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らび

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よっちゃん

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父よっちゃんは、昭和10年農家に生まれた。
祖父は昭和の頑固な父親像そのままの人で、真面目な父は
勉強したくても、家業の手伝いがあり、夜は電気を使うことも許されなかったらしい。
それでも高校卒業して公務員になったあと、夜学で大学卒業をしたとのことだった。
本人から詳しく聞いたことはなかったが、会話の端々をまとめるとこんな感じだと思う。

私の子供時代、父の実家はまだ茅葺き屋根の平屋で、土間がある家だった。
もちろんトイレも汲み取り式で、お風呂は五右衛門風呂。
正直、子供の私は慣れないことだらけで、トイレもお風呂も不自由で嫌だった。
しかし、強面の祖父は私には本人なりに優しく接してくれていた気がする。
日本酒一升瓶を傍におき、晩酌しながらの長い夕食にも、傍にいさせてくれたような記憶がある。
祖母は早いうちに亡くなり、記憶こそ無いが、とても優しい方だったと両親から聞いている。
農業の他にも蚕も扱っていて、夏に行くと沢山の幼虫が日向ぼっこをするように
蚕倉庫前一面に敷き詰められていた。
子供だった私は、珍しい幼虫を観察していたが、両親や姉は側にいなかったかもしれない。
出来上がった蚕を型から外す作業を手伝ったのは中高生ぐらいだったと思う。
祖父も歳をとり、私に手伝ってみるか?と優しく声をかけてくれた。
蚕はとても繊細で私はとても緊張をした記憶がある。
とても貴重な経験だった。
父の実家は伯父が継いだが、祖父よりも早く病気で亡くなってしまった。
伯母はとても優しく親身に私に接してくれ、息子で従兄弟のけんちゃんも
子供時代からよく私の相手をしてくれる優しいお兄さんだった。

父よっちゃんは兄姉弟の中でも大人しい性格らしく、親戚の集まりでも
ただニコニコと座っているような人だった。
しかし、祖父の持っていた頑固さは完璧に継いでいて、亭主関白だった。

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