174 / 354
第二章 第五部 守りたい場所
12 先代と当代
しおりを挟む
「なあなあ、おれ、ちょっと気になったんだけど」
「なあに、ベル」
もうすっかり旧知の仲という雰囲気だ。
「3歳になってしゃべれるようになったら、初めての謁見ってのやるんだろ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあさ、うちのシャンタルはどうだったの? こいつ、全然しゃべらなかったんだろ?」
「こ、こいつ……」
さすがに一瞬リルがひるんだが、瞬時に頭の中で切り替えたらしく、すぐに答えを返した。
「先代はね、ご自分の言葉こそお話しにならなかったけど、でも託宣はなさっていたのよ」
「え、そんなことあるのか!」
「ええ、そう伺っているわ」
「おまえ、すごいなシャンタル!」
ベルがシャンタルを振り向いて言うのにまた一瞬リルはひるんだが、またすぐに切り替えたらしく、何も言わずに2人に視線を送る。
「そう? ベルに褒められるのは悪くないね」
「で、で、しゃべれないのに託宣するって、どんな感じだったの?」
またベルがリルに話を振った。
「ええとね、私も自分が実際に見たり聞いたりしたわけではないので、あくまで聞いた話になるのだけれど、先代はまだ1歳になられないうちから、いきなり何かをおっしゃってらしたらしいの」
「へえ!」
「それをマユリアがお聞きになって、託宣がありましたってみなにお伝えになっていたと聞いたわ」
「へええええ、すげえな!」
もう一度シャンタルを振り返ってそう言い、
「けど、ちょっと怖いな」
少し眉を寄せてそう言った。
「ベルは相変わらず正直だなあ」
シャンタルがそう言って朗らかに笑うのを見て、今度はリルがひるんだままになる。
八年前の出来事で親しく話をしたと言っても、あくまで「主」として接していた方が、こんなに親しそうにまだ幼いとすら言える女の子と仲良く話していることに、やはり多少の違和感があるものらしい。
「シャンタルはそういうの覚えてないんだろ?」
「うん、残念ながらね」
「でも、こないだ次代様が生まれるってのは託宣したの覚えてるんだろ? いつ頃からのを覚えてるんだ?」
「うーんとね……後で言われてそうだったのかなっていうのはあったんだけど、自分で言ったのを託宣だったなって思ったのはそれだけかな」
「え!」
リルが驚いて声を上げた。
「次代様って、託宣って、それは一体……」
「トーヤ、リルはまだ知らなかったの?」
シャンタルがのほほんと言い、リルが困った顔になる。
「ああ、リルとダルにはまだ言ってなかった」
トーヤが答える
「トーヤ、それって一体どういうことなのかしら?」
「ちょっとゆっくり話すから、戻ったらダルにも伝えてほしい」
「ええ、分かったわ」
そうしてトーヤがシャンタルが「次代様がいらっしゃる」と言ったことがきっかけで、予定より二年早く戻ってきたことを説明する。
「それで今戻ってきたのね……」
「そういうことだ」
「そうよね、てっきり次の交代は十年後、まだ二年先だと思っていたもの」
「だろうな」
「でも本当にもう次代様がいらっしゃるの? 当代が託宣をなさったという話はまだ聞いていないけれど」
「いや、確認した。もうすぐ交代がある」
「本当なの?」
「間違いない」
「ということは、王都にいらっしゃるということ? 遠くの方だったら確認するのも難しいものね」
「ああ」
「もう宮に?」
「おそらくは」
「まだ発表がないということは、ご誕生までにまだ月日があるということね」
前回は「親御様」が姿を消していたこともあり、「次代様」が「宮」へ入ったのは臨月に入ってから、ご誕生まで一月もない差し迫った状態になってからだった。そのために「王都封鎖」まで日にちがなく、「宮」は大層慌ただしくなったのだった。
「そうだったわ、忙しかったわ、あの時は」
「普通は数ヶ月あるんだろ?」
「ええ、そう聞いているわ。ということは、今回は通常通りの交代が行われるということかしら」
「少なくとも、前回みたいなことはないだろうな」
「それはそうでしょう」
二千年で初めての出来事だ。そんなことが毎回起こるはずはないだろう。
「こいつは三月ほどって言ったんだが、そろそろ三月になる。早いこと王都封鎖してもらわねえと、ちょっとばかり困るんだがな。いつ頃になるんだろう」
「困る?」
「ああ、アルロス号だ。封鎖してもらわねえと船があっちに戻っちまうかも知れねえ。そうなった場合、ここからどうやって出るか考え直さねえとならんからな」
「船が出る予定があるの?」
「ああ」
「それだったらなんとかなるかも」
「そうなのか?」
「ええ、お父様になんとか言ってみればなんとかなるかも」
「おい」
トーヤがリルの言い方に笑う。
「相変わらず娘に甘々なんだな、アロさん」
「ええ、それと今は孫にもね」
リルはそう言うといたずらっぽく片目をつぶってみせた。
「だから、それはそんなに気にしなくても大丈夫よ、なんとかするわ」
「すげえな。前より何倍もすごくなってるな」
「そうよ、『おっかさん』は強いのよ?」
お茶目な言い方にみんなが笑った。
リルが来てくれたおかげで、随分と色々なことが楽になった気がする。
声をかけるかどうかすら悩んでいたことがバカバカしくなるほどだ、とトーヤは思った。
「なあに、ベル」
もうすっかり旧知の仲という雰囲気だ。
「3歳になってしゃべれるようになったら、初めての謁見ってのやるんだろ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあさ、うちのシャンタルはどうだったの? こいつ、全然しゃべらなかったんだろ?」
「こ、こいつ……」
さすがに一瞬リルがひるんだが、瞬時に頭の中で切り替えたらしく、すぐに答えを返した。
「先代はね、ご自分の言葉こそお話しにならなかったけど、でも託宣はなさっていたのよ」
「え、そんなことあるのか!」
「ええ、そう伺っているわ」
「おまえ、すごいなシャンタル!」
ベルがシャンタルを振り向いて言うのにまた一瞬リルはひるんだが、またすぐに切り替えたらしく、何も言わずに2人に視線を送る。
「そう? ベルに褒められるのは悪くないね」
「で、で、しゃべれないのに託宣するって、どんな感じだったの?」
またベルがリルに話を振った。
「ええとね、私も自分が実際に見たり聞いたりしたわけではないので、あくまで聞いた話になるのだけれど、先代はまだ1歳になられないうちから、いきなり何かをおっしゃってらしたらしいの」
「へえ!」
「それをマユリアがお聞きになって、託宣がありましたってみなにお伝えになっていたと聞いたわ」
「へええええ、すげえな!」
もう一度シャンタルを振り返ってそう言い、
「けど、ちょっと怖いな」
少し眉を寄せてそう言った。
「ベルは相変わらず正直だなあ」
シャンタルがそう言って朗らかに笑うのを見て、今度はリルがひるんだままになる。
八年前の出来事で親しく話をしたと言っても、あくまで「主」として接していた方が、こんなに親しそうにまだ幼いとすら言える女の子と仲良く話していることに、やはり多少の違和感があるものらしい。
「シャンタルはそういうの覚えてないんだろ?」
「うん、残念ながらね」
「でも、こないだ次代様が生まれるってのは託宣したの覚えてるんだろ? いつ頃からのを覚えてるんだ?」
「うーんとね……後で言われてそうだったのかなっていうのはあったんだけど、自分で言ったのを託宣だったなって思ったのはそれだけかな」
「え!」
リルが驚いて声を上げた。
「次代様って、託宣って、それは一体……」
「トーヤ、リルはまだ知らなかったの?」
シャンタルがのほほんと言い、リルが困った顔になる。
「ああ、リルとダルにはまだ言ってなかった」
トーヤが答える
「トーヤ、それって一体どういうことなのかしら?」
「ちょっとゆっくり話すから、戻ったらダルにも伝えてほしい」
「ええ、分かったわ」
そうしてトーヤがシャンタルが「次代様がいらっしゃる」と言ったことがきっかけで、予定より二年早く戻ってきたことを説明する。
「それで今戻ってきたのね……」
「そういうことだ」
「そうよね、てっきり次の交代は十年後、まだ二年先だと思っていたもの」
「だろうな」
「でも本当にもう次代様がいらっしゃるの? 当代が託宣をなさったという話はまだ聞いていないけれど」
「いや、確認した。もうすぐ交代がある」
「本当なの?」
「間違いない」
「ということは、王都にいらっしゃるということ? 遠くの方だったら確認するのも難しいものね」
「ああ」
「もう宮に?」
「おそらくは」
「まだ発表がないということは、ご誕生までにまだ月日があるということね」
前回は「親御様」が姿を消していたこともあり、「次代様」が「宮」へ入ったのは臨月に入ってから、ご誕生まで一月もない差し迫った状態になってからだった。そのために「王都封鎖」まで日にちがなく、「宮」は大層慌ただしくなったのだった。
「そうだったわ、忙しかったわ、あの時は」
「普通は数ヶ月あるんだろ?」
「ええ、そう聞いているわ。ということは、今回は通常通りの交代が行われるということかしら」
「少なくとも、前回みたいなことはないだろうな」
「それはそうでしょう」
二千年で初めての出来事だ。そんなことが毎回起こるはずはないだろう。
「こいつは三月ほどって言ったんだが、そろそろ三月になる。早いこと王都封鎖してもらわねえと、ちょっとばかり困るんだがな。いつ頃になるんだろう」
「困る?」
「ああ、アルロス号だ。封鎖してもらわねえと船があっちに戻っちまうかも知れねえ。そうなった場合、ここからどうやって出るか考え直さねえとならんからな」
「船が出る予定があるの?」
「ああ」
「それだったらなんとかなるかも」
「そうなのか?」
「ええ、お父様になんとか言ってみればなんとかなるかも」
「おい」
トーヤがリルの言い方に笑う。
「相変わらず娘に甘々なんだな、アロさん」
「ええ、それと今は孫にもね」
リルはそう言うといたずらっぽく片目をつぶってみせた。
「だから、それはそんなに気にしなくても大丈夫よ、なんとかするわ」
「すげえな。前より何倍もすごくなってるな」
「そうよ、『おっかさん』は強いのよ?」
お茶目な言い方にみんなが笑った。
リルが来てくれたおかげで、随分と色々なことが楽になった気がする。
声をかけるかどうかすら悩んでいたことがバカバカしくなるほどだ、とトーヤは思った。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる