黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第三部 ベルと神殿

 8 取次役の訪問

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 そうして、いくつか神官長と話を決め、二人が部屋に来ることを了承し、ベルは部屋へと戻った。



「へえ、そんなことになったか」
「うん」

 そう返事をしたものの、少し自信なさげに下を向きがちになる。

「よくやったな」

 そう言ってトーヤがベルの頭にどっしりと手を乗せた。

「トーヤ……」
「不安だっただろ、自分が返事したことで下手うつんじゃねえかってな」
「うん」

 素直に認める。

「だがまあ、今回のことは俺だってそれしかやりようなかったと思うぜ。だから安心しろ、おまえは間違ってねえ」
「トーヤ……」
「多分、だがな」

 そう付け加えてトーヤが笑う。

「さて、何をどう話を持ってくるつもりかねえ」

 アランが笑っているトーヤと、それにいつものように顔を顰めて見せるベルを見ながらそう言う。

「ベルが見た通り、こっちをなんとか取り込みたいんだろうが、取り込んでどうするつもりなのかまでは読めんからな」
「なんか思うことねえのかよ」
「うーん、そうだなあ。まあキリエさんを引き下ろして、そんでラーラ様たちにもその責任おっかぶせるとか、なんかそのぐらいでないの?」
「最悪だな」
「まあな」

 トーヤがニヤリと悪そうに笑う。

「まあ、そうならねえように、なんとか対抗していくしかないよな」
「そうだな」
 
 アランがトーヤにそう答える。

 その横でミーヤが心配そうな顔でトーヤとアランを見ていた。
 今朝はアーダの当番で、午後からはミーヤと交代していたのだ。



 しばらくして、誰かが扉を叩いて訪ねてきた。 

 ミーヤが返事をして扉を開けると、言っていた通りにセルマを連れた神官長が立っていて、ミーヤはひどく驚いた顔をして見せた。知っていることにはなっていないのだ、それが自然だろう。

「あの、お客様です」

 ミーヤがそう言って応接のソファに座っているエリス様とベルに声をかける。
 すぐそばにアランも座っていたが、ルークの姿は見えない。部屋で休んでいる設定だ。

「神官長と、取次役のセルマ様です」

 そう伝えて2人を部屋に入れ、ミーヤはお茶を入れに部屋を出ていった。
 客殿の大きな部屋の時には室内にちょっとした厨房のような施設があった。この部屋にも一応お茶を入れるような設備はあるのだが、来客用、しかも位が高い人用の準備はないもので、外の水場を使うために出ていったのだ。

 2人は案内されて応接のソファの前にある椅子にそれぞれ腰掛けた。 

「ようこそいらっしゃいました」

 ベルがエリス様の言葉を伝える。

「先日は神殿にお参りさせていただき、大変心が安らぎました、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお参りいただきありがとうございました」

 神官長がゆっくりと頭を下げてから上げる。

「こちらは取次役のセルマ殿です」

 神官長に紹介されてセルマも軽く頭を下げる。

「そのような方がいらっしゃるとだけは伺っております」

 侍女が主の言葉を伝える。

「それで、御用の向きはどのようなことでしょうか」
「実はですな」

 神官長が話し始める。

「先日、神殿にお越しくださったことをセルマ殿に話をしたところ、お噂は伺っているがまだ面識がないとおっしゃったもので、それでこうしてお連れいたしました」
「さようでございましたか」

 このあたりのことは神官長と話ができているが、ベルは知らん顔で受け答えをする。

「取次役のセルマです」

 セルマがそう言って軽く頭を下げ、侍女から話を受けたエリス様も少し遅れて頭を下げる。

「侍女頭のキリエ様がこちらの引き受け人になっておられますが、ご存知のように、今はキリエ様が体調を崩され、床についていらっしゃる状態です」
「はい」
「ご不安でいらっしゃいますでしょう」
「はい……」

 エリス様が尋ねられてそう答える。

「今の状態ではあまりにお気の毒だと思い、このセルマがお力をお貸ししたい、そう思って参りました」

 侍女がセルマの言葉を伝え、エリス様の言葉を侍女が伝える。

「大変ありがたいお申し出、感謝いたします」

 ベルが答え終わると同時に頭を下げる。

「ですが、キリエ様にもセルマ様にも申し訳ないように思えます」

 そう伝えてベルが困ったような顔になる。

「いえ、そのようなことはございません。宮の中は一つです、キリエ様が寝付いていらっしゃる今は、その代わりに私が皆様の身元をお預かりすることに、全く問題はございません」

 セルマがエリス様を見つめながら、優しげにそう言った。

「キリエ様がお元気になられたら、またキリエ様の元にお返しいたしますが、それまでの間、私が代わりに、とそういうことでございます」

 ベルが伝え、エリス様が黙ってしばらく考えるようにする。

「あくまでご安心いただけるように、ということでございますから、そのようにお考えになるほどのことはございません、とお伝え下さい」

 そうベルに言う。

「もっと早くにお訪ねするべきでした。キリエ様がこれほど長くご不快が続くとも思わず、ついそのままに。本当に申し訳ございません、ご不安でしたでしょう」

 もう一度セルマが頭を下げ、

「この度、神官長から皆様が神殿にお参りになられたことをお聞きして、もしやご不安からのことではないかと思い、このように伺わせていただきました」

 そう続けた。
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