1000人の特盛召喚記 mobに憧れた876番目の転移者

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交通の都ヘパイドン

1.異世界転移

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 緑朗太なりに物語の主人公という存在に関して思うところはある。

 まず、巻き込まれ体質――これは、彼らがお人好しであるがゆえに、巻き込まれたのではなく、自ら進んで巻き込まれに行ったといえよう。その動機はわからないでもない。例えば幼い子供や女性が悪漢に襲われているのであれば、倫理道徳観念に押しつぶされそうになるのであろう。だが、襲っている相手が街のチンピラならいざ知らず、街を束ねるような領主なり貴族であったとすれば、話は別だ。中途半端な力しか持ち合わせないのであれば、関わるべきではない。もしも、主人公がご都合主義でなければ、瞬く間に犯罪者扱いだ。勇者なのに犯罪者扱い……漫画やゲームやラノベの主人公はなんだかんだで助かってしまうのだろう。前に助けた人が実はもっと偉い人であった、国の中枢に関わる重鎮であったetc...。だが、現実は甘くはない。そんな都合主義なんてない。イジめられっ子を助けたらイジメの対象が自分へと移る。ただそれだけである。

 次に、ハーレム。これまたご都合主義の権化である。助けた女の子が一概に可愛い子ばかり、クラスのマドンナ、学校一のアイドルが、誰もが憧れる生徒会長が自分の事を好いていて、その子らに平等に愛を振りまく?そんなことできるわけがない。平成日本のこのご時世、ワイドショーでやれ浮気だ不倫だで各界の著名人が叩かれる中、主人公は叩かれないのか?そんなわけはない。ハーレムなんてモノはまやかしである。彼は自ら彼女ができない=年齢であるのを僻みつつ頑なにハーレムを忌避し続けた。

 最後に反則能力、【チート】である。まず思い浮かぶのは無効化系。如何なる能力も打ち消すような理不尽。次に強奪系。どんな相手の特殊能力も奪ってしまうという理不尽。最後に成長系。人間の限界を超えた凄まじい成長をするか、或いは人の何十倍も成長をし易い理不尽。あとは召喚系や調教系であろうか。如何なる巨大な敵であろうと、それよりも更に巨大な怪物を使役することで無理やり勝利を収めるという理不尽。理不尽―――そう、理不尽ばかりだ。主人公は世界に平和を齎そうとする聖人君子から、俺様系等様々であろう。だが、魔王が退治されてしまった世の中では人々の驚異なんてものは主人公にしかいかないのではないか?核兵器よりも恐ろしい能力を兼ね揃えたのであれば、魔王の次に人々の畏怖や嫉妬の対象はより優れた者へと注がれるものだ。

 国を束ねる王だって気が気ではないだろう。己の心身をも顧みずに世界を救った主人公と、国を統治することに全てを注いだ王とでは民草からの支持も異なる。『王は主人公を魔王を退治するために遣わせた』と言葉にしてみればまるで王のお陰であるかのようだが、実際には主人公が全てやったのだ。魔王を倒した後に一国の姫と結婚をする話というのも珍しい展開ではない。彼らは自分たちの娘を人柱にして主人公を国に縛り付けようとしたのだ。王といえども人の親の筈なのに…必死さが垣間見えるというものである。

 緑朗太は以上の点から主人公というものが大嫌いである。だから、若い頃は常に思っていた。異世界に行ったら、俺は何もしない。勇者になんてなろうとも思わないし、英雄なんて真っ平御免だ。俺は、晴耕雨読のスローライフを楽しむんだ…。

 そして、彼の念願は叶えられて遂に異世界へと送られる日が来たのである。



 「●●●●●●●●●●●●●●!!」

 何者かの怒声が聞こえたことで緑朗太の意識は覚醒へと促された。目を開けるとそこは先程までいた緑と赤の空間ではなく、見慣れない道のど真ん中であった。パイプ椅子に腰掛けたまま、道のど真ん中に居座っている自分の正面には、馬のように巨大な四足歩行の蜥蜴に轡と鞍を着けて跨っている男が何かを叫んでいた。あぁ、きっと退けって事なんだな…言葉は分からずとも彼には何故か男の叫んでいる内容がわかった。翻訳の効果でもあるのかとも思ったが、残念ながらそういった機能ではないらしい。目の前の光景には少なからず驚きを覚えたが、どこの世界でも交通の邪魔をされたら怒るだろう。

 「ごめんごめん」と日本語で謝罪の言葉を投げかけて頭を下げた後、パイプ椅子を持って道の端へと移動をする。今度は立ち上がろうと思えばしっかり立ち上がれるし、拘束をされている様子はなかった。着ている服こそ拘束服のままではあるが、カラーリングが白黒から緑と赤に変わっている。存外に驚きが収まらないので、パイプ椅子に腰掛けようと思ったのだが、今の今まで手にしていたはずのパイプ椅子はいつの間にか手の中から消失しておりどこにも見えない。これは彼が気付かなかったことではあるが、パイプ椅子は道の端に移動をした時には既に彼の手の中から消失していたのである。

 地べたに座るという選択肢もあったのだが、取り敢えずここが何処でどう言う場所なのかを知りたかった緑朗太は、ここに至って自分と周囲の観察を開始した。ずっと座らされていたにも関わらず不思議なことに体の節々に痛みは感じず、両手両足はどこも怪我を負っていなさそうである。掌を見れば、会社の書類仕事が続いたせいでやや荒れ気味の自分の手である。別に若返ってたりはしなさそうだ。顔を触る。目、鼻、口、耳、全てある。髪も恐らく元のままだ。シャンプー代も馬鹿にならないので五分に刈り込んでいる黒髪――と思いきや、試しに1本引き抜いてみた彼の髪は緑色に変色をしていた。転移による後遺症か?と不審に思ったが、周囲を見れば緑どころか赤や青、黄色や緑など色とりどりの髪が多く、黒髪の人物はほとんど見かけなかった。
 「(これはこれで悪くないかもしれない。)」彼は自らの外見の変化にそこまで深く考えることをやめ、周囲の観察へと移行した。髪色は様々だが、衣服は一様に質素である。染色といった物をしていないのか、茶色から黄土色と言ったおそらく素材そのままの色味が強く、屈強そうな男たちの中には何かの動物の部位を張り付けたであろう防具を着込んでいるものもいる。その中で大分奇異な格好なのだろう。周囲の人達は時折彼を指さしながら何かを喋っているのだが、残念ながら何を喋っているのかさっぱりわからない。消える直前に、イリストはギルドを目指せと口にしていたがこれではギルドなんて夢のまた夢であろう。

 周囲の建物は煉瓦やコンクリートというわけではなく、かと言って木造ではない。石と泥で作られたなんとも原始的な作りをしている。触れば崩れるというわけではないが、ハンマーなどで殴ればもしかしたら穴ぐらいは簡単に開くかも知れないと容易に思わせた。窓は―――あった。完全な透明というわけではないが、硝子などは流通をしているようである。自身が今いる道路は交通の便が多い道であったのか、先程から蜥蜴の馬車もどきと人が引く荷車が通っている。その度に緑朗太へと奇異の視線を向けており、中には逃げるように去っていく人もいた。「(まぁ、そりゃあ怖いよな。)」と彼らに同情をすると共に「(もう少し楽な異世界転移でも良かったかな。)」と、ご都合主義を好まない彼にしては珍しくご都合主義を求めてしまうのであった。

 一先ず、ここにいてもなんの情報も得られないだろうと彼は馬車や荷車の進む先に自分も進んでみることにした。途中で出会う人々は皆やはり質素な格好をしているが、その髪や容姿は外人というよりはハーフに近い容姿である。こういうときは鼻が高くて、シュッと容姿ばかりだと思っていたのだが、明らかに日本人と同じだと言わんばかりの顔をしている人物も中には見かけたものである。緑朗太が声を掛けようとしても、逃げていってしまったのでおそらく現地人であったのだろう。この事からわかるように、まずは彼は服装を変えなければと決意するのであった。

 歩き続けること10分。馬車は外側を大きく迂回をしながら、荷車はその更に内側を馬車の邪魔にならないように時計回りにグルグルと回りながら目的地へと移動をする場所に躍り出た。現実世界でも目にしたロータリーのような光景である。その更に外側を人々は歩いている。壁際には露天商がズラリと並び、果物や動物と思しき物の肉、香辛料らしき粉末や果てはどのように使うのかわからない青銅の置物まで。目に見える全てが異世界の光景であることに緑朗太の心は歓喜で震えた。
 だが、心を奪われて話しかけようにも、彼は自らの見た目と言語を習得しなければならない。こういう場所であれば、詰所のような場所があっても良いのだろうけど…周りを見れば、そこにはいくつかの人の流れと行動の種類が分かれている。

 まず、買い物客を見る者。これは商人であると同時に、客引きだろう。異世界にいても自分達の下へと引き寄せようとする視線は変わらない。品定めをする目でもある。次に移動を目的とする者。目的地を見定めているのか、商人の言葉にも目もくれずにひたすら歩いている。買い物を目的とする者の視線は、移動を目的とするものに似ているが、時折見せる好奇心の視線を露店へと向けている。これも違う。ならば…そうして探すこと数分、彼は一人の男を見つけた。その場に大勢いる人々の中で、彼の者の装備が一番充実している。頭の天辺から足の先まで鉄製の鎧に包まれており、槍を右手に携えて壁際に立ち、人々の動きを見ている。周囲に詰所らしきものは見当たらないが、巡回のようなものだろうと予想し、彼は人波を掻き分けるように移動を開始した。時折ぶつかっては舌打ちをする者もいるのだが、スリであったのだろう。彼の持ち物なんて何もないので、盗めるようなものなど何もなく、期待はずれということだったのだろう。ようやく騎士らしき人物の前に辿り着いた彼を、騎士は訝しげな視線で見つめてきた。

 「すみません、私の喋っている言葉がわかりますか?」
 「●●●、●●●●●?●●●●……●●●。」

 やはり、緑朗太の言葉は通じなかった。だが、何か考えがあるのか騎士は彼に両手を広げ、「その場で待て」と促しているように聞こえ、言われるがままに彼はその場で待つことにした。それから直ぐに、騎士の下へと同じような格好をした一人の男がやってきた。驚いたことに、その騎士は緑朗太を見るなり気さくそうに手を挙げ、彼のよく知った言葉で話しかけてきたのである。

 「お、その格好…君も転移者?」
 「良かった…ようやく話がわかる人に会えた…」

 見た目からしておそらく緑朗太よりも若いであろう騎士は緑朗太の言うことがわかるのか、うんうんと何度も頷きながらにこやかな表情で右手を差し出し握手を求めてきた。緑朗太も右手を差し出して握手に応じる。鉄の冷たさを感じるが、金属越しでも感じる異世界で初めての人との繋がりに緑朗太も釣られて微笑みを浮かべるのであった。



 「どこから話したものか……取り敢えず、その格好は目立つから着替えようか。」
 「ありがとう…ございます。」
 「あぁ、敬語じゃなくていいよ。むしろ本来は俺が敬語で話さないといけないんだろうけど、すみませんね、敬語が苦手なもんで。」
 「そうか。話し方を崩していいなら助かる。堅苦しいのは俺も苦手だから気にしなくていい。」
 「そりゃあ助かる。」

 同郷と思しき騎士に詰所のような場所に連れてこられた緑朗太は、渡された半袖短パンの衣服に袖を通す。着心地はゴワゴワでお世辞にも着やすいとは言い難い。何か得体の知れない臭いもするが、騎士曰くそういう匂いのする洗剤を使用しているとのことであった。

 「それで…ここはどこなんですか?イリストって奴からはアグムントのモーリッツって聞かされてるんですけど…」
 「その認識で間違いはない。ここはモーリッツの中でも中央からは割と離れた【ヘパイドン】って町だ。そうだな…一応交通の都ってことにはなってるな。というか、そんなアバウトな説明しかしないなんて…今回の転移はかなりお粗末なんだな。」

 やはり雑だったのか…。苛立ちを隠さない騎士に、緑朗太は今回の転移が今までと規模が異なるということを告げた。その内容には流石の騎士も予想外だったのか「は!?1000人!?」と立ち上がって人目も気にせずに大声で叫ぶほどである。

 「マジか…俺の時は10人だったのに…。」
 「え、たったの10人だったのか?」
 「あぁ……転移先の説明やスキルやステータス、レベルアップから言語習得まで一通りの講習が終わってから飛ばされたから何とかなったが…」

 あまりの待遇の違いに緑朗太は絶句せざるを得ない。スキルやステータスの説明は一切なく、言語習得もなかった。精々こっちに飛ばされる際に自動で付与されるものだと楽観的に思い込んでいた自分が情けないとさえ思い、頭を抱えた。そんな緑朗太の様子を勘違いしたのか、騎士の男は緑朗太の肩を慰めるようにポンと叩いた。

 「この街に俺がいたのが不幸中の幸いだな。取り敢えず、お前さんが暮らせるようになるまでは俺がなんとか面倒を見るよ。俺の名前は黄馬 拓郎。黄色い馬って書いてきば、○田拓郎のたくろうだ。拓郎とでも呼んでくれ。」

 「わかった、拓郎って呼ぶことにする。俺は縁 緑朗太。緑に太朗を逆さにして緑朗太だ。緑朗太かロクって呼んでくれ。」

 「OKだロクさん。」

 甲冑の手甲を外してガッシリと握手をする2人。こうして緑朗太の異世界転移は幕を開けたのであった。



 緑朗太は拓郎の仕事が終わるまでの間、拓郎に渡されたこの世界の言葉の翻訳本を読み老けていた。本と言っても上質なものではなく、大きめの紙をいくつか纏めただけの資料の束とでも言えるものであるが、彼にしてみればこれ以上ないほどに貴重な物であった。

 まず、この世界の基本言語は英語に近いものであった。だが、英語を日常会話程度喋れる緑朗太でも道行く人が何を喋っているのかを理解するのは難しかった。恐らくこれが主語であり、述語であろうというのは認識できるのだが、英語と比べると発音がドイツ語やフランス語に近い。かと思えば、日本語か?と疑うような言語が混じっており、しかもそれは自身の知る物であった。
 発音は濁音よりも半濁音を多用し、アに【゜】を付けなければならない発音もあった時は流石に慣れないと無理だろうなと練習を繰り返すばかりである。拓郎が帰ってくるまで発音の練習が続き、試しに拓郎に「おはよう、拓郎」とこちらの言語で喋ってみると「超カタコトだな」と笑いが起きた。慣れないとこんな感じである。

 緑朗太のこともあるので仕事を早く引かせてもらえたとのことであり、まだ夕暮れどきという時間帯で拓郎は緑朗太を【ギルド】への案内をしてくれるということになった。道を歩く人の流れは緑朗太が来た時よりも明らかに混雑しており、この中を歩くのかと思うと、気持ちが滅入ってしまった緑朗太だったが、拓郎は「俺から離れるなよ」と人波を物ともせずに歩き始める。その後ろを着いて行く緑朗太だが、拓郎の後を歩いてみると彼の掻き分けた道を歩くのだから歩きやすかった。
 そうして歩き続けると、拓郎が一件の建物へと入っていった。そこは建物の造りが周囲と異なるブロック煉瓦を積み上げたような壁に囲まれており、交差するカクテルグラスと剣の絵が看板に描かれている【ギルド会館】であった。中に入ると二階建ての建物であったことがわかり、酒場と役所が合わさったような不思議な空気であった。惚けていると、酒場と思しきカウンターに座って「こっちだこっち!」と拓郎が手を振っている。
 酒場の賑わいは夕方時だからなのか、拓郎の隣以外はどこも満席と言わんばかりに混雑しており、拓郎の横に座った緑朗太に熊と見間違える程に体格が厳つい傷で左目を潰した酒場の主人がやってきて何かを語りかけてきた。何を喋ったのかわからない緑朗太の横で拓郎が何かを話すと、主人は頷いて直ぐに木のジョッキに注がれた飲み物を2つ運んできた。

 「なんて言ったんだ?」
 「あぁ、「こいつは【星の流れ者】だから、言葉がわかんないんだ。取り敢えずエールを2つ」って言ったんだよ。」

 星の流れ者、初めて聞く単語に緑朗太が首を傾げると、そんなことも知らないのかと言わんばかりに拓郎は眉根を狭めた。ジョッキを手にした拓郎が緑朗太にもジョッキを持つように促すと、緑朗太も言われるがままコップを手にし、「乾杯」とジョッキをぶつけてごくごくと喉を鳴らしながら飲み始めた。星の流れ者に関して知りたかったが、乾杯をしたこともあり、緑朗太も同じようにジョッキの中身を流し込む。冷えていないエールはお世辞にも美味い物ではなかったが、久しく水を飲んでいなかったことを思い出し、それまで忘れていた喉の渇きを潤すように一気に飲み干してしまった。

 「お、ロクさん良い飲みっぷりだな。」
 「何も飲んでなかったから喉が渇いてたんだよ。ところで拓郎…星の流れ者ってなんだ?」
 「あぁ、そのことか…はぁ…そのイリストってやつ…いや、イリストが所属してる神はよっぽどいい加減な奴だったんだな。星の流れ者っていうのはつまり転移者のことだ。」

 ゴクリともう一飲みした拓郎は酒場とは異なる区役所や郵便局を思わせるカウンターを指差す。

 「あそこがイリストが言ってた【ギルド】だ。だが、ギルドの登録には身分証明書が必要となるし、何より言葉を習得してないのに登録も糞もない。どんだけハードモードな転移だよ…まるで1000人のうち何人かは死ぬこと前提みたいな送り込み方…数打ちゃ当たるってか?まぁ良い。本来、町に入るにも身分証明書が必要になる。だが、転移者には当然身分証明書なんてものは存在しない。国はそんな奴らを総じて【星の流れ者】って言うことにして保護する政策を作ったのさ。」
 「ちょっと待て。国が保護するように言ってたなら安全なんじゃないのか?死ぬこと前提ってどういうことだ?」
 「平成の日本にいたら、そりゃあそういう発想にもなるか。あれだ。国が定めているからって別に誰もがそれに従っているわけじゃないだろ?少なくとも奴隷なんてものはこの国は容認していないが、実際に街には人的資源として流通している。ってことは、何も知らない、戸籍すらない奴らなんて裏の連中にしてみれば臓器売買や奴隷の格好の餌食って訳さ。」

 空っぽになった緑朗太のジョッキを受け取った拓郎は自分の空になったジョッキと共に酒場の店主に返し、新しいエールを受け取る。緑朗太は転移前に知り合った奏や黄色髪の青年を思い出し、顔を青くさせていた。ほんの僅かな知り合いでしかないのだが、そんな彼らが奴隷になっていたり、最悪の場合殺されているといった光景を想像してしまったのだ。

 「それで、イリストは他になんて言ってた?」
 「イリストが言うには、今回召喚をされたのは魔王に運命を狙われた連中らしい。あっちの世界で魔王に狙われているから、一層のことこっちに飛ばして魔王の捕食の矛先を有耶無耶にするってことらしい。召喚者は国王だとさ。」

 説明を受けた拓郎はジョッキを呷ると、何やら思考に耽けている。

 「拓郎の時は違ったのか?」

 緑朗太の質問に拓郎は首肯し、自分達の召喚理由を告げた。どうやら、拓郎達は魔王軍を倒す為の使者として召喚をされたらしいのだが、拓郎達の他にも実は何柱もの神々が使者を送り込んでいるようで、詰まるところ世の中には勇者が溢れかえっているらしい。その答えに緑朗太は思わず「はぁ?」と言わずにはいられなかった。それだけの勇者がいるのに自分達がこちらの世界に来なければならない状況になったというのが信じられなかった。

 「勇者が弱いのか魔王が強いのか……。」
 「まぁ、ロクさんからしたらそんだけ勇者がいるのになんで自分が、って思うところなんだろうけどな。はっきり言って勇者なんて肩書きもらってもそこまで強くはないのさ。想像してみろよ。つい昨日まで喧嘩だってまともにした事がないやつらがいきなり命懸けで戦えなんて…出来るわけないさ。」

 それもそうか、と嘆息して緑朗太は拓郎と同じくジョッキの中身を呷り、酒で思考を鈍らせようとした。だが、酔えない。酒に強いわけではないが、いつまでも思考ははっきりとしたままである。

 「ステータスやレベルっていうのはつまり、ゲームみたいな感じでいいのか?」
 「お、ロクさんゲームやる人?基本的にはそれで構わないよ。」

 そこはゲームと同じなのかと安堵した緑朗太だが、話を聞くにつれてどうやら想像をしているものとは少し違うのだということを思い知らされ、先ほどの拓郎と同じように眉根を狭めた。

 「まず、ステータスだがこれは言葉通りだな。ゲームのHPとかMPとか、あとはSTRとかそんな所だ。けど、これは俺らのステータスであって俺ら自身の能力じゃない。」
 「同じ意味じゃないのか?」
 「ちょっと違う。例えば、ここにいる酒場のマスターだが、元冒険者でレベルは54と割と高い。それに対して、俺のレベルは74と20も高い。さて、そこで俺とマスターが力比べをしたとする。するとどっちが勝つと思う?」
 「拓郎じゃないのか?」
 「正解。じゃあマスターが俺と同じレベルだったら?」

 最初の質問の答えは簡単であったのだが、続く質問内容を想像した緑朗太は即答することができず、考え込むことになる。導き出した答えは――

 「それは……マスターか?」
 「正解。その様子だと答えがわかったみたいだな。」
 「つまり、ステータスやレベルが全てじゃないってことか。」
 「スキルも含めてな。ありとあらゆる戦闘系スキルをもった勇者も歴戦の勇士の前ではひよっこと大差がない。実戦経験の差っていうのもあるけど、結局のところ戦い方を知らないんだ。そんな奴らが集まったって簡単に魔王は倒せないさ。そんな簡単に倒せるならとっくに誰かが倒してるはずだしな。」
 「そりゃあそうだ。」
 「俺らに説明をした【バロウズ】って神の遣いは服と皮膚の間に薄い膜があって、レベルとかの恩恵は全てそこに注がれるんだとさ。」
 「あくまでもレベルとステータスとスキルは補助ってことか。魔法とかはスキルに含まれるのか?」
 「そのあたりは努力次第だな。魔法を使いやすいスキルもあるけど、正直言って夢も希望もないさ。」
 「俺TUEEは無理そうか…」
 「あぁ、やっぱり一度は夢見るよな!!」

 重たい内容ばかりだった会話に共通の話題が生まれたことで、緑朗太と拓郎は互いに笑い合って2回目の乾杯をするのであった。2杯目のエールを飲み終えたところで拓郎が首にかけたペンダントを取り出して緑朗太に見せる。「それは?」と緑朗太が尋ねると、「これがイリストがギルドで見せたかったものだろう」と話し始めた。

 「これはギルドカード。カードっていうよりタグだな。もしくはUSBカードか。これをギルドの窓口に持っていくと自分の経験したクエストやら滞在日数やらステータスやらを確認できるんだ。スキルとかの確認もこれが必要になる。あとは【鑑定】スキルの使い手っていうのも人のステータスを見ることはできるけど、そんなのは滅多にいないな。いたとしても覗き見野郎扱いされるのがオチだ。」
 「鑑定は道具の鑑定だけじゃなくて人の鑑定もできるのか?」
 「鑑定だからな。なんでも見れるんだろうさ。前に鑑定を持ってた奴がいたけど、そいつは早々に周りにそのことを吹聴して歩いてたら、結構大きめのクランに入って使い潰されて死んだよ。まぁ、調子に乗りすぎないっていうのがこの世界の鉄則だな。肝に銘じておくことだ。」
 「だな。」

 あれ程までに緑朗太が恋焦がれた異世界の現実は、3杯目のエールを飲んでもなお彼を酔わせることがない程に重くのしかかるのであった。
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