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第二章 第一部 神と神
6 思わぬ言葉
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トーヤは思った以上にやすやすと、目的の部屋へ辿り着けた。
(こういうとこ、気色悪いんだよなあ、いっつも。やらされてるって気がして)
そう思いながらも来なくてはならないのだから、楽な方がいいとも思いながら扉の取っ手に手をかける。
鍵がかかっているということは、留守なのだろうか、それとも……
まあどっちでもいいと、鍵を開けて中に入る。
「誰です」
やっぱりいたか。
「鍵がかかっていたはずですよ?どうやって開けました?」
感情のない固い声。
キリエである。
ここはキリエの執務室だ。
「よう」
トーヤはひょこっと顔を出しながら声をかけた。
「相変わらず無作法ですね。ノックをすれば開けてあげたものを」
言われて苦笑しながら、
「やっぱ気づいてたか」
そう言う。
「ええ」
「なんで分かった?」
「そのような目を持つ人間に、私は今まで1人しか会ったことがありませんから」
「え、そうなの?」
「一目で分かりました」
トーヤが笑いながら、
「やっぱりあんたすげえな」
そう言った。
この鋼鉄の仮面の、それでいて本当は熱い優しい気持ちを持つ老女は、たった一つだけ見せていた真実の姿に気がついていたらしい。それでいてそのことを露一滴ほども悟らせはしない。
そのまま遠慮なく足を進め、すすめられもせぬのに椅子に腰かける。
「椅子をすすめた覚えはありませんよ」
「もう最初に怒られてるからな、まあついでだ」
「仕方のない人ですね」
そう言いながら、特に怒っている風も感じない。まあ、知らぬ人間が見たらどう思うかは分からないが。
「いつ戻りました」
「ん~何日前だ?10日ほどかな」
「どうしてこんな風に戻ってきたのです」
「あ~それな」
トーヤが少し真面目な顔になる。
「宮ん中がどうなってるか、この国がどうなってるか分からんからな。それに、そのまま入るわけにいかんだろ?」
「そうですね」
シャンタルのことを言っているのだ。
シャンタルを普通の同行者としてこの国に入れるわけにはいかない。
「エリス様ですね」
「ああ」
「お変わりは?」
「うーん、あるっちゃあるが、ないっちゃないな」
「なんです、それは」
キリエが呆れるように言う。
「お元気なのですね?」
「ああ、それは保証する」
「そうですか、よかった」
声にわずかだが安心した色がこもった。もっとも、それを感じ取れる者は少ないだろうが。
「それで、こっちの様子はどうだ?なんか変わったか?」
「それこそ、あるっちゃあるがないっちゃないですね」
「なんだよそれ」
包帯男がプッと吹き出した。
「具体的にはどこが変わった?その前に、当代は託宣ができないって本当か?」
「もう色々と調べているのですね」
ふうっとため息をつく。
「それを知っていて託宣を求めるのはなぜです?」
「正直に言うとな、託宣を求めてるわけじゃない。託宣をさせてやろうと思ってな」
「なんですって?」
相変わらず突拍子もないことを言う男だとキリエは思った。
「もうすぐ生まれるだろうが、次代様が」
「え?」
「あんたも知らなかったのか」
「どういうことです」
「託宣があった」
「託宣が?」
「ああ、あいつがな、次代様がいらしゃる、そう言うから帰ってきた」
キリエは黙ってトーヤを見ている。
「顔」
「え?」
「ケガをしているのですか?」
「ああ、これか。いや、大丈夫だ、顔見せるわけにいけねえだろ、だからこうしてある」
「そうですか、よかった」
そう言ってから、
「それでエリス様なのですね」
「そういうこった」
「よく考えたものですね」
「まあな」
得意そうに言うのに、ついにキリエも柔らかく笑った。
「とりあえずお礼を言います。よくぞ約束を守ってくれました」
「ってことは、あんたはあいつが帰ってきてよかったって思ってるってことだな」
「ええ」
「やっぱりあんたは味方だな。今のところは、だが」
キリエが少し渋い顔をする。
「俺はあんたのことは信用してる。ただな、信用してるからこそ信用できねえってこともある」
「意味が分かりませんね」
「あんたは味方だ。だけどな、あんたの主人が敵になったらその時は敵だろ、違うか?」
キリエは答えない。
ただ、シャンタルを聖なる湖に沈めると言った時、あの時のやりとりを思い出していた。
それはトーヤも同じことであった。
「俺があいつを助けたい、そう思っても、あんたの主人が殺せと言ったら殺すしかない」
はっきりと口にする。
「そうですね」
キリエも認める。
「そういうやつだからな、俺はあんたを信用してる。で、だな、託宣の話だ」
「次代様がいらっしゃるのですか」
「ああ、だが当代はそれが見えない。託宣ができない。そうだろ?」
「その通りです」
「それは困るんだ、こっちも。だから託宣はやってもらう。そのための謁見だ、手伝ってくれるだろ?」
「分かりました。それでどうしろと?」
「話が早いな、やっぱりあんたすげえよ」
トーヤが笑いながら手順を話す。
「分かりました、それならなんとかなるでしょう」
「ああ、頼んだ。それとな」
「なんです」
「マユリアは元気なのか?」
「ええ、お元気だと思いますよ」
「思う?」
「最近、私にはお会いいただけないもので」
思わぬ言葉を耳にしてトーヤは驚いた。
(こういうとこ、気色悪いんだよなあ、いっつも。やらされてるって気がして)
そう思いながらも来なくてはならないのだから、楽な方がいいとも思いながら扉の取っ手に手をかける。
鍵がかかっているということは、留守なのだろうか、それとも……
まあどっちでもいいと、鍵を開けて中に入る。
「誰です」
やっぱりいたか。
「鍵がかかっていたはずですよ?どうやって開けました?」
感情のない固い声。
キリエである。
ここはキリエの執務室だ。
「よう」
トーヤはひょこっと顔を出しながら声をかけた。
「相変わらず無作法ですね。ノックをすれば開けてあげたものを」
言われて苦笑しながら、
「やっぱ気づいてたか」
そう言う。
「ええ」
「なんで分かった?」
「そのような目を持つ人間に、私は今まで1人しか会ったことがありませんから」
「え、そうなの?」
「一目で分かりました」
トーヤが笑いながら、
「やっぱりあんたすげえな」
そう言った。
この鋼鉄の仮面の、それでいて本当は熱い優しい気持ちを持つ老女は、たった一つだけ見せていた真実の姿に気がついていたらしい。それでいてそのことを露一滴ほども悟らせはしない。
そのまま遠慮なく足を進め、すすめられもせぬのに椅子に腰かける。
「椅子をすすめた覚えはありませんよ」
「もう最初に怒られてるからな、まあついでだ」
「仕方のない人ですね」
そう言いながら、特に怒っている風も感じない。まあ、知らぬ人間が見たらどう思うかは分からないが。
「いつ戻りました」
「ん~何日前だ?10日ほどかな」
「どうしてこんな風に戻ってきたのです」
「あ~それな」
トーヤが少し真面目な顔になる。
「宮ん中がどうなってるか、この国がどうなってるか分からんからな。それに、そのまま入るわけにいかんだろ?」
「そうですね」
シャンタルのことを言っているのだ。
シャンタルを普通の同行者としてこの国に入れるわけにはいかない。
「エリス様ですね」
「ああ」
「お変わりは?」
「うーん、あるっちゃあるが、ないっちゃないな」
「なんです、それは」
キリエが呆れるように言う。
「お元気なのですね?」
「ああ、それは保証する」
「そうですか、よかった」
声にわずかだが安心した色がこもった。もっとも、それを感じ取れる者は少ないだろうが。
「それで、こっちの様子はどうだ?なんか変わったか?」
「それこそ、あるっちゃあるがないっちゃないですね」
「なんだよそれ」
包帯男がプッと吹き出した。
「具体的にはどこが変わった?その前に、当代は託宣ができないって本当か?」
「もう色々と調べているのですね」
ふうっとため息をつく。
「それを知っていて託宣を求めるのはなぜです?」
「正直に言うとな、託宣を求めてるわけじゃない。託宣をさせてやろうと思ってな」
「なんですって?」
相変わらず突拍子もないことを言う男だとキリエは思った。
「もうすぐ生まれるだろうが、次代様が」
「え?」
「あんたも知らなかったのか」
「どういうことです」
「託宣があった」
「託宣が?」
「ああ、あいつがな、次代様がいらしゃる、そう言うから帰ってきた」
キリエは黙ってトーヤを見ている。
「顔」
「え?」
「ケガをしているのですか?」
「ああ、これか。いや、大丈夫だ、顔見せるわけにいけねえだろ、だからこうしてある」
「そうですか、よかった」
そう言ってから、
「それでエリス様なのですね」
「そういうこった」
「よく考えたものですね」
「まあな」
得意そうに言うのに、ついにキリエも柔らかく笑った。
「とりあえずお礼を言います。よくぞ約束を守ってくれました」
「ってことは、あんたはあいつが帰ってきてよかったって思ってるってことだな」
「ええ」
「やっぱりあんたは味方だな。今のところは、だが」
キリエが少し渋い顔をする。
「俺はあんたのことは信用してる。ただな、信用してるからこそ信用できねえってこともある」
「意味が分かりませんね」
「あんたは味方だ。だけどな、あんたの主人が敵になったらその時は敵だろ、違うか?」
キリエは答えない。
ただ、シャンタルを聖なる湖に沈めると言った時、あの時のやりとりを思い出していた。
それはトーヤも同じことであった。
「俺があいつを助けたい、そう思っても、あんたの主人が殺せと言ったら殺すしかない」
はっきりと口にする。
「そうですね」
キリエも認める。
「そういうやつだからな、俺はあんたを信用してる。で、だな、託宣の話だ」
「次代様がいらっしゃるのですか」
「ああ、だが当代はそれが見えない。託宣ができない。そうだろ?」
「その通りです」
「それは困るんだ、こっちも。だから託宣はやってもらう。そのための謁見だ、手伝ってくれるだろ?」
「分かりました。それでどうしろと?」
「話が早いな、やっぱりあんたすげえよ」
トーヤが笑いながら手順を話す。
「分かりました、それならなんとかなるでしょう」
「ああ、頼んだ。それとな」
「なんです」
「マユリアは元気なのか?」
「ええ、お元気だと思いますよ」
「思う?」
「最近、私にはお会いいただけないもので」
思わぬ言葉を耳にしてトーヤは驚いた。
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