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第二章 第三部 水際
10 侍女のおしゃべり
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「でもアーダ様は毎日この部屋に来てくださいますよね、いつ交代なさっているのですか?」
「私はこのお部屋付きを拝命いたしましたので、他のお役はほぼ免除されています。ですので、個室の控室をいただいております。お呼びいただければいつでも参りますのでご遠慮なくお呼びください」
「え、ではずっとお休みなしでこの部屋の世話をなさってくださっているのですね」
ベルは本気でびっくりした。
「いえ、ずっとというわけではございません。何かありましたら他の者に頼むこともできますし、それに今はこのお部屋のことはできるだけそっとして差し上げるように、とキリエ様から申し遣っておりますので、実は、常にないほどお部屋でゆっくりさせていただいております」
そう言ってアーダがいたずらっぽく笑って見せた。
とてもかわいい笑顔であった。
「そうなのですか」
ベルもつられて笑う。
もうそこそこの間侍女役をやっているので、そこそこ力を抜いて侍女同士のおしゃべりも楽しめるぐらいにはなっていた。
「本当に侍女の方が多いですよね、何名ぐらいいらっしゃるのでしょう」
ベルの問いに、
「ええと、私も正確な人数までは……前の宮だけで数十名、奥宮にも同じぐらいの方はいらっしゃると思いますし、今はそれに加えて外の侍女の方がこちらは十名程度おられるとお聞きしております」
「まあ、そんなに!」
百名以上はいるだろうと推測できるが、それでもこの広さである、とても手が足りるものではあるまい。
「ええ、侍女だけですが。それにその他に下働きの者もたくさんおります。それから侍医やその関係の方、今は神殿の神官たちもたくさん宮の用事をしてくださっております」
「まあ、そんなに……」
「アナベル様がいらっしゃった、えと、宮ではなく、なんとお呼びすれば」
「ああ」
「侍女アナベル」の役を作る時に色々な設定は決めてあった。
「奥様の、エリス様のいらっしゃった御殿のことでしょうか?」
「はい。では、そのエリス様の御殿にはどのぐらいの方が?」
「ええ、それほど多くはなかったのです」
ベルが少し下向き加減になる。
こうすれば少し影のある風に見えるであろう。
「奥様は、それほど大きな御殿にはいらっしゃらなかったのと、あまりたくさんの侍女はお持ちでなく、十名程度だったかと。それにこちらと同じく下働きの者たちが他におりました」
「そうなのですか」
「それと、私は正確には本当の侍女ではないもので」
「え?」
「奥様のお立場は、その少しばかり難しいお立場でしたので、私はどちらかと言いますと護衛に近い者としておそばに上がりました」
「まあ、そうでしたの」
アーダは本気で驚いていた。
「アナベル様は私とそう年も違わない方なのに、そんなにむずかしいお仕事を」
「アラヌスは私の兄だと申し上げましたかしら?」
「え! いえ、初めてお聞きしました」
「そうでしたか。実はそうなのです。私も奥様のおそばに上がらせていただくまでは、兄に育ててもらっていて、そこを旦那様に見いだされ、エリス様のおそばに、と」
「まあ……」
護衛のアラヌスとルークは傭兵だと聞いている。だとすれば、アナベルも戦場で兄たちと共に暮らしていたのかも知れない。
「あの、失礼かも知れませんが、ご苦労なさっていらっしゃるのでしょうね」
「いえ、それほどでは」
にっこりと笑ってみせる。
「ですが、今はそんなことも忘れたように奥様のお世話をさせていただいております。命に替えてもお守りする、それが私の役目であり、幸せでもありますから」
「まあ、ご立派なことを……」
アーダはベルのことを尊敬の目で見る。
「あの、それとアーダ様」
「はい」
「私のことは愛称のベル、とお呼び下さい」
「え」
「おそらく年も同じぐらい、もう少し親しく呼んでいただきたいと思いました」
「まあ……」
アーダは感激していた。
こんな立派な方にそんな風に言っていただくなんて……
「分かりました、ではベル、と呼ばせていただきます。ですから、私のこともアーダ、と」
「ありがとうございます、アーダ」
ベルはそう言ってにっこりと笑う。
このへんの手練手管はトーヤ仕込みだ。
八年前、ダルがトーヤがアロを取り込んだ時のことを「詐欺師になれる」と言ったが、生きていく手段として同じようなことを仕込まれたのだ。
『いいか、おまえは傭兵になるわけじゃねえ、それでも最低限の剣やら武器やらは使えるようにしとけ。その上で人間関係をうまくうまく乗り切るように、どんなことがあっても生き抜けるだけのことは覚えとけ』
そう言ってトーヤが他の人間に何か仕掛けたり、交渉したりするのをそばで見て勉強させられてきたのだ。
なので純真な疑うことのないアーダぐらいなら、簡単にベルの世界に引き込める自信はある。
だが……
(あーなんか申し訳ないなあ、こんな正直なお嬢さんにこんなこと)
と、少しばかり心が痛み、
(そんでなんだなあ、トーヤの野郎がミーヤさんのこと取り込もうとして失敗したのは)
と、初めてのカース行きの復路でトーヤがミーヤにどんな気持ちを持ったのか、をなんとなく分かった気がした。
「私はこのお部屋付きを拝命いたしましたので、他のお役はほぼ免除されています。ですので、個室の控室をいただいております。お呼びいただければいつでも参りますのでご遠慮なくお呼びください」
「え、ではずっとお休みなしでこの部屋の世話をなさってくださっているのですね」
ベルは本気でびっくりした。
「いえ、ずっとというわけではございません。何かありましたら他の者に頼むこともできますし、それに今はこのお部屋のことはできるだけそっとして差し上げるように、とキリエ様から申し遣っておりますので、実は、常にないほどお部屋でゆっくりさせていただいております」
そう言ってアーダがいたずらっぽく笑って見せた。
とてもかわいい笑顔であった。
「そうなのですか」
ベルもつられて笑う。
もうそこそこの間侍女役をやっているので、そこそこ力を抜いて侍女同士のおしゃべりも楽しめるぐらいにはなっていた。
「本当に侍女の方が多いですよね、何名ぐらいいらっしゃるのでしょう」
ベルの問いに、
「ええと、私も正確な人数までは……前の宮だけで数十名、奥宮にも同じぐらいの方はいらっしゃると思いますし、今はそれに加えて外の侍女の方がこちらは十名程度おられるとお聞きしております」
「まあ、そんなに!」
百名以上はいるだろうと推測できるが、それでもこの広さである、とても手が足りるものではあるまい。
「ええ、侍女だけですが。それにその他に下働きの者もたくさんおります。それから侍医やその関係の方、今は神殿の神官たちもたくさん宮の用事をしてくださっております」
「まあ、そんなに……」
「アナベル様がいらっしゃった、えと、宮ではなく、なんとお呼びすれば」
「ああ」
「侍女アナベル」の役を作る時に色々な設定は決めてあった。
「奥様の、エリス様のいらっしゃった御殿のことでしょうか?」
「はい。では、そのエリス様の御殿にはどのぐらいの方が?」
「ええ、それほど多くはなかったのです」
ベルが少し下向き加減になる。
こうすれば少し影のある風に見えるであろう。
「奥様は、それほど大きな御殿にはいらっしゃらなかったのと、あまりたくさんの侍女はお持ちでなく、十名程度だったかと。それにこちらと同じく下働きの者たちが他におりました」
「そうなのですか」
「それと、私は正確には本当の侍女ではないもので」
「え?」
「奥様のお立場は、その少しばかり難しいお立場でしたので、私はどちらかと言いますと護衛に近い者としておそばに上がりました」
「まあ、そうでしたの」
アーダは本気で驚いていた。
「アナベル様は私とそう年も違わない方なのに、そんなにむずかしいお仕事を」
「アラヌスは私の兄だと申し上げましたかしら?」
「え! いえ、初めてお聞きしました」
「そうでしたか。実はそうなのです。私も奥様のおそばに上がらせていただくまでは、兄に育ててもらっていて、そこを旦那様に見いだされ、エリス様のおそばに、と」
「まあ……」
護衛のアラヌスとルークは傭兵だと聞いている。だとすれば、アナベルも戦場で兄たちと共に暮らしていたのかも知れない。
「あの、失礼かも知れませんが、ご苦労なさっていらっしゃるのでしょうね」
「いえ、それほどでは」
にっこりと笑ってみせる。
「ですが、今はそんなことも忘れたように奥様のお世話をさせていただいております。命に替えてもお守りする、それが私の役目であり、幸せでもありますから」
「まあ、ご立派なことを……」
アーダはベルのことを尊敬の目で見る。
「あの、それとアーダ様」
「はい」
「私のことは愛称のベル、とお呼び下さい」
「え」
「おそらく年も同じぐらい、もう少し親しく呼んでいただきたいと思いました」
「まあ……」
アーダは感激していた。
こんな立派な方にそんな風に言っていただくなんて……
「分かりました、ではベル、と呼ばせていただきます。ですから、私のこともアーダ、と」
「ありがとうございます、アーダ」
ベルはそう言ってにっこりと笑う。
このへんの手練手管はトーヤ仕込みだ。
八年前、ダルがトーヤがアロを取り込んだ時のことを「詐欺師になれる」と言ったが、生きていく手段として同じようなことを仕込まれたのだ。
『いいか、おまえは傭兵になるわけじゃねえ、それでも最低限の剣やら武器やらは使えるようにしとけ。その上で人間関係をうまくうまく乗り切るように、どんなことがあっても生き抜けるだけのことは覚えとけ』
そう言ってトーヤが他の人間に何か仕掛けたり、交渉したりするのをそばで見て勉強させられてきたのだ。
なので純真な疑うことのないアーダぐらいなら、簡単にベルの世界に引き込める自信はある。
だが……
(あーなんか申し訳ないなあ、こんな正直なお嬢さんにこんなこと)
と、少しばかり心が痛み、
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