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第三章 第四部 逆風
5 毒
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「分かりました。ではこちらの2名の侍女は香炉を届けた後はずっと部屋から出ていない、そういうことですね」
「はい」
「では、その香炉に人を不調にする何か、そうですね、毒が入っていたと知ったのはいつですか」
ルギの「毒」という言葉に少女2人がビクリとする。
「あ、あの、私たちは本当にそのような物が入っている香炉だとは存じませんでした」
「はい、本当です!」
モアラに続いてシリルも叫ぶようにそう断言する。
「いえ、今はそのようなことは聞いていません。毒が入っていたと知ったのはいつです?」
ルギがもう一度変わらぬ様子でそう聞く。
「あ、あの……」
モアラが泣きそうな顔になり、ふるふると首を振る。
「私は、そのようなことは一切存じません」
「モアラ様」
シリルも泣きそうな顔になり、モアラにしがみつく。
「ですから、今はそのようなことは聞いていません。いつ毒が入った香炉だと知りましたか、と聞いています」
相変わらずルギが同じ調子でそう聞く。
娘二人が怯え上がったように目に涙を浮かべて抱き合っている。
「ルギ隊長」
セルマが思わず声をかける。
「そのように恫喝しては誰だってまともに答えられなくなります!」
「恫喝しているつもりはないのですが」
何があろうとルギの様子は変わらない。
「とにかく、この2名がいつ香炉に毒が入っていたかを知りたいのです」
「分かりました」
セルマが2人の新米侍女に近づくと、やさしそうに言う。
「ルギ隊長の言うことをよく聞いてください。あの香炉に良くないものが入っていると知ったのはいつだったのか、と聞いていますよ。決して疑っているのではありません。安心して答えてください」
モアラとシリルが涙が溢れそうな目でじっとセルマを見ると、コクリと頷いた。
「はい……」
まだルギを見て怯えの色を見せるが、この宮の権力者、取次役がそばにいる、それだけで少し気持ちが落ち着いたようだ。
「あの、シリル様と2人で作業をしておりました。そうしたらライナ様が随分と慌てた風に部屋に入っていらっしゃって、キリエ様の部屋に何か届けたかとお聞きになりました」
「ええ、そうです。ですので、青い香炉をお届けしたことを申しましたら、あの」
モアラがチラリとライナの方を見て、
「なんというものを届けたのですか、と、その、怒鳴られて……」
思い出してまた二人が身を縮める。
「なるほど、その時に初めて知ったというわけですか」
「はい、はい」
「はい、そうです」
2人で何度も頷き、初めて聞いたことであったと伝える。
「分かりました」
ルギがそのままライナを振り向き、
「あなたはどこでそれを知りましたか」
そう聞くとライマが怒ったような顔で、
「ヤナ様からです」
と、切り捨てるように言う。
「私が自室におりましたら、いきなりノックもなく扉が開き、キリエ様の部屋に妙な物を届けたのは神具係の侍女か、とそうお聞きになりました」
「そうなのですか?」
ルギが今度はヤナにそう尋ねると、
「はい、間違いありません。侍医に香炉に妙なものが入っていて、それがキリエ様の不調の原因である、誰が持ってきたものかと聞かれたので、神具係に聞きに参りました」
「どうして神具係に? 香炉なら小物係にもあるのではありませんか? 高価な物ならば調度係や宝具係にもあるではありませんか」
セルマがきつくそう聞く。
「なぜ……」
ヤナが聞かれて気がついたように少し考えて、
「あ、そうです、キリエ様がおっしゃったからです」
「キリエ殿が?」
セルマが不愉快そうに眉を寄せた。
「はい、あまりにご様子がおかしかったので驚いて侍医を呼んだところ、侍医がこの香りに気がつき、この香炉は誰が持ってきたのかと私に聞きましたが、私は存じませんでしたので、今度はキリエ様にお聞きになりました。そうしたところ、神具係の新しい侍女2名が持ってきてくれたものだと」
「神具係の新しい侍女がと、そうキリエ殿がおっしゃったと言うのですか?」
「はい」
セルマは言葉に詰まった。
キリエは今回の行儀見習いの侍女たちには一度会っただけだ。それなのに神具係に任命した2人の顔をきちんと覚えていたというのだろうか。あの短い時間に、もしや全員の顔と名前を覚えたというのか?
(いや、偶然に違いない。まだ年若い、顔を見たことがない緑色の衣装の侍女が香炉を持ってきた。それでたまたまそう思い込んだだけだろう)
セルマは心の中でそう思い込もうとしたが、それでも、今まで長年の間キリエを見てきていただけに、そうではないと頭の芯の冷静な部分が理解しようとしていた。
キリエが侍女の所属や名前を間違えたのを見たことがない、そう思い出す記憶にフタをし、その気持を無理矢理に侮蔑の気持ちで押さえつけ、
「さきほどルギ隊長も申していた通り、香炉を扱う部署はいくつもあります。たまたま今回は神具係の者ではありましたが、もしも違った時にはどうするおつもりであったのでしょうね」
そう言って冷たい視線をヤナに向ける。
「これが他の係であったとしたなら、大変な失礼に当たりますよ。本当に運がよかったですね」
さらに毒を含ませてそう言い捨てた。
「はい」
「では、その香炉に人を不調にする何か、そうですね、毒が入っていたと知ったのはいつですか」
ルギの「毒」という言葉に少女2人がビクリとする。
「あ、あの、私たちは本当にそのような物が入っている香炉だとは存じませんでした」
「はい、本当です!」
モアラに続いてシリルも叫ぶようにそう断言する。
「いえ、今はそのようなことは聞いていません。毒が入っていたと知ったのはいつです?」
ルギがもう一度変わらぬ様子でそう聞く。
「あ、あの……」
モアラが泣きそうな顔になり、ふるふると首を振る。
「私は、そのようなことは一切存じません」
「モアラ様」
シリルも泣きそうな顔になり、モアラにしがみつく。
「ですから、今はそのようなことは聞いていません。いつ毒が入った香炉だと知りましたか、と聞いています」
相変わらずルギが同じ調子でそう聞く。
娘二人が怯え上がったように目に涙を浮かべて抱き合っている。
「ルギ隊長」
セルマが思わず声をかける。
「そのように恫喝しては誰だってまともに答えられなくなります!」
「恫喝しているつもりはないのですが」
何があろうとルギの様子は変わらない。
「とにかく、この2名がいつ香炉に毒が入っていたかを知りたいのです」
「分かりました」
セルマが2人の新米侍女に近づくと、やさしそうに言う。
「ルギ隊長の言うことをよく聞いてください。あの香炉に良くないものが入っていると知ったのはいつだったのか、と聞いていますよ。決して疑っているのではありません。安心して答えてください」
モアラとシリルが涙が溢れそうな目でじっとセルマを見ると、コクリと頷いた。
「はい……」
まだルギを見て怯えの色を見せるが、この宮の権力者、取次役がそばにいる、それだけで少し気持ちが落ち着いたようだ。
「あの、シリル様と2人で作業をしておりました。そうしたらライナ様が随分と慌てた風に部屋に入っていらっしゃって、キリエ様の部屋に何か届けたかとお聞きになりました」
「ええ、そうです。ですので、青い香炉をお届けしたことを申しましたら、あの」
モアラがチラリとライナの方を見て、
「なんというものを届けたのですか、と、その、怒鳴られて……」
思い出してまた二人が身を縮める。
「なるほど、その時に初めて知ったというわけですか」
「はい、はい」
「はい、そうです」
2人で何度も頷き、初めて聞いたことであったと伝える。
「分かりました」
ルギがそのままライナを振り向き、
「あなたはどこでそれを知りましたか」
そう聞くとライマが怒ったような顔で、
「ヤナ様からです」
と、切り捨てるように言う。
「私が自室におりましたら、いきなりノックもなく扉が開き、キリエ様の部屋に妙な物を届けたのは神具係の侍女か、とそうお聞きになりました」
「そうなのですか?」
ルギが今度はヤナにそう尋ねると、
「はい、間違いありません。侍医に香炉に妙なものが入っていて、それがキリエ様の不調の原因である、誰が持ってきたものかと聞かれたので、神具係に聞きに参りました」
「どうして神具係に? 香炉なら小物係にもあるのではありませんか? 高価な物ならば調度係や宝具係にもあるではありませんか」
セルマがきつくそう聞く。
「なぜ……」
ヤナが聞かれて気がついたように少し考えて、
「あ、そうです、キリエ様がおっしゃったからです」
「キリエ殿が?」
セルマが不愉快そうに眉を寄せた。
「はい、あまりにご様子がおかしかったので驚いて侍医を呼んだところ、侍医がこの香りに気がつき、この香炉は誰が持ってきたのかと私に聞きましたが、私は存じませんでしたので、今度はキリエ様にお聞きになりました。そうしたところ、神具係の新しい侍女2名が持ってきてくれたものだと」
「神具係の新しい侍女がと、そうキリエ殿がおっしゃったと言うのですか?」
「はい」
セルマは言葉に詰まった。
キリエは今回の行儀見習いの侍女たちには一度会っただけだ。それなのに神具係に任命した2人の顔をきちんと覚えていたというのだろうか。あの短い時間に、もしや全員の顔と名前を覚えたというのか?
(いや、偶然に違いない。まだ年若い、顔を見たことがない緑色の衣装の侍女が香炉を持ってきた。それでたまたまそう思い込んだだけだろう)
セルマは心の中でそう思い込もうとしたが、それでも、今まで長年の間キリエを見てきていただけに、そうではないと頭の芯の冷静な部分が理解しようとしていた。
キリエが侍女の所属や名前を間違えたのを見たことがない、そう思い出す記憶にフタをし、その気持を無理矢理に侮蔑の気持ちで押さえつけ、
「さきほどルギ隊長も申していた通り、香炉を扱う部署はいくつもあります。たまたま今回は神具係の者ではありましたが、もしも違った時にはどうするおつもりであったのでしょうね」
そう言って冷たい視線をヤナに向ける。
「これが他の係であったとしたなら、大変な失礼に当たりますよ。本当に運がよかったですね」
さらに毒を含ませてそう言い捨てた。
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