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第二章 第一部 神と神
7 取次役
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「どういうこった、あんたがマユリアに会えねえなんて。何があった?そりゃ、ないっちゃない、なんてもんじゃねえだろ。どうした?」
「特に大したことではありません。役職ができました、侍女頭とマユリアの間に」
「役職?」
「ええ、『取次役』という役職が。その者を通してお話になられるので、直接お会いできる機会が減ったということです」
「なんだそりゃ……」
「単に私が年を取ったということです」
キリエは感情のない顔と声で淡々と言う。
「侍女頭の交代という声が出ました。当然ですが」
だが、シャンタルの問題がある。
「先代がお帰りになられるまで、交代するわけにはいきませんでした。それでマユリアがそうお決めになったのです」
「それにしても、あんたが直接会えないってのは妙じゃないか?」
「その気になればお会いできますから、特に問題とは考えておりません」
「嘘だな」
トーヤの言葉にキリエが眉尻を上げる。
「それで今回のことも上には上げないって言ったんだな」
「それもあります。取次役のセルマは事情を知りませんから、話すわけにはいきませんでした」
「やっぱり最初から分かってそうしてくれたんだな」
「そうですね」
「助かったよ」
「宮のため、この国のためですから」
そっけなくそう言う。
「そんで、その取次役、たらいうのはいつできたんだ?」
「3年になりますね」
「そんな前か」
キリエはそう言うが、トーヤにはどうしてもキリエを邪魔にしての出来事としか思えない。
確かにキリエは高齢である。今はおそらく60代の半ばあたりの年齢ではあるだろう。本来ならば勇退して後進に道を譲り、高齢の侍女たちがいる、奥宮から少しはなれた「北の離宮」ででも余生を送る立場なのかも知れない。
「俺の見たところを言うぞ?『前の宮』はあんた、そんで『奥宮』がその取次役ってのの勢力範囲ってところだな」
「まあ、そのような感じですか」
「新旧交代の途中といやあ、聞こえはいいが、あんたが奥宮からはじき出された形に俺には見える」
「なんとでも」
キリエはあくまで本心を見せぬ表情で答える。
「相変わらずだな」
トーヤが称賛するように言う。
「何があっても変わんねえ。まあ、それはマユリアもだったけどな」
キリエは答えない。
「そんじゃまあ、それはちょっと置いとくか、とりあえず。そんで、明日の謁見にはマユリアは付いてくるのか?」
「分かりませんが、最近ではいらっしゃることは少なくなりました」
「来ないだろう、ってことか。そんじゃ誰が付いてくるんだ、当代様に」
「ラーラ様か、タリアかネイでしょう」
「ラーラ様に来てもらえねえか?そのぐらいナシつけられんじゃねえの?」
「なし?」
「あー話、のことだ、ご要望出すことできんじゃねえの、って言ってんだよ」
「悪い言葉になりましたね」
「まあしゃあねえよ」
なんとなく2人で少しだけ笑い合った。
「そのぐらいのことならできるでしょう。一応とはいえ、まだ侍女頭ですからね」
「そんじゃ頼む」
そう言い終えるとトーヤは部屋から出ようとする。
「お待ちなさい」
「ん?」
「どこを通ってきました」
「隠し扉だ」
「やはり。少しお待ちなさい、一緒に行きましょう」
そう言うと立ち上がり、キリエはトーヤに手を貸してきた。
「歩く練習をしているところに出会った、そう言えば怪しまれることなく帰れるでしょう」
「助かるよ」
そうして、トーヤは少し手を借りる振りをしてキリエと一緒に、堂々と客殿へと戻ってきた。
「キリエ様!」
今日の担当である薄い青い色の衣装の侍女が、ケガ人に手を貸す侍女頭の姿を認め、慌てて走り寄ってきた。
「廊下は走るものではありませんよ」
「申し訳ございません、ですが」
「歩く練習をなさっていて迷われたようです。お疲れのようなのでお部屋までお連れしました」
「ありがとうございます。私の役目でありますのに」
顔色を変えて侍女が急いでキリエから「ルーク」の手を受け取る。
「ルーク殿」
キリエが声をかけた。
「早く回復をと願う気持ちは理解できます。ですが、あなたの行動でこの侍女は責任を感じております。これからは一言声をかけてからになさいませ。お分かりですね?」
包帯に巻かれた「ルーク」はゆっくりと頷いた。
「急いだからとて治る以上の速度で回復するものではありません。無理はなさいませんように。ではアーダ、頼みましたよ」
「はい、申し訳ありません!」
薄い青色の侍女の名はアーダというらしい。
「ルーク」はキリエに頭を下げると、今度はアーダの手を借りて、廊下から扉を2つ通って客室へと戻ってきた。
「あの、迷われたご様子です。大丈夫でしょうか?お医者様をお呼びいたしましょうか」
「ああ、いや、大丈夫だ。迷惑かけました。おい、ルーク、こっちだ」
「アラヌス」はアーダから「ルーク」の手を受け取ると、気をつけてソファに座らせた。
「後はこちらで大丈夫です」
「ですが……」
「もしも手を借りる必要があったらまた声かけますので、すみませんでした」
「はい、では……」
アーダは心配そうな顔で下がっていった。
「いやあ、やっぱりかわいいお姉ちゃんの手はやーらかくていいねえ」
「おふざけになりませんことよ!」
トーヤの言葉を侍女が上品に罵倒した。
「特に大したことではありません。役職ができました、侍女頭とマユリアの間に」
「役職?」
「ええ、『取次役』という役職が。その者を通してお話になられるので、直接お会いできる機会が減ったということです」
「なんだそりゃ……」
「単に私が年を取ったということです」
キリエは感情のない顔と声で淡々と言う。
「侍女頭の交代という声が出ました。当然ですが」
だが、シャンタルの問題がある。
「先代がお帰りになられるまで、交代するわけにはいきませんでした。それでマユリアがそうお決めになったのです」
「それにしても、あんたが直接会えないってのは妙じゃないか?」
「その気になればお会いできますから、特に問題とは考えておりません」
「嘘だな」
トーヤの言葉にキリエが眉尻を上げる。
「それで今回のことも上には上げないって言ったんだな」
「それもあります。取次役のセルマは事情を知りませんから、話すわけにはいきませんでした」
「やっぱり最初から分かってそうしてくれたんだな」
「そうですね」
「助かったよ」
「宮のため、この国のためですから」
そっけなくそう言う。
「そんで、その取次役、たらいうのはいつできたんだ?」
「3年になりますね」
「そんな前か」
キリエはそう言うが、トーヤにはどうしてもキリエを邪魔にしての出来事としか思えない。
確かにキリエは高齢である。今はおそらく60代の半ばあたりの年齢ではあるだろう。本来ならば勇退して後進に道を譲り、高齢の侍女たちがいる、奥宮から少しはなれた「北の離宮」ででも余生を送る立場なのかも知れない。
「俺の見たところを言うぞ?『前の宮』はあんた、そんで『奥宮』がその取次役ってのの勢力範囲ってところだな」
「まあ、そのような感じですか」
「新旧交代の途中といやあ、聞こえはいいが、あんたが奥宮からはじき出された形に俺には見える」
「なんとでも」
キリエはあくまで本心を見せぬ表情で答える。
「相変わらずだな」
トーヤが称賛するように言う。
「何があっても変わんねえ。まあ、それはマユリアもだったけどな」
キリエは答えない。
「そんじゃまあ、それはちょっと置いとくか、とりあえず。そんで、明日の謁見にはマユリアは付いてくるのか?」
「分かりませんが、最近ではいらっしゃることは少なくなりました」
「来ないだろう、ってことか。そんじゃ誰が付いてくるんだ、当代様に」
「ラーラ様か、タリアかネイでしょう」
「ラーラ様に来てもらえねえか?そのぐらいナシつけられんじゃねえの?」
「なし?」
「あー話、のことだ、ご要望出すことできんじゃねえの、って言ってんだよ」
「悪い言葉になりましたね」
「まあしゃあねえよ」
なんとなく2人で少しだけ笑い合った。
「そのぐらいのことならできるでしょう。一応とはいえ、まだ侍女頭ですからね」
「そんじゃ頼む」
そう言い終えるとトーヤは部屋から出ようとする。
「お待ちなさい」
「ん?」
「どこを通ってきました」
「隠し扉だ」
「やはり。少しお待ちなさい、一緒に行きましょう」
そう言うと立ち上がり、キリエはトーヤに手を貸してきた。
「歩く練習をしているところに出会った、そう言えば怪しまれることなく帰れるでしょう」
「助かるよ」
そうして、トーヤは少し手を借りる振りをしてキリエと一緒に、堂々と客殿へと戻ってきた。
「キリエ様!」
今日の担当である薄い青い色の衣装の侍女が、ケガ人に手を貸す侍女頭の姿を認め、慌てて走り寄ってきた。
「廊下は走るものではありませんよ」
「申し訳ございません、ですが」
「歩く練習をなさっていて迷われたようです。お疲れのようなのでお部屋までお連れしました」
「ありがとうございます。私の役目でありますのに」
顔色を変えて侍女が急いでキリエから「ルーク」の手を受け取る。
「ルーク殿」
キリエが声をかけた。
「早く回復をと願う気持ちは理解できます。ですが、あなたの行動でこの侍女は責任を感じております。これからは一言声をかけてからになさいませ。お分かりですね?」
包帯に巻かれた「ルーク」はゆっくりと頷いた。
「急いだからとて治る以上の速度で回復するものではありません。無理はなさいませんように。ではアーダ、頼みましたよ」
「はい、申し訳ありません!」
薄い青色の侍女の名はアーダというらしい。
「ルーク」はキリエに頭を下げると、今度はアーダの手を借りて、廊下から扉を2つ通って客室へと戻ってきた。
「あの、迷われたご様子です。大丈夫でしょうか?お医者様をお呼びいたしましょうか」
「ああ、いや、大丈夫だ。迷惑かけました。おい、ルーク、こっちだ」
「アラヌス」はアーダから「ルーク」の手を受け取ると、気をつけてソファに座らせた。
「後はこちらで大丈夫です」
「ですが……」
「もしも手を借りる必要があったらまた声かけますので、すみませんでした」
「はい、では……」
アーダは心配そうな顔で下がっていった。
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