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お弁当に込めた気持ち
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「……ねぇ、未来お姉ちゃん」
ある日、結菜ちゃんが少しだけもじもじしながら声をかけてきた。
学校からの帰り道、一ノ瀬家に立ち寄った私を、そわそわとした表情で見上げてくる。
「どうしたの?」
「今度の金曜日、遠足なんだけど……。あのね……その……」
言葉に詰まる結菜ちゃんを、私はしゃがんで目線を合わせて、やさしく待った。
ようやく口を開いたその小さな声には、ほんの少しの勇気がにじんでいた。
「お弁当、未来お姉ちゃんが作ってくれたら……うれしいなって……」
心が、じんわりとあたたかくなった。
最初はあんなにそっけなかった子が、今ではこうして、私にお願いしてくれるようになったなんて。
「うん、いいよ。じゃあ、好きなもの、教えて?」
「えっと……卵焼き! あと、ハンバーグ! それから……あっ、未来お姉ちゃんが作ってくれたきんぴらも好き!」
「ふふ、たくさんあるね。よーし、張り切って作っちゃおうかな」
⸻
遠足当日の朝。
少し早起きして、私は心を込めてお弁当を作った。
ほんのり甘い卵焼きに、ジューシーな一口ハンバーグ。
赤ピーマンとごぼうのきんぴらに、彩りのブロッコリー。
そしてデザートには、りんごの薄切りをウサギの形に。
「うん、いい感じ。あとは……これを」
私は最後に、そっと手紙を添えた。
ちいさなメッセージカードには、こう書いた。
《がんばれ、ゆなちゃん! 今日もたのしい1日になりますように。 未来お姉ちゃんより》
⸻
放課後、一ノ瀬家を訪ねると、玄関が開いた瞬間――
「未来お姉ちゃあああん!」
結菜ちゃんが飛びついてきた。
その目には涙が浮かんでいて、思わず驚く。
「えっ、ど、どうしたの?」
「ちがうの、うれしくて……! 未来お姉ちゃんのお弁当、ぜんぶおいしかったし、手紙も読んだの! 友だちも“すごいね!”って言ってくれて、私、自慢しちゃった!」
私は思わず、結菜ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「よかった……気に入ってくれて」
「うんっ、すっごくうれしかった! お兄ちゃんにも見せたら、“へぇ、未来が?”って言って……ちょっと照れてたよ?」
「えっ、照れてたの?」
「うん、“本当にすげーな”って!」
なんだか胸の奥がくすぐったくて、私は自然と笑顔になっていた。
家族じゃないのに、家族みたいに大切に想ってくれる子がいて。
その子の一日を、私の料理で少しでも明るくできたなら――それが、何より幸せだと思えた。
⸻
その日の夜。
ふと、スマホの通知を見ると、一通のメッセージが届いていた。
《結菜本当によろこんでたよ。どうもありがとう。――晴翔》
ほんの短い言葉なのに、胸がじんと熱くなる。
私はスマホを抱きしめるようにして、そっと返事を打った。
《私のほうこそ、ありがとう。また学校でね》
未来は、きっとまだまだこれから。
だけど――私はもう、一人じゃない。
この手で作った料理が、誰かの心を温めていく限り。
ある日、結菜ちゃんが少しだけもじもじしながら声をかけてきた。
学校からの帰り道、一ノ瀬家に立ち寄った私を、そわそわとした表情で見上げてくる。
「どうしたの?」
「今度の金曜日、遠足なんだけど……。あのね……その……」
言葉に詰まる結菜ちゃんを、私はしゃがんで目線を合わせて、やさしく待った。
ようやく口を開いたその小さな声には、ほんの少しの勇気がにじんでいた。
「お弁当、未来お姉ちゃんが作ってくれたら……うれしいなって……」
心が、じんわりとあたたかくなった。
最初はあんなにそっけなかった子が、今ではこうして、私にお願いしてくれるようになったなんて。
「うん、いいよ。じゃあ、好きなもの、教えて?」
「えっと……卵焼き! あと、ハンバーグ! それから……あっ、未来お姉ちゃんが作ってくれたきんぴらも好き!」
「ふふ、たくさんあるね。よーし、張り切って作っちゃおうかな」
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遠足当日の朝。
少し早起きして、私は心を込めてお弁当を作った。
ほんのり甘い卵焼きに、ジューシーな一口ハンバーグ。
赤ピーマンとごぼうのきんぴらに、彩りのブロッコリー。
そしてデザートには、りんごの薄切りをウサギの形に。
「うん、いい感じ。あとは……これを」
私は最後に、そっと手紙を添えた。
ちいさなメッセージカードには、こう書いた。
《がんばれ、ゆなちゃん! 今日もたのしい1日になりますように。 未来お姉ちゃんより》
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放課後、一ノ瀬家を訪ねると、玄関が開いた瞬間――
「未来お姉ちゃあああん!」
結菜ちゃんが飛びついてきた。
その目には涙が浮かんでいて、思わず驚く。
「えっ、ど、どうしたの?」
「ちがうの、うれしくて……! 未来お姉ちゃんのお弁当、ぜんぶおいしかったし、手紙も読んだの! 友だちも“すごいね!”って言ってくれて、私、自慢しちゃった!」
私は思わず、結菜ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「よかった……気に入ってくれて」
「うんっ、すっごくうれしかった! お兄ちゃんにも見せたら、“へぇ、未来が?”って言って……ちょっと照れてたよ?」
「えっ、照れてたの?」
「うん、“本当にすげーな”って!」
なんだか胸の奥がくすぐったくて、私は自然と笑顔になっていた。
家族じゃないのに、家族みたいに大切に想ってくれる子がいて。
その子の一日を、私の料理で少しでも明るくできたなら――それが、何より幸せだと思えた。
⸻
その日の夜。
ふと、スマホの通知を見ると、一通のメッセージが届いていた。
《結菜本当によろこんでたよ。どうもありがとう。――晴翔》
ほんの短い言葉なのに、胸がじんと熱くなる。
私はスマホを抱きしめるようにして、そっと返事を打った。
《私のほうこそ、ありがとう。また学校でね》
未来は、きっとまだまだこれから。
だけど――私はもう、一人じゃない。
この手で作った料理が、誰かの心を温めていく限り。
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