黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

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第一章 第二節 カースへ

 8 アランの推理

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「助けるって、どうするつもりだ? シャンタルみたいに国から連れ出すのか?」
「場合によっちゃあな」
「そうか……」

 アランはう~むと唸りながら、腕を組んで頭をかしげた。

「俺はさ、自分で自分なりに色々と考えてたわけだよ。なんでシャンタルがここにいるのか、とかな。それが、そういうことならちょっと話が変わってくるんだよなあ……なあ、一つだけ確かめときたいことがあるんだが、代々のシャンタルってのは誰が探すんだ?」
「それもシャンタルの託宣たくせんだ」
「またか、というかやっぱりか……ってことは、うちらのシャンタルを見つけたのはそのマユリアだよな?」
「そうだな、先代だからな」
「だよなあ」
 
 アランが一拍いっぱく置いて、思い切ったように言った。

「俺はな、マユリアってのが自分の失態をなかったことにしようとしてトーヤにシャンタルを始末させる腹だったんじゃないかと思ったんだよ」
「ちょ、兄貴、何言い出すんだよ!」

 ベルがびっくりして声を上げる。
 目はちらっとシャンタルの方を見て慌てて兄に向けた。

「ベルは本当にやさしいね。でも大丈夫だよ、そういう話はもう全部承知してるから。だから何を聞いてもベルが心配するような気持ちにはならないからね」

 シャンタルの言葉にベルの顔がまたくしゃっと歪む。

「さっきからね、私の名前が出たり厳しい話になると、ずっとこっちを気にしてくれてるのに気がついてたよ」
「そうだな」

 トーヤも重ねて言う。

「だがな、こいつの言うように、もうどれも終わったこと、納得もしてることだからな? いちいちお前が動揺してどうすんだ、え?」

 そう言いながらベルの頭を顔以上にくしゃくしゃにする。

「いってえな、トーヤ、離せって、痛くて涙出るだろうが」
「そんじゃ泣け、勝手に泣いとけ」
「るせえよ、泣いてねえよ、とっとと続けろよ」

 トーヤがさらに頭をくしゃくしゃにかき混ぜながら言った。

「そんでなんだ、続けろアラン」
「了解」

 アランもベルの頭を一つ小突いてから話を続けた。

「代々のシャンタルは女だ、女神様の入れ物だからそれが当然だ。だがこいつは、うちのシャンタルは男だ。それってマユリアが選び損ねた、失敗したってことじゃないのかって思った」

 アランがシャンタルを指差してそう言った。

「もしもそうだとしたら十年後、また次のシャンタルを選んでマユリア交代となったらどうだ? チビの頃は女だとごまかすこともできるかも知れねえが、シャンタルが大人になったらそりゃ無理ってもんだろ? なんぼなんでもいつかは男だってことがバレる。だからそれがバレる前に、うまいこと自分の手に入った、どこの馬の骨とも知れねえ流れ者に始末させるつもりだとしたら話の辻褄つじつまは合うだろうが」
「話としては合うな」
「だろ? てっきりそういう話で、もう少しで消されるシャンタルをかわいそうに思ったトーヤが連れて逃げた、そういう感じで思ってた、それがなあ……」

 またアランはう~んと頭をひねる。

「マユリアを助けに行く、トーヤはそう言うんだよな。トーヤが言うってことは、もちろんシャンタルもそう思ってるってことなんだよな?」
「そうだね」

 シャンタルも素直に認めた。

「自分を邪魔にして殺そうってやつをわざわざはるばる海を超えて助けに行く、危ない橋を渡りに行く。そんなことは俺には考えられないんだよ。ってことは、話はそんな簡単なことじゃないってことだよな?」
「まあそうだな」
「としたら、マユリアがシャンタルを助けてくれって言ったって可能性もあるんだが、だったらトーヤが目を覚ました段階でとっとと頼めば簡単だ。わざわざルギなんてやつに見張らせる必要なんかないだろう。ってことはなんかそこにも理由があるんだよな……」

 ギシッと音を立て、アランが椅子の背にもたれた。

「単に逃したいだけならいい逃げ道を教えてとっとと逃がすに限る。それをしないのはもしかしたら時期じゃねえのか? その時までトーヤが逃げ出さないように見張らせるとしたら分からんでもない。だがなんでその時まで待つんだ? 今逃がすのとなんか違うのか?」

 右手親指を右のこめかみに当て、目をつぶって考える。

「特別な時期を狙うとすると、やっぱりシャンタル交代の時だよな? なんでか交代させたくなかったか、それともできなかった理由があるんだろうきっと。それはなんだ? 交代させて自分が普通の人間に戻ったらもっと逃がすのは難しくなるぞ。マユリアのままなら命令一つでなんとでもなる」

 右手を戻して両腕を胸の前で組み直す。

「それをその時期を待ってまでシャンタルのまま逃がす。そうなると、自分がマユリアから人間に戻るってのは可能なのか? どうやって交代するか分からんのでなんとも言えんが、マユリアのままだと自分の体にガタがきて死ぬかも知れないのに、それを承知でシャンタルを逃がす。これもまた俺には理解できん、人間、誰だって自分が一番かわいいもんだからな」

 言ってから気付いたようにアランがハッとする。

「あ、人間じゃなく神様だったな、まだ」
「だな」

 トーヤがアランの冗談に少しだけ笑う。
 ベルにはそこまでの余裕がないのか固まったままひたすら兄の言葉を聞いている。
 シャンタルも真顔のままアランの推測を聞いている。

「おまえら、ここ、笑うとこだろ?……」

 アランがそう言うが、2人が反応しないので、

「ま、いいか」

 と、話を続けた。

「だからまあ、人間でも神様でもいいけどよ、自分の命をかけてまで逃してやるのも分からん。俺だったらとっととシャンタル始末して自分が助かりたいしな。もしも自分の命と引き換えにしてでも逃したいとしても、それでもやっぱりすぐ逃してやる方が楽だろう。なら、交代の時になんかあるんだろうがそれがさっぱり分からねえ。そこまで待って逃したい、そういう何かがあるんだろうきっと。じゃあそれはなんだ?」
「おまえ、結構すごいな」

 トーヤが感心する。

「だろ?」

 アランが得意そうに言ってにんまりと笑う。

「だがここまでだ、いくら考えてもこの先は分からん。ってことでな、同じところから動けなくなって全く何がなんだか分からなくなってるところだ」

 アランはお手上げという風に両手を上げて肩をすくめた。
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