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第三章 第四部 逆風
9 無毒の花
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「もちろんですとも」
フウは静かにセルマの言葉に対抗するように言う。
「ですが、この宮の中で、いえ、この宮の中の尊い方で、そのような命を下す方がいらっしゃるとは、私には到底思えません。そう思うこと自体が不敬です、そうでしょう?」
セルマがじっとフウを見る。
「わたくしも」
ゆっくりと、そう自分を称してから、
「おまえと同じように思います」
挑発するようにフウをそう呼ぶ。
フウは怒りを一瞬だけ顔に上らせたものの、ふうっと息を吐いて自分を落ち着かせた。
「ええ、ですからありえません。私がキリエ様によろしくないことをするなど」
セルマとフウはそうしてじっとお互いに視線を送りあっていた。
「持ってまいりました」
キリエの部屋へ行っていた若い衛士が、ピンクの花の植えられた鉢を持って戻った。
「ご苦労だった、これへ」
ルギが鉢を受け取ると、執務机の上に置いた。
ピンク色の小さくて可憐な花たちは、どう見てもそのような恐ろしい花には見えない。どこから見ても病人の心を和ませる、それ以外の目的を持つものには見えなかった。
「侍医殿」
「あ、はい」
「これを見ていただけますか?」
「はい」
侍医はピンク色の花に恐る恐る近づくと、じっくりと上から下から横から見て、香りも気をつけながら嗅いでみる。花や葉にも触れ、少しちぎってまたじっくりと見聞する。
「どこからどう見ても、そのような怪しげな花には見えません。これは無毒だと思います」
「そうですか」
その言葉を聞いてセルマが心の中で驚く。
そんなはずはない、あれは毒を含む花だ。
人の命を奪うほどではないが、それでも常にその香りにさらされると体調を崩す、そんな効果があるはずだ。
「フウ殿」
「はい」
「あなたも薬にお詳しい。念の為に見ていただけますか?」
「はい」
ルギに言われ、フウもピンクの花に近寄り、侍医と同じように見聞した後、ちぎった花を口に含んだ。
「あっ!」
他の侍女たちが驚いて声を上げる。
フウは口の中で花を噛み潰し、それを隠すようにしてハンカチに出した。
「おそらくですが、この後で私の体に何かおかしな様子が出ることはないと思います。葉も同じようにしてみても構いませんが、何しろまずいのでね」
「ほう、まるで味を知ってらっしゃるかのような」
「はい。色々な植物をこうして吟味していますから、この同じ花も葉も、そしてはいだ茎も食べてみたことがございます」
「それはなんとも研究熱心な」
ルギが愉快そうな表情になる。
「ええ、私は子供の頃からずっと薬に興味がございまして、元々は一生をその研究に捧げたいと思っておりましたが、この宮にだけある薬草園に興味を持ち、そこに入りたさに侍女になったのです。幼い頃から親に怒られようが、心配されようが、ずっと同じようにして知識と取り扱い方などを身につけてまいりました」
「それで健康を損ねたことはないのですか?」
「ほとんどございません」
「ほとんど?」
「はい、何度か大変な目に合ったことはございますが、その前に知識として知って、それからの実験ですから、命を落とすほどのことにはなっておりません」
「これはまた」
部屋の全員が驚いたことに、ルギが愉快そうに声を上げて笑った。
小さくではあるが、この警護隊隊長がそのように笑うなど、鋼鉄の侍女頭と同じぐらい想像のできないことであった。
「驚いた」
フウが目をパチクリして言う。
「あなたもそのように笑えるのですね」
「フウ殿、私を何だと思っていらっしゃるのか」
まだ少し笑いの余韻を残しながら、ルギが楽しそうに言う。
「では、このピンクの花は無実である、それでよろしいですか?」
「待ってください!」
セルマが慌てて一歩踏み出す。
「本当にそうですか? もっと専門家に調べてもらった方がいいのではないですか?」
「ですが侍医殿と、そこまで薬や植物に詳しいフウ殿の見解です、これ以上詳しい方がこの国におられるかどうか」
「それは……」
セルマは言葉に詰まる。
心の中は混乱している。
あの花は、神官長から預かって自分がこっそりとキリエの部屋に置いてきたものだ。間違いなく毒の花だ。それをフウは口に含んで無毒であると証明して見せた。
「では、口に入れても無害で、例えば部屋に置いてあったら毒を出す、そのようなことは?」
「侍医殿、いかがです?」
「ううむ……確かにそのような可能性もないとは、申せませんが」
「フウ殿は?」
「ええ、私もそう思います。空気全体に毒が広がる、薄く広がってやがて人に影響を及ぼす、その可能性もないことはありません。私が口にしたのは一つだけですしね。小さいといえ、これだけたくさん咲いてるなら、その可能性もないことはないです」
「なるほど」
ルギが二人の言葉に納得をする。
「ですが、それは街のどこにでも売っている花です。民の家のあちこちにも普通に飾られている、ごくごく一般的な花ですから、その可能性はほぼないのではないかと思いますよ」
フウは言葉を添える。
「そんなに一般的な花なのですか」
「ええ、かわいいし、すぐに増えるし、育て方も簡単です。庶民にとても愛されている花です。リュセルスに行くとあちこちで見られますよ」
フウがそう断言した。
フウは静かにセルマの言葉に対抗するように言う。
「ですが、この宮の中で、いえ、この宮の中の尊い方で、そのような命を下す方がいらっしゃるとは、私には到底思えません。そう思うこと自体が不敬です、そうでしょう?」
セルマがじっとフウを見る。
「わたくしも」
ゆっくりと、そう自分を称してから、
「おまえと同じように思います」
挑発するようにフウをそう呼ぶ。
フウは怒りを一瞬だけ顔に上らせたものの、ふうっと息を吐いて自分を落ち着かせた。
「ええ、ですからありえません。私がキリエ様によろしくないことをするなど」
セルマとフウはそうしてじっとお互いに視線を送りあっていた。
「持ってまいりました」
キリエの部屋へ行っていた若い衛士が、ピンクの花の植えられた鉢を持って戻った。
「ご苦労だった、これへ」
ルギが鉢を受け取ると、執務机の上に置いた。
ピンク色の小さくて可憐な花たちは、どう見てもそのような恐ろしい花には見えない。どこから見ても病人の心を和ませる、それ以外の目的を持つものには見えなかった。
「侍医殿」
「あ、はい」
「これを見ていただけますか?」
「はい」
侍医はピンク色の花に恐る恐る近づくと、じっくりと上から下から横から見て、香りも気をつけながら嗅いでみる。花や葉にも触れ、少しちぎってまたじっくりと見聞する。
「どこからどう見ても、そのような怪しげな花には見えません。これは無毒だと思います」
「そうですか」
その言葉を聞いてセルマが心の中で驚く。
そんなはずはない、あれは毒を含む花だ。
人の命を奪うほどではないが、それでも常にその香りにさらされると体調を崩す、そんな効果があるはずだ。
「フウ殿」
「はい」
「あなたも薬にお詳しい。念の為に見ていただけますか?」
「はい」
ルギに言われ、フウもピンクの花に近寄り、侍医と同じように見聞した後、ちぎった花を口に含んだ。
「あっ!」
他の侍女たちが驚いて声を上げる。
フウは口の中で花を噛み潰し、それを隠すようにしてハンカチに出した。
「おそらくですが、この後で私の体に何かおかしな様子が出ることはないと思います。葉も同じようにしてみても構いませんが、何しろまずいのでね」
「ほう、まるで味を知ってらっしゃるかのような」
「はい。色々な植物をこうして吟味していますから、この同じ花も葉も、そしてはいだ茎も食べてみたことがございます」
「それはなんとも研究熱心な」
ルギが愉快そうな表情になる。
「ええ、私は子供の頃からずっと薬に興味がございまして、元々は一生をその研究に捧げたいと思っておりましたが、この宮にだけある薬草園に興味を持ち、そこに入りたさに侍女になったのです。幼い頃から親に怒られようが、心配されようが、ずっと同じようにして知識と取り扱い方などを身につけてまいりました」
「それで健康を損ねたことはないのですか?」
「ほとんどございません」
「ほとんど?」
「はい、何度か大変な目に合ったことはございますが、その前に知識として知って、それからの実験ですから、命を落とすほどのことにはなっておりません」
「これはまた」
部屋の全員が驚いたことに、ルギが愉快そうに声を上げて笑った。
小さくではあるが、この警護隊隊長がそのように笑うなど、鋼鉄の侍女頭と同じぐらい想像のできないことであった。
「驚いた」
フウが目をパチクリして言う。
「あなたもそのように笑えるのですね」
「フウ殿、私を何だと思っていらっしゃるのか」
まだ少し笑いの余韻を残しながら、ルギが楽しそうに言う。
「では、このピンクの花は無実である、それでよろしいですか?」
「待ってください!」
セルマが慌てて一歩踏み出す。
「本当にそうですか? もっと専門家に調べてもらった方がいいのではないですか?」
「ですが侍医殿と、そこまで薬や植物に詳しいフウ殿の見解です、これ以上詳しい方がこの国におられるかどうか」
「それは……」
セルマは言葉に詰まる。
心の中は混乱している。
あの花は、神官長から預かって自分がこっそりとキリエの部屋に置いてきたものだ。間違いなく毒の花だ。それをフウは口に含んで無毒であると証明して見せた。
「では、口に入れても無害で、例えば部屋に置いてあったら毒を出す、そのようなことは?」
「侍医殿、いかがです?」
「ううむ……確かにそのような可能性もないとは、申せませんが」
「フウ殿は?」
「ええ、私もそう思います。空気全体に毒が広がる、薄く広がってやがて人に影響を及ぼす、その可能性もないことはありません。私が口にしたのは一つだけですしね。小さいといえ、これだけたくさん咲いてるなら、その可能性もないことはないです」
「なるほど」
ルギが二人の言葉に納得をする。
「ですが、それは街のどこにでも売っている花です。民の家のあちこちにも普通に飾られている、ごくごく一般的な花ですから、その可能性はほぼないのではないかと思いますよ」
フウは言葉を添える。
「そんなに一般的な花なのですか」
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フウがそう断言した。
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