黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第二章 第一部 神と神

10 検証

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 結局、その日はそのまま、3組の託宣を求めるものたちは待機していた部屋へと返された。
 
「前の2組はそのまま宮からも帰されたらしいぜ。俺たちはまた後日あらためて、だそうだ」
 
 アランが事情を聞いてきて説明する。すでに託宣がないと分かった者は、気の毒だが帰されたらしい。

「なんか宮の中が慌ただしかった」
「そうか、うまくいったかな」
「やったな兄貴! 犠牲になった甲斐あったじゃねえか!」

 ベルが侍女の衣装のまま、景気よくアランの背中をどやしつけると、アランは何かを思い出したようで、そのままふしゅ~っとテーブルの上に突っ伏してしまった。

「お、おい、兄貴、大丈夫かよ」
「犠牲って、おまえな……」

 昨日、シャンタルの実験台になった時のダメージがまだ残っているらしい。



「実験台」とは、シャンタルが体の中に入ってその人物を動かせるかどうか、というものであった。

 あの時、トーヤとベルに人身御供のようにシャンタルの前に差し出された時、思わずアランは身を翻して逃げようとした、だが、その緑の目と目が合った瞬間、自分の中に「誰か」を感じた。

「へえ、これがアランの体かあ、案外居心地いいね」

 次の瞬間、アランは自分の口から出てきたのその言葉を自分の耳で聞いた。

「入ったみたいだな」

 トーヤが目は真面目でありながら、少しばかり面白そうにそう言った。
 ベルは言葉もなく兄を、兄であるものの姿を丸い目をして見ている。

「それで、この先どうすればいいの?」

 アランの口からアランの声で、シャンタルの口調の言葉が流れてくる。

「なんか、きしょい……」

 ベルがちょっとだけ身体を引く。

「今はシャンタルがアランの口を借りて話してるわけだよな?」

 トーヤが淡々と、実験結果を検証する博士のように聞く。

「うん、そう」
「それ、アランが自分の意思で話してるようにはできねえか?」
「どういう意味?」
「今は多分、アランは自分の体が勝手に動いてるって感じてる、そうだろ?」
「そうなの?」

 アランがアランにそう聞いた。

「そうなの、じゃねええええええ!」

 ちょっと体を返すと途端にそう絶叫した。

「ちょ、兄貴、もうちょい声落とせ、侍女の人が来る」

 ベルに言われてハッとして口を押さえる。
 鈴の音はしない、大丈夫だった。

「なんてのかな、アランが自分で考えて自分で話してる、って思わせるってこと、できるか?」

 トーヤに聞かれ、アランがなんとなく可愛らしく首を傾げた。

「やっぱきしょい……」

 ベルがうへえ、という顔でそう言う。
 言われても怒らないのは、シャンタルがアランの体を支配しているからだろう。

「あれかな、託宣みたいに?」
「そうだ、まさにそれだ」
「そうか、やってみるね」

 そう言って少し考えていたようだが、

「うわっ、なんだこりゃ!」

 アランがいつもの自分の話し方、自分の身振りで、両手で頭を押さえて首を振った。

「うわあああ! 頭の中からなんか見えて聞こえるー!」
「ああ、それは私が自分の意識をアランの意識に重ねたからだよ」
「やめろー! 気持ちわりー!」
「だってトーヤがやってみろって」

 と、アランの口から、2人の人間が会話する声が次々と飛び出す。

「なるほど、こんななるわけか……」
「こええ……」

 トーヤとベルがさすがに固い顔で言う。

「それで、これからどうすればいいの?」
「なんでもいい早く終わらせてくれよー!」
「そ、そうだな……」

 トーヤが気を取り直して続ける。

「なんか、シャンタルは知っててアランは知らねえこと、それをアランに見せてアランがそれを言うってのできるか?」
「やってみる」

 アランが抵抗するいとまも与えず、シャンタルは作業に移ったらしい。

「な、なんだこりゃ、この豪華な部屋……」
「どんな部屋だ?」

 戸惑うアランにトーヤが聞く。

「すげえ部屋だ。見たことないぐらい豪華だ。なんだこりゃ……そんで、扉から入ったら正面にすげえソファがある。きらっきらで、謁見の間のソファよりもっと派手、じゃねえな、派手じゃねえが、なんてんだ、きらびやか? そこになんだ、すげえ美人が座ってる。なんだこれ、女神か、本当の女神じゃねえのか」
「そんなに美人か?」
「ああ、濃い紫の服着てこっち見て笑ってる。あ、立ち上がった」
「濃い紫、マユリアだな」
「これが……」

 アランが頭の中の映像を見ながら息を詰める。

「これは、こりゃすげえ……美人ってえのと違う、人間じゃねえ、本当に女神だ」
「間違いないな」

 トーヤが満足したようにうなずいた。

「アランが見たことのないマユリアを見た、シャンタルが見せてるんだな」
「うん」

 呆然と立ち尽くすアランの口から、シャンタルが返事をした。

「もういいぞ、戻ってこい」

 トーヤがそう言った瞬間、へたりとアランが座り込んだ。

「成功だ」
「おお、すげえ!」

 さっきまで気持ち悪がっていたベルが、グッと拳を握る。

 アランは言葉もなく、床の上で呆然と座り込んだままだ。

「大丈夫か?」

 トーヤが近寄って手を貸し、立たせ、椅子に座らせた。

「どんな感じだ?」
「どんなって……」

 どう説明しようかとアランが考えていると、

「へえ~アランって、ああいう時はあんなこと考えるんだねえ」

と、シャンタルが楽しそうに言い、アランがテーブルに突っ伏して動かなくなった。
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