妖怪クラスの放課後怪奇譚

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Beauty or dead

お宅訪問隊は見た!

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 口裂け女の話は思いの外、学校中でされていた。教室の中でも口裂け女、廊下を歩けば口裂け女、トイレの中でも口裂け女である。帰りのSHRが終わり、幼先生からも「口裂け女に気をつけてくださいね」とまで言われる程に、今日1日は口裂け女1色である。荷物をまとめて帰ろうかな、と立ち上がった僕を「ちょっと露峯」と鍛冶町が呼び止める。

 「鶫達と一緒に今日休んだ千影の家にプリントを届けに行くんだけどあなたもついてきてくれない?」
 「は?なんで僕?」
 「どうせ暇だったんでしょ?私達女子だけだと何かしら怖いし、なるべく大勢で行ったほうが口裂け女が襲ってきにくいと思うし、いざとなったら男手があったほうが良いじゃない。」
 「お、なになに?お前ら転校生のところ行くの?」
 「あ、剣持は別に着いてこなくていいわよ?あんたが来ると千影が怯えるから。」

 まぁ、彼女の中では剣持の首はトラウマになっててもおかしくはないだろう。どうやら行くのは鍛冶町、糸魚川、種子島、仙狸の女子4人と僕だけらしいのだが――

 「なぁ、剣持は連れて行っちゃ駄目か?」

 僕のこの発言に困惑と歓喜の違いはあれど驚きの反応が2つ。言わずもがな困惑が鍛冶町で、歓喜が剣持である。「友よ!」と、どこぞかのガキ大将みたいなことを口走って諸手を挙げている。

 「一応連れて行きたくない理由は言ったつもりだけど?」
 「そのことなんだけどな、もしも仮に万が一口裂け女が出た場合、少しでも戦力が多いほうがいいと思ってさ。ぶっちゃけ武器を持った相手だと僕一人で戦えるとは思っていないし、一緒に行く女子メンバーも基本的には武器を使えるような感じじゃないからな。」
 「気にしすぎじゃ…」
 「大勢で行ったほうが口裂け女も襲ってきにくい……だろ?」

 確かに鍛冶町の言うとおり、気にしすぎというのはあるだろう。けれど、口裂け女が僕が懸念をしている通りの能力を秘めているのだとしたら、恐らくこのメンバーでもまだ足りないだろう。戦闘に特化している銀羽とかも付いてきてくれると非常に有難いのだが、彼を無理やり連れて行くわけにはいかないだろう。

 「あ、そうだ。おーい銀羽ギンパー。お前今日暇かー?」
 「あ?なんだよ薮から棒に。」
 「転校生の家にお見舞い行くついでに口裂け女退治しに行くから一緒に行こうぜー」

 とか思ってたら、剣持が何の躊躇いもなく誘っていた。ただ、陽向の家に行くだけだったら絶対に行くとは言わなかったのだろうけど、今日1日話題になっていた口裂け女となると、多少の興味があるのかうーんと唸って悩み込んでいる。 

 「ちょっと、あんた何勝手に誘ってるのよ。」
 「え?いや、大勢の方が良いって言ってたじゃん。どうせなら皆でお宅訪問したほうが賑やかだし、喜ぶって!」
 「あんたね……」

 鍛冶町の身体がワナワナと震えだす。これはまずい。ッと自分の髪留めに手をかけた鍛冶町を僕は慌てて掴んで押さえ込む。危ない所だった。鍛冶町には悪いとは思うが、これで人数が増えてくれるなら戦わないで住む可能性が増えたし、戦っても勝つ可能性が多少増えたと言えるだろう。

 結局、その後も三条と夜湖も付いてくるということになった。優しいクラスメイト、と思われるかもしれないが、心配が4女子:無理やりが1:興味本位が4男子である。
 他の生徒は部活動や仕事や何かしらの用事があるか、興味がないと言ってくることがなかった。残念ではあるが9人もいればそうそう巻き込まれることもないだろうと淡い期待を抱きつつ、彼女の家へ向かって歩き始める。
 歩き始めて20分後

 「なぁ…まだ後どれぐらいかかるんだ?」
 「えっと…あと30分ぐらいじゃない?」

 僕たちの―――というか、僕の心は口裂け女よりも、彼女の家の遠さに参っていた。電車やバスが通っていないのか?と調べてみたのだが、最寄りの駅まで徒歩で15分。乗り換えを2回してのそれなので、実質歩きと大差がないのだ。それならば、とお金を使わずに歩き始めた僕らだったが――まず、仙狸が早々に歩くことを諦めて剣持の自転車の籠で丸くなり始めた。剣持も剣持で普段、カゴの中に首と荷物を置いているのだが、占領されてしまったために今日は荷台に首を括りつけて歩きにくそうにしている。
 夜湖と銀羽は一昨日の放課後に起きた出来事に関して、こうすればよかったのではないかという反省会を始めており、それに三条が加わって『もしもこいつが敵に回ったらどう戦うか』なんて議論が白熱している。ちなみに、今の仮想敵は剣持だが、機動力に自走自転車、武器として警棒を所有しているので、1VSたい1だと多少戦い難いらしい。僕も同意見だ。もっとも、一昨日彼の自転車はペシャンコになったので今の彼のボロい自転車だと機動力も半減だろう。フレームが歪んでいるのか、ベアリングが割れているのかは定かではないが押して歩いていてもガタガタ揺れている。

 「もう少し揺らさないで歩けないかにゃー」
 「昔使ってた古い自転車だから大分ガタが来てんだよ。あー、早く金貯めて新しい自転車愛馬が欲しいぜ。」
 「この前の鎮伏労災がおりなかったのか?」
 「手続きはするにはしたけど、即金ってわけじゃないからどうしても合間が出来ちまうんだよな。早くても来週だってさ。」
 「そりゃあ、ご愁傷様。」

 男子(+仙狸)はそんな感じで話を続けており、女子は女子で何故かじゃんけんの話になってる。

 「じゃんけんの三竦みってさ、結構おかしいよね」
 「あー、そうね。」
 「突然どうしたのよ。」
 「いやね、あれって石は鋏に勝って鋏は紙を斬れるっていうじゃない?」
 「そうそう、そこまでは納得できるんだけどさ、石を紙が包み込めるってなんだよ、って気がしない?いやいや、石さんが本気出したら紙なんかあっさり突き破れるぞ、って思うわ。」
 「いや…三竦みをわかり易くしただけで別になんでもよかったんじゃない?手で表現できるのが偶々それだっただけで。公平に物事を決められるようになれば、それでよかったのよ」
 「でもさ、公平って言う割にはじゃんけんが強い人と弱い人っているじゃん。あれは運の善し悪しだけじゃなくて指の筋肉の動きとかを見て相手が何を出すのか察してるわけじゃない?そこまで来ると最早ジャンケンはそれ単体がスポーツといっても過言ではないと思うんだ。」
 「!!それじゃあ、じゃんけんが異常に強い私はもしかしてスポーツじゃんけんの日本代表になれる!?」
 「なれる、なれるよ鶫。あんただったら絶対日本一になれるわ!手始めにまずはそこの媚呂をボコボコにしてやるのよ!」
 「OK世羅!!さぁ、媚呂覚悟!」

 「あんた達何馬鹿なこと言ってるのよ。」

 実に楽しそうだ。ちなみに、じゃんけんの結果は鍛冶町の圧勝である。新じゃんけん王者チャンピョンという称号を手に入れている。別に羨ましくはない。というか、女子ってもっと夢のあることを話してると思ってたんだけどな…。

 「夢を見すぎだにゃー」
 「勝手に人の思考読まないでくれます?」
 「露峯は顔に出すぎだにゃ」

 前と後ろでワイワイと騒がしくしながら歩くこと30分、気付けば家の近所に着いたらしく、鍛冶町が足を止めて周囲をキョロキョロと見回している。

 「この辺なのか?」
 「住所だとこの周辺なんだけど…どれだろう。」

 周りに見えるマンションとアパートは全部で4つ。その中で虱潰しに探しに行けばいいというわけだ。ようやく目的地周辺に着いたので、銀羽・夜湖・三条は臨戦態勢を取っている。この辺りが口裂け女が目撃されたというのだから、空気もどこかピリピリと張り詰めている。

 「にしても、なんで転入生はこんなところから学校に通ってるんだろうな?」
 「陽向 千影、な。その転入生呼びはやめてやれよ。多分だけど戻橋だからここへの引越しを余儀なくされたのかもしれないな。」
 「どういうこと?」
 「戻橋っていうのは何かと陰陽師と縁が深い場所でな。元々京都の戻橋の袂には晴明の屋敷跡に鎮座する晴明神社っていうのがあったしな。橋のたもとに立って通りすがりの人々の言葉を神の信託とした橋占の名所でもあって、晴明は十二神将を戻橋の下に置いて必要なときに召喚していたっていう逸話があるぐらいだ。」

 僕たちがいる場所から少し歩いた先には移転された晴明神社もあるので、陰陽師としてここは何かと縁を強めてる地域なのだろう。ここに入ってから、温度が落ちたわけでもないのに多少肌寒さを感じるようになったのは、霊気がこの周囲を漂っているからに違いない。

 「早く届けたら帰ろう。ここは空気が悪すぎる。」
 「えぇ、その方が良さそうね。私も出来ることなら連れてきた男子生徒ボディガードの出番は無い方が良いもの。」

 互いに考えが一致した僕と鍛冶町は、皆と同様に周囲に気を配りながら最初のマンションへの移動を開始した。



 陽向が住むマンションというのは僕らの想像を良い意味で裏切っていた。4つあるアパート・マンションを1つずつ探して回ったのだが、いずれも尽く外れ。結局最後の最後に「流石にこれはないだろう」と僕らが口を揃えて思った閑静な住宅街に似つかわしくない巨大なマンション――そこが彼女の家であった。
 無理やり陰陽師の修行をさせられ、仲の良い友人達と泣く泣く別れてうちに転入してきたというので勝手なイメージでもっとこじんまりしているマンションの一室を想像していたのだが、どうやら僕らが思っている以上に彼女はお嬢様だった。
 いや、幼先生も言ってたが彼女は陰陽師の開祖の血筋だ。寧ろこれぐらいの暮らしでも大分ランクが落ちているのかもしれない。

 「そういえば、前に住んでるところ聞いたとき、この辺りは色々と安いって言ってたよな…。」
 「ケケ…ちょっとやそっと安くなったからって絶対うちらが手を出せるようなところじゃないよ。」
 「にゃーは今日から陽向 仙狸になるにゃー。」
 「なんで家族になろうとしてるのよ。」
 「ペットになって一生食っちゃ寝するんだにゃー。」
 「余計に駄目だからね!?」
 
 天辺を見上げながら呆然とする女子達。僕たち男子も似たようなものだ。さっきまでの張り詰めた空気は最早見る影もなく、女子同様にマンションの天辺を見上げて呆然としている始末だ。

 「陰陽師って儲かってるんだな…。」
 「超が付くかどうかはわからないけど、金持ちであることは確定だな。」
 「なぁ、オイラの身長が低いからなのか物凄く建物がでかく見えるんだけど…気のせい?」
 「気のせいじゃないぞ。背の高い俺が見ても十分すぎるほどでかい。」
 「俺、今日から陽向のペットになる。」

 「「「「剣持最低さいてー(にゃー)」」」」

 「なんで俺だけ?!」

 入口前であーだこーだと話し続ける僕ら。けど、いつまでもこうするわけにもいかないので、誰に言われるでもなく鍛冶町が中へと入っていく。それに続く僕ら、扉の向こう側に入ると、そこには見たこともないほど郵便ポストがずらりと並べられている。早速探し始めると意外と直ぐに見つかった。それもそうだろう。教えてもらった住所だと、結構上のほうだということが分かっていたので上から探し始めたのだが…まさかの一発目で見つけることができたのだ。つまり、彼女はここの最上階に住んでいるということになる。
 「まじか…」誰かがそう呟いた。もしかしたら僕の口から漏れた呟きだったかもしれない。
 
 「さ、さあ…早く彼女に届けてあげましょう…」

 誰よりも早くに再起動をした鍛冶町がインターフォンに向かい、彼女の部屋番号を入力して呼び出しボタンを押す。「は…はい…」と、返答は直ぐにやってきた。病気というわけではなさそうだが、口裂け女のこともあり消えそうなぐらいか細い声であった。

 「千影?私、鍛冶町よ。」
 『え…、み、媚呂さん!?ど、どうしたの?』
 「今日学校休んだから、プリント持ってきたのよ。開けてくれる?」
 『ちょ、ちょっと待っててね。』

 開く自動ドア。「おおー」と感嘆の声を漏らす僕らと、そんな僕らに向かってドヤ顔でサムズアップする鍛冶町。何こいつ、なんでこんなに格好いいんだ?もう何も怖いものはないと言わんばかりに突き進む鍛冶町の背後をついて行く僕ら。
 そんな僕らを待ち受けるのは『混沌災』以降、世間に溢れる数々の不思議を見慣れた僕らを唖然とさせる数々の光景であった。
 まず、玄関から入ってすぐに目にするのはマンションの裏庭。滝が流れていた。それがチョロチョロ流れるような小さな滝ではない。瀑布と呼ばれるような凄まじい勢いで流れ続ける文字通り滝だ。『この先危険、ストップ飛び込み自殺、命を大切に』なんて書かれてるぐらいだから、きっと過去にいたのだろう――飛び込んだ愚か者が。
 そんな開放感抜群のエントランスだが、見たこともない程に綺麗に敷き詰められた石作りの床。大理石かと思いきや、その材質を見た鍛冶町と三条が「これ…」「嘘…」と驚くということは多分大理石とは違うのだろう。ミスリルやオリハルコンと言われても僕は信じることにした。寧ろそれぐらいの過剰の予想をしていないと耐えられる気がしない。装飾品を1つ見ても全くと言って良い程に価値が分からない。とにかく高い絵なんだろう、としか。辛うじて価値が分かる鍛冶町と三条も途中から考えるのを諦めたようだ。剣持なんかは特に気にしていないのか、入ってすぐのソファに何の躊躇いもなくダイブし「うはー、柔けー!」なんて騒いでる。仙狸も同じくソファーに飛び込み「ふかふかにゃー」なんて呑気に言う始末だ。

 誰かしらがハッと復活をし、「陽向が待ってるから急ごう」と言って僕らは思い出したように移動を再開した。たどり着いたエレベーターホールでエレベーターを待っている間、誰もが一言も発してない。無言だった。それはきっと、エレベーターホールの壁の中を回遊している巨大な蛇のような生物――『龍』を見てしまったからだろう。なんでエレベーターホールで龍を飼育しているのかは謎だ。

 大の大人が30人ぐらい乗れそうなエレベーターに乗り込むと、黙って最上階行きのボタンを押す。長い。とてつもなく移動が長い。エレベーターに乗ってかれこれ4分弱。ようやくエレベーターが止まり、最上階へと到着した。扉が開いた瞬間、目の前に1階にいたはずの龍が目の前にいたのだが、最早ツッコム気力は誰にもなかった。態々ここまでついてきた彼(彼女?)を無視するように一目散に陽向の住まう部屋へと向かう僕ら。エレベーターから降りて割とすぐの所に彼女の表札が見えたとき、僕らはようやく現実に戻ってこれた気がした。

 ピンポーン

 インターフォンの音は普通だった。「押したら賛美歌でも流れるんじゃないか」と三条が口にした瞬間、ボタンを押そうとした鍛冶町の動きがピタリと止まるというアクシデントがあったが、無事にボタンを押して中から「はーい」という陽向の声とドテドテという足音が聞こえてくる。その時、女子達が思い出したかのように男子僕ら達を追いやるように動き出した。突然の出来事に困惑する僕達だったが、長身種子島マッチョ&糸魚川コンビには勝てず、少し離れたところに移動を余儀なくされた。
 直後、鍵の回る音がして開けられる扉。

 「い…いらっしゃい、媚呂さん。あ、仙狸ちゃんもようこそ。」
 「元気そうね千影。色々と言いたい事があるけどとりあえず…仙狸、ヘアゴム。」
 「はいにゃ。」
 「ふぇ!?」
 
 いつの間にか人間形態になっていた仙狸から鍛冶町に次々と手渡されるヘアピンや何かの道具の数々。一体何事かと慌てているようだが、有無を言わさない様子の鍛冶町にされるがままにされているのが声色から伺える。
 そのまま仙狸と共に鍛冶町は陽向の部屋に入っていき、バタンと扉が締められる。待つこと数分。扉が再び開けられて中から仙狸が顔だけを覗かせる。

 「準備オッケーにゃ。男子も入って来るにゃ」

 糸魚川と種子島と共に部屋に入る僕らを待っていたのは、髪を上で縛り上げて顔を全部晒している、青い部屋着ワンピース姿の陽向である。学校では前髪に隠れていて気付かなかったが、霊力の影響からか髪と同色の赤に染まっている瞳はやや目尻が下がった垂れ目気味であるが、幼らしさよりも可愛らしさを際立たせている。
 だが、羞恥からか着ているワンピースの裾をギュッと握っている仕草は子供っぽいものである。

 「いいいいいいいらっしゃいませ……」
 「「「お邪魔します」」」

 ガチガチの緊張を隠せない男子ぼくら。その緊張が初めて異性の部屋に入ることからくる緊張ではないということをわかってもらいたい。 
 
 まず目にするのはそんじょそこらの部屋よりも断然広い玄関ホール、玄関に靴はそのままで大丈夫と言われたが、誰が言うでもなくきちんと履物を揃えて並べる。その先のリビングに案内をされるのだが、そこまでの間にウォークインクローゼット1室と洋室が1室。リビングにたどり着いたらたどり着いたで、出てきた感想は『広い』――その一言に尽きる。一体これは何帖なんだとツッコミたくなるようなリビングには大人1人が寝ても余裕があるであろうソファと壁掛けの巨大テレビ、リビングに併設されたシステムキッチンにはIHとガスのコンロがそれぞれ1基ずつ、電子レンジやオーブントースター、果ては冷蔵庫は業務用ではないかと思いたくなるほどのサイズで設置されている。
 この他にも洋室が更に1室、客室が1室。シャワールームとトイレはそれぞれ2つずつ設置され、主寝室も当然のようにあった。

 「えっと……皆何飲む?」
 「とりあえず、ドンペリで」

 まるで自分の家のように寛ぐ剣持の頭を夜湖が奪い取り、前後左右に勢いよく振って黙らせる。

 「す、すぐに帰らなきゃいけないし水でいいよ!」
 「あ、そ、そうなんだ……うん、明日も学校だもんね」

 そう言って彼女は冷蔵庫から見たこともないペットボトルの封を開け、お盆に乗せた人数分の紙コップに水を注いで持ってきてくれる。(剣持を除いて)全員が恐る恐るそれを受け取り、一斉に口へと運ぶ。


 美味い―――

 言葉を失った。本来、水には味なんてものは存在せず、『軟水』だと口当たりがいいので、飲みやすく『硬水』だと飲み心地がスッキリしている。そのぐらいの違いしかない。だが、この水はどうだろうか…まるで空気を口に含んだようである。確実に、僕はこの水を飲んでいる。さっきまで緊張のしすぎでカラカラになってた僕の喉は確実に潤っているのだから。だが、あまりにもスッキリとしすぎており、飲みやす過ぎる為に、飲んだことにさえ気づかないのだ。

 この水の美味さに全員が気付いたらしく、勿体ないからとチビチビのむ三条や夜湖と異なり、仙狸や銀羽はグイっと飲み干すと厚かましくも「おかわり」ともう一杯を要求していた。

 
 ここは本当に僕らが知ってる国なのだろうか?もしかして『混沌災』がピンポイントでここに起きたのか?

 混乱の境地にいる僕に陽向が近付いて来る。もう僕のHPは0だというのに、今度はどんな驚きを味わわせようというのだ!?

 「つ、露峯さん、おかわりいりませんか」
 「も、貰います……」

 2杯目の水もメチャメチャ美味かった。
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