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25. 甘い香り「リュシアン視点」
――それは、王都へ香が送られる数日前のこと。
森がざわついた。
魔物の群れが、一点へ向かって動いている。
ばらけない。
迷わない。
「……集まっている?」
リュシアンは即座に外周へ出る。
やがて小型魔狼が飛び出した。
だが狙いは兵ではない。
石壁の隅。
物資箱の陰。
「そこか!」
剣が閃く。
無駄のない動き。
中型一体を含む小規模な群れ。
激しい応酬の末、魔物は全滅。
負傷者五名。
死者なし。
静寂が戻る。
リュシアンは、魔物が集中していた地点へ急ぐ。
物資箱の陰。
リュシアンは拾い上げる。
焦げ跡はない。
「……燃えていない?」
鼻を近づける。
かすかな甘さ。
「外気揮発型か」
隣国の禁制品の噂を思い出す。
焚く必要はない。
包みから出して、封を切れば発動する。
だから設置者は知識がなくてもいい。
(だが、普通は隠す)
隠蔽魔法もなく、
地面にそのまま。
これは計画的犯行というより――
「……短慮」
視線が細まる。
数日前、砦を訪れた令嬢がいた。
華やかな香水を纏い、
軽やかに笑っていた少女。
あの時、この匂いはしなかった。
だが、持っていただけなら気付けない。
置いてから揮発したのなら辻褄は合う。
(……もしかしたら)
だが、断定はしない。
証拠はない。
偶然、第三者が置いた可能性もある。
あるいは誰かが意図的に、
訪問者へ疑いを向けるために。
戦場で“思い込み”は命取りだ。
リュシアンは小さく息を吐く。
「……先日、砦を訪れた令嬢がいた旨も、報告に添えるか」
事実のみを書く。
推測ではなく。
それが隊長としての務め。
魔物が“そこ”を目掛けたのは、
濃度が最も高い地点だったから。
小型中心だったのも納得できる。
量が少ない。
大規模な戦略とは思えない。
だが、禁制品は禁制品。
誰の手によるものかは、王都で調べればいい。
香を布で包み、封じる。
その時、ふと胸の奥が熱を帯びる。
(エリシア嬢に、会いたい)
どう判断するか、ではない。
ただ顔が見たい。
あの静かな瞳。
自分が見落としたものがあるなら、きっと彼女は気付く。
いや――
理由などいらない。
会いたい。
リュシアンは静かに立ち上がる。
「王都へ送る」
甘い香りは、微かに残っている。
小さな悪意かもしれない。
偶然かもしれない。
だが火種は火種だ。
そしてそれは、王都へ送られることとなった。
森がざわついた。
魔物の群れが、一点へ向かって動いている。
ばらけない。
迷わない。
「……集まっている?」
リュシアンは即座に外周へ出る。
やがて小型魔狼が飛び出した。
だが狙いは兵ではない。
石壁の隅。
物資箱の陰。
「そこか!」
剣が閃く。
無駄のない動き。
中型一体を含む小規模な群れ。
激しい応酬の末、魔物は全滅。
負傷者五名。
死者なし。
静寂が戻る。
リュシアンは、魔物が集中していた地点へ急ぐ。
物資箱の陰。
リュシアンは拾い上げる。
焦げ跡はない。
「……燃えていない?」
鼻を近づける。
かすかな甘さ。
「外気揮発型か」
隣国の禁制品の噂を思い出す。
焚く必要はない。
包みから出して、封を切れば発動する。
だから設置者は知識がなくてもいい。
(だが、普通は隠す)
隠蔽魔法もなく、
地面にそのまま。
これは計画的犯行というより――
「……短慮」
視線が細まる。
数日前、砦を訪れた令嬢がいた。
華やかな香水を纏い、
軽やかに笑っていた少女。
あの時、この匂いはしなかった。
だが、持っていただけなら気付けない。
置いてから揮発したのなら辻褄は合う。
(……もしかしたら)
だが、断定はしない。
証拠はない。
偶然、第三者が置いた可能性もある。
あるいは誰かが意図的に、
訪問者へ疑いを向けるために。
戦場で“思い込み”は命取りだ。
リュシアンは小さく息を吐く。
「……先日、砦を訪れた令嬢がいた旨も、報告に添えるか」
事実のみを書く。
推測ではなく。
それが隊長としての務め。
魔物が“そこ”を目掛けたのは、
濃度が最も高い地点だったから。
小型中心だったのも納得できる。
量が少ない。
大規模な戦略とは思えない。
だが、禁制品は禁制品。
誰の手によるものかは、王都で調べればいい。
香を布で包み、封じる。
その時、ふと胸の奥が熱を帯びる。
(エリシア嬢に、会いたい)
どう判断するか、ではない。
ただ顔が見たい。
あの静かな瞳。
自分が見落としたものがあるなら、きっと彼女は気付く。
いや――
理由などいらない。
会いたい。
リュシアンは静かに立ち上がる。
「王都へ送る」
甘い香りは、微かに残っている。
小さな悪意かもしれない。
偶然かもしれない。
だが火種は火種だ。
そしてそれは、王都へ送られることとなった。
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