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第二章 第五部 守りたい場所
11 後宮
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「つまりあれか、キリエさんは当代だけじゃなく、マユリアのためも考えて自分へ批判を集中させたってことか?」
「おそらく」
「すごいおばはんだな、って、あっ!」
思わず言ってしまってからベルが急いで口を押さえる。
その姿を見て、リルも何も言わずに軽く苦笑の表情になる。
「ええ、本当にすごい方なの。私もそういう方だと知るまでは、ずっと厳しいだけの方、ご自分の心があるのだろうかと思ったこともあったわ。でも、八年前のあの時、本当にやさしい方だと知ってしまった。だからつらくて」
「あの人は本当に困った人だよな」
トーヤもそう言う。
「だからこそ敵には回したくない」
そしてきっぱりとリルにそう伝える。
「ええ、そうね。そんなことはないと思いたいけれど、シャンタルやマユリアの御為なら、なんでもやられる方ですもの」
リルが悲しそうにそう言う。
「それで、後宮の方はなんか反応あるのか?」
「後宮よりも王宮がね」
「王宮が?」
「そう。あの時、マユリアが『宮』に残ることになって、国王様がひどくお怒りになられたそうなの」
「そんなこと言われてもしょうがないじゃん」
ベルが呆れた風に言う。
「ええ、本当にね、ベルの言う通りだわ」
「そんで、王様が怒って何したんだ?」
「王様も仕方がないと思いながら、どこかに怒りを向けるしかなくなったのでしょうね。あろうことか、後宮の、さすがに正妃様にはそういうことはできなかったそうなのだけれど、側室の方々に当たられていたそうなの」
「ええっ、なんで!」
「おまえたちがマユリアが後宮に入るのを嫌がって呪いでもかけたのではないか」
「はあっ?」
「信じられないわよね?」
「うん、むちゃくちゃだ」
侍女同士のおしゃべりというのはこんな感じなのだろうか。
リルとベルが向かい合ってそんな会話を続けるのを、男3人と元女神がただ耳を傾ける形で話が進む。
「それでね、側室の方々はひどく傷ついて、それでその矛先がマユリアへ向いたのではないかという話だったわ。王宮付きの侍女の子からそんな話を聞いたの」
「王宮にも侍女がいるのか」
「もちろん。普通に侍女と言うと『宮の侍女』だけれど、王宮の侍女は『王宮侍女』と呼ばれているわ」
「王宮付き」の意味合いを含ませるのは本来とは別の役職だと知らせるためだろうか。あくまで国の中心はシャンタル宮なのだと思わせる呼び方だった。
「さすがに顔が広いな。リルに話を聞かないと、そういうのはダルでは分からなかっただろうな」
「ええ、それはね」
リルは侍女ではあっても「行儀見習いの侍女」であった。ミーヤたち「応募の侍女」とは違って人生の一時期を宮で過ごし、ある年齢になったらその事実を財産として、どこかに嫁ぐことを目的としている者が多い。
そのようなわけで「行儀見習いの侍女」は外との関わりを切ってしまわず、外の情報をもたらしてくれることが多々ある。その中でもリルは特に王都の出身で、父親が大商人で国の内外の事情に通じている。また、娘かわいさにしばしば宮にも面会に来てそんな話をして帰ることがあるもので、リルは特に事情通であった。
さらにリル本人も社交的で、自分で言ったように王宮の侍女たちとの交流も多く、驚くほど広い人脈を持っていた。
「とにかく、呪いのためにシャンタルが亡くなったかのような言い方に、後宮内部はかなり雰囲気が悪くなったらしいわ。それで逆に、マユリアが後宮に来るのが嫌さに呪ったのではないか、と言い出した方もいらっしゃったとか」
「嘘だろ!」
さすがにトーヤがそう言ってしまう。
この国でマユリアに、国王と等しい神にそんなことを言うシャンタリオ人がいるとは、短い間だけいた者であっても信じられない。
「ええ、信じられないでしょ?」
「ああ、信じられねえ」
「私もよ。でもね、それでこんな話が続いたのよ」
「どんなだ」
「マユリアはもう人に戻っていらっしゃるって」
「なるほどなあ」
今度もアランが一番に納得する。
「神様に悪口は言えないが、人になら言えるもんな」
「そういうことなのよ。ほんとに鋭いわね、この子。一体何者?」
「ああ、俺の弟子みたいなもんだ」
「師匠より優秀そう」
「おい!」
「トーヤより若いしかっこいいし」
「おい!」
「そうそう、背も高いし!」
「おい……」
これがお仕置きなのだろうか、アランを褒めるという形でトーヤを滅多打ちにしている。
「いや、あの」
ただ、そう言われているアランも同時にダメージを受けている。後でどんな形で今度はアランにとばっちりがくるものか……
「あのね、師匠というものはね、自分を追い越す弟子を作ってこそ値打ちがあるってものなのよ? そんなにすねずに素直に喜んだらどうなのかしら?」
「…………」
もう一言も言い返せない。
「まあそのへんは後で身内でよろしく。それでね」
しらっとリルが話を続ける。
「アランだった? そう、このトーヤの優秀な弟子の言う通りにね、マユリアを『人』にしてしまえば悪口でもなんでも言い放題なのよ。元々がマユリアの後宮入りをよく思っていらっしゃらなかった方々だけにそういうことがあったらしいの。本当に女の嫉妬というものは恐ろしいわ」
「おそらく」
「すごいおばはんだな、って、あっ!」
思わず言ってしまってからベルが急いで口を押さえる。
その姿を見て、リルも何も言わずに軽く苦笑の表情になる。
「ええ、本当にすごい方なの。私もそういう方だと知るまでは、ずっと厳しいだけの方、ご自分の心があるのだろうかと思ったこともあったわ。でも、八年前のあの時、本当にやさしい方だと知ってしまった。だからつらくて」
「あの人は本当に困った人だよな」
トーヤもそう言う。
「だからこそ敵には回したくない」
そしてきっぱりとリルにそう伝える。
「ええ、そうね。そんなことはないと思いたいけれど、シャンタルやマユリアの御為なら、なんでもやられる方ですもの」
リルが悲しそうにそう言う。
「それで、後宮の方はなんか反応あるのか?」
「後宮よりも王宮がね」
「王宮が?」
「そう。あの時、マユリアが『宮』に残ることになって、国王様がひどくお怒りになられたそうなの」
「そんなこと言われてもしょうがないじゃん」
ベルが呆れた風に言う。
「ええ、本当にね、ベルの言う通りだわ」
「そんで、王様が怒って何したんだ?」
「王様も仕方がないと思いながら、どこかに怒りを向けるしかなくなったのでしょうね。あろうことか、後宮の、さすがに正妃様にはそういうことはできなかったそうなのだけれど、側室の方々に当たられていたそうなの」
「ええっ、なんで!」
「おまえたちがマユリアが後宮に入るのを嫌がって呪いでもかけたのではないか」
「はあっ?」
「信じられないわよね?」
「うん、むちゃくちゃだ」
侍女同士のおしゃべりというのはこんな感じなのだろうか。
リルとベルが向かい合ってそんな会話を続けるのを、男3人と元女神がただ耳を傾ける形で話が進む。
「それでね、側室の方々はひどく傷ついて、それでその矛先がマユリアへ向いたのではないかという話だったわ。王宮付きの侍女の子からそんな話を聞いたの」
「王宮にも侍女がいるのか」
「もちろん。普通に侍女と言うと『宮の侍女』だけれど、王宮の侍女は『王宮侍女』と呼ばれているわ」
「王宮付き」の意味合いを含ませるのは本来とは別の役職だと知らせるためだろうか。あくまで国の中心はシャンタル宮なのだと思わせる呼び方だった。
「さすがに顔が広いな。リルに話を聞かないと、そういうのはダルでは分からなかっただろうな」
「ええ、それはね」
リルは侍女ではあっても「行儀見習いの侍女」であった。ミーヤたち「応募の侍女」とは違って人生の一時期を宮で過ごし、ある年齢になったらその事実を財産として、どこかに嫁ぐことを目的としている者が多い。
そのようなわけで「行儀見習いの侍女」は外との関わりを切ってしまわず、外の情報をもたらしてくれることが多々ある。その中でもリルは特に王都の出身で、父親が大商人で国の内外の事情に通じている。また、娘かわいさにしばしば宮にも面会に来てそんな話をして帰ることがあるもので、リルは特に事情通であった。
さらにリル本人も社交的で、自分で言ったように王宮の侍女たちとの交流も多く、驚くほど広い人脈を持っていた。
「とにかく、呪いのためにシャンタルが亡くなったかのような言い方に、後宮内部はかなり雰囲気が悪くなったらしいわ。それで逆に、マユリアが後宮に来るのが嫌さに呪ったのではないか、と言い出した方もいらっしゃったとか」
「嘘だろ!」
さすがにトーヤがそう言ってしまう。
この国でマユリアに、国王と等しい神にそんなことを言うシャンタリオ人がいるとは、短い間だけいた者であっても信じられない。
「ええ、信じられないでしょ?」
「ああ、信じられねえ」
「私もよ。でもね、それでこんな話が続いたのよ」
「どんなだ」
「マユリアはもう人に戻っていらっしゃるって」
「なるほどなあ」
今度もアランが一番に納得する。
「神様に悪口は言えないが、人になら言えるもんな」
「そういうことなのよ。ほんとに鋭いわね、この子。一体何者?」
「ああ、俺の弟子みたいなもんだ」
「師匠より優秀そう」
「おい!」
「トーヤより若いしかっこいいし」
「おい!」
「そうそう、背も高いし!」
「おい……」
これがお仕置きなのだろうか、アランを褒めるという形でトーヤを滅多打ちにしている。
「いや、あの」
ただ、そう言われているアランも同時にダメージを受けている。後でどんな形で今度はアランにとばっちりがくるものか……
「あのね、師匠というものはね、自分を追い越す弟子を作ってこそ値打ちがあるってものなのよ? そんなにすねずに素直に喜んだらどうなのかしら?」
「…………」
もう一言も言い返せない。
「まあそのへんは後で身内でよろしく。それでね」
しらっとリルが話を続ける。
「アランだった? そう、このトーヤの優秀な弟子の言う通りにね、マユリアを『人』にしてしまえば悪口でもなんでも言い放題なのよ。元々がマユリアの後宮入りをよく思っていらっしゃらなかった方々だけにそういうことがあったらしいの。本当に女の嫉妬というものは恐ろしいわ」
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