女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

文字の大きさ
21 / 39

20. 約束

午後の陽射しが、伯爵邸の応接室をやわらかく照らしていた。

「突然の訪問をお許しください」

濃紺の騎士服姿のリュシアンは、少しだけ緊張した様子で頭を下げた。

「いえ……お越しいただけて嬉しいです」

言ってから、頬が熱くなる。

彼は一瞬驚いたように瞬きをし、それから困ったように笑った。

「そう言っていただけると……来る前に三度ほど引き返そうか迷った甲斐がありました」

「え?」

「いえ、英雄騎士と呼ばれておりますが、女性のお屋敷を突然訪ねるのは少し勇気が要りまして」

真顔で言うものだから、思わず笑ってしまう。

「勇気、ですか?」

「ええ。魔物より難敵かもしれません」

「まあ」

ふたりの間に、やわらかな空気が流れる。

けれど、彼はやがて姿勢を正した。

「本日は、ご報告があり参りました」

声が少し落ち着く。



「辺境方面で、魔物が大規模に発生しております」

「春、ですのに……?」

「ええ。本来なら鎮静期です」

静かに頷く。



「ですが今回は、街道沿いに沿うように群れが出ています。不自然と言わざるを得ません」

胸がひやりとする。

「討伐隊が編成されました。俺も参加します」

指先がわずかに冷える。

「数日中に出立の予定です」

すぐではない。
けれど遠くもない。

私はゆっくり息を吸った。

「……無事で、帰って来てくださいね」

それだけは、どうしても伝えたかった。


彼はやわらかく目を細める。

「はい。必ず戻ります」

まっすぐな声。 

「まだ、あなたとゆっくりお話もできていませんから」


胸が跳ねる。

「私も……もっとお話ししたいと思っておりました」

彼の耳がほんのり赤くなる。

「それは、嬉しいですね」

少し間を置いてから、

「もしお許しいただけるなら」

「はい?」

「戻った折に、改めてお時間を頂戴できませんでしょうか」

胸が小さく跳ねる。

「次は……どこかに出掛けたりしませんか」

視線を逸らしながら言うその様子が、どこか不器用で。

「もちろんです」

思わず頷く。

彼はほっとしたように微笑む。

「ありがとうございます」

ほんの少しだけ照れた声で、

「次は、突然伺わぬよう事前に書状を送ります」

「……待っていますね」



彼は目を瞬き、そしてやわらかく笑った。


「では全力で帰ってまいります」

その言い方が、どこか少年のようで。

胸がやわらかく温まる。




「先程の、不自然というお話ですが……」

「そうなんです」

ふと、真剣な瞳になる。

「時期も規模も整いすぎている」

「原因があるかもしれないのですか」

「はい」

私は勇気を出して言った。

「でしたら……私も何か調べてみます」

彼が目を見開く。

「エリシア嬢が?」

「戦うことはできません。でも、何かしたいのです」

少しだけ声が震える。

「ただ待つだけではなく……お力になりたいのです」

沈黙。

彼はしばらく私を見つめていた。


「……あなたは、本当に」

言葉を探すように微笑む。

「強くて、優しい方ですね」

そして少しだけ照れたように視線を逸らす。

「正直に申し上げますと」

「はい?」

「俺は、守る側であることに慣れております」

静かな声。

「ですが今、少しだけ——」

目を戻す。

「隣に立っていただいているような気がして、嬉しいです」

胸が、ぎゅっと締まる。

「ありがとうございます」

「いえ。こちらこそ」

彼はそっと手を差し出す。

「戻りましたら、あなたの調査結果を聞かせてください」

「はい」

触れた指先が温かい。

「約束ですね」

「約束です」

彼はやわらかく笑う。

「では私は、あなたとの出掛ける約束を守るために戦ってまいります」

「そんな理由で戦ってはいけません」

「いえ、とても重要な理由です」

真顔で言われて、また笑ってしまう。

春の光の中。

まだ始まったばかりの関係。

けれど確かに、小さな約束が結ばれた。

——必ず帰る。

その言葉が、今は何より心強かった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

わたしさえいなければ、完璧な王太子だそうです。

ふらり
恋愛
人並外れた美貌・頭脳・スタイル・武勇を持つウィンダリア王国の25歳の王太子は、完璧な王太子だと言われていた。ただし、「婚約者さえいなければ完璧な王太子なのに」と皆が言う。12歳の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーは周囲から憐みの目を向けられていた。 「私との婚約は、契約で仕方なくなのかい? もう私に飽きてしまっている? 私は今でも君にこんなに夢中なのに」 13歳年下の婚約者少女に執着溺愛する美貌も能力も人間離れした王太子様と、振り回される周囲のお話です。小説家になろうにて完結しております。少しずつこちらにもあげていくつもりです。ファンタジー要素はちょっぴりです。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。