女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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23. 再び交わる線「アレクシス視点」

机の上には広げられた辺境の地図。

赤い印が点在している。

魔物の出現地点。

散発的に見える。

だが——

「……整いすぎている」

アレクシスは低く呟いた。

自然発生ならば、魔力濃度の濃淡に沿うはずだ。

しかし今回の分布は違う。

風向きと街道に沿うように、緩やかな弧を描いている。

偶然にしては、形がある。


扉が叩かれた。

「アルヴァレイン侯爵家、セドリック様がお見えです」


「通してくれ」

扉が開き、外套を纏った青年が入室する。

「久しぶりだね、アレクシス」

穏やかな声音。

かつて貴族学校で二学年上だった先輩。

今は侯爵家を背負う当主代理。

「セドリック先輩」

互いに礼を交わす。

先輩と後輩。

だが今は、それぞれ家と責任を担う立場。

視線が自然と机上へ落ちる。

赤い印の並ぶ地図。

「……もう動いているんだね」

静かな確認。

アレクシスはすぐには答えなかった。

書類を閉じる。

「先に確認させてください」

落ち着いた声音。

「本日の話は、侯爵家当主代理としての立場ですか」

わずかに空気が張る。

セドリックは即答した。

「そうだ」

「軽率な詮索をする気はない。必要なら、ここで引く」

一歩も踏み込まない姿勢。

その分別が、信頼を示す。

数秒の沈黙。

そしてアレクシスは頷いた。

「では、共有できる範囲で」

地図を指す。

「騎士団の報告自体に不備はありません」

一拍。

「ですが——魔物の発生方法が不自然です」

セドリックの目が細まる。

「自然発生と仮定した場合、魔力濃度の推移と一致しない」

「分布が風向きと街道に沿っている」

「偶発では説明がつきません」

軍の詳細数値には触れない。

だが構造は示す。

セドリックは静かに息を吐いた。

「やはり、そこに辿り着くか」

「侯爵家側でも何か?」

「確証はない」

穏やかに答える。

「だが、隣国との小規模交易が妙に増えている」

「香料と嗜好品が中心だ」

互いに踏み込みすぎない。

立場ある者同士の会話。

沈黙。

だが線は見えている。

アレクシスは一瞬迷い、そして告げた。

「討伐隊長リュシアンが、砦内に置かれていた不審な香を発見しています」

セドリックの視線が鋭くなる。

「砦内に?」

「ええ」

短くうなずく。

「意図的に置かれた可能性がある」

「リュシアン卿は証拠保全のため、魔術師団へ解析依頼を出しました」

そこまで共有するのは、信頼の証。

セドリックはゆっくりと息を吐いた。

「なるほど……」

香料。
交易。
風向きに沿う発生。

線が、一本に収束し始める。

「今日は提案に来た」

視線がまっすぐ向く。

「協力しよう」

空気が引き締まる。

「これは軍だけの問題ではない」

「商流、外交、魔術、すべて絡む可能性がある」

そして、わずかに声が柔らぐ。

「彼女が、不安そうだった」

その一言で、空気が変わる。

アレクシスの拳が静かに握られる。

否定できない。

自分も同じ理由で動いている。

「君が彼女から直接頼まれているのは分かっている」

「だから君が中心でいい」

穏やかだが、明確。

「だが一人で抱えるな」

「張り合う場面ではない」

かつて学園で言われた言葉がよみがえる。

守るなら、視野を広く持て。

アレクシスはゆっくりと息を吐いた。

「……目的は同じです」

視線は揺れない。

「彼女が憂えるなら、俺は動く」

騎士の宣言。

セドリックは微笑む。

「うん」

そして続ける。

「レオンハルトを巻き込もう」

「これは領地問題に発展する可能性がある」

「ユリウスにも話を通そう」

理詰めで線を結ぶ。

アレクシスは数瞬考え、頷いた。

「分かりました」

迷いはない。

セドリックは立ち上がる。

「これは私情ではない」

わずかに笑う。

「王国の安定のためだ」

アレクシスも淡々と返す。

「当然です」

だが互いに分かっている。

中心にいるのが、誰かを。

扉が閉まり、執務室に静寂が戻る。

赤い印の並ぶ地図。

だが今は、線が繋がり始めている。


若き世代の糸が、静かに結ばれていく。

——彼女のために。

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