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第三章 第七部 逃走
5 花の行方
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ルギが次に考えたのは、セルマと神官長が知り合ったきっかけがその黒い香炉ではないかということだ。
おそらく、セルマにはそれがどういうものかを知る機会はなかっただろう。だが博学で、海を渡った別の神域の出来事もよく学んでいたと聞く神官長ならば、もしかすると何かに気づいていたかも知れない。
黒い香炉が宝物庫から神具係に移動されたのがシャンタルの交代があって半年ほど後、それからさらに年月を経て、セルマが誓いを立てる数ヶ月前に神殿へと移動されている。
時期的には合っている。
もしかしたらたまたま神具室であの香炉を持っていたセルマに神官長が目を留め、それをきっかけに近づき、セルマの人となりを知って使えると思ったのではないか。
「だとしたら」
ルギが一人で声に出す。
「その頃から既にそのようなことを考えていた、ということか」
神官長が一人で考えてセルマを取り込んだのか、二人で計画したのか、どちらかは分からないが、話ができたのはその頃なのかも知れない。
「次の交代に向けて、どのぐらいの準備をしたのだろうな」
皮肉っぽくそう言う。
「黒い香炉」のことから二人を追求しても、知らぬ存ぜぬで通されるだろう。
「だとすると、だ」
やはり食事に何かを入れたのがセルマであると、侍女たちの証言から追及してもいいのだが、そうするとおそらく、その後でキリエを訪ねたエリス様が何かしたのだろうと言い出すかも知れない。
エリス様が持ち込んだ花や茶、食べ物などは体に良いものばかりと証明できるものだが、一つだけその時に彼らが持ち込まなかった物があるのが分かっている。
「ピンクの花」
ごくありふれた花で、体に悪い成分など全くないと分かっている。
だが、もしかすると、それに似た「何か」を含む花を「誰か」が普通の花と交換したのではないか。
ルギはあの時のセルマの様子からそう思った。
「いつの間にか部屋の中にあった」
聞けば気づけば部屋にあったという。キリエは誰かが慰めのために置いてくれたものだろうと思っていたらしい。
それもセルマが持ち込んだところを誰かが見ていればいいのだが、当時意識が朦朧としていたキリエの記憶にはないようだ。
「その元の花はどうした?」
ルギはそう言うと立ち上がり、部屋を出てどこかへと向かった。
「へ、毒のあるピンクの花?」
「そうだ」
ルギはトーヤたちがいるダルの部屋を訪ね、ピンクの花を交換しただろうと聞いた。
「えっとな」
トーヤが半笑いでどう返事をしようと考える。
「取り調べの時、セルマはフウ殿にピンクの花が体に悪いものと知りながら持ち込んだ、と持っていきたかったようだ。だが侍医が調べたところ、ありふれたそこらにある花だと証明されてそうはならなかった」
「そうか、そりゃよかった」
トーヤはホッとした。
「その花はどうした」
「あ~」
まだ白を切るトーヤに、
「おまえたちが毒の花があるのに気づき、その上でキリエ様のご不調をとりのぞくために無毒の花と交換したのだろう。侍医によると、青い香炉にくべられていた物は命を奪うほどのものではないが、吸っている間はずっと体調不良が続く、そのようなものらしい。その花も同じような効き目をもつものだろう、違うか?」
「さすが隊長だよな」
トーヤが苦笑しながら認める。
「その花はどうした」
「あ~、かわいそうだが処分した」
「処分?」
「そうだ。体に悪いもんを出す花の部分をむしって、他のところはほっぽって枯らしてから燃やした」
「燃やして大丈夫なのか?」
「ああ、茎や葉には毒がないからな。花の部分を燃やすと多分よくねえだろうから、そこはむしって土に埋めた。土もそのへんにまいといた」
「そうか」
「花から芽が出ることはねえから、自然に土に戻るだけだ」
「そうか」
ルギもホッとした顔になる。
「そんで、そんなこと聞きに来て、なんだ?」
「青い香炉だ」
ばさりと言い捨てる。
「キリエ様にそれを教えたのはおまえだろう」
「あ~」
またトーヤが半笑いになる。
「んで?」
そうとも違うとも答えずそう返す。
「元の黒い香炉の記録が見つかった」
「そか」
「最初は先代への献上品であったことが分かった」
「へえ」
トーヤが面白そうな声を上げた。
「その後、宝物庫の整理の時に神具係へと下げ渡され、当時の神具係、セルマが受け取っている」
「そか」
「最後は神殿に移されたところまでは分かっているが、その本体が見つからない」
「そか」
「神殿で黒から青に色を変え、それを利用したのだろうと推測される」
「そか、んで?」
「おい!」
いい加減ルギがイラッとした顔になり、声を荒げた。
「俺にここまでさせておいて、おまえはどうするつもりだ」
鋭い視線でトーヤを見下ろす。
「おっかねえなあ」
トーヤが肩をすくめながら両手でルギを押し留める形になり、
「まあ、あんたがセルマをなんとかしてくれるのを待ってんだよ」
ニヤリと笑ってそう言う。
「のんきなことを言っている」
「果報は寝て待てだよ」
トーヤがもう一度ニヤリと笑う。
「のんきなものだな」
ルギが感情を押さえるようにもう一度そう言い、ふっとトーヤから目をそらせると、
「おまえらのせいで話を進められずにいるというのにな」
言い捨てるようにそう言った。
おそらく、セルマにはそれがどういうものかを知る機会はなかっただろう。だが博学で、海を渡った別の神域の出来事もよく学んでいたと聞く神官長ならば、もしかすると何かに気づいていたかも知れない。
黒い香炉が宝物庫から神具係に移動されたのがシャンタルの交代があって半年ほど後、それからさらに年月を経て、セルマが誓いを立てる数ヶ月前に神殿へと移動されている。
時期的には合っている。
もしかしたらたまたま神具室であの香炉を持っていたセルマに神官長が目を留め、それをきっかけに近づき、セルマの人となりを知って使えると思ったのではないか。
「だとしたら」
ルギが一人で声に出す。
「その頃から既にそのようなことを考えていた、ということか」
神官長が一人で考えてセルマを取り込んだのか、二人で計画したのか、どちらかは分からないが、話ができたのはその頃なのかも知れない。
「次の交代に向けて、どのぐらいの準備をしたのだろうな」
皮肉っぽくそう言う。
「黒い香炉」のことから二人を追求しても、知らぬ存ぜぬで通されるだろう。
「だとすると、だ」
やはり食事に何かを入れたのがセルマであると、侍女たちの証言から追及してもいいのだが、そうするとおそらく、その後でキリエを訪ねたエリス様が何かしたのだろうと言い出すかも知れない。
エリス様が持ち込んだ花や茶、食べ物などは体に良いものばかりと証明できるものだが、一つだけその時に彼らが持ち込まなかった物があるのが分かっている。
「ピンクの花」
ごくありふれた花で、体に悪い成分など全くないと分かっている。
だが、もしかすると、それに似た「何か」を含む花を「誰か」が普通の花と交換したのではないか。
ルギはあの時のセルマの様子からそう思った。
「いつの間にか部屋の中にあった」
聞けば気づけば部屋にあったという。キリエは誰かが慰めのために置いてくれたものだろうと思っていたらしい。
それもセルマが持ち込んだところを誰かが見ていればいいのだが、当時意識が朦朧としていたキリエの記憶にはないようだ。
「その元の花はどうした?」
ルギはそう言うと立ち上がり、部屋を出てどこかへと向かった。
「へ、毒のあるピンクの花?」
「そうだ」
ルギはトーヤたちがいるダルの部屋を訪ね、ピンクの花を交換しただろうと聞いた。
「えっとな」
トーヤが半笑いでどう返事をしようと考える。
「取り調べの時、セルマはフウ殿にピンクの花が体に悪いものと知りながら持ち込んだ、と持っていきたかったようだ。だが侍医が調べたところ、ありふれたそこらにある花だと証明されてそうはならなかった」
「そうか、そりゃよかった」
トーヤはホッとした。
「その花はどうした」
「あ~」
まだ白を切るトーヤに、
「おまえたちが毒の花があるのに気づき、その上でキリエ様のご不調をとりのぞくために無毒の花と交換したのだろう。侍医によると、青い香炉にくべられていた物は命を奪うほどのものではないが、吸っている間はずっと体調不良が続く、そのようなものらしい。その花も同じような効き目をもつものだろう、違うか?」
「さすが隊長だよな」
トーヤが苦笑しながら認める。
「その花はどうした」
「あ~、かわいそうだが処分した」
「処分?」
「そうだ。体に悪いもんを出す花の部分をむしって、他のところはほっぽって枯らしてから燃やした」
「燃やして大丈夫なのか?」
「ああ、茎や葉には毒がないからな。花の部分を燃やすと多分よくねえだろうから、そこはむしって土に埋めた。土もそのへんにまいといた」
「そうか」
「花から芽が出ることはねえから、自然に土に戻るだけだ」
「そうか」
ルギもホッとした顔になる。
「そんで、そんなこと聞きに来て、なんだ?」
「青い香炉だ」
ばさりと言い捨てる。
「キリエ様にそれを教えたのはおまえだろう」
「あ~」
またトーヤが半笑いになる。
「んで?」
そうとも違うとも答えずそう返す。
「元の黒い香炉の記録が見つかった」
「そか」
「最初は先代への献上品であったことが分かった」
「へえ」
トーヤが面白そうな声を上げた。
「その後、宝物庫の整理の時に神具係へと下げ渡され、当時の神具係、セルマが受け取っている」
「そか」
「最後は神殿に移されたところまでは分かっているが、その本体が見つからない」
「そか」
「神殿で黒から青に色を変え、それを利用したのだろうと推測される」
「そか、んで?」
「おい!」
いい加減ルギがイラッとした顔になり、声を荒げた。
「俺にここまでさせておいて、おまえはどうするつもりだ」
鋭い視線でトーヤを見下ろす。
「おっかねえなあ」
トーヤが肩をすくめながら両手でルギを押し留める形になり、
「まあ、あんたがセルマをなんとかしてくれるのを待ってんだよ」
ニヤリと笑ってそう言う。
「のんきなことを言っている」
「果報は寝て待てだよ」
トーヤがもう一度ニヤリと笑う。
「のんきなものだな」
ルギが感情を押さえるようにもう一度そう言い、ふっとトーヤから目をそらせると、
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言い捨てるようにそう言った。
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