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想いを込めてチョコを
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バレンタイン当日の朝。
制服のポケットに忍ばせた、小さな包み。
それが、やけに重たく感じた。
「……深呼吸、深呼吸……!」
鏡の前で何度もリハーサルした言葉。
「これ、よかったら食べてください」――
ううん、もっと自然に「はい、どうぞ!」くらいがいいのかな……?
結局、どんな言葉が一番いいのかなんてわからないまま、登校の時間がきてしまった。
⸻
「おはよう、未来!」
「……あっ、結菜ちゃん! おはよう!」
一ノ瀬家の前でちょうど出てきた結菜ちゃんと、玄関先でばったり。
「お兄ちゃん、まだ朝ごはん食べてるよ~」
「そ、そっか……!」
「ねえねえ、今日あげるチョコ、持ってきた?」
「うん、ちゃんと……ほら」
私は鞄から、小さな赤いリボンのついた包みをそっと取り出した。
「うわ~、かわいい~! 未来お姉ちゃんらしいね!」
「ありがとう……結菜ちゃんのも、ちゃんと持ってきた?」
「うん! がんばってつくったよっ」
二人で小さくガッツポーズ。
この時間が、ほんの少し私の背中を押してくれる。
⸻
教室に着くと、女子たちがすでにそわそわと何かを隠している気配。
「……やっぱり、バレンタインってみんな気合い入れてるんだなあ」
私は机の中にそっとチョコを忍ばせて、タイミングを見計らうことにした。
だけど――
「未来」
振り返ると、そこには晴翔くんが立っていた。
「……ちょっと、屋上こないか?」
「えっ?」
思わず声が裏返ってしまう。
「……あ、別に変な意味じゃなくて。なんか……お前、今日そわそわしてるから、さ」
私は一瞬固まって、それから思い切って頷いた。
⸻
屋上は、まだ冷たい風が吹いていたけれど、ふたりきりの空間は妙にあたたかく感じた。
「……で、その、なんかあんの?」
「……うん、あの……これ」
私は、震える手でポケットから包みを取り出して、彼の手にそっと乗せた。
「バレンタインのチョコ……手作り、なんだけど。よかったら、食べてくれると嬉しいな」
彼は少し目を丸くして、それからゆっくりと包みを見つめた。
「……未来、が作ったの?」
「うん……結菜ちゃんと一緒に、練習して、何回も試作して……その、今日の朝、最後にもう一回焼いたの」
沈黙。
でも、それは決して気まずい沈黙じゃなかった。
彼は包みを受け取って、ふっと笑った。
「ありがとう。すっげえ、嬉しい」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
「……俺も、ちょっと待ってて」
「え?」
彼はリュックの中をゴソゴソと探して、なにかを取り出した。
「これ……昨日、結菜が“絶対お返しするんだよ!”ってうるさくてさ……手伝って作った。クッキーだけど」
「えっ、うそ、くれるの!?」
「……うん。チョコもらえるかはわかんなかったけど……もらえたら、渡そうって思ってた」
照れくさそうに笑うその顔を見て、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
“この人のそばにいたい”――
心の底からそう思った。
⸻
放課後、結菜ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「未来お姉ちゃん! お兄ちゃん、すっごくうれしそうだったよ!」
「えっ、見てたの?」
「うん、ちょっとだけ屋上のドアから……」
「もう~、こっそり見ないの~!」
「でも……未来お姉ちゃんがお嫁さんになるの、結菜は大賛成だから!」
にっこりと笑うその顔に、私は思わずぎゅっと抱きしめた。
⸻
バレンタインは、ただ甘いだけじゃない。
勇気と、あたたかさと、心のつながりをくれる。
私は今日、ひとつの想いを伝えた。
そして、それがちゃんと届いた気がする。
制服のポケットに忍ばせた、小さな包み。
それが、やけに重たく感じた。
「……深呼吸、深呼吸……!」
鏡の前で何度もリハーサルした言葉。
「これ、よかったら食べてください」――
ううん、もっと自然に「はい、どうぞ!」くらいがいいのかな……?
結局、どんな言葉が一番いいのかなんてわからないまま、登校の時間がきてしまった。
⸻
「おはよう、未来!」
「……あっ、結菜ちゃん! おはよう!」
一ノ瀬家の前でちょうど出てきた結菜ちゃんと、玄関先でばったり。
「お兄ちゃん、まだ朝ごはん食べてるよ~」
「そ、そっか……!」
「ねえねえ、今日あげるチョコ、持ってきた?」
「うん、ちゃんと……ほら」
私は鞄から、小さな赤いリボンのついた包みをそっと取り出した。
「うわ~、かわいい~! 未来お姉ちゃんらしいね!」
「ありがとう……結菜ちゃんのも、ちゃんと持ってきた?」
「うん! がんばってつくったよっ」
二人で小さくガッツポーズ。
この時間が、ほんの少し私の背中を押してくれる。
⸻
教室に着くと、女子たちがすでにそわそわと何かを隠している気配。
「……やっぱり、バレンタインってみんな気合い入れてるんだなあ」
私は机の中にそっとチョコを忍ばせて、タイミングを見計らうことにした。
だけど――
「未来」
振り返ると、そこには晴翔くんが立っていた。
「……ちょっと、屋上こないか?」
「えっ?」
思わず声が裏返ってしまう。
「……あ、別に変な意味じゃなくて。なんか……お前、今日そわそわしてるから、さ」
私は一瞬固まって、それから思い切って頷いた。
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屋上は、まだ冷たい風が吹いていたけれど、ふたりきりの空間は妙にあたたかく感じた。
「……で、その、なんかあんの?」
「……うん、あの……これ」
私は、震える手でポケットから包みを取り出して、彼の手にそっと乗せた。
「バレンタインのチョコ……手作り、なんだけど。よかったら、食べてくれると嬉しいな」
彼は少し目を丸くして、それからゆっくりと包みを見つめた。
「……未来、が作ったの?」
「うん……結菜ちゃんと一緒に、練習して、何回も試作して……その、今日の朝、最後にもう一回焼いたの」
沈黙。
でも、それは決して気まずい沈黙じゃなかった。
彼は包みを受け取って、ふっと笑った。
「ありがとう。すっげえ、嬉しい」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
「……俺も、ちょっと待ってて」
「え?」
彼はリュックの中をゴソゴソと探して、なにかを取り出した。
「これ……昨日、結菜が“絶対お返しするんだよ!”ってうるさくてさ……手伝って作った。クッキーだけど」
「えっ、うそ、くれるの!?」
「……うん。チョコもらえるかはわかんなかったけど……もらえたら、渡そうって思ってた」
照れくさそうに笑うその顔を見て、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
“この人のそばにいたい”――
心の底からそう思った。
⸻
放課後、結菜ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「未来お姉ちゃん! お兄ちゃん、すっごくうれしそうだったよ!」
「えっ、見てたの?」
「うん、ちょっとだけ屋上のドアから……」
「もう~、こっそり見ないの~!」
「でも……未来お姉ちゃんがお嫁さんになるの、結菜は大賛成だから!」
にっこりと笑うその顔に、私は思わずぎゅっと抱きしめた。
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バレンタインは、ただ甘いだけじゃない。
勇気と、あたたかさと、心のつながりをくれる。
私は今日、ひとつの想いを伝えた。
そして、それがちゃんと届いた気がする。
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