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夢と再生数
しおりを挟む高校に進学して数か月――
私は相変わらず、動画を撮っては編集し、深夜にアップロードする日々を続けていた。
「チャンネル登録者数……982人……!」
1000人の大台がすぐそこに迫っている。
料理系チャンネル【ミクごはん】は、当時まだ珍しかった“女子高生の手作りレシピ動画”というテーマで、じわじわと人気を集めていた。
⸻
「未来お姉ちゃんの動画、クラスでも見てる子いるよ!」
ある日の放課後、結菜ちゃんが嬉しそうに話してきた。
「ほんと? ちょっと恥ずかしいな……」
「ううん! 『あの料理、真似してお母さんに作ったら褒められた』って言ってたもん!」
そう言って満面の笑みを見せる結菜ちゃんの姿に、私はつい頬が緩む。
「ありがとう、結菜ちゃん。すっごく励みになるよ」
⸻
一方、学校では――
「浅倉さんって、動画やってるんでしょ?」
ある日、クラスの女子に声をかけられた。
「えっ……あ、うん、ちょっとだけ……」
「料理のやつだよね? すごいよ~! 私、あの“ふわとろオムライス”作ってみたんだ~!」
「えっ、本当に? どうだった?」
「大成功! 家族にほめられたよ。ありがとうね!」
動画の内容が、誰かの家庭で笑顔を生んでいる――
そのことが何より嬉しかった。
⸻
そんな中、ある出来事がきっかけで一気に転機が訪れる。
「未来、ちょっと来て!」
学校帰り、一ノ瀬くんがスマホを差し出してきた。
「どうしたの?」
「これ、見て」
そこに映っていたのは、ある人気まとめサイトの記事。
《今話題の“ミクごはん”って誰? 女子高生が教えるシンプル絶品レシピ》
「う、うそっ!? なにこれ……!?」
「バズってる、ってやつだな。再生回数、すごいぞ」
確認すると、投稿したばかりの「電子レンジで作れる簡単プリン」の動画が、なんと1日で3万回再生を超えていた。
「うそ……夢じゃないよね……?」
「夢じゃない。お前が頑張ってきた証だよ」
その言葉に、私は胸がいっぱいになった。
⸻
その夜。
「パパ、聞いてほしいことがあるの」
久しぶりに、私は父に真剣な顔で向き合った。
「私、動画投稿を本気でやってるの。料理の楽しさを伝えたくて、自分のレシピで誰かを笑顔にしたくて……」
父は黙って私の話を聞いていた。
「それで、高校を卒業したら、料理の専門学校に行きたいの。ちゃんと勉強して、将来は料理研究家になりたい」
少しの沈黙のあと、父はぽつりと言った。
「……お前が自分で選んだ道なら、俺は応援するよ」
「……っ、ありがとう……!」
私は涙をこらえきれず、父に抱きついた。
昔の私なら、きっとこの会話すらできなかった。
でも今は、自分の気持ちをちゃんと伝えられる。
それが、何よりの“やり直しの証”だと思えた。
⸻
そして、登録者数1000人突破。
広告収益化の審査も通り、ほんの少しだけど収入が発生するようになった。
「これで、材料費がちょっと浮く……!」
思わずニヤけながらキッチンに立つ私を、結菜ちゃんが後ろから抱きしめてくる。
「未来お姉ちゃんは、もう立派なプロだね!」
「ふふっ、ありがとう。まだまだこれからだけど、がんばるよ」
⸻
高校生活と動画投稿。
やることはたくさんあるけれど、充実していて、何より“自分を大事にできている”感覚があった。
そして――
「お前の作るプリン、結菜が“毎日食べたい!”って言ってたぞ」
一ノ瀬くんのそんな言葉に、またひとつ、心が温かくなる。
少しずつ、私の未来が形を持ち始めている。
やり直した人生の中で、確かな足跡を、今刻んでいる。
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