黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
288 / 354
第三章 第四部 逆風

22 動き出す影

しおりを挟む
 ルギが取り調べのためと集めた面子だが、思わぬ形で全員集合することとなった。

 全員が先代が男性であること、エリス様がその先代であること、そしてある目的のために動いていることを知ってる者ばかりだ。

「なんか、思わん形でこんな風に集まることになっちまったな」
「そうだな、俺も呼び出されてどうなるかと思ったけど、こんな結末になるなんてな」
「私もびっくりして産気づくところだったわ」
「おい!」

 トーヤの言葉にダルが答え、そこにリルが妙な言葉を添えたもので、一気に緊張の糸がほどけてしまった。

 場の雰囲気が和み、全員が明るい未来を感じる、そんな雰囲気になった。 
 


 そんな明るい光の裏、光が強ければ強いほど影は濃くなるものだ。



 誰もが知らぬわけではない、だが、明るい場所にいるとついつい忘れがちになるものでもある。



「では、いよいよ」
「準備が整ったようです」
「交代までにということですか」
「そうでなくては意味がないでしょう」
「さようですね」
「奥の方については、もうこれ以上のことはよろしいでしょう」
「大丈夫でしょうか」
「まあ、お気持ちを平らかにするためと思いましたが、間に合わないことはどうしようもありません」
「申し訳ありませんでした」
「あと数日です、もうあの方にもお元気になっていただいても構いません」
「はい」
「うまく時間を稼げました、あなたはよくやってくれましたよ」
「ありがとうございます」



 そんな会話がある場所で交わされていた。
 トーヤたちはまだ何も知らず、これから先のことを考えていた。



 翌朝、キリエが床上げしたとアーダがエリス様たちに伝えてくれた。

「ようやくお加減がよくなられたんだそうです。今日はまず奥宮のシャンタルとマユリアにご挨拶に行かれて、その後でこちらにも来られるそうですよ」
「まあ、それはよかったです」

 ベルがうれしそうにそう言って奥様にも通訳する。
 奥様もゆっくりと何度か首を上下なさり、それを見てアーダもうれしそうであった。

 
 その日の午後、ちょうどお茶の時間にキリエが訪問するということで、アーダがいそいそと一同にとっておきのお茶とお菓子を用意する。

「以前、エリス様にいただいたあの島のお茶です。それからお菓子はいつものと、特別なお客様にお出しするお菓子をいただいてまいりました」
「まあ」

 ウキウキと楽しそうなアーダを見て、ベルが思わずクスクスと笑う。

「キリエ様をお好きなのですね」
「はい」

 アーダが少し頬を赤らめる。

「実は、以前は怖い方だとばかり思っていたのです。ですが、今回こうして色々とお役をいただき、お話させていただいているうちに、なんと言うのでしょうね、あの」

 こっそりと声をひそめ、

「ちょっと厳しいけど本当は優しいおばあさま、みたいに思えてしまって。あ、内緒ですよ?」

 そう言って舌を出す。

 その様子を見てますますベルが楽しそうに笑った。

「キリエ様もお幸せですね」
「お元気になってくださってうれしいです」

 本心からキリエを慕っているのだなあと、ベルは本当にうれしくなった。

 ベルはトーヤとシャンタル、それにミーヤやダル、リルからキリエのことを色々と聞いているから、だから厳しい顔をしていてもいかに優しい人かを知っている。
 だがアーダは、自分の感覚でキリエの本当の顔を知った。そういう素直なかわいい女の子として、アーダを本当にいい子だなと思った。自分の方が実は年下なのだが、まるで姉のような気分になれたこともうれしかった。



 キリエがエリス様の部屋を訪れ、アーダがお茶の用意だけして退室しようとすると、

「おまえも一緒にお茶をいただきなさい。それからミーヤもここに呼ぶように」

 キリエがそう声をかけ、急いでアーダがミーヤを呼びに行った。

 部屋の中にはエリス様ご一行4人、それから部屋付きのアーダとミーヤ、前日ルギに宮へ呼ばれ、そのまま残っていたダルとリル、それからこの部屋の客人となっていたディレンも共にお茶をすることとなった。

「この度は、皆様に色々とお心遣いをいただき、ありがとうございました。おかげでこうして顔を見せられるほどに回復いたしました。心よりお礼を申します」

 そう言ってキリエが立ち上がったまま深く礼をした。

「あの、頭をお上げください」

 ベルが奥様の代わりに急いでそう言う。

「まだ病み上がりでいらっしゃいます、どうぞ早くお席に。アーダ様」
「はい。キリエ様、どうぞ」

 アーダにそう言って手を取られ、キリエがもう一度軽く全員に頭を下げてから椅子に座った。

「エリス様とベル殿には足を運んでいただき、結構な見舞いの品までいただきました。アラン殿はきっと王都まで色々とその品を求めに行ってくださったのでしょう。そしてディレン様はきっとそのお手伝いをなさってくださったはず。ルーク殿はご自分の身のことで精一杯でいらっしゃったでしょうに、何かと気遣いをし、お知恵を貸してくださったとか。ご不自由なお体でありながら大変ありがたく思っています」

 そこまで言って、座ったままではあるが主従4人と船長に向かってまた頭を下げてから上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...