黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
269 / 354
第三章 第四部 逆風

 3 取り調べ

しおりを挟む
 セルマは他にも2つ3つ質問をしてから、2名の新入り侍女を部屋に帰した。

「警護隊隊長をこれへ」

 当番の侍女にルギを呼びに行かせる。
 しばらくして、警護隊隊長のルギがセルマの執務室へやってきた。

 セルマが椅子に座るようにうながし、自分も座ってから前置きなく尋ねる。

「キリエ殿の部屋に、嗅いだ者が不調になる香の入った香炉が届けられたこと、存じていますか?」
「いえ、初めて伺いました」

 それはそうだろう。
 今日のキリエの担当の侍女があの香炉を見つけ、その時にキリエが大層不快そうであったので侍医を呼んで見せたところ、あの香の匂いに気がついたのだ。それほどよく知られている香である。医師の学問のうちに入るほどの。以前持っていったあの花とは違い、医学を学ぶ者ならば気がついて当然な。
 それからすぐにセルマに報告が届き、香炉を持って行っただろう新入りの侍女をセルマの執務室に呼び、事情を聞いてすぐにルギを呼びにやった。聞いているはずがない。

「そうですか。ではわたくしから説明いたしましょう」

 ルギは、セルマの一人称、この宮ではマユリアとラーラ様だけが使っているはずの一人称を耳にしても、顔色一つ変えずじっと話を聞いている。
 先ほどの「キリエ殿」にも同じ反応しかしていない。

 セルマはチラリとルギを見る。
 色々と噂は聞いている男だ。

 マユリア直属
 まだ子どもの頃にいきなり宮に現れてその日から突然衛士見習いとして配属された
 実力でも人望でも間違いがない
 位もなく第一警護隊の隊長に抜擢された
 八年前に正式な兵としての位をいただいた後はあっという間に宮の衛士の隊長になった
 
 他にも色々と聞いている。
 八年前のあの騒動の時、王がマユリ後の仲を疑ったという本当か嘘か分からぬ噂もあった。

 今までセルマは直接ルギと言葉を交わしたことはない。
 何よりほぼマユリア直属だったもので、セルマに限らず、衛士以外で直接接する者はほとんどいない。
 大柄で強面、ほぼ表情を見せることもなく口数も少ない。本来なら見た目だけで恐れる者がいても不思議でもないが、衛士たちにはひどく慕われ信用を得ていることと、マユリアが親しげな様子を見せることから、侍女たちも特にそうする様子もないとは聞いている。

 セルマは視線を外すと今朝の侍女2名への「取り調べ」について説明をした。

「では、茶色の衣装の侍女、侍女頭付きの侍女がその2名に香炉を持ってくるように指示を出した、ということでしょうか」
「いえ、そこまではっきりとは2名共申してはおりません。ですが、その可能性が高そうだということです」
「なるほど」

 ルギはどう思っているのか、表情を見ただけでは判断がつかない。

「どう思います?」
「どう、とは?」
「侍女頭付きの侍女が、そのようなものを運ばせたと思いますか?」
「それはどうでしょう」
 
 ルギは淡々と続ける。

「あえて侍女頭付きの者に容疑をかけさせるよう、似たような色の衣装の者が命じた可能性もあるかと」
「なるほど」

 なかなかこの男は自分の思ったようにはならぬだろうとセルマは思った。

「では、どうします?」

 ルギは少し考え、

「その2名の者に私も話を聞いてみたいと思います。それからキリエ様のその日の係の侍女にも。それから神具係の者で、その香炉を見たことがある者がいるかどうか、それも調べませんと」
「なるほど」

 セルマはチラリとルギを見て続ける。

「では、一刻も早く始めてください。お命まで狙う意図があったとは思えませんが、仮にもシャンタル宮の奥宮でそのような不祥事、あってはならぬことです。一日も早く解決のために力を尽くしてください」
「承知いたしました」

 ルギは丁寧に頭を下げると部屋から出ていった。



 それから本当に間もなく、シャンタル宮警護隊隊長の名の元、関係者が警護隊隊長室へと集められた。

 集まったのは最初に容疑をかけられた2名の新米侍女、その侍女のその日の指導担当であった上役神具係の侍女ライナ、侍医、キリエの部屋のその日の担当で、侍医を呼んできた侍女頭付き侍女のヤナ、ヤナ以外の侍女頭付きの侍女、つまり茶系の衣装の侍女たち6名であった。
 そこに責任者としてセルマと警護隊長のルギ、今日の隊長付きの衛士2名の合計15名がルギの執務室に集まった。

「では聞き取りを始める」

 ルギが静かにそう言い、順番に話を聞いていく。

 まずは侍女頭付きで、その日のキリエの担当であったヤナから。全てはこの侍女がキリエの不調に気づいて侍医を呼びに行ったことから始まった。

「はい、このところ少しご体調がよさそうであったキリエ様が、随分と顔色が悪くていらっしゃいましたので、驚いて侍医を呼びにまいりました」
「それは何時頃のことか」
「昼食の少し前のことかと思います。お食事のことでお聞きしたいことがあり、それでお部屋に伺ったらそのような状態でいらっしゃったので慌てました」

 ヤナはその時のことを思い出したようで、小さくため息をついた。

「すぐに侍医が来てくれて、この匂いは何かと聞きましたが、私にはすぐには分かりませんでした。それで侍医が部屋を探し、青い香炉をこれはいつからここにあるのかと聞かれ、私はその時に初めてそれに気がつきました」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...