黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第一部 見えない敵

10 毒の花

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 その日の夕方、アランがいくつかの荷物を抱えてディレンと共に戻ってきた。

「なんか大変なことになってるみたいだな」
「ああ、けどまあ、予想の範囲だ」

 トーヤが荷物を色々と受け取る。

「そんでこれか?」
「あ、それそれ」

 ベルが荷物の中から可愛らしい花の鉢植えを確認する。

「なあ」
「あ、はい」

 何をしているのだろうと見ていたミーヤにトーヤが話しかけ、急いで返事をする。

「この鉢植えな、キリエさんの部屋に置けるかな?」
「お見舞いですか?」
「ああ、そんなもんだ。どうだ?」
「それはエリス様からのお見舞いということでいいのでしょうか?」
「そうだな、それが自然か」
「それでしたら大丈夫かと」
「それとな、これ」

 何か小さな香のようなものが入った箱を見せる。

「お香ですか?」
「まあそんなようなもんだ。これ、火桶にくべられるか?」
「あまり強い香りでなければ大丈夫かと」
「まあそんなには強くないと思う。大丈夫かな」
「くべてみなければ分かりませんが。香りでお加減がお悪くなるようなことはないですよね?」

 香りというものは人によっては良い香りでずっと嗅いでいたいと思うものもあれば、他の人には非常に不愉快ということもある。

「まあ大丈夫だ。炭を燃やしたようなもんだからな」
「一度試してみます」
「それからこれな」

 取り出したのは、今キリエの部屋に置かれているのとよく似た花であった。

「これ、今置いてあるのと交換できるか?」
「交換ですか?」
「ああ」
「それはできないことはないと思いますが、同じ花なのではないですか?」
「それな、同じように見えて違う花だ」
「え?」
「よく似てるだろ? けど、多分キリエさんの部屋にあるのは毒があるな」
「ええっ!」

 ミーヤが驚いて花から遠ざかる。

「これは大丈夫だって、そんなびびんなよ」

 トーヤが楽しそうに笑うのに、

「もう、びっくりさせないでください」

 と、少しふくれて見せる。

「すまんすまん」
 
 笑いながらさらにトーヤがいくつかの物を取り出す。

「こっちは茶だが解毒効果がある。これ飲んだら、そうさなあ、明日には元気になんじゃねえかな」
「ちょ、ちょっと待って下さい」

 次から次へと出てくるものにミーヤが軽く混乱する。

「あの、ベルさんが少し見て、それですぐこれだけのものを揃えるって」
「ああ」

 アランも少し笑いながらミーヤに言う。

「そんな特殊なもんじゃないんですよ。まあ、よくあるやつ? そんなもんです」
「よくあるって、そんな怖いものがですか?」
「そんな怖くないって」

 ベルも笑いながらそう言う。

「そうだな、ちょっと説明しとくか」

 トーヤがミーヤに話して聞かせる。

「人が何人かいるとなんか揉め事とか起こるだろ?」
「え、ええ。それはそういうこともあるかも知れません」
「だろ? そんでな、訴えるだの訴えないだの、殺すだの殺してやるだの、そういうことまで発展することもあるんだよ」
「それは、そういう怖いこともあるのかも知れません」
「あるんだよ、しょっちゅうある」
「そういうものなのですか」

 閉ざされた清い空間でだけ生きているミーヤには、分かるような分からないような部分のある話だ。

「うん、あるよなあ、よくある」
 
 ベルもうんうんと頷く。

「そういう時にな、どっちかが町の魔術師なんてえのに相談に行ったりする。内容は色々だが、これはまあ、しばらくの間静かにさせてくれねえか、ってな時に使う」

 説明されてもミーヤにはまだよく理解できない。

「たとえば訴えるって言ってる相手がちょっと体調崩したりしてな、そんで弱気になったりしてる時にそれとなくおだやか~に話を持っていったりするとな、相手ももういいかな、ってな具合になったりすることもあんだよ」
「そういうものなのですか?」
「まあ、簡単に言ったが、とりあえず相手のやる気を削ぐって時に、ちょっとだけ具合悪くなってもらう時に使うやつの一つだ。色々種類があるから、それをベルに確認に行ってもらった」
「そうそう」

 ベルが得意そうに胸を張る。

「この花は毒がねえけど、多分置いてあるのは少しばかり具合が悪くなるようなそういう成分を持ってる。それを火桶で室温高くして、たくさん出るようにしてあんだろな。だからこっちの毒のないのとすり替えとく」
「そうなのですか」
「ただな、この花はあれと違って匂いがしねえんだよ。つーか、あっても弱い。だから火桶にこれべてもらいたいんだ。似たような匂いがするからごまかせる」
「分かりました」
「後は解毒効果がある茶と、体調を整えるように薬ってほどじゃないが、体にいい木の実とか干し果実なんかな」
「はい」

 聞いていてふとミーヤは気になった。

「あの」
「ん、なんだ?」
「あちらでは、みなさんこういうことをよくやってらっしゃるんですか?」

 「アルディナの神域」でのことを聞いているようだ。

「みんなが知ってたら使っても意味ねえだろうが」

 トーヤが軽く笑いながらそう言い、

「まあ、こういうのも俺のやってた仕事の一つだったりしたからな。思わんところで思わんことが役に立つもんだ」

 言いにくそうに自嘲的に笑った。
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