358 / 488
第五章 第二部
18 危険な思い込み
しおりを挟む
「もしかしたら使えるかも知れんな」
ヌオリがふと、思いついたように言う。
「何がでしょうか」
「そうまでして隠したいことがあるわけだ。うまく話を持っていけば、宮の協力を得られるかも知れないぞ」
つまり、宮の弱みを握れるかも知れない、そういうことだ。
ヌオリの言葉に仲間たちは顔を見合わせた。そんな宮を脅すようなことをして大丈夫なのか、皆、心の中に思っているが口には出せない、そんな顔をしている。
「なに、恐れることはない」
ヌオリが自信たっぷりに仲間たちに言う。
「我々はこの国にとって正しいことをしようとしているのだ。それに、そのような機会をくれたということは、これも天が我々に道をお示しになったことだ、そうとも思えないか?」
あくまで強気のヌオリにそう押されて、あの部屋とそこに出入りする侍女のことを調べることになった。
一人がセルマのいる部屋の前の衛士に話を聞きに行ったが、
「任務に関することはお話できません」
と、何も話してくれそうにはない。
「色々となだめすかしたりもしたのですが、衛士というのはなんというか、融通の利かないものですなあ」
「まあ、そのぐらいでいてくれないと困るだろう。王宮衛士を見てみろ、おかげで今の有様だ」
ヌオリが憎々しげにそう言う。王宮衛士の大部分がこの数年の間に皇太子派ばかりにされていたことは、すでにヌオリたちの耳にも入っている。そのためにどれほど非道なことをしたかも、そのためにあのような悲劇が起きたということも、ヌオリたちはすでに知っている。
「ただ、見ていましたところ、あのオレンジの侍女がいつ出入りするかは分かりました」
「ほう」
「あの侍女は、朝になるとあの部屋から出て、夕方にはまたあそこに戻るようです」
「なんだと?」
ヌオリが驚きで目を丸くした。
「つまり、あの侍女はあの部屋で寝泊まりしている、そういうことか」
「そうなるかと」
「ふうむ」
ヌオリが少し考えて、ニヤリと笑いを浮かべた。
「なるほど、そういうことか。カベリ」
「なんでしょう」
「おまえの妹が侍女をやっていた時、その侍女が託宣の客人の世話役だったと言っていたな」
「ええ」
「つまり、そういうことだよ」
ヌオリがニヤニヤとうれしそうに続ける。
「その侍女は、今も変わらず、その客人の世話役、ということだ」
「あ、ああ」
そこまで言われて仲間たちも意味が分かったようだ。
「夜になると部屋に戻り、朝になると出てきて侍女の普通の務めを続ける。いやいや、朝も夜も、働き者の侍女だな」
若い貴族の子息たちが、意味ありげに笑い合う。
「なるほど、それを隠したいがためにあのように衛士を立て、その男が宮の内をうろうろしないように見張っているというわけか、いやはや」
「まさか、このシャンタル宮でそのようなことがあろうとは」
「いやあ、あるのではないか? ただ、公にはできぬだけで」
「そういえば、妹からそのような話も聞いたな」
と、カベリが元侍女であった妹が色々と話してくれたことを思い出した。
「あくまで噂、まさかそんなことはあるまいと妹は言っておったのですが」
侍女は宮へ入る時に宮で見聞きした事は一切口にしない、と誓うのだが、やはり中には必ずしもそれを守り切ることのできない者がいるのも事実だ。カベリの妹も、大部分のことについては言わずにいたようだが、さすがに「託宣の客人」とその世話役となった「侍女ミーヤ」のことについては、思わず話をしてしまったようだ。
「その、言いにくいことなのですが、その託宣の客人が宮で良からぬ行いをせぬように、その侍女を慰めとして与えているのだ、との噂があったとのことでした」
その言葉を聞き、ヌオリも他の者もやはりか、という顔になる。
「これでも決まりだな。あの部屋にはその託宣の客人という傭兵の男がいる。そしてなぜだか宮はそのことを隠すために、あのように衛士を置いて見張っている」
前国王派の若い貴族たちの間で、それはすでに事実となっていた。
「宮から前国王に王座を返すようにと命じてもらえれば、皇太子だとて従わぬわけにはいかないだろう」
「そうですよね」
「今の侍女頭キリエは交代の後には隠居するだろうとの話だ。長年に渡ってこの宮に君臨していた鋼鉄の侍女頭も寄る年波には勝てぬということだな」
「では、その前に自分の栄光に傷をつけぬようにと話を持っていけば」
「ああ、そういうことだな」
どんどんと自分たちの推測が事実であると確信していく。中心で話をまとめるヌオリの意見が正しいと全員で思い込んでいく。誰も冷静に状況を分析し、勝手な思い込みで話を進めぬようにと言う者がいない。
「まずはその侍女からだが、そんな役割を背負っている女だ、かなりの美人なんだろうな」
「いえ、それほどの美女とも見えませんでした」
「ほう。ではあれか、よほど具合がいいのかな」
ヌオリが下卑た冗談を口にすると、
「そうかも知れませんな」
と、他の者たちも笑いながら同意する。
「何にしろ、託宣の客人という男がそこまで気に入って専任としている女だ、どんな女か興味はある。早速明日にでも話を聞いてみよう」
「今日はもうあの部屋に戻ったようです」
また若い貴族たちが意味ありげに笑い合った。
ヌオリがふと、思いついたように言う。
「何がでしょうか」
「そうまでして隠したいことがあるわけだ。うまく話を持っていけば、宮の協力を得られるかも知れないぞ」
つまり、宮の弱みを握れるかも知れない、そういうことだ。
ヌオリの言葉に仲間たちは顔を見合わせた。そんな宮を脅すようなことをして大丈夫なのか、皆、心の中に思っているが口には出せない、そんな顔をしている。
「なに、恐れることはない」
ヌオリが自信たっぷりに仲間たちに言う。
「我々はこの国にとって正しいことをしようとしているのだ。それに、そのような機会をくれたということは、これも天が我々に道をお示しになったことだ、そうとも思えないか?」
あくまで強気のヌオリにそう押されて、あの部屋とそこに出入りする侍女のことを調べることになった。
一人がセルマのいる部屋の前の衛士に話を聞きに行ったが、
「任務に関することはお話できません」
と、何も話してくれそうにはない。
「色々となだめすかしたりもしたのですが、衛士というのはなんというか、融通の利かないものですなあ」
「まあ、そのぐらいでいてくれないと困るだろう。王宮衛士を見てみろ、おかげで今の有様だ」
ヌオリが憎々しげにそう言う。王宮衛士の大部分がこの数年の間に皇太子派ばかりにされていたことは、すでにヌオリたちの耳にも入っている。そのためにどれほど非道なことをしたかも、そのためにあのような悲劇が起きたということも、ヌオリたちはすでに知っている。
「ただ、見ていましたところ、あのオレンジの侍女がいつ出入りするかは分かりました」
「ほう」
「あの侍女は、朝になるとあの部屋から出て、夕方にはまたあそこに戻るようです」
「なんだと?」
ヌオリが驚きで目を丸くした。
「つまり、あの侍女はあの部屋で寝泊まりしている、そういうことか」
「そうなるかと」
「ふうむ」
ヌオリが少し考えて、ニヤリと笑いを浮かべた。
「なるほど、そういうことか。カベリ」
「なんでしょう」
「おまえの妹が侍女をやっていた時、その侍女が託宣の客人の世話役だったと言っていたな」
「ええ」
「つまり、そういうことだよ」
ヌオリがニヤニヤとうれしそうに続ける。
「その侍女は、今も変わらず、その客人の世話役、ということだ」
「あ、ああ」
そこまで言われて仲間たちも意味が分かったようだ。
「夜になると部屋に戻り、朝になると出てきて侍女の普通の務めを続ける。いやいや、朝も夜も、働き者の侍女だな」
若い貴族の子息たちが、意味ありげに笑い合う。
「なるほど、それを隠したいがためにあのように衛士を立て、その男が宮の内をうろうろしないように見張っているというわけか、いやはや」
「まさか、このシャンタル宮でそのようなことがあろうとは」
「いやあ、あるのではないか? ただ、公にはできぬだけで」
「そういえば、妹からそのような話も聞いたな」
と、カベリが元侍女であった妹が色々と話してくれたことを思い出した。
「あくまで噂、まさかそんなことはあるまいと妹は言っておったのですが」
侍女は宮へ入る時に宮で見聞きした事は一切口にしない、と誓うのだが、やはり中には必ずしもそれを守り切ることのできない者がいるのも事実だ。カベリの妹も、大部分のことについては言わずにいたようだが、さすがに「託宣の客人」とその世話役となった「侍女ミーヤ」のことについては、思わず話をしてしまったようだ。
「その、言いにくいことなのですが、その託宣の客人が宮で良からぬ行いをせぬように、その侍女を慰めとして与えているのだ、との噂があったとのことでした」
その言葉を聞き、ヌオリも他の者もやはりか、という顔になる。
「これでも決まりだな。あの部屋にはその託宣の客人という傭兵の男がいる。そしてなぜだか宮はそのことを隠すために、あのように衛士を置いて見張っている」
前国王派の若い貴族たちの間で、それはすでに事実となっていた。
「宮から前国王に王座を返すようにと命じてもらえれば、皇太子だとて従わぬわけにはいかないだろう」
「そうですよね」
「今の侍女頭キリエは交代の後には隠居するだろうとの話だ。長年に渡ってこの宮に君臨していた鋼鉄の侍女頭も寄る年波には勝てぬということだな」
「では、その前に自分の栄光に傷をつけぬようにと話を持っていけば」
「ああ、そういうことだな」
どんどんと自分たちの推測が事実であると確信していく。中心で話をまとめるヌオリの意見が正しいと全員で思い込んでいく。誰も冷静に状況を分析し、勝手な思い込みで話を進めぬようにと言う者がいない。
「まずはその侍女からだが、そんな役割を背負っている女だ、かなりの美人なんだろうな」
「いえ、それほどの美女とも見えませんでした」
「ほう。ではあれか、よほど具合がいいのかな」
ヌオリが下卑た冗談を口にすると、
「そうかも知れませんな」
と、他の者たちも笑いながら同意する。
「何にしろ、託宣の客人という男がそこまで気に入って専任としている女だ、どんな女か興味はある。早速明日にでも話を聞いてみよう」
「今日はもうあの部屋に戻ったようです」
また若い貴族たちが意味ありげに笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる