう?」
「うん、だって、ずっと閉じ込められたわけだからさ」
ベルが言うのは物理的に宮にしかいられなかったというのと、自我を封じ込められていた、の両方なのだろう。
「それにさ、ここまで戻ってきたらラーラ様やマユリアにも会いたいだろ?」
「おい」
ベルの無遠慮で素直過ぎる質問をアランが咎めるようにするが、
「そうだね、会いたいね」
こともなくシャンタルが答えるのに、この2人の間には口を挟みにくいと思ってしまう。
いつもそうなのだ、ベルもシャンタルも、お互いに何も気にすることがないように、遠慮することがないように仲良くする。実はそれが、兄としてアランがトーヤよりもシャンタルを気にする理由の一つなのだ。
目に見えぬ不思議な絆があるようで、シャンタルの過去を知って以来、余計にアランが心配する理由になっていた。少しだけそれが怖いと思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる