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第三章 第一部 見えない敵
12 病の正体
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また面倒なことを言い出したとセルマは心の中でラーラ様に毒づく。
「いえ、ですが、今のところは、というだけで、本当にうつらない病かどうかは分かりませんし」
「あら」
ラーラ様が冷ややかな目でセルマを見る。
ラーラ様は確実に自分を嫌っている。セルマは再確認する。
「そんな不確実な場にマユリアをお連れになったのですか?」
「いえ、それは、そんなことは。ただ、マユリアは大人でいらっしゃいますが、シャンタルはまだお小さくていらっしゃいますし」
「では、少し離れた場所からお声をかけるのなら?」
ラーラ様はどうあってもお連れしたいと思っているようだ。
「いいですよね? あまり近くには寄らず、部屋の離れた場所からお顔をお見せになるだけでも、直接声をかけていただくだけでも、きっとキリエの励ましになると思います」
「そうですね」
マユリアもラーラ様に同意する。
「それだけでもきっとキリエは喜ぶはずです。構いませんよね、セルマ」
自分はもしかしたら嵌められたのではないだろうか。セルマはそんなことを考えた。
あのいつもにない親しげなマユリアの微笑み、それに乗せられていい調子になったところに、常ならばそこまで強く自分の意見を押すことがないラーラ様の、あの言葉。
どれもキリエにシャンタルを会わせたいがために二人が考えた芝居だとしたら……
「セルマ?」
マユリアがまた伺うような顔でセルマを見る。
「あ、いえ……」
どう答えたものか。
「ですが、やはりシャンタルはお小さいですし」
やっとのようにそう答えるが、またラーラ様が、
「そこまでうつる病の可能性を考えるのならば、やはりマユリアをお連れになるべきではなかった」
言われる通りだ。
セルマはキリエがそのような病ではないと知っている。
なぜなら、あの時キリエの食器に塗ったあの薬、あれのせいで体調を崩したのだと誰よりもよく知っているからだ。
決して命を奪うようなそんな恐ろしい薬ではない。だからこそセルマも後ろめたさを感じながらも、大事の前の小事と割り切ってあんな真似ができたのだ。
あの薬が体内に入れば、ごく短時間であるが少しめまいがしてふらつく。しょせんその程度の薬だ。その後も続けて寝付いているのは、トーヤが見破った通りあの花の成分のせいだ。それとても命を奪うような恐ろしいものではない。似たような症状がじわじわと続くだけ、それも花を取り除けば薬と同じく一両日中にも回復する。そんな簡単なものだ。
「分かりました。では、十分気をつけて、少し離れたところからお声をかけるということなら」
認めるしかなかった。ここでのやり取りに不自然さを感じられ、自分がキリエの病に関係しているのではと疑われるのは得策ではない。
「よかったですね、マユリア」
「ええ、シャンタルもお喜びになられますね」
「あれほどキリエに会いたいとおっしゃっていられたのですもの。キリエだけではなく、シャンタルももっとお元気になられますね」
「本当に」
セルマには衝撃の言葉であった。
『あれほどキリエに会いたいとおっしゃっていられたのですもの』
キリエがあまりシャンタルに会えなくなって三年になる。
全く会えないという訳ではないが、毎日のように会っていた当時と比べると、本当に数えるぐらいしか会えてはいないはずだ。それが、そんな幼いシャンタルが、そんなにキリエを求めているとは。
自分は毎日のようにお顔を拝見に伺っている。
自分は「取次役」という奥宮とその他の宮をつなぐ位置にいる。だから毎日伺って、外と連絡を取る必要があるのかどうかを判断し、必要があれが手続きをして奥と外、神と人との仲立ちをする。そのお役目で毎日お会いしているのだ。
その自分を見るとややシャンタルが恐れるというか、萎縮するように感じていた。
できるだけ優しい声で、丁寧に、敬意を込めて話しかけているつもりなのだが、本当の意味で心を許して下さっているようには見えない。
――それなのにあの老女にはそんな――
セルマは心の中に黒い炎が燃え立つように感じた。
あの老女と自分、どこがどう違うと言うのだ!
いや、わたくしの方がもっとこの国のことを考えている!
心臓が早く打つのを感じ、血が逆流するようだった。
「セルマ?」
「え?」
「何か考え事ですか?」
マユリアが不審に思い、ラーラ様がマユリアの前で考え事か、と少し軽蔑するように聞いたように思えた。
「あ、いえ、失礼いたしました」
「シャンタルを今からお連れしようと思います」
ラーラ様が淡々と告げる。
「あ、それでは同行いたします」
「いえ、結構」
ラーラ様が感情を込めずに言う。
「あなたはここでマユリアのご相談に乗って差し上げてください。シャンタルはわたくし一人で大丈夫です」
「いえ、ですが」
「大丈夫でしょう」
横からマユリアもそう言う。
「さっき見てきた様子ではキリエの状態もそれほど悪いようではなかったですし、そのような話なら、少しでも早くお顔を見せて差し上げたいものです。おまえはどの花を見舞いにするか、それから他に何か送るものに心当たりが無いか、その相談に乗ってくださいね」
「はい」
マユリアに笑顔でそう言われ、セルマはもうそれ以上のことは言えなくなった。
「いえ、ですが、今のところは、というだけで、本当にうつらない病かどうかは分かりませんし」
「あら」
ラーラ様が冷ややかな目でセルマを見る。
ラーラ様は確実に自分を嫌っている。セルマは再確認する。
「そんな不確実な場にマユリアをお連れになったのですか?」
「いえ、それは、そんなことは。ただ、マユリアは大人でいらっしゃいますが、シャンタルはまだお小さくていらっしゃいますし」
「では、少し離れた場所からお声をかけるのなら?」
ラーラ様はどうあってもお連れしたいと思っているようだ。
「いいですよね? あまり近くには寄らず、部屋の離れた場所からお顔をお見せになるだけでも、直接声をかけていただくだけでも、きっとキリエの励ましになると思います」
「そうですね」
マユリアもラーラ様に同意する。
「それだけでもきっとキリエは喜ぶはずです。構いませんよね、セルマ」
自分はもしかしたら嵌められたのではないだろうか。セルマはそんなことを考えた。
あのいつもにない親しげなマユリアの微笑み、それに乗せられていい調子になったところに、常ならばそこまで強く自分の意見を押すことがないラーラ様の、あの言葉。
どれもキリエにシャンタルを会わせたいがために二人が考えた芝居だとしたら……
「セルマ?」
マユリアがまた伺うような顔でセルマを見る。
「あ、いえ……」
どう答えたものか。
「ですが、やはりシャンタルはお小さいですし」
やっとのようにそう答えるが、またラーラ様が、
「そこまでうつる病の可能性を考えるのならば、やはりマユリアをお連れになるべきではなかった」
言われる通りだ。
セルマはキリエがそのような病ではないと知っている。
なぜなら、あの時キリエの食器に塗ったあの薬、あれのせいで体調を崩したのだと誰よりもよく知っているからだ。
決して命を奪うようなそんな恐ろしい薬ではない。だからこそセルマも後ろめたさを感じながらも、大事の前の小事と割り切ってあんな真似ができたのだ。
あの薬が体内に入れば、ごく短時間であるが少しめまいがしてふらつく。しょせんその程度の薬だ。その後も続けて寝付いているのは、トーヤが見破った通りあの花の成分のせいだ。それとても命を奪うような恐ろしいものではない。似たような症状がじわじわと続くだけ、それも花を取り除けば薬と同じく一両日中にも回復する。そんな簡単なものだ。
「分かりました。では、十分気をつけて、少し離れたところからお声をかけるということなら」
認めるしかなかった。ここでのやり取りに不自然さを感じられ、自分がキリエの病に関係しているのではと疑われるのは得策ではない。
「よかったですね、マユリア」
「ええ、シャンタルもお喜びになられますね」
「あれほどキリエに会いたいとおっしゃっていられたのですもの。キリエだけではなく、シャンタルももっとお元気になられますね」
「本当に」
セルマには衝撃の言葉であった。
『あれほどキリエに会いたいとおっしゃっていられたのですもの』
キリエがあまりシャンタルに会えなくなって三年になる。
全く会えないという訳ではないが、毎日のように会っていた当時と比べると、本当に数えるぐらいしか会えてはいないはずだ。それが、そんな幼いシャンタルが、そんなにキリエを求めているとは。
自分は毎日のようにお顔を拝見に伺っている。
自分は「取次役」という奥宮とその他の宮をつなぐ位置にいる。だから毎日伺って、外と連絡を取る必要があるのかどうかを判断し、必要があれが手続きをして奥と外、神と人との仲立ちをする。そのお役目で毎日お会いしているのだ。
その自分を見るとややシャンタルが恐れるというか、萎縮するように感じていた。
できるだけ優しい声で、丁寧に、敬意を込めて話しかけているつもりなのだが、本当の意味で心を許して下さっているようには見えない。
――それなのにあの老女にはそんな――
セルマは心の中に黒い炎が燃え立つように感じた。
あの老女と自分、どこがどう違うと言うのだ!
いや、わたくしの方がもっとこの国のことを考えている!
心臓が早く打つのを感じ、血が逆流するようだった。
「セルマ?」
「え?」
「何か考え事ですか?」
マユリアが不審に思い、ラーラ様がマユリアの前で考え事か、と少し軽蔑するように聞いたように思えた。
「あ、いえ、失礼いたしました」
「シャンタルを今からお連れしようと思います」
ラーラ様が淡々と告げる。
「あ、それでは同行いたします」
「いえ、結構」
ラーラ様が感情を込めずに言う。
「あなたはここでマユリアのご相談に乗って差し上げてください。シャンタルはわたくし一人で大丈夫です」
「いえ、ですが」
「大丈夫でしょう」
横からマユリアもそう言う。
「さっき見てきた様子ではキリエの状態もそれほど悪いようではなかったですし、そのような話なら、少しでも早くお顔を見せて差し上げたいものです。おまえはどの花を見舞いにするか、それから他に何か送るものに心当たりが無いか、その相談に乗ってくださいね」
「はい」
マユリアに笑顔でそう言われ、セルマはもうそれ以上のことは言えなくなった。
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