黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第四部 逆風

 4 新米侍女

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「その日、それ以前に侍女頭の部屋に入ったのはいつです」
「はい、起床のお時間の1つ目の鐘が鳴った後、お部屋に伺いましたらもう目を覚ましていらっしゃって、その後朝食もきちんと召し上がっていらっしゃいました。その後は2度ほど様子を伺いにまいりましたが、その時は普通でいらっしゃいました」
「それでその次、昼食前に伺ったら、その時にはご不快の様子でいらっしゃった、と」
「はい、その通りです」
「分かりました」

 ルギはヤナへの質問を終え、次に二人の行儀見習いの新人侍女への質問を始めた。
 ルギの隣で今日の隊長付きの衛士が、細かく記録をとっている。

「あなたたちはどうして侍女頭の部屋へ香炉を届けようと思いました。最初から全部話してください」

 丁寧に言葉をかけるが、感情を交えぬその言葉に若い少女二人は身を縮めているのが分かった。

「ルギ隊長」

 セルマが思わず声をかける。

「まだ年若い侍女です。もう少し優しくしてください」

 ルギは皮肉っぽい笑みをセルマに向けると、

「申し訳ないが、私は相手が誰でも自分の態度を変えようとは思いません。もちろん、この2名に対しても、特に厳しい物言いをした覚えもありません。そしてこの2名も、自分にやましい部分がなければ、恐れずに、正直に知ることを話してもらいたいと思っております」

 そう言い切ると、

「どうぞ話してください」

 そう言ってモアラとシリルに話すことをうながす。

 不思議なもので、このような形であっても、特に自分たちに対して疑いの目を向けてはおらぬと分かる言葉を聞き、さっきまでおびえていた二人の少女は少し落ち着いたようだった。
 それに以前から、衛士のルギ隊長はそのような人間だと耳にしていたこともあった。このような方なのだと思うと、不思議に怖いという気持ちがなくなった。

「はい、ルギ隊長、お話しいたします」

 年上のモアラがそう言って話しだした。

 昨日の夜、仕事を終えて自室に戻った二人は、その日一日のこと、家族のことなど色々と話しながら、その日一日のお互いをほめたり慰めたりし合っていた。

「そうしておりましたら、どなたかが扉を叩く音がして、返事をする間もなく扉が少しばかり開き、そのままで、と言われました」
「はい、それでモアラ様と2人、そのまま、寝台に腰かけたままで分かりましたと返事をいたしました」
「はい、そうです。そうするとその方が、侍女頭のキリエ様のお部屋の香炉を落として壊してしまった。今日はもう遅いから、明日の朝にでも香炉を届けてほしい、とおっしゃったのです」
「はい、そうでした」

 ルギがまっすぐに前を見て話す少女二人を黙ってじっと見つめている。

「それで、どのような香炉をお届けすればよろしいですかと伺ったところ、青い香炉を用意しておくから、それを朝一番に届けてほしい、と。そして頼みましたよとおっしゃって、扉を閉じて帰っていかれました」
「はい、そうでした」
「なるほど、それで翌朝その香炉をキリエ様のお部屋に届けたと」

 ルギが話が一区切りしたと見てそう確認をする。

「はい」
「その香炉はどこに置いてありました」
「いつもモアラ様と二人で作業をする、神具室の横の小部屋のテーブルの上です」
「はい、そうでした。いつもは何も置いていないテーブルの上に、青い香炉が一つだけ置いてあったので、これだと思いました」
「なるほど」

 隣の記録を取っている衛士の様子をチラリと見る。
 
「それで、誰がその香炉を届けましたか」
「あ、はい、二人で共に参りました」
「それはなぜです」
「はい、侍女頭のキリエ様の私室に伺うのに、やはり少し気後れがいたしました。それと、大事なことなので、間違いがないように一緒に行った方がいいのではないか、と」
「はい、確かにモアラ様がそうおっしゃって、私もその方が良いように思い、一緒に伺いました。
「なるほど」

 ルギが一度声をかけて少女二人が少し黙る。

「それでは、部屋に行った時のことを話してください」

 少女二人がその時の事を話す。

「お部屋の中に入り、キリエ様に香炉をお持ちしましたと申し上げましたら、ご苦労さまとおっしゃってくださいました。それで香炉をどこに置こうかと少し考えたのですが、お聞きする方が良いかともう一度お声をおかけしましたところ、テーブルの上にとおっしゃられましたので、そこに置いて退室いたしました」
「はい、モアラ様のおっしゃる通りでございます」

 シリルも間違いないと頷く。

「その後はどうしました?」

 ルギが退室後のことも続けて聞く。

「そのまま2人で作業部屋へ戻り、そのまま仕事をいたしました」
「それは本当ですか」

 ルギが今度は二人の指導役であった神具係の侍女ライナに尋ねる。

「はい、間違いはないと思います。そのまま2人で小部屋に入り、朝の仕事をしていたと思います」
「朝の仕事とは?」
「はい、ろうそくとろうそく立て、香と香炉の管理です」
「それは小物係の仕事のようにも思えますが」
「最近、神具として使うものと小物として使う物を分けました。新人なのでその分けられた物の管理をし、午後からは小物係の手伝いに行っておりました」

 セルマが声をかけ、そのように仕事の内容が割り振られるようになっていた。
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