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22. 優しいまなざし
先日の社交会の日。
音楽が流れ、笑い声が重なる。
けれどエリシアの胸は、どこか落ち着かなかった。
遠く、辺境の砦。
春とは違う風が吹く場所。
討伐隊にいるリュシアン様のことが、頭から離れない。
ダンスの最中。
「足、止まってるよ」
くすっと笑う声。
幼い頃会った時から変わらない、セドリック様の優しい目。
「ご、ごめんなさい」
「ううん。謝ることじゃない」
軽く手を引き、自然に音楽へ戻す。
「でもね」
声が少しだけ低くなる。
「君があんな顔するの、久しぶりに見た」
胸が、びくりとする。
あんな顔。
自分では気づいていなかった。
「……どんな顔でしたか?」
「遠くを見てる顔」
責める調子はない。
ただ、見守る声音。
「昔、迷子の子猫を探してたときと同じ」
思わず目を見開く。
そんな昔のことまで覚えているのか。
「心ここにあらず、ってやつ」
にこりと笑う。
けれどその目は真剣だった。
◇◇◇
数日後。
伯爵邸にセドリック様が訪ねてきた。
応接室で向かい合う。
「突然ごめんね」
柔らかく微笑む。
「この前の社交会、やっぱり気になっちゃって」
気になって。
その一言が、胸に優しい。
「僕、君のああいう顔に弱いんだよ」
冗談めかして言うが、目はまっすぐ。
「何かあった?」
逃げ道を残す問い方。
急かさない。
ただ待つ。
しばらく迷い——
エリシアは口を開いた。
「辺境の魔物の件で……」
セドリックの表情が静かに引き締まる。
「討伐隊に、若い英雄騎士がいます」
彼は小さく頷く。
「その方が、違和感があると仰っていて」
「整いすぎてる、って?」
驚く。
「どうして……」
「噂と、ちょっとした商会筋の話」
肩をすくめる。
エリシアは続ける。
「私は、その方を信じています」
そして、少し躊躇いながら。
「アレクシス様にも相談いたしました」
一瞬、沈黙。
けれど。
「うん、それは正解」
即答だった。
柔らかい声で、迷いなく。
「彼は真っ直ぐだし、有能だ」
微笑む。
「ちゃんと頼れる人に頼れてる。偉いよ」
胸が熱くなる。
否定されない。
試されない。
ただ、褒められる。
「でもね」
セドリック様は少し身を乗り出す。
「君がそこまで悩んでるなら、僕も何かさせてほしい」
その声は、優しい。
けれど本気だ。
「騎士団は軍の情報を持ってる」
「僕は商人と貴族の動きを追える」
静かな自信。
「最近ね、隣国との小規模交易が妙に増えてる」
「香料や嗜好品が中心だ」
エリシアの胸が高鳴る。
「偶然かもしれない」
「でも、君が不安に思ってるなら、僕は無視しない」
ゆっくりと言う。
「君が信じた直感を、僕も信じる」
その一言は、とても穏やかで。
とても強い。
「エリシア」
名前を呼ぶ声が、少し低くなる。
「君が笑ってくれるなら、僕は何度でも動くよ」
子どもの頃と同じ声音。
木陰で泣いていた自分を、そっと抱き寄せてくれたあの日と同じ。
「一人で抱えなくていい」
「君が大事に思う人を守りたいなら、僕も手伝う」
包み込むような言葉。
競う色はない。
ただ。
君が大切にしているものを、僕も大切にする。
それだけ。
エリシアの目に、じんわりと熱が滲む。
「……ありがとうございます」
セドリックはふっと笑う。
「礼はいいよ。幼馴染特権ってことで」
そして少しだけ真剣な顔になる。
「君が困ってるのを見過ごすほど、大人になれてないんだ」
優しくて。
ひたむきで。
大人なのに、どこか少年のまま。
春の光が差し込む応接室で。
エリシアは思う。
——私は、こんなにも守られている。
音楽が流れ、笑い声が重なる。
けれどエリシアの胸は、どこか落ち着かなかった。
遠く、辺境の砦。
春とは違う風が吹く場所。
討伐隊にいるリュシアン様のことが、頭から離れない。
ダンスの最中。
「足、止まってるよ」
くすっと笑う声。
幼い頃会った時から変わらない、セドリック様の優しい目。
「ご、ごめんなさい」
「ううん。謝ることじゃない」
軽く手を引き、自然に音楽へ戻す。
「でもね」
声が少しだけ低くなる。
「君があんな顔するの、久しぶりに見た」
胸が、びくりとする。
あんな顔。
自分では気づいていなかった。
「……どんな顔でしたか?」
「遠くを見てる顔」
責める調子はない。
ただ、見守る声音。
「昔、迷子の子猫を探してたときと同じ」
思わず目を見開く。
そんな昔のことまで覚えているのか。
「心ここにあらず、ってやつ」
にこりと笑う。
けれどその目は真剣だった。
◇◇◇
数日後。
伯爵邸にセドリック様が訪ねてきた。
応接室で向かい合う。
「突然ごめんね」
柔らかく微笑む。
「この前の社交会、やっぱり気になっちゃって」
気になって。
その一言が、胸に優しい。
「僕、君のああいう顔に弱いんだよ」
冗談めかして言うが、目はまっすぐ。
「何かあった?」
逃げ道を残す問い方。
急かさない。
ただ待つ。
しばらく迷い——
エリシアは口を開いた。
「辺境の魔物の件で……」
セドリックの表情が静かに引き締まる。
「討伐隊に、若い英雄騎士がいます」
彼は小さく頷く。
「その方が、違和感があると仰っていて」
「整いすぎてる、って?」
驚く。
「どうして……」
「噂と、ちょっとした商会筋の話」
肩をすくめる。
エリシアは続ける。
「私は、その方を信じています」
そして、少し躊躇いながら。
「アレクシス様にも相談いたしました」
一瞬、沈黙。
けれど。
「うん、それは正解」
即答だった。
柔らかい声で、迷いなく。
「彼は真っ直ぐだし、有能だ」
微笑む。
「ちゃんと頼れる人に頼れてる。偉いよ」
胸が熱くなる。
否定されない。
試されない。
ただ、褒められる。
「でもね」
セドリック様は少し身を乗り出す。
「君がそこまで悩んでるなら、僕も何かさせてほしい」
その声は、優しい。
けれど本気だ。
「騎士団は軍の情報を持ってる」
「僕は商人と貴族の動きを追える」
静かな自信。
「最近ね、隣国との小規模交易が妙に増えてる」
「香料や嗜好品が中心だ」
エリシアの胸が高鳴る。
「偶然かもしれない」
「でも、君が不安に思ってるなら、僕は無視しない」
ゆっくりと言う。
「君が信じた直感を、僕も信じる」
その一言は、とても穏やかで。
とても強い。
「エリシア」
名前を呼ぶ声が、少し低くなる。
「君が笑ってくれるなら、僕は何度でも動くよ」
子どもの頃と同じ声音。
木陰で泣いていた自分を、そっと抱き寄せてくれたあの日と同じ。
「一人で抱えなくていい」
「君が大事に思う人を守りたいなら、僕も手伝う」
包み込むような言葉。
競う色はない。
ただ。
君が大切にしているものを、僕も大切にする。
それだけ。
エリシアの目に、じんわりと熱が滲む。
「……ありがとうございます」
セドリックはふっと笑う。
「礼はいいよ。幼馴染特権ってことで」
そして少しだけ真剣な顔になる。
「君が困ってるのを見過ごすほど、大人になれてないんだ」
優しくて。
ひたむきで。
大人なのに、どこか少年のまま。
春の光が差し込む応接室で。
エリシアは思う。
——私は、こんなにも守られている。
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