166 / 353
第二章 第五節 もう一人のマユリア
24 母
しおりを挟む
「いや、いや、いや、いやー!」
ぐっすりと眠りの中にいたその方は驚いて起き上がった。
「シャンタル……どうなさったのです、シャンタル?」
ラーラ様は同じベッドで寝ている銀の髪と褐色の肌をを持つ子供、当代シャンタルが眠ったまま叫んでいる声に起こされた。
シャンタルは身悶えしながらひたすら「いや」と叫んでいる。
「シャンタル、シャンタル、何が嫌なのですか?シャンタル、どうなさったのですか?シャンタル」
ラーラ様は何度もシャンタルをゆすって起こそうとするがいやいやをするばかりである。
「シャンタル、シャンタル!」
何度も呼んでいるとシャンタルが叫ぶのをやめ、ぼんやりと目を開けてラーラ様を見た。
「……ラーラ、さま……?」
うっそりと微かに小首を傾げながらそう聞く。
「はい、そうです、ラーラですよ。どうなさいました?」
ラーラ様がそう聞くとそちらこそ何を聞くの?という風にもう少し首を傾けた後、何もなかったようにすやすやと眠ってしまった。
「一体何が……」
今までこんなことは一度もなかった。
シャンタルは驚くほど大人しい子供だ。
それはトーヤに言わせると「何も考えていない」と言い切るほど、いっそ自分というものがないと言えるほど感情というものを表すことがない。自発的に何かを発言することもほぼない。
そうしておいていきなり託宣をする。語る言葉はほぼ託宣だ。そしてその託宣が目に見えた結果を出す。
ラーラ様はシャンタルが生まれたその日からずっとそばに付いてきた。
まずは秘密を守るため。
次にはシャンタルを愛しいと思うため。
それから託宣を見守るために。
普通であれば乳母が付いてお世話をするのであるが、当代には異例なことに乳母が付かなかった。その代わりにマユリアの座を降りて侍女となったラーラ様が母のようにずっと付き従ってきた。
もちろんラーラ様に授乳はできないので、その時だけ子供を生んで間もない選ばれた女性が何名かシャンタルに乳を与えるためにおそばに控えてはいたが、シャンタルが満足するとすぐにラーラ様の手元に戻された。
シャンタルのお世話をするのはラーラ様、侍女頭のキリエ、それから誕生の時に従っていた古くからいる侍女2名、そして先代シャンタルである当代マユリアだけである。
以前はシャンタルを取り上げた宮仕えの産婆もそばにいたのだが、年を取り、病を得たことから必ず秘密は守ると誓って宮を辞し、その後亡くなった。
幸いにして丈夫な子供で、病気一つしたことがない。それゆえに侍医に秘密を知られることもなかった。医療を多少知る産婆の手で足りるぐらいのちょっとした不調しか得たことはない。そのために秘密は漏れることなく十年の月日を過ごせた。
だが、文字通り、言葉通り、シャンタルから一日も離れたことがないラーラ様が見たことのないシャンタルの様子、ラーラ様は体の芯が冷える心地がした。
「託宣の日が近付いている……」
そうつぶやくと、眠っているシャンタルの精霊のような髪を静かに撫でる。
「誰もシャンタルの運命に手を出すことはできない。ですが、ですが、どうかシャンタルを助けてください、お願いします、助け手トーヤ……」
そう言ってシャンタルの手をそっと握るとその小さな手に口付け、そして涙を流した。
「わたくしの命で足りるのならばいくらでも捧げるものを……」
ラーラ様はまさにシャンタルの母であった。
子の無事を祈らぬ母などいないのだ。
ぐっすりと眠りの中にいたその方は驚いて起き上がった。
「シャンタル……どうなさったのです、シャンタル?」
ラーラ様は同じベッドで寝ている銀の髪と褐色の肌をを持つ子供、当代シャンタルが眠ったまま叫んでいる声に起こされた。
シャンタルは身悶えしながらひたすら「いや」と叫んでいる。
「シャンタル、シャンタル、何が嫌なのですか?シャンタル、どうなさったのですか?シャンタル」
ラーラ様は何度もシャンタルをゆすって起こそうとするがいやいやをするばかりである。
「シャンタル、シャンタル!」
何度も呼んでいるとシャンタルが叫ぶのをやめ、ぼんやりと目を開けてラーラ様を見た。
「……ラーラ、さま……?」
うっそりと微かに小首を傾げながらそう聞く。
「はい、そうです、ラーラですよ。どうなさいました?」
ラーラ様がそう聞くとそちらこそ何を聞くの?という風にもう少し首を傾けた後、何もなかったようにすやすやと眠ってしまった。
「一体何が……」
今までこんなことは一度もなかった。
シャンタルは驚くほど大人しい子供だ。
それはトーヤに言わせると「何も考えていない」と言い切るほど、いっそ自分というものがないと言えるほど感情というものを表すことがない。自発的に何かを発言することもほぼない。
そうしておいていきなり託宣をする。語る言葉はほぼ託宣だ。そしてその託宣が目に見えた結果を出す。
ラーラ様はシャンタルが生まれたその日からずっとそばに付いてきた。
まずは秘密を守るため。
次にはシャンタルを愛しいと思うため。
それから託宣を見守るために。
普通であれば乳母が付いてお世話をするのであるが、当代には異例なことに乳母が付かなかった。その代わりにマユリアの座を降りて侍女となったラーラ様が母のようにずっと付き従ってきた。
もちろんラーラ様に授乳はできないので、その時だけ子供を生んで間もない選ばれた女性が何名かシャンタルに乳を与えるためにおそばに控えてはいたが、シャンタルが満足するとすぐにラーラ様の手元に戻された。
シャンタルのお世話をするのはラーラ様、侍女頭のキリエ、それから誕生の時に従っていた古くからいる侍女2名、そして先代シャンタルである当代マユリアだけである。
以前はシャンタルを取り上げた宮仕えの産婆もそばにいたのだが、年を取り、病を得たことから必ず秘密は守ると誓って宮を辞し、その後亡くなった。
幸いにして丈夫な子供で、病気一つしたことがない。それゆえに侍医に秘密を知られることもなかった。医療を多少知る産婆の手で足りるぐらいのちょっとした不調しか得たことはない。そのために秘密は漏れることなく十年の月日を過ごせた。
だが、文字通り、言葉通り、シャンタルから一日も離れたことがないラーラ様が見たことのないシャンタルの様子、ラーラ様は体の芯が冷える心地がした。
「託宣の日が近付いている……」
そうつぶやくと、眠っているシャンタルの精霊のような髪を静かに撫でる。
「誰もシャンタルの運命に手を出すことはできない。ですが、ですが、どうかシャンタルを助けてください、お願いします、助け手トーヤ……」
そう言ってシャンタルの手をそっと握るとその小さな手に口付け、そして涙を流した。
「わたくしの命で足りるのならばいくらでも捧げるものを……」
ラーラ様はまさにシャンタルの母であった。
子の無事を祈らぬ母などいないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる