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新しい夢、芽吹く頃
しおりを挟むバレンタインが過ぎたある日、私は部屋でふと立ち止まった。
目の前には、いつも使っているレシピノート。
ページをめくるたびに、自分の成長が刻まれているようで少しくすぐったい。
「……わたし、もっとたくさんの人に、料理の楽しさを届けられたらいいのにな」
そうつぶやいた時、ふと目に入ったのは、パソコンの画面。
おすすめに出てきた、外国の女性が料理を紹介している動画。
「これ……動画でレシピを紹介してるんだ……」
当時は、YouTubeなんてまだ聞き慣れない頃。
でも、どこか惹かれるものがあった。
⸻
「未来お姉ちゃん、YouTubeってなに?」
ある日、一ノ瀬家で夕飯の手伝いをしていた時、結菜ちゃんが首をかしげた。
「んーとね、動画を撮って、いろんな人に見てもらえるサイトみたいな感じかな」
「ふーん、未来お姉ちゃんもやるの?」
「うん、やってみようかなって……まだ迷ってるけど」
「絶対やったほうがいいよ! だって、未来お姉ちゃんのごはん、世界一おいしいもん!」
その言葉が、背中をぽんと押してくれた気がした。
⸻
最初の動画は、とても簡単な「お弁当にもぴったりな卵焼き」。
手元だけを映して、ゆっくり丁寧に話すスタイルで撮った。
タイトルは「わたしのレシピ、世界にひとつ」。
チャンネル名は、迷った末に【ミクごはん】。
「うまくいかなくても……自分が楽しいって思えるなら、きっとそれでいいよね」
投稿ボタンを押す手は震えていたけど、心は不思議と穏やかだった。
⸻
「見たよ、未来の動画」
数日後、学校で一ノ瀬くんが話しかけてきた。
「……えっ!? は、早くない!? なんで知ってるの!?」
「結菜がね、“見て見て!”ってうるさくて……」
「うぅ……」
「でも、よかったよ。未来らしくて、やさしい雰囲気だった。声も落ち着いてて、聞きやすいし」
「……ほんと?」
「うん。続けたら、絶対ファン増えると思う」
そのまっすぐな言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
⸻
数週間後、私の動画には少しずつだけど、再生回数が増え、コメントもつくようになってきた。
「わかりやすかったです!」
「また作ってほしい!」
「この声、落ち着く~」
少し前まで、料理は“自分のため”だった。
でも今は――“誰かのため”に変わり始めている。
⸻
「未来、お前……料理の専門学校、考えてるってほんと?」
ある日、一ノ瀬くんがぽつりと聞いてきた。
「うん。高校卒業したら、本格的に料理を学びたいなって思ってる。夢が、できたの」
「そうか……」
彼はちょっとだけ寂しそうな顔をしたけれど、すぐにふっと笑った。
「じゃあ、俺も負けないように勉強頑張らなきゃな」
「うん……! 私も、頑張る!」
それは、互いの夢を応援し合う約束のような瞬間だった。
⸻
まだ小さな芽だけど――
それは確かに、未来へと続いている。
私は、あの日命を落とした世界では得られなかった“夢”を、今、手にしようとしている。
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