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第二章 第五節 もう一人のマユリア
22 蝶の羽ばたき
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「ちょ、ま!ちょっと、ちょっとまた話が大きくなってません?世界って、世界ってね、あんた!」
手を握られたままトーヤがほぼ叫ぶように言う。
今度はラーラ様も笑わなかった。
「そう、世界です」
「いや、だからね……」
トーヤがちょっと考えてからやっと言葉を絞り出す。
「あの、俺のことマユリアやキリエさんから聞いてます?元々は傭兵で、海賊とかもやってて、というか、そもそもその前は……」
「ええ、聞いています。出自のこと、生き方のこと」
「だったら……」
「マユリアもおっしゃっていませんでしたか?重要なのはその生命と魂だけと」
「いや、言ってましたよ、なんかそんなこと、言ってたけどね、でも、あんた、あまりに話がでか過ぎだろうがよ!」
「そんなに大きな話ではありませんよ?」
そう言ってラーラ様はクスリと笑った。
「小さな蝶の羽ばたきがはるか先で嵐を巻き起こす、という話もございます。1人の人間の存在とは、それほど大きなものなのですよ。あなたのお母様があなたをお生みになった、それが世界の先行きに影響を与えるなどごくごく普通のことなのです。特別なことではありません」
「えーいや、そう言われても……」
「ですから、そう大げさなことと考えてくださらなくて良いのですよ?」
「いや、よいのですよって言われても……」
到底無理な話である。誰がいきなり「世界のため」と言われて二つ返事で「いいですよ」と答えられるものか。
「どの人も大切な命、誰もみんな生まれてきたことに意味があるのです。ですが、その命が絡み合うと時に世界を歪めるほどの力を持つこともあるのです。あなたはその結び目を解くその位置に生まれてきただけのこと、そう思ってください」
「だけのことって……くださいって言われても……」
ラーラ様がやさしそうににっこりと笑った。
「あなたはそのままで良いのです。自分の心のままに……それがシャンタルの運命につながるのですから」
「いや、だからーそれがね、いや、もうほんと、勘弁してくんねえかな……」
トーヤは二つも三つも大きなため息をつく。
「だから、なんでそれが俺なんだよ……」
「運命です」
「運命だとしたらなんて運命なんだよそりゃ……えらいとこに生んでくれたもんだな、母親も……」
ラーラ様がまた楽しそうに笑う。
「そうだ、もう一つ聞いておきたいことがあるんだった……」
トーヤはようやく思い出した。
「あなたなら多分知ってるだろうと思う、俺が聞いたある噂についてだ」
トーヤがずばりと尋ねるとラーラ様が頷いた。
「ってことは本当なんだな……」
「ええ」
「それ、誰が知ってる?」
「今はわたくしとキリエ様、それから侍女が2名です」
「今はってのは、今生きてるのはってことか?」
「ええ」
「そうか」
トーヤにこの噂のことを話したカースの村長も教えてくれた人は亡くなったと言っていた。話は合っている。
「そんで、マユリアは知らないってことは、例の秘密とはまた違う秘密ってことでいいんだよな?」
「そうです」
「……そうか、秘密が多いなあ……」
「それだけ大きなことなのです」
「だな。そんでまだ、多分他にも隠してることがあるんだろ?」
「時が満ちれば話せること、なら」
またかとトーヤは笑った。
「それもな、もう一生分聞いたよ。もっとも、それまでに生きてた場所じゃあ聞いたことない言葉だがな」
諦めの境地でまた何回かため息をつく。
「とにかく、時ってのが満ちなきゃなんも進めねえってことだな」
「いえ、あなたはあなたの思う通りに動いてくだされば」
「そんでそれが間違ってなかったら合ってますよって教えてくれるってことなんだよな」
「そうです」
「で、もしも間違えてたら?その時はどうしてくれんの?」
ラーラ様がごく普通の女性だったということもあるせいか、もうすっかりいつもの口調で話していることにトーヤ自身も気付いてはいない。
「どうとは?」
「いや、間違えてるって教えてくれるのかってことだよ」
「それはできません」
「なんでだよ?」
「間違えた道を選んでしまったらもうそこを進むしかありませんから」
「もうちょっと親切にしてくれてもよさそうなもんだけどなあ……」
トーヤがそう言うとラーラ様が申し訳無さそうな顔になる。
「いや、あんたのせいじゃねえってのは分かってるんで、だから、そういう顔にならないでくれねえかなあ……なんか、こっちが悪い気がしてくる」
「ごめんなさい」
「いや、知ってて言えねえってのもそりゃまあ辛いってことも分からんではないんで、まあそういうことで……」
トーヤがずっとラーラ様に手を握られたままだったことに気付き、そっと放す。
「とりあえず、今日のところはこれで、もう遅いし。そんで、また何か聞きたいこととかあったら会ってもらえますか?」
「はい。ただ、シャンタルがお休みになってからになりますから夜遅くにお願いいたします」
なるほど、こんな時間になったのはそういうわけか。
了解してキリエを呼びラーラ様は部屋へ戻っていった。
手を握られたままトーヤがほぼ叫ぶように言う。
今度はラーラ様も笑わなかった。
「そう、世界です」
「いや、だからね……」
トーヤがちょっと考えてからやっと言葉を絞り出す。
「あの、俺のことマユリアやキリエさんから聞いてます?元々は傭兵で、海賊とかもやってて、というか、そもそもその前は……」
「ええ、聞いています。出自のこと、生き方のこと」
「だったら……」
「マユリアもおっしゃっていませんでしたか?重要なのはその生命と魂だけと」
「いや、言ってましたよ、なんかそんなこと、言ってたけどね、でも、あんた、あまりに話がでか過ぎだろうがよ!」
「そんなに大きな話ではありませんよ?」
そう言ってラーラ様はクスリと笑った。
「小さな蝶の羽ばたきがはるか先で嵐を巻き起こす、という話もございます。1人の人間の存在とは、それほど大きなものなのですよ。あなたのお母様があなたをお生みになった、それが世界の先行きに影響を与えるなどごくごく普通のことなのです。特別なことではありません」
「えーいや、そう言われても……」
「ですから、そう大げさなことと考えてくださらなくて良いのですよ?」
「いや、よいのですよって言われても……」
到底無理な話である。誰がいきなり「世界のため」と言われて二つ返事で「いいですよ」と答えられるものか。
「どの人も大切な命、誰もみんな生まれてきたことに意味があるのです。ですが、その命が絡み合うと時に世界を歪めるほどの力を持つこともあるのです。あなたはその結び目を解くその位置に生まれてきただけのこと、そう思ってください」
「だけのことって……くださいって言われても……」
ラーラ様がやさしそうににっこりと笑った。
「あなたはそのままで良いのです。自分の心のままに……それがシャンタルの運命につながるのですから」
「いや、だからーそれがね、いや、もうほんと、勘弁してくんねえかな……」
トーヤは二つも三つも大きなため息をつく。
「だから、なんでそれが俺なんだよ……」
「運命です」
「運命だとしたらなんて運命なんだよそりゃ……えらいとこに生んでくれたもんだな、母親も……」
ラーラ様がまた楽しそうに笑う。
「そうだ、もう一つ聞いておきたいことがあるんだった……」
トーヤはようやく思い出した。
「あなたなら多分知ってるだろうと思う、俺が聞いたある噂についてだ」
トーヤがずばりと尋ねるとラーラ様が頷いた。
「ってことは本当なんだな……」
「ええ」
「それ、誰が知ってる?」
「今はわたくしとキリエ様、それから侍女が2名です」
「今はってのは、今生きてるのはってことか?」
「ええ」
「そうか」
トーヤにこの噂のことを話したカースの村長も教えてくれた人は亡くなったと言っていた。話は合っている。
「そんで、マユリアは知らないってことは、例の秘密とはまた違う秘密ってことでいいんだよな?」
「そうです」
「……そうか、秘密が多いなあ……」
「それだけ大きなことなのです」
「だな。そんでまだ、多分他にも隠してることがあるんだろ?」
「時が満ちれば話せること、なら」
またかとトーヤは笑った。
「それもな、もう一生分聞いたよ。もっとも、それまでに生きてた場所じゃあ聞いたことない言葉だがな」
諦めの境地でまた何回かため息をつく。
「とにかく、時ってのが満ちなきゃなんも進めねえってことだな」
「いえ、あなたはあなたの思う通りに動いてくだされば」
「そんでそれが間違ってなかったら合ってますよって教えてくれるってことなんだよな」
「そうです」
「で、もしも間違えてたら?その時はどうしてくれんの?」
ラーラ様がごく普通の女性だったということもあるせいか、もうすっかりいつもの口調で話していることにトーヤ自身も気付いてはいない。
「どうとは?」
「いや、間違えてるって教えてくれるのかってことだよ」
「それはできません」
「なんでだよ?」
「間違えた道を選んでしまったらもうそこを進むしかありませんから」
「もうちょっと親切にしてくれてもよさそうなもんだけどなあ……」
トーヤがそう言うとラーラ様が申し訳無さそうな顔になる。
「いや、あんたのせいじゃねえってのは分かってるんで、だから、そういう顔にならないでくれねえかなあ……なんか、こっちが悪い気がしてくる」
「ごめんなさい」
「いや、知ってて言えねえってのもそりゃまあ辛いってことも分からんではないんで、まあそういうことで……」
トーヤがずっとラーラ様に手を握られたままだったことに気付き、そっと放す。
「とりあえず、今日のところはこれで、もう遅いし。そんで、また何か聞きたいこととかあったら会ってもらえますか?」
「はい。ただ、シャンタルがお休みになってからになりますから夜遅くにお願いいたします」
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