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第二章 第三部 水際
1 見極めるもの
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シャンタルの言葉が途切れた後、誰も何も発言をしない。
広い部屋の中、誰も話さないと何の音もしない。
窓の外には風が吹いているはずだ。
ここは高い山の中腹にあり、その先には海がある。
海風も山風もあるはずだ。
なのに何の音もしない。
闇よりも濃い色をした沈黙がしんしんと降り積もるようだ。
「な、なあ……」
そのまま沈黙に凍りつくのを恐れるように、やはりベルが一番に口を開く。
誰も返事をしない。
「なあ、トーヤ」
救いを求めるようにその人の名を添えてもう一度言う。
「なんだ」
やっと人の声が聞こえたようで、ベルの顔がホッとほぐれるのが分かった。
「この先、どうすんだ?」
怯えた顔で聞く。
仮面の人が見えない表情のままベルだけではなく、他の4人に言う。
「まずは見極めるんだ」
「何を?」
「味方を」
「味方?」
「そうだ」
ベルがうー、っと小さく唸り、
「わけ、わかんねえ……」
口癖に力がない。
「おまえらはマユリアとラーラ様が味方だと思うか?」
「え、そ、そりゃだって、味方なんじゃねえの?」
「じゃあキリエさんは?」
「いや、味方だろ?」
ベルが、今はそれしかできないというように、トーヤの問いに答えていく。
「俺はキリエさんは信用してる、だが味方だとは思ってない」
きっぱりと言い切る。
「なんでだよ、それこそわけわかんねえじゃねえか」
分からな過ぎて目が泳いでいる。
「確かに信用できそうな人だよな」
アランが少し目を伏せながら言う。
「信念のある人だと思う。だからこそ怖いな」
「何がだよ、兄貴」
「信念の方向がな、俺らと違う方向に向いたら、そりゃ遠慮なく俺らのこと消すぞ、あの人は」
ベルが言葉を出さずにゴクリと唾を飲んだ。
「そうだ」
トーヤも認める。
「だからマユリアに俺らのことを言わねえんだと思う」
「なんで?」
ベルが混乱しながら言う。
「あの人は俺らのことが嫌いじゃねえ、むしろ大事に思ってくれてる」
「だったら」
「だがな、もしもマユリアが俺らの敵だとしたら?」
「マユリアが……」
「いくら大事でもな、敵にならなきゃなんねえ」
「そんなこと、あるのかな……」
ベルがうなだれて力なく言う。
「シャンタルも言うように、今、この宮の中は八年前とは違ってる。だから動けないんだよ、キリエさんも」
ベルが隠されているトーヤの目を見つめる。
「今、あの人もそれを確かめようとしてるんだと思う。だから言わないんだよ、主にな」
「なあ、ここで何が起こってんだ?」
「分からん」
素っ気なくトーヤが言う。
「だが、マユリアが言う通り、交代があればマユリアは人に戻り、キリエさんもご隠居たちがいる離宮に引っ込むことになるかも知れん。そうなった時、ここで力を持つのは誰だ? 小さなマユリアの後ろ盾になるのは」
「え?」
ベルが困ってアランの顔を見る。
「誰か心当たりがあるんだな、トーヤ」
「ある」
トーヤが言う。
「取次役」
初めて聞く言葉にアランが警戒するような顔になる。
「な、なんだよそれ」
「俺も知らなかった役職だ。3年前にできたらしい」
「何すんだ?」
「表向きは奥宮と前の宮の間の要件を取り次ぐ、言葉そのままの取次役のつもりらしいが、どうやらそいつがキリエさんを奥宮から切り離してるらしい」
「それ、いつ聞いたんだ?」
アランが聞く。
「聞いてねえ」
「聞いてねえって」
「キリエさんはそういうこと言わねえからな。俺が勝手にそう理解した」
『最近、私にはお会いいただけないもので』
そのたった一言で、キリエがそれを自分に伝えた、とトーヤは理解していた。
「ってことは、そんな話したんだな、この間忍び込んだ時」
「相変わらず人聞きの悪いこと言うよな、訪問したって言えよ」
「鍵勝手に開けてする訪問なんて聞いたことねえしなあ」
いつものように、どれだけ深刻な状況でもこういう会話を挟むのはこの2人のお約束だ。
「まあ、なんでもいいが、その時に聞いたのは間違いねえ」
トーヤ自らが軌道修正するほど、それほどの状況なのだろう。
「じゃあ、なんで言わねえんだよ、そのこと」
あの時、キリエに連れられて部屋に戻ってきた時、トーヤがみなに説明したのは、キリエが自分たちのことに気がついていたこと、そして謁見のために力を貸してくれること、だけであった。
「まだ早いと思ったからな。まずは謁見できるかどうかの方が大事だった。それとシャンタルに託宣してもらうことがな」
確かにあの時にはまだ必要のない情報だったかも知れない。
「その後、どうやってそれ以上のこと調べようかと考えてたら、奥で何があったか分からんが、あっちからお茶会のお誘いがきたからな」
「キリエさんがなんかしたのかな?」
「さあ、どうかな。けど、聞くわけにもいかん」
「なんでだ?」
「あくまで俺らは『エリス様ご一行』なんだよ。素直にお茶会に誘われりゃお受けする、何かお話があればお聞きする、そういう立場だ」
「だからそれがなんでだよ」
「そうしておかんと、俺たちの正体を知ってるってなりゃ、マユリアに言わねえといけねえだろ? だからあくまで、顔が見えない分信用し切れないが、気の毒な中の国からの貴婦人を保護している、だけの関係を通してるんだよ」
広い部屋の中、誰も話さないと何の音もしない。
窓の外には風が吹いているはずだ。
ここは高い山の中腹にあり、その先には海がある。
海風も山風もあるはずだ。
なのに何の音もしない。
闇よりも濃い色をした沈黙がしんしんと降り積もるようだ。
「な、なあ……」
そのまま沈黙に凍りつくのを恐れるように、やはりベルが一番に口を開く。
誰も返事をしない。
「なあ、トーヤ」
救いを求めるようにその人の名を添えてもう一度言う。
「なんだ」
やっと人の声が聞こえたようで、ベルの顔がホッとほぐれるのが分かった。
「この先、どうすんだ?」
怯えた顔で聞く。
仮面の人が見えない表情のままベルだけではなく、他の4人に言う。
「まずは見極めるんだ」
「何を?」
「味方を」
「味方?」
「そうだ」
ベルがうー、っと小さく唸り、
「わけ、わかんねえ……」
口癖に力がない。
「おまえらはマユリアとラーラ様が味方だと思うか?」
「え、そ、そりゃだって、味方なんじゃねえの?」
「じゃあキリエさんは?」
「いや、味方だろ?」
ベルが、今はそれしかできないというように、トーヤの問いに答えていく。
「俺はキリエさんは信用してる、だが味方だとは思ってない」
きっぱりと言い切る。
「なんでだよ、それこそわけわかんねえじゃねえか」
分からな過ぎて目が泳いでいる。
「確かに信用できそうな人だよな」
アランが少し目を伏せながら言う。
「信念のある人だと思う。だからこそ怖いな」
「何がだよ、兄貴」
「信念の方向がな、俺らと違う方向に向いたら、そりゃ遠慮なく俺らのこと消すぞ、あの人は」
ベルが言葉を出さずにゴクリと唾を飲んだ。
「そうだ」
トーヤも認める。
「だからマユリアに俺らのことを言わねえんだと思う」
「なんで?」
ベルが混乱しながら言う。
「あの人は俺らのことが嫌いじゃねえ、むしろ大事に思ってくれてる」
「だったら」
「だがな、もしもマユリアが俺らの敵だとしたら?」
「マユリアが……」
「いくら大事でもな、敵にならなきゃなんねえ」
「そんなこと、あるのかな……」
ベルがうなだれて力なく言う。
「シャンタルも言うように、今、この宮の中は八年前とは違ってる。だから動けないんだよ、キリエさんも」
ベルが隠されているトーヤの目を見つめる。
「今、あの人もそれを確かめようとしてるんだと思う。だから言わないんだよ、主にな」
「なあ、ここで何が起こってんだ?」
「分からん」
素っ気なくトーヤが言う。
「だが、マユリアが言う通り、交代があればマユリアは人に戻り、キリエさんもご隠居たちがいる離宮に引っ込むことになるかも知れん。そうなった時、ここで力を持つのは誰だ? 小さなマユリアの後ろ盾になるのは」
「え?」
ベルが困ってアランの顔を見る。
「誰か心当たりがあるんだな、トーヤ」
「ある」
トーヤが言う。
「取次役」
初めて聞く言葉にアランが警戒するような顔になる。
「な、なんだよそれ」
「俺も知らなかった役職だ。3年前にできたらしい」
「何すんだ?」
「表向きは奥宮と前の宮の間の要件を取り次ぐ、言葉そのままの取次役のつもりらしいが、どうやらそいつがキリエさんを奥宮から切り離してるらしい」
「それ、いつ聞いたんだ?」
アランが聞く。
「聞いてねえ」
「聞いてねえって」
「キリエさんはそういうこと言わねえからな。俺が勝手にそう理解した」
『最近、私にはお会いいただけないもので』
そのたった一言で、キリエがそれを自分に伝えた、とトーヤは理解していた。
「ってことは、そんな話したんだな、この間忍び込んだ時」
「相変わらず人聞きの悪いこと言うよな、訪問したって言えよ」
「鍵勝手に開けてする訪問なんて聞いたことねえしなあ」
いつものように、どれだけ深刻な状況でもこういう会話を挟むのはこの2人のお約束だ。
「まあ、なんでもいいが、その時に聞いたのは間違いねえ」
トーヤ自らが軌道修正するほど、それほどの状況なのだろう。
「じゃあ、なんで言わねえんだよ、そのこと」
あの時、キリエに連れられて部屋に戻ってきた時、トーヤがみなに説明したのは、キリエが自分たちのことに気がついていたこと、そして謁見のために力を貸してくれること、だけであった。
「まだ早いと思ったからな。まずは謁見できるかどうかの方が大事だった。それとシャンタルに託宣してもらうことがな」
確かにあの時にはまだ必要のない情報だったかも知れない。
「その後、どうやってそれ以上のこと調べようかと考えてたら、奥で何があったか分からんが、あっちからお茶会のお誘いがきたからな」
「キリエさんがなんかしたのかな?」
「さあ、どうかな。けど、聞くわけにもいかん」
「なんでだ?」
「あくまで俺らは『エリス様ご一行』なんだよ。素直にお茶会に誘われりゃお受けする、何かお話があればお聞きする、そういう立場だ」
「だからそれがなんでだよ」
「そうしておかんと、俺たちの正体を知ってるってなりゃ、マユリアに言わねえといけねえだろ? だからあくまで、顔が見えない分信用し切れないが、気の毒な中の国からの貴婦人を保護している、だけの関係を通してるんだよ」
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