287 / 354
第三章 第四部 逆風
21 隊長とベル
しおりを挟む
「知らなかった……」
ルギが呆然とそうつぶやく。
「あんただけじゃねえよ、誰だってそんなこと、思ってもみねえって」
「トーヤの言う通りです」
直接その言葉を聞いた二人がそう声をかけるが、ルギは凍りついたように動かない。
「な、おっさん」
ベルが濃茶の瞳でじっとルギの顔を見上げて見つめた。
「だから、一度聞いてやったらいいと思うぜ。きっとマユリア、喜ぶと思うんだ」
「マユリアが、お喜びに……」
「そうだよ、喜ぶよ。あんたが自分の気持ちを聞いてくれたってことにすげえ喜ぶって」
なんだろう、ルギは不思議な感覚が湧き上がるのを感じていた。
今まで、誰も自分にそんなことを言ってくれたことはない、自分自身ですらも。
心の奥底に封じ込めていた見たこともない自分の気持ちを、この濃茶の髪、濃茶の瞳の少女が引っ張り出してしまった。
それは嬉しいことのようでも、苦しいことのようでも、そして腹立たしいことのようにも思えた。
「俺は、そんなことを望んではいなかった……」
「いや、望んでたって!」
くるくると動く濃茶の瞳がルギの黒い瞳をじっと見抜くように見て言う。
「あんた、マユリアのこと好きだろ? おっと黙って、別に色恋でどうって言ってねえからな? ただ好きか嫌いで言ったら好きだろ? そんで、マユリアのためならなんでもする、死んでもいい、そんぐらい好きなんだよ」
ルギが、あのルギが困り果てたように一人の少女から目を離せず、ヘビに睨まれたカエルのように動けずにいる。
ある意味見物であるのだが、誰もそんな気持ちになれず、ただ純粋なルギの想いを感じるだけであった。
「な、だからな、素直にそう言ってやれよ。どうしてほしいのか、聞いてやってくれよ」
ベルが真っ直ぐにルギを見たまま続ける。
「そんで、マユリアがこの国から逃げたい、そう言うんならおれらが手伝うよ。そん時にさ、あんたにも一緒に来てほしい、そう言ったら一緒に行こうぜ。もしも、そんなこたあないと思うがな、マユリアがあのうぜえ親子のどっちかの側室になりたい、後宮でえらくなりたいってのならな、そんときゃあんたもどうするか考えりゃいいじゃん。つらいから、遠くに行きたいってのなら、おれらと来てもいい。あんたならいい傭兵になれそうだしな。そんで、それでもそばで守ってやりたいってのなら、ずっと守ってやりゃいいじゃん、な?」
ルギが迷子の子どものようにベルの目にすがるようにじっと見つめる。
「あのな、おれな、戦場でシャンタルとトーヤに拾われてさ、ずっと2人と一緒に行きたい、簡単にそう思ったんだよ。けどな、それって兄貴が傭兵続けることだろ、これからもいっぱい人を殺す道だってトーヤに言われてさ、そんで一度は2人とさよならしよう、そう決めた。けどな、それって俺の自分勝手だった。兄貴の気持ち聞かずに、勝手に兄貴に傭兵やらせねえことが兄貴のためだって、勝手に諦めようとしてたんだよ。分かるか?」
「分かる」
ルギが素直にベルの気持ちを受け止める。
「けどな、兄貴は違ったんだよ。兄貴は兄貴で、ずっとトーヤみたいなやつと会って、戦場で戦っても勝ち続ける死神になりたいって思ってたんだ。だから、たまたまだけど、おれと兄貴の行きたい道が一緒だった。だからこうして一緒にいる。そうなることもあるんだよ、分かったか?」
最後は小さな子どもに言って聞かせるようなその様子に、ルギが思わず笑ってしまった。
「分かった、感謝する」
「うん、そんでいい」
ベルも思いっきり破顔する。
誰もがあのルギにこんな笑顔を見せる人間がいるなど、今まで思ってもいなかったので、目を丸くするしかない。
「おい」
ルギがトーヤに声をかけた。
「なんだ」
「俺は、まだおまえらの味方になれるかどうか分からん」
もうすっかりいつものルギであった。
「マユリアのお気持ち次第だ。それを伺うまで、俺はおまえらのことは知らん、それでいいな」
「いいけどよ、マユリアに俺らのこと言うのはやめてくれよな」
「分かっている。俺は、ただこの先、マユリアがどうなさりたいのか、それを伺うだけだ」
「うん、そんでいいんじゃね?」
そう言ってトーヤがにっかりと笑うと、
「そんじゃ、がんばってキリエさんに悪さしたやつ見つけてくれよな、隊長。まあもうほとんど分かってんだろうけどな」
「ということは、やはりあの方たちか」
「多分、あんたと同じやつのこと俺らも目をつけてると思うぜ」
「それで、どうするつもりだ」
「まあ、やつらをお掃除するしかねえんだろうな。だがな、後ろにいるやつが誰か分からんので動けずにいる」
「後ろに?」
「隊長さあ、ほんっとマユリアしか見てねえのか? あの頭がっちがちの取次役と、ヤギみたいなしなしなの神官長がそんな大それた事、思いつくと思うか?」
「いや、思わんな」
トーヤの形容にも笑わず真面目に答えるルギに、ダルとリルが少し笑いを噛み殺しているのが分かった。
「そいつを見つけ出すまでは、マユリアとラーラ様には内緒だ。このこと知ったらあの方たちはどう動くか分かんねえからな」
「分かった」
そうしてルギとは、状況が動かぬうちは互いに触れぬことを約束することになった。
ルギが呆然とそうつぶやく。
「あんただけじゃねえよ、誰だってそんなこと、思ってもみねえって」
「トーヤの言う通りです」
直接その言葉を聞いた二人がそう声をかけるが、ルギは凍りついたように動かない。
「な、おっさん」
ベルが濃茶の瞳でじっとルギの顔を見上げて見つめた。
「だから、一度聞いてやったらいいと思うぜ。きっとマユリア、喜ぶと思うんだ」
「マユリアが、お喜びに……」
「そうだよ、喜ぶよ。あんたが自分の気持ちを聞いてくれたってことにすげえ喜ぶって」
なんだろう、ルギは不思議な感覚が湧き上がるのを感じていた。
今まで、誰も自分にそんなことを言ってくれたことはない、自分自身ですらも。
心の奥底に封じ込めていた見たこともない自分の気持ちを、この濃茶の髪、濃茶の瞳の少女が引っ張り出してしまった。
それは嬉しいことのようでも、苦しいことのようでも、そして腹立たしいことのようにも思えた。
「俺は、そんなことを望んではいなかった……」
「いや、望んでたって!」
くるくると動く濃茶の瞳がルギの黒い瞳をじっと見抜くように見て言う。
「あんた、マユリアのこと好きだろ? おっと黙って、別に色恋でどうって言ってねえからな? ただ好きか嫌いで言ったら好きだろ? そんで、マユリアのためならなんでもする、死んでもいい、そんぐらい好きなんだよ」
ルギが、あのルギが困り果てたように一人の少女から目を離せず、ヘビに睨まれたカエルのように動けずにいる。
ある意味見物であるのだが、誰もそんな気持ちになれず、ただ純粋なルギの想いを感じるだけであった。
「な、だからな、素直にそう言ってやれよ。どうしてほしいのか、聞いてやってくれよ」
ベルが真っ直ぐにルギを見たまま続ける。
「そんで、マユリアがこの国から逃げたい、そう言うんならおれらが手伝うよ。そん時にさ、あんたにも一緒に来てほしい、そう言ったら一緒に行こうぜ。もしも、そんなこたあないと思うがな、マユリアがあのうぜえ親子のどっちかの側室になりたい、後宮でえらくなりたいってのならな、そんときゃあんたもどうするか考えりゃいいじゃん。つらいから、遠くに行きたいってのなら、おれらと来てもいい。あんたならいい傭兵になれそうだしな。そんで、それでもそばで守ってやりたいってのなら、ずっと守ってやりゃいいじゃん、な?」
ルギが迷子の子どものようにベルの目にすがるようにじっと見つめる。
「あのな、おれな、戦場でシャンタルとトーヤに拾われてさ、ずっと2人と一緒に行きたい、簡単にそう思ったんだよ。けどな、それって兄貴が傭兵続けることだろ、これからもいっぱい人を殺す道だってトーヤに言われてさ、そんで一度は2人とさよならしよう、そう決めた。けどな、それって俺の自分勝手だった。兄貴の気持ち聞かずに、勝手に兄貴に傭兵やらせねえことが兄貴のためだって、勝手に諦めようとしてたんだよ。分かるか?」
「分かる」
ルギが素直にベルの気持ちを受け止める。
「けどな、兄貴は違ったんだよ。兄貴は兄貴で、ずっとトーヤみたいなやつと会って、戦場で戦っても勝ち続ける死神になりたいって思ってたんだ。だから、たまたまだけど、おれと兄貴の行きたい道が一緒だった。だからこうして一緒にいる。そうなることもあるんだよ、分かったか?」
最後は小さな子どもに言って聞かせるようなその様子に、ルギが思わず笑ってしまった。
「分かった、感謝する」
「うん、そんでいい」
ベルも思いっきり破顔する。
誰もがあのルギにこんな笑顔を見せる人間がいるなど、今まで思ってもいなかったので、目を丸くするしかない。
「おい」
ルギがトーヤに声をかけた。
「なんだ」
「俺は、まだおまえらの味方になれるかどうか分からん」
もうすっかりいつものルギであった。
「マユリアのお気持ち次第だ。それを伺うまで、俺はおまえらのことは知らん、それでいいな」
「いいけどよ、マユリアに俺らのこと言うのはやめてくれよな」
「分かっている。俺は、ただこの先、マユリアがどうなさりたいのか、それを伺うだけだ」
「うん、そんでいいんじゃね?」
そう言ってトーヤがにっかりと笑うと、
「そんじゃ、がんばってキリエさんに悪さしたやつ見つけてくれよな、隊長。まあもうほとんど分かってんだろうけどな」
「ということは、やはりあの方たちか」
「多分、あんたと同じやつのこと俺らも目をつけてると思うぜ」
「それで、どうするつもりだ」
「まあ、やつらをお掃除するしかねえんだろうな。だがな、後ろにいるやつが誰か分からんので動けずにいる」
「後ろに?」
「隊長さあ、ほんっとマユリアしか見てねえのか? あの頭がっちがちの取次役と、ヤギみたいなしなしなの神官長がそんな大それた事、思いつくと思うか?」
「いや、思わんな」
トーヤの形容にも笑わず真面目に答えるルギに、ダルとリルが少し笑いを噛み殺しているのが分かった。
「そいつを見つけ出すまでは、マユリアとラーラ様には内緒だ。このこと知ったらあの方たちはどう動くか分かんねえからな」
「分かった」
そうしてルギとは、状況が動かぬうちは互いに触れぬことを約束することになった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる