7 / 18
告白なんて、まだ早い?
しおりを挟む
夕焼けが差し込む教室で、私は一ノ瀬晴翔くんと並んで机に向かっていた。
中間テストが近いということで、放課後の勉強会。彼は理数系が得意で、私はどちらかというと国語や家庭科の方が好き。お互いに教え合いながら、少しずつ仲も深まっていった。
「ここ、わかんないんだけど……」
私が数学の問題を指差すと、晴翔くんは軽くため息をつきながらも、隣に椅子を寄せて教えてくれる。
「これは公式覚えてるかどうかだけ。……ほら、こうして代入して──」
「……あ、そっか。なるほど」
「飲み込み早いじゃん」
ぽん、と軽く頭をなでられて、心臓が跳ねた。
そんなことされたら、勉強どころじゃなくなっちゃうよ……。
「……こっちは、まだ教えてないでしょ?」
私は照れ隠しに国語の問題集を手に取ると、今度は逆に彼に説明を始める。
言葉に詰まる彼の顔を見るのが、ちょっと楽しい。たぶん、お互い様なんだけど。
⸻
「……なあ、未来って、なんで料理始めたの?」
一段落ついたところで、晴翔くんがぽつりと聞いてきた。
「え?」
「前からうまかったの? それとも、何かきっかけがあったの?」
私は少し迷ってから、静かに答えた。
「お母さんが亡くなってから……お父さんに、少しでも喜んでほしくて。でもうまくいかなくて、何年もすれ違って……」
「……そっか」
「だから、今は後悔しないようにしたくて。ごはんって、人と人をつなぐっていうか……少しだけでも、あったかい気持ちになってくれたら、いいなって思ったの」
「……ちゃんと、届いてるよ」
不意に、彼の声がまっすぐで、どこか優しかった。
思わず顔を上げると、真剣な眼差しでこっちを見ていた。
「結菜だけじゃなくて、親父も……俺も。お前がいると、家があったかくなる」
「……それって、なんか照れるね」
「俺の方が照れてるわ」
二人して笑って、また少しだけ距離が近づいた気がした。
⸻
帰り道。
薄暗くなった空の下を並んで歩いていると、ふいに風が吹いて、私は小さなくしゃみをした。
「……バカ。薄着すんなって言ったろ」
彼がさりげなく自分の制服の上着を脱いで、私の肩にかけてくれた。
「だ、大丈夫だよ! 晴翔くんが寒くなっちゃう!」
「いいの。女の子が風邪ひいたら、お兄ちゃん的に結菜に怒られる」
「……ふふ、たしかに」
私はそのまま、彼の上着の温もりを感じながら歩いた。
胸の中が、じんわり温かくて。
でもどこか、くすぐったいような、そわそわするような気持ちもあって。
――これって、恋?
「ねえ、未来」
立ち止まった彼が、少しだけ口を開いて、何か言おうとして……やめた。
「……なんでもない」
「えっ、気になるんだけど……」
「いいから。テスト終わったら言う」
そう言って彼は、少しだけ照れくさそうに笑った。
(なにそれ、ずるい……)
告白なんて、まだ早い?
それとも、もうすぐ?
そんなことを思いながら、私は少しだけ早足になって、隣を歩く彼に笑いかけた。
中間テストが近いということで、放課後の勉強会。彼は理数系が得意で、私はどちらかというと国語や家庭科の方が好き。お互いに教え合いながら、少しずつ仲も深まっていった。
「ここ、わかんないんだけど……」
私が数学の問題を指差すと、晴翔くんは軽くため息をつきながらも、隣に椅子を寄せて教えてくれる。
「これは公式覚えてるかどうかだけ。……ほら、こうして代入して──」
「……あ、そっか。なるほど」
「飲み込み早いじゃん」
ぽん、と軽く頭をなでられて、心臓が跳ねた。
そんなことされたら、勉強どころじゃなくなっちゃうよ……。
「……こっちは、まだ教えてないでしょ?」
私は照れ隠しに国語の問題集を手に取ると、今度は逆に彼に説明を始める。
言葉に詰まる彼の顔を見るのが、ちょっと楽しい。たぶん、お互い様なんだけど。
⸻
「……なあ、未来って、なんで料理始めたの?」
一段落ついたところで、晴翔くんがぽつりと聞いてきた。
「え?」
「前からうまかったの? それとも、何かきっかけがあったの?」
私は少し迷ってから、静かに答えた。
「お母さんが亡くなってから……お父さんに、少しでも喜んでほしくて。でもうまくいかなくて、何年もすれ違って……」
「……そっか」
「だから、今は後悔しないようにしたくて。ごはんって、人と人をつなぐっていうか……少しだけでも、あったかい気持ちになってくれたら、いいなって思ったの」
「……ちゃんと、届いてるよ」
不意に、彼の声がまっすぐで、どこか優しかった。
思わず顔を上げると、真剣な眼差しでこっちを見ていた。
「結菜だけじゃなくて、親父も……俺も。お前がいると、家があったかくなる」
「……それって、なんか照れるね」
「俺の方が照れてるわ」
二人して笑って、また少しだけ距離が近づいた気がした。
⸻
帰り道。
薄暗くなった空の下を並んで歩いていると、ふいに風が吹いて、私は小さなくしゃみをした。
「……バカ。薄着すんなって言ったろ」
彼がさりげなく自分の制服の上着を脱いで、私の肩にかけてくれた。
「だ、大丈夫だよ! 晴翔くんが寒くなっちゃう!」
「いいの。女の子が風邪ひいたら、お兄ちゃん的に結菜に怒られる」
「……ふふ、たしかに」
私はそのまま、彼の上着の温もりを感じながら歩いた。
胸の中が、じんわり温かくて。
でもどこか、くすぐったいような、そわそわするような気持ちもあって。
――これって、恋?
「ねえ、未来」
立ち止まった彼が、少しだけ口を開いて、何か言おうとして……やめた。
「……なんでもない」
「えっ、気になるんだけど……」
「いいから。テスト終わったら言う」
そう言って彼は、少しだけ照れくさそうに笑った。
(なにそれ、ずるい……)
告白なんて、まだ早い?
それとも、もうすぐ?
そんなことを思いながら、私は少しだけ早足になって、隣を歩く彼に笑いかけた。
10
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます
さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。
パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。
そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。
そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる