女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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父は頭が痛い

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伯爵邸・執務室。

机の上には、見事なほどに積み上がった封蠟付きの手紙。

「……増えている」

伯爵――つまり私の父は、遠い目でそれを見つめていた。

数日前までは平穏だったはずだ。

それが、娘が社交界デビューの年齢になった途端。

「婚姻の打診」「面会希望」。

しかも送り主の名前が、いちいち重たい。

騎士団長家。
宰相家。
魔術師団長家。
そして侯爵家。

(……うち、ただの伯爵家なんだが?)

父は額を押さえた。

そこへ、ノック。

「伯爵、宰相閣下と騎士団長殿がご到着です」

「……来たか」

嫌な予感しかしない。



応接室。

宰相は穏やかな笑みを浮かべ、騎士団長は腕を組んで堂々と座っている。

そして二人とも――妙に機嫌がいい。

「いやあ伯爵殿、娘御が大変評判でしてな」

宰相が紅茶を一口。

父は内心ため息をついた。

(始まった……)

「最近の若者には珍しく、空気を読めるそうですね。文官向きだ」

「いや、あの落ち着きは騎士団長夫人の器だろう」

さっそく火花が散る。

父は笑みを浮かべたまま思う。

(なぜうちの娘を巡って張り合っているんだ)

「まだデビューしたばかりですよ。焦る話では」

控えめに返すと、二人は同時に身を乗り出した。

「いやいや、良い娘は早く決まるものだ」

「周囲が放っておかない」

完全に同意している。

父は苦笑した。

「……本人の意思を尊重したいと思っております」

その一言で、二人は少しだけ表情を緩めた。

「ほう、良い父親だ」

騎士団長が豪快に笑う。

宰相もうなずいた。

「だからこそ紹介したいのです。我が息子レオンハルトを」

「いや、まずはうちの息子だろう。剣の腕も人柄も保証する」

机の下で、父の拳が小さく震えた。

(だから、なぜ今ここでプレゼン大会が始まるんだ)



さらに後日。

今度は魔術師団長が訪ねてきた。

「伯爵殿、娘君は魔術への理解もあると聞いた。ぜひ我が息子シリウスと」



父は書類を抱えながら天井を見上げた。

(娘よ……なぜそんなに好かれる)

幼い頃から、少し不思議な子だった。

控えめで、でも人の心を捉える。

誰かを否定せず、自然と周囲を和ませる。

父にとってはただの可愛い娘だ。

だが社交界では――

「宝石のような令嬢」らしい。

(……いや、可愛いのは分かる。分かるが)

正直、複雑だった。

早く良縁に恵まれてほしい気持ちと。

まだ家にいてほしい気持ち。

両方が胸の中でせめぎ合う。

その時、窓の外から笑い声が聞こえた。

庭を歩く娘の姿。

柔らかな笑顔で、侍女に何か話している。

父の表情が自然と緩む。

「……あの子が幸せなら、それでいい」

ぽつりと呟く。

すると執事が静かに言った。

「旦那様、また新しい手紙が届いております」

差し出された封筒。

見慣れない紋章だった。

――英雄騎士リュシアン。

父は思わず椅子に寄りかかった。

「……増えるのか、まだ」

執事が小さく笑う。

「お嬢様は大人気でございますから」

父は深く息を吐き、しかしどこか誇らしげに目を細めた。

「……あの子が、自分で選べばいい」

そう言いながらも、心の中では。

(でも……結婚は、もう少し先でいいんじゃないか?)

今日も伯爵家の父は、嬉しい頭痛に悩まされているのだった。
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