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24. 甘やかされた令嬢の軽率「男爵令嬢視点」
――それは、アレクシスとセドリックが魔物の発生について話し合う、数日前の出来事だった。
討伐隊の砦に、一台の華やかな馬車が到着する。
「リュシアン隊長にお会いしたいのですけれど……?」
小首を傾げ、まるで絵本の姫君のように微笑む。
応接用の小部屋へ通されると、間もなく扉が開いた。
「お待たせしました」
現れたのは、討伐隊長リュシアン。
ローザはぱっと笑顔を咲かせる。
「まあ、相変わらず凛々しいですこと」
すっと距離を詰める。
「最近、魔物が多いのでしょう? とても心配で……」
潤んだ瞳。
胸元に添えた手。
けれどリュシアンは、ほんの少しだけ困ったように微笑む。
「ご心配、ありがとうございます」
声はやわらかい。
だが足は半歩、自然に下がる。
「ですが、ここは砦ですので」
「ええ、だからこそ」
ローザはささやく。
「内緒のお話があるのです」
視線で扉を示す。
「二人きりで」
リュシアンは一瞬だけ考え、
静かに外へ告げた。
「三分だけ席を外してくれ」
完全な密室にはしない。
時間も区切る。
扉が閉まる。
ローザはすぐさま近づいた。
彼の胸元にそっと指を伸ばす。
「魔物と戦う殿方には、美しい女性の支えが必要ではなくて?」
体を寄せる。
吐息がかかる距離。
だが。
リュシアンは自然に一歩横へ動いた。
触れられない位置へ。
それでも笑顔は崩さない。
「……俺は」
「軽い気持ちで、誰かの隣に立つつもりはありません」
その言葉は穏やかだが、温度のない瞳でローザを見つめながら。
「それに」
視線が遠くを見る。
ほんの少しだけ、少年のように照れた表情を浮かべる。
「もう、心に決めている方がいます」
はっきりとは名を出さない。
だが迷いはない。
ローザの手が止まる。
「……は?」
「ですから」
優しく、しかしきっぱりと。
「どうか、ご自分を安く扱わないでください」
それは拒絶。
ローザの頬が引きつる。
計算では、もっと戸惑うはずだった。
もっと赤くなるはずだった。
もっと隙があるはずだった。
なのに。
扉が外から軽く叩かれる。
三分。
完璧な区切り。
「……もう結構ですわ」
微笑みは崩さない。
だが声は硬い。
砦の外へ向かう途中、
人気のない石壁の陰で足を止めた。
(わざわざこうしてやって来たのに……なんなのよ! あの男……この私が誘ってやったのに……許せないわ)
胸の奥で、幼い怒りが膨らむ。
袖から小さな包みを取り出す。
父の書斎。
奥の金庫。
厳重に保管されていた香。
――魔物を引き寄せる作用がある。
それは知っている。
だが、数本あったうちの、勝手に持ち出しても気づかれないだろうと、持って来た小さな一本。
「ほんの少し、困るくらいでしょ」
軽い悪戯のつもり。
大事になるとは、本気で思っていない。
「私を拒むからよ」
石壁の隅に、そっと置く。
罪悪感は薄い。
ただ、傷ついた自尊心を埋めたいだけ。
「せいぜい、慌てればいいんだわ」
フン! と言い捨てて馬車に乗り込み、砦を後にする。
甘い香が、風に溶ける。
その一本が、どれほどの歯車を動かすかも知らずに。
数日後。
その香は、リュシアンに発見され、王都へ送られることになる。
討伐隊の砦に、一台の華やかな馬車が到着する。
「リュシアン隊長にお会いしたいのですけれど……?」
小首を傾げ、まるで絵本の姫君のように微笑む。
応接用の小部屋へ通されると、間もなく扉が開いた。
「お待たせしました」
現れたのは、討伐隊長リュシアン。
ローザはぱっと笑顔を咲かせる。
「まあ、相変わらず凛々しいですこと」
すっと距離を詰める。
「最近、魔物が多いのでしょう? とても心配で……」
潤んだ瞳。
胸元に添えた手。
けれどリュシアンは、ほんの少しだけ困ったように微笑む。
「ご心配、ありがとうございます」
声はやわらかい。
だが足は半歩、自然に下がる。
「ですが、ここは砦ですので」
「ええ、だからこそ」
ローザはささやく。
「内緒のお話があるのです」
視線で扉を示す。
「二人きりで」
リュシアンは一瞬だけ考え、
静かに外へ告げた。
「三分だけ席を外してくれ」
完全な密室にはしない。
時間も区切る。
扉が閉まる。
ローザはすぐさま近づいた。
彼の胸元にそっと指を伸ばす。
「魔物と戦う殿方には、美しい女性の支えが必要ではなくて?」
体を寄せる。
吐息がかかる距離。
だが。
リュシアンは自然に一歩横へ動いた。
触れられない位置へ。
それでも笑顔は崩さない。
「……俺は」
「軽い気持ちで、誰かの隣に立つつもりはありません」
その言葉は穏やかだが、温度のない瞳でローザを見つめながら。
「それに」
視線が遠くを見る。
ほんの少しだけ、少年のように照れた表情を浮かべる。
「もう、心に決めている方がいます」
はっきりとは名を出さない。
だが迷いはない。
ローザの手が止まる。
「……は?」
「ですから」
優しく、しかしきっぱりと。
「どうか、ご自分を安く扱わないでください」
それは拒絶。
ローザの頬が引きつる。
計算では、もっと戸惑うはずだった。
もっと赤くなるはずだった。
もっと隙があるはずだった。
なのに。
扉が外から軽く叩かれる。
三分。
完璧な区切り。
「……もう結構ですわ」
微笑みは崩さない。
だが声は硬い。
砦の外へ向かう途中、
人気のない石壁の陰で足を止めた。
(わざわざこうしてやって来たのに……なんなのよ! あの男……この私が誘ってやったのに……許せないわ)
胸の奥で、幼い怒りが膨らむ。
袖から小さな包みを取り出す。
父の書斎。
奥の金庫。
厳重に保管されていた香。
――魔物を引き寄せる作用がある。
それは知っている。
だが、数本あったうちの、勝手に持ち出しても気づかれないだろうと、持って来た小さな一本。
「ほんの少し、困るくらいでしょ」
軽い悪戯のつもり。
大事になるとは、本気で思っていない。
「私を拒むからよ」
石壁の隅に、そっと置く。
罪悪感は薄い。
ただ、傷ついた自尊心を埋めたいだけ。
「せいぜい、慌てればいいんだわ」
フン! と言い捨てて馬車に乗り込み、砦を後にする。
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その一本が、どれほどの歯車を動かすかも知らずに。
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