黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第二章 第三部 水際

 2 女神の知らぬこと

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「すっごいおばはんだな……」

 言葉遣いは悪いが最高の敬意を込めた声でベルが言う。

「ああ、すっごいおばはんだ」

 トーヤがやっと笑う声でそう言った。

「そうなんだよな……」

 アランも言う。

「あの日、夜通しかけてトーヤの話聞いて理解してたつもりだったけど、実際に会って、そんで想像を絶するきれいさですっかり忘れちまってたけどな」

 アランはマユリアのことを持ち出す。

「マユリアも、ラーラ様も、そんでキリエさんも、他にネイとタリア? みんな揃ってシャンタルを殺すこと、認めてたんだよな」
「そうだ」

 言葉に隙間ができるのを恐れるように、間髪かんはつを入れずトーヤが答えた。

「それがあの人たちなんだよな」
「そうだ」
「トーヤが怖がってること、なんとなく分かった気がする」
「さすがアランだ」
「そうだった……」
 
 ベルも思い出したようにそう言い、シャンタルを見る。
 布に包まれたシャンタルの表情は見えない。

「おい、その、この方を殺すのを認めるってのはなんの話だ?」

 ディレンが戸惑ったように聞く。

「あーあんたにはそのへん省いて話してたっけか」

 トーヤが急にくだけて髪をかきあげる。
 たった一つだけ見せている左目が複雑に笑っているのが見えた。

「あんたにはシャンタルが水に沈む運命だったのを助けた、ってのしか言ってなかったっけかな」
「ああ、なんのことだ」
「うーん、難しいからゆっくり話したいんだが、今日はあっち戻る用事あるか?」
「いや、今日は戻っても特に用事はないが」
「そんじゃ泊まってってくれ、そんでゆっくり話そう」



 その日、ディレンは客室に泊まり、トーヤが今まで話していなかったことに漏れがないかを確認しながら、アランとベルに語ったのと同じぐらい、丁寧に話をした。

 アランとベルは一緒に聞いていたが、シャンタルは部屋に戻った。

「まあ、これから話すことはおまえにはそう気分のいい話でもねえしな、部屋へ戻って寝てていいぞ」
「そう? じゃあ帰って寝るね」

 トーヤがそう言ってシャンタルを部屋へ戻したのだ。
 そしてアランとベルも、自分たちが聞いた最後の最後のあたりの話は、特にもう一度シャンタルに聞かせることもなかろうと、それに同意していた。

 ディレンは聞き終わった後、しばらくの間絶句した。

 3人はディレンが何かを言うまでじっと待った。

「なんてか」

 やっとディレンが口を開く。

「想像を絶する話だった……」
「だろ?」

 トーヤがわざとのように、からかうような口調でそう言った。

「殺すことを決めてたって聞いて驚いたが、それも結局は助けるためだった、ってことだな」
「まあな」
「そりゃ、結果はどうあれ、何度も聞かせる話でもないのは分かった」
「だろ?」

 またからかうように言う。

「そんで?」
「とは?」
「それだけじゃねえだろ、あの方を戻したのは」

 ディレンが厳しい顔でトーヤを見る。

「それに、アランとベルをここに残したのも、なんか目的があるんだろうが」
「よく分かったな」

 トーヤが降参降参というように両手を上げてみせる。

「あんたがそうやってふざけるってことは、そんだけ深刻な話をしようとしてるってことだよな」

 アランが言う。

「さすがアラン」
「お、おれだってそんぐらい分かるさ!」

 ベルが勢い込んで言う。

「そんで、それ、シャンタルに聞かせたくねえことだろ?」
「おう、さすがベルだな」

 トーヤがそう言ってベルの頭をくしゃくしゃにする。
 いつもなら何か文句をつけるベルが、黙ったままくしゃくしゃにされている。

「そうだ、シャンタルに聞かせたくないことだ。これからおまえらにだけ話す」

 トーヤが真面目な顔で宣言する。

「あんたにも聞いてほしい」
「分かった」

 ディレンが座り直し、じっくりと聞く体制を作る。

「これから話すことはマユリアも知らねえことだ」
「マユリアがか?」
「そうだ」
 
 トーヤが頷く。

「そして、この国のこれからに関わることだ」
「ちょっと待てよ、なんでトーヤはそんなこと知ってるんだ?」

 アランが聞く。

「なんでと言われりゃ、まあ偶然だな」
「偶然?」
「偶然、俺んところに話が集まってきたんだよ」
「偶然なあ……」 

 ディレンが言う。

「そういうのはもう、偶然とは言わんだろう」
「俺もそう思う」

 アランがディレンに同意する。

「やっぱりトーヤは選ばれたんだよな、誰にかは分からんが」
「まあ、そんなことはどっちでもいいんだよ。俺から見りゃどれも偶然だ」

 トーヤがきっぱりと言う。

「俺がこの国に流れ着いて1人だけ生き残ったことも、『忌むべき者』になったことも、そしてその話が集まってきたこともな。誰がなんかの目的でやってるとしたって、俺から見りゃ偶然だ」
「分かった、じゃあまあ、その偶然の話を聞こうじゃないか」
「ああ」
「わかったよ」

 ディレン、アラン、ベルはそうしてトーヤの話を聞いた。

「それって、結構やばくないか?」
「ああ、やばいな」
「だからトーヤは他に何かやらされるって言ったわけだな」
「ああ、そうだ。分かっただろ?」
「分かった、と言うしかないだろうな」

 アランがそう言い、ディレンとベルは黙って2人の会話を聞いていた。
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