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新たな縁
しおりを挟む婚約破棄の知らせは、瞬く間に社交界を駆け巡った。
誰もが驚いた。あの完璧なエルディア侯爵令嬢が――あの王太子殿下に、捨てられたというのだから。
「身分にあぐらをかいた、冷たい女だったのでしょう」
「子爵家のセレナ嬢のほうが、よほど愛らしくて素直らしいですわよ」
無責任な噂話が、貴族たちの口から次々と飛び出した。まるで、待っていましたとばかりに。
だが私は、何も言い返さなかった。
エルディア侯爵家の令嬢としての誇りが、浅はかな中傷に反応する価値などないと教えてくれたから。
それに、心を癒してくれる存在が、私の前に現れたのだ。
「お初にお目にかかります、リリアーヌ嬢。私はユリウス・フォン・クラウゼンと申します」
クラウゼン公爵家――王家に次ぐ地位を持つ、王国随一の名門貴族。その次期当主が、まさか私に声をかけてきたのだ。
「突然のことで驚かれるかもしれませんが、あなたに一目惚れしました」
「……は?」
「いや、恋という意味だけではありません。貴女の立ち振る舞い、言葉の選び方、姿勢……すべてに、高潔な気品を感じたのです。あのような醜聞の中でも、毅然としていた貴女を見て、心から尊敬しました」
その言葉に、私は思わず口を閉じた。
彼の目はまっすぐだった。お世辞ではないと、すぐにわかった。
クラウゼン公爵家は、かつて王家と並び称された名家であり、代々軍と財政の中枢を担ってきた家柄だ。ユリウス殿下――王族ではないが、そう呼ばれるほどの影響力を持つ人物が、私に好意を寄せているという。
「私と、お付き合いしていただけませんか? 将来的には――婚約も視野に入れて」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
捨てられた私を、条件でなく“私自身”を見てくれる人がいる。
それが、王家に次ぐ家柄の公爵家の御曹司だというのだから、皮肉なものだ。
「……ありがとうございます。ですが、今の私は、傷ついたばかりの小動物のようなものです。まずはお友達から、いかがでしょう?」
「もちろんです。その一歩も、私にとっては光栄ですから」
ユリウス様は微笑み、私の手を軽く取って口元へと寄せた。
その所作は完璧で、まるで一編の詩のようだった。
――やがて私の噂は、少しずつ変わり始めた。
「婚約破棄されたのに、笑顔を絶やさず公爵家の御曹司と並ぶとは……」
「やはりエルディア侯爵家の令嬢は、本物の令嬢なのね」
そう、少しずつでいい。私はもう「捨てられた女」ではない。
私は、再び立ち上がる。
気高く、美しく、そして――幸せを掴むために。
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