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第三章 第一部 見えない敵
11 心安らぐもの
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「えっ、キリエが昨夜から体調を崩して寝付いている?」
その朝、その話を聞いたマユリアが驚いた。
「キリエが…」
ラーラ様も戸惑いを隠せない。
「それで、容態は悪いのですか? どんな具合です?」
「いえ、ご心配になられるほどのことはございません」
セルマがそう言って丁寧に頭を下げる。
「お見舞いに行きます」
「はい、そうおっしゃるかと思いまして、それで私がお迎えに参りました」
「そうですか、ありがとう」
マユリアがすぐにセルマに連れられてキリエの私室へと向かった。
「わざわざお越しくださらなくとも、少しふらっとしただけですのに」
「大丈夫なのですか?」
マユリアが寝台の横の椅子に腰掛け、キリエの手を握りしめながら聞く。
「大丈夫でございます。本当にいらぬ心配をおかけしました」
「おまえはわたくしにとってとても大事な人間なのです、それをよく覚えておいてください。そして決して無理をせず、ゆっくりと治してください」
「もったいないお言葉を……」
セルマは少し離れたところに立ち、この主従の会話を冷ややかに見つめていた。
もしも、自分以外の者からキリエの不調を聞いたとしたら、自分の知らぬところで勝手に見舞いに行かれるであろう、そう思ったので自分が知らせて同行したのだ。自分の目の届かぬところで妙な話をされてはたまらない。
「一体どうなったのです」
「はい、先日、夕食の後でもう少し書類仕事をと思って机についていたところ、次第に不快になり、めまいがして倒れてしまいました」
「まあ……」
マユリアがキリエの手を握る手に力を込めるのが見てとれた。
「医者が申しますには、血圧が少し上がったのではないかと。それでこうして休んでいるのですが、年のせいでしょうか、なかなか落ち着かず、大変ご迷惑をおかけしております」
「何を言うのです。ずっとずっと何年も身を粉にして尽くしてくれたおまえに、誰が迷惑などと思うものですか。天が少し休めとおっしゃっているのです、この機会に少しゆっくりなさい」
「ありがとうございます」
キリエが寝台の上でソファに身をもたせながら、それでも精一杯頭を下げる。
「マユリア、あまり長くなりますとキリエ様のご負担になるかと」
セルマが後ろから声をかける。
「そうですね」
マユリアは素直にセルマの言葉に従い、ゆっくりと立ち上がった。
「キリエ、本当に本当に大事にしてくださいね」
「はい、もったいないお言葉をありがとうございます」
「また参ります」
そうしてマユリアは自室へと戻った。
「そうなのですか」
「ええ、ですから少し休んで様子を見るしかないようです」
マユリアの話を聞いてラーラ様が言葉無く、少し下を向いて考え込む。
「では、何かお見舞いでも」
「ええ、わたくしもそれを考えておりました」
マユリアはそう言いながら、ふと、そばに控えているセルマへと目を移す。
「そう言えば、まだお礼を言っておりませんでした。セルマ、教えてくれてありがとう。おかげでお見舞いに行けました」
「いえ、それが私の役目ですので」
セルマが丁重に頭を下げるが、礼を言われているからか片膝をつく正式の礼ではない。
ラーラ様がそれをやや不快感を含ませた目で見るが、マユリア本人が許しているのだからか何も言うことはない。
「それで、何かキリエにお見舞いをと思うのですが、おまえは何か浮かぶものはありませんか?」
「お見舞いですか」
セルマはマユリアがそのようなことを尋ねてきたことに驚いた顔をする。
マユリアは自分に対して信頼をあまり置いていない、ずっとそう思っていた。だからこそ今回も、あえて自分から声をかけることで、キリエと二人きりで会わせぬようにと考えたのだ。
だが今、マユリアは教えて見舞いに連れて行ってくれた自分に対し、信頼の姿勢を見せた。いいことだ、とセルマは思った。
「さようですね」
少し考え込んで見せる。
真摯な姿勢を見せることでさらなる信頼を得たい。そうして自分の言う言葉に耳を傾けていただきたい。
「血圧が高いのではないか、とのことでしたので、心臓が静まるような、そんな落ち着くものはいかがでしょうか」
「たとえば何を?」
「そうですね、何か見て心が休まるようなものはどうでしょうか」
「心が休まるもの……」
「たとえばお花などは」
「もう誰かがかわいい花を置いてくれていましたが」
「花はいくつもあっていいものかと思います」
「確かにそうかも知れません」
マユリアはセルマの意見に素直に頷く。
「あれはピンクのかわいらしい花でしたね、では違う色であまり濃くはない色の落ち着く花を考えましょう」
そうして、セルマに、今まで見せてくれたことがないような、とても優しい笑みを見せてくれた。
「はい、ありがとうございます」
セルマも素直にうれしいと思って頭を下げる。
「では、シャンタルにお見舞いに行っていただくのはどうでしょう」
「え?」
ラーラ様の言葉にセルマが驚く。
「キリエが一番心が安らぐのは、心がうれしくなるのはシャンタルのお姿を見ることだと思います。幸い、お話を伺うと、特段何かうつる病でもないようですし、お見舞いに行っていただいたらキリエもきっとうれしいと思います」
その朝、その話を聞いたマユリアが驚いた。
「キリエが…」
ラーラ様も戸惑いを隠せない。
「それで、容態は悪いのですか? どんな具合です?」
「いえ、ご心配になられるほどのことはございません」
セルマがそう言って丁寧に頭を下げる。
「お見舞いに行きます」
「はい、そうおっしゃるかと思いまして、それで私がお迎えに参りました」
「そうですか、ありがとう」
マユリアがすぐにセルマに連れられてキリエの私室へと向かった。
「わざわざお越しくださらなくとも、少しふらっとしただけですのに」
「大丈夫なのですか?」
マユリアが寝台の横の椅子に腰掛け、キリエの手を握りしめながら聞く。
「大丈夫でございます。本当にいらぬ心配をおかけしました」
「おまえはわたくしにとってとても大事な人間なのです、それをよく覚えておいてください。そして決して無理をせず、ゆっくりと治してください」
「もったいないお言葉を……」
セルマは少し離れたところに立ち、この主従の会話を冷ややかに見つめていた。
もしも、自分以外の者からキリエの不調を聞いたとしたら、自分の知らぬところで勝手に見舞いに行かれるであろう、そう思ったので自分が知らせて同行したのだ。自分の目の届かぬところで妙な話をされてはたまらない。
「一体どうなったのです」
「はい、先日、夕食の後でもう少し書類仕事をと思って机についていたところ、次第に不快になり、めまいがして倒れてしまいました」
「まあ……」
マユリアがキリエの手を握る手に力を込めるのが見てとれた。
「医者が申しますには、血圧が少し上がったのではないかと。それでこうして休んでいるのですが、年のせいでしょうか、なかなか落ち着かず、大変ご迷惑をおかけしております」
「何を言うのです。ずっとずっと何年も身を粉にして尽くしてくれたおまえに、誰が迷惑などと思うものですか。天が少し休めとおっしゃっているのです、この機会に少しゆっくりなさい」
「ありがとうございます」
キリエが寝台の上でソファに身をもたせながら、それでも精一杯頭を下げる。
「マユリア、あまり長くなりますとキリエ様のご負担になるかと」
セルマが後ろから声をかける。
「そうですね」
マユリアは素直にセルマの言葉に従い、ゆっくりと立ち上がった。
「キリエ、本当に本当に大事にしてくださいね」
「はい、もったいないお言葉をありがとうございます」
「また参ります」
そうしてマユリアは自室へと戻った。
「そうなのですか」
「ええ、ですから少し休んで様子を見るしかないようです」
マユリアの話を聞いてラーラ様が言葉無く、少し下を向いて考え込む。
「では、何かお見舞いでも」
「ええ、わたくしもそれを考えておりました」
マユリアはそう言いながら、ふと、そばに控えているセルマへと目を移す。
「そう言えば、まだお礼を言っておりませんでした。セルマ、教えてくれてありがとう。おかげでお見舞いに行けました」
「いえ、それが私の役目ですので」
セルマが丁重に頭を下げるが、礼を言われているからか片膝をつく正式の礼ではない。
ラーラ様がそれをやや不快感を含ませた目で見るが、マユリア本人が許しているのだからか何も言うことはない。
「それで、何かキリエにお見舞いをと思うのですが、おまえは何か浮かぶものはありませんか?」
「お見舞いですか」
セルマはマユリアがそのようなことを尋ねてきたことに驚いた顔をする。
マユリアは自分に対して信頼をあまり置いていない、ずっとそう思っていた。だからこそ今回も、あえて自分から声をかけることで、キリエと二人きりで会わせぬようにと考えたのだ。
だが今、マユリアは教えて見舞いに連れて行ってくれた自分に対し、信頼の姿勢を見せた。いいことだ、とセルマは思った。
「さようですね」
少し考え込んで見せる。
真摯な姿勢を見せることでさらなる信頼を得たい。そうして自分の言う言葉に耳を傾けていただきたい。
「血圧が高いのではないか、とのことでしたので、心臓が静まるような、そんな落ち着くものはいかがでしょうか」
「たとえば何を?」
「そうですね、何か見て心が休まるようなものはどうでしょうか」
「心が休まるもの……」
「たとえばお花などは」
「もう誰かがかわいい花を置いてくれていましたが」
「花はいくつもあっていいものかと思います」
「確かにそうかも知れません」
マユリアはセルマの意見に素直に頷く。
「あれはピンクのかわいらしい花でしたね、では違う色であまり濃くはない色の落ち着く花を考えましょう」
そうして、セルマに、今まで見せてくれたことがないような、とても優しい笑みを見せてくれた。
「はい、ありがとうございます」
セルマも素直にうれしいと思って頭を下げる。
「では、シャンタルにお見舞いに行っていただくのはどうでしょう」
「え?」
ラーラ様の言葉にセルマが驚く。
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