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第三章 第一節 神から人へ
1 最奥
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ミーヤはトーヤの部屋から出ると急いでキリエの執務室へと向かった。
自分がそんなことを要望するのは身の程知らずのこと、それを承知の上でキリエに無理を申し出るつもりであった。
(シャンタルのお部屋へ行かせていただこう。そうして朝から夜まで、シャンタルがお休みになっている間もずっと何かを訴えかければもしかして)
そんな無謀な覚悟で執務室の扉を叩いた。
応えがあり室内に招き入れられる。
「失礼いたします」
頭を下げて室内に入る。
「待っていました、おそらく来るだろうと思って」
「え?」
意味が分からずにいるミーヤにキリエは言う。
「今からシャンタルのお部屋へお行きなさい」
「ええっ!」
まさに今から無理を頼み込んでと思っていたことをキリエの方から切り出された。
「マユリアのご指示です、どのようにしてでもシャンタルのお心を開いていただきなさい」
「マユリアの……」
「そうです。さあ、急ぎなさい。時間はいくらあっても足りませんよ」
「はい、ありがとうございます!」
侍女にはあるまじき早足で奥宮へ向かい、常ならば入れぬシャンタルの私室のある区域へと足を向ける。
そこは奥宮の最奥、神域中の神域である。
衛士の中でも選ばれた、最も信頼のおける衛士の中の2人が立ち番をしている。
「客室係のミーヤでございます。マユリアからのお呼びで参りました」
「通れ」
話が通っていたらしく、すんなりと通ることができた。
そこはミーヤが初めて足を踏み入れる場所、神秘の場所である。
さすがに速度を緩めて足音を立てぬように進むが、どこがシャンタルの私室であるのかが分からないことに気づき、はたと足を止める。
どこへ行けばいいのだろう……
シャンタルとマユリアの私的な場所と言ってもそこだけでもとてつもなく広い。
いくつもの部屋が並んでいる。
二人の女神が不自由しないため、ありとあらゆるものが揃っているのだ。
文字通り一番奥なのだろうかと推測しながら進むが、部屋に着いたとしてどう声をかけたものか……
かなり奥まで進んだところで困って足を止める。
どの部屋に声をかければいい?
迷っているとある一室の扉が開きタリアが出てきた。
「こちらです」
ミーヤを見て冷たい目でそう言う。
トーヤへの評価が直接トーヤ付きの下っ端の侍女へ向ける視線に反映されているようだ。
ミーヤは深く頭を下げると急いでその部屋へと入った。
そこはシャンタルの私室、その入口の応接室であった。
王宮にも何度か足を向けたことのあるミーヤが見てきた色々な部屋の中でも、そこは桁違いに豪華であると一目で分かる、派手ではないがいるだけで気圧されそうな空間であった。
その豪華な応接室の中央に置いてある、これも部屋にふさわしい豪華なソファ、そこにそのきらめきすら打ち消すかのように輝く女神マユリアが、今はその光を閉ざすように静かに座っていた。
ミーヤが急いで跪いて頭を深く下げる。
「ミーヤ、頭をお上げなさい、そしてこちらへ」
呼ばれて立ち上がりソファのそばに近づく。
自分という存在がいかに些末な取るに足らない人間かを思い知らされるような一幅の見事な絵のような光景、そこに近づくだけでも勇気が必要であった。
「ここへおかけなさい」
「え、いえ、そんな恐れ多い」
急いで跪こうとするミーヤを止め、あらためてマユリアが自分の隣の席を手で軽く押さえる。
「いいえ、お話をしたいのです、こちらへ」
「……は、はい……」
ミーヤはおずおずと近づくと、
「失礼いたします」
そう言って頭を下げてから静かに腰を下ろした。
「ミーヤ……」
マユリアがこう声をかけてからミーヤの手を取った。
「マユリア!」
あまりの恐れ多さに手を引こうとしたが、優しくもしっかりと握られているのを振り払うことはできなかった。
「トーヤにはひどいことを言わせてしまいました……きっとひどく傷ついていることでしょうね……」
「マユリア……」
マユリアがトーヤを思ってくれたことに涙が浮かんでくる。
「許して下さい……それでもわたくしは託宣に従わねばならないのです……」
マユリアが美しい両の瞳を閉じる。
「だからこそ、どのようにしてでもシャンタルにお心を開いていただかなければいけません、すべてのものが心安らかであるように、そして世界を眠らせぬためにも……」
「はい……」
マユリアがそっとミーヤの手を放す。
「どのようにしてシャンタルのお心を開くべきか、何か思いつくことはありませんか?」
「いえ……」
そうは言われても、思いつく限りのことは全て試してしまった。
これ以上何をどうすればいいのか、それすら思いつかぬまま、急く気持ちだけでここへ来てしまったことに気がついた。
「そう、何かないものでしょうか……」
マユリアがふっと息を吐く。
「そう言えば……」
トーヤが言っていたことが、ふと、浮かんだ。
「シャンタルがお話しにならないのはその気がないからだ、とトーヤが申しておりました」
「その気がない?」
「はい、本当に話せぬ聞こえぬわけではない、と。あの……そこが一番、その、気に入らぬ、と……」
言葉を選んで言ったそれを聞いてマユリアが考え込んだ。
「その気がない……」
もう一度繰り返す。
自分がそんなことを要望するのは身の程知らずのこと、それを承知の上でキリエに無理を申し出るつもりであった。
(シャンタルのお部屋へ行かせていただこう。そうして朝から夜まで、シャンタルがお休みになっている間もずっと何かを訴えかければもしかして)
そんな無謀な覚悟で執務室の扉を叩いた。
応えがあり室内に招き入れられる。
「失礼いたします」
頭を下げて室内に入る。
「待っていました、おそらく来るだろうと思って」
「え?」
意味が分からずにいるミーヤにキリエは言う。
「今からシャンタルのお部屋へお行きなさい」
「ええっ!」
まさに今から無理を頼み込んでと思っていたことをキリエの方から切り出された。
「マユリアのご指示です、どのようにしてでもシャンタルのお心を開いていただきなさい」
「マユリアの……」
「そうです。さあ、急ぎなさい。時間はいくらあっても足りませんよ」
「はい、ありがとうございます!」
侍女にはあるまじき早足で奥宮へ向かい、常ならば入れぬシャンタルの私室のある区域へと足を向ける。
そこは奥宮の最奥、神域中の神域である。
衛士の中でも選ばれた、最も信頼のおける衛士の中の2人が立ち番をしている。
「客室係のミーヤでございます。マユリアからのお呼びで参りました」
「通れ」
話が通っていたらしく、すんなりと通ることができた。
そこはミーヤが初めて足を踏み入れる場所、神秘の場所である。
さすがに速度を緩めて足音を立てぬように進むが、どこがシャンタルの私室であるのかが分からないことに気づき、はたと足を止める。
どこへ行けばいいのだろう……
シャンタルとマユリアの私的な場所と言ってもそこだけでもとてつもなく広い。
いくつもの部屋が並んでいる。
二人の女神が不自由しないため、ありとあらゆるものが揃っているのだ。
文字通り一番奥なのだろうかと推測しながら進むが、部屋に着いたとしてどう声をかけたものか……
かなり奥まで進んだところで困って足を止める。
どの部屋に声をかければいい?
迷っているとある一室の扉が開きタリアが出てきた。
「こちらです」
ミーヤを見て冷たい目でそう言う。
トーヤへの評価が直接トーヤ付きの下っ端の侍女へ向ける視線に反映されているようだ。
ミーヤは深く頭を下げると急いでその部屋へと入った。
そこはシャンタルの私室、その入口の応接室であった。
王宮にも何度か足を向けたことのあるミーヤが見てきた色々な部屋の中でも、そこは桁違いに豪華であると一目で分かる、派手ではないがいるだけで気圧されそうな空間であった。
その豪華な応接室の中央に置いてある、これも部屋にふさわしい豪華なソファ、そこにそのきらめきすら打ち消すかのように輝く女神マユリアが、今はその光を閉ざすように静かに座っていた。
ミーヤが急いで跪いて頭を深く下げる。
「ミーヤ、頭をお上げなさい、そしてこちらへ」
呼ばれて立ち上がりソファのそばに近づく。
自分という存在がいかに些末な取るに足らない人間かを思い知らされるような一幅の見事な絵のような光景、そこに近づくだけでも勇気が必要であった。
「ここへおかけなさい」
「え、いえ、そんな恐れ多い」
急いで跪こうとするミーヤを止め、あらためてマユリアが自分の隣の席を手で軽く押さえる。
「いいえ、お話をしたいのです、こちらへ」
「……は、はい……」
ミーヤはおずおずと近づくと、
「失礼いたします」
そう言って頭を下げてから静かに腰を下ろした。
「ミーヤ……」
マユリアがこう声をかけてからミーヤの手を取った。
「マユリア!」
あまりの恐れ多さに手を引こうとしたが、優しくもしっかりと握られているのを振り払うことはできなかった。
「トーヤにはひどいことを言わせてしまいました……きっとひどく傷ついていることでしょうね……」
「マユリア……」
マユリアがトーヤを思ってくれたことに涙が浮かんでくる。
「許して下さい……それでもわたくしは託宣に従わねばならないのです……」
マユリアが美しい両の瞳を閉じる。
「だからこそ、どのようにしてでもシャンタルにお心を開いていただかなければいけません、すべてのものが心安らかであるように、そして世界を眠らせぬためにも……」
「はい……」
マユリアがそっとミーヤの手を放す。
「どのようにしてシャンタルのお心を開くべきか、何か思いつくことはありませんか?」
「いえ……」
そうは言われても、思いつく限りのことは全て試してしまった。
これ以上何をどうすればいいのか、それすら思いつかぬまま、急く気持ちだけでここへ来てしまったことに気がついた。
「そう、何かないものでしょうか……」
マユリアがふっと息を吐く。
「そう言えば……」
トーヤが言っていたことが、ふと、浮かんだ。
「シャンタルがお話しにならないのはその気がないからだ、とトーヤが申しておりました」
「その気がない?」
「はい、本当に話せぬ聞こえぬわけではない、と。あの……そこが一番、その、気に入らぬ、と……」
言葉を選んで言ったそれを聞いてマユリアが考え込んだ。
「その気がない……」
もう一度繰り返す。
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