やり直しで健康的な人生に！

キッチンから始まる新しい自分

土曜日の朝。窓から差し込む柔らかな光に包まれながら、私はエプロンを身につけた。
かつての私は、料理どころか自炊もままならず、コンビニやカップ麺が常連だった。だけど、今の私は違う。

「さて、今日は……朝ごはん、しっかり作ってみようかな」

炊き立てのご飯に、出汁からとった味噌汁、焼き鮭、そして卵焼き。
テレビや本で見たような“ちゃんとした朝ごはん”を、今の私の手で作る。

包丁を使う手つきはまだぎこちない。でも、ひとつひとつの動作が、どこか心地いい。
味噌を溶かす時の香りや、ご飯の炊ける音。それらが、私の心にふわりとした温もりを与えてくれる。

「未来、朝ごはん？」

リビングからお父さんの声がして、私は「うん！」と明るく返事をした。

テーブルに並べた朝食を見て、お父さんは少しだけ目を丸くした。

「……なんだか、母さんがいた頃みたいだな」

その言葉に、胸の奥が少しきゅっとなった。でも、私はにっこり笑った。

「そうだね。でも、今度は私が作るから。お父さんの分も、私の分も」

お父さんは少し照れくさそうに目をそらして、「……頼りにしてるよ」と呟いた。

―――

午後、私は街の図書館に向かった。料理の本をもっと読んで、レパートリーを増やしたかったからだ。
中学生が一人で図書館なんて、少し大人びて見えるかもしれないけど、私はワクワクしていた。

料理の棚の前で本を選んでいると、ふと背後から声をかけられた。

「……浅倉さん？」

振り返ると、そこにいたのは一ノ瀬 晴翔だった。

制服ではなく、私服姿の彼は、黒のパーカーにジーンズというシンプルな格好だけれど、すごく似合っていた。

「えっと……こんにちは。一ノ瀬くんも、図書館来るんだ」

「妹に絵本借りてこいって言われて」

彼は苦笑しながら、小さな絵本を一冊手に持っていた。

「浅倉は？」

「料理の本。最近ちょっと興味があって」

そう言うと、彼は少しだけ目を細めた。

「へぇ、意外。家で作ったりするの？」

「うん、毎日じゃないけど……少しずつ練習してるの。ちゃんとしたご飯、作れるようになりたくて」

未来のことを話すのは、少し照れくさかったけど、それ以上に胸を張って言えるようになっている自分に気づいた。

「……それ、すごいと思うよ」

ポツリとつぶやいた彼の声は、思ったよりも優しかった。

「……じゃあ、また学校で」

「うん。またね」

図書館を出る彼の背中を見送りながら、私は静かに息を吐いた。

（やっぱり、ちょっと不器用だけど優しいな……）

そう思った自分に驚きながらも、なぜか頬があたたかくなるのを感じた。

この世界での人生を、私はひとつずつ丁寧に重ねていく。
キッチンから始まったこの変化が、私の未来をきっと大きく変えていくはずだから。