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27. 証拠固め「セドリック視点」
動き出してからは早かった。
本来なら、こういう手はもっと時間をかける。
香辛料や嗜好品の貿易を足掛かりにする。
財政に余裕のない貴族家へ、それとなく甘い話を持ちかける。
禁断の香の影響力を囁く。
利益は保証する。
特別な取引だ、と。
そうしてまずは、扱いやすい家から取り込む。
男爵家など、まさに最初の駒としては理想的だ。
成功すれば、もう少し中央に近い家へ。
そしていずれは、国の中枢へ触手を伸ばす。
よくあるやり口だった。
――本来なら。
だが今回、隣国にはひとつ誤算があった。
王都でこんなにも早く辺境のことで動かれるとは、予想外だったはずだ。
⸻
アレクシスが持ってきてくれた、軍部に報告された砦の報告書。
最近、男爵家が魔物をやけに討伐している。そしてその男爵家の名は――
香が発見される数日前、視察に来ていたと名前があった男爵令嬢。
⸻
その家名を聞いた時点で、僕の中では輪郭が見え始めていた。
男爵家。
最近妙に羽振りがいい。
社交界では
そんな噂が流れていた。
「香辛料貿易で成功したらしい」
成功、ね。
そんな急にうまくいくほど、
貿易は甘くない。
私は社交界の噂を洗い直した。
宴席。
茶会。
酒席。
人は酔うと、口が軽くなる。
「男爵家は最近いい取引先を見つけた」
「密かな契約だそうだ」
断片的な話。
だが並べれば
きれいに繋がる。
誰と接触したか。
どの商人を通しているか。
どの家が興味を示しているか。
まだ浅い。
計画は始まったばかりだった。
だが確かに、何かが動いている。
⸻
同じ頃。
レオンハルトも動いていた。
彼は文官の帳簿を洗っている。
税の申告額。
実際の徴収額。
男爵家は、領民から過剰に税を取り立てていた。
「杜撰だな」
静かな声だった。
禁制香の購入資金。
誤魔化した徴税で賄われている。
隠す技量すらない。
調べれば、すぐに足がつく。
⸻
ユリウスは魔術師塔で香の解析を進めていた。
「……隣国製だね」
柔らかな声で断定する。
精製方法。
含まれる魔素の癖。
偶然では作れない配合。
「砦に置かれていたものが回収されたおかげだね」
隣国製の証拠が出来た。
⸻
そして最後に、私の手元へ情報が揃う。
砦の報告資料。
男爵家の資金。
禁制香。
隣国。
そして。
砦を訪れた男爵令嬢。
……なるほど。
点が線になる。
⸻
証拠は数日で揃った。
あまりにも簡単に。
本来なら、もっと時間がかかる。
男爵家を通して資金を吸い上げる。
影響力を広げる。
徐々に国の足元を崩す。
そんな計画だったのだろう。
だが。
王都でそれぞれの分野で、複数人が個人的に動いて徹底的に洗い上げるなど。
向こうも想定していなかったはずだ。
「運がなかったね」
ユリウスが小さく言う。
レオンハルトは淡々と告げる。
「偶然ではない。迂闊だっただけだ」
アレクシスは少し考えてから言った。
「……彼女の不安が、発端でした」
その名前は出さない。
だが全員が同じ顔を思い浮かべている。
エリシア。
私は書類を整理しながら小さく息を吐いた。
……本当に。
けれど。
もしあの時、彼女が不安を口にしなかったら。
この計画は、もっと深く根を張っていたはずだ。
そう思うと、少し背筋が冷える。
そして同時に思う。
――守らなければならないな。
あの子は、こういう世界には向いていない。
優しすぎる。
だからこそ。
私たちがいるのだろう。
⸻
証拠書類を封じる。
流通経路。
税の不正。
禁制品の出所。
砦の記録。
隣国の関与。
反論の余地はない。
「ここからは国の仕事だ」
私たちは機関を動かしていない。
だが整えた。
すべて。
数日後。
王都に正式通達が下る。
男爵家、断絶。
領地没収。
隣国には交易監査強化。
対策会議設置。
国はようやく動き出した。
……もっとも。
本当に厄介なのはこれからだろう。
隣国はこんな小さな駒一つで、諦めるほど甘くない。
私は小さく苦笑する。
――願わくは次は、もう少し穏やかな事件で
あってほしいものだ。
……彼女が巻き込まれない形で。
本来なら、こういう手はもっと時間をかける。
香辛料や嗜好品の貿易を足掛かりにする。
財政に余裕のない貴族家へ、それとなく甘い話を持ちかける。
禁断の香の影響力を囁く。
利益は保証する。
特別な取引だ、と。
そうしてまずは、扱いやすい家から取り込む。
男爵家など、まさに最初の駒としては理想的だ。
成功すれば、もう少し中央に近い家へ。
そしていずれは、国の中枢へ触手を伸ばす。
よくあるやり口だった。
――本来なら。
だが今回、隣国にはひとつ誤算があった。
王都でこんなにも早く辺境のことで動かれるとは、予想外だったはずだ。
⸻
アレクシスが持ってきてくれた、軍部に報告された砦の報告書。
最近、男爵家が魔物をやけに討伐している。そしてその男爵家の名は――
香が発見される数日前、視察に来ていたと名前があった男爵令嬢。
⸻
その家名を聞いた時点で、僕の中では輪郭が見え始めていた。
男爵家。
最近妙に羽振りがいい。
社交界では
そんな噂が流れていた。
「香辛料貿易で成功したらしい」
成功、ね。
そんな急にうまくいくほど、
貿易は甘くない。
私は社交界の噂を洗い直した。
宴席。
茶会。
酒席。
人は酔うと、口が軽くなる。
「男爵家は最近いい取引先を見つけた」
「密かな契約だそうだ」
断片的な話。
だが並べれば
きれいに繋がる。
誰と接触したか。
どの商人を通しているか。
どの家が興味を示しているか。
まだ浅い。
計画は始まったばかりだった。
だが確かに、何かが動いている。
⸻
同じ頃。
レオンハルトも動いていた。
彼は文官の帳簿を洗っている。
税の申告額。
実際の徴収額。
男爵家は、領民から過剰に税を取り立てていた。
「杜撰だな」
静かな声だった。
禁制香の購入資金。
誤魔化した徴税で賄われている。
隠す技量すらない。
調べれば、すぐに足がつく。
⸻
ユリウスは魔術師塔で香の解析を進めていた。
「……隣国製だね」
柔らかな声で断定する。
精製方法。
含まれる魔素の癖。
偶然では作れない配合。
「砦に置かれていたものが回収されたおかげだね」
隣国製の証拠が出来た。
⸻
そして最後に、私の手元へ情報が揃う。
砦の報告資料。
男爵家の資金。
禁制香。
隣国。
そして。
砦を訪れた男爵令嬢。
……なるほど。
点が線になる。
⸻
証拠は数日で揃った。
あまりにも簡単に。
本来なら、もっと時間がかかる。
男爵家を通して資金を吸い上げる。
影響力を広げる。
徐々に国の足元を崩す。
そんな計画だったのだろう。
だが。
王都でそれぞれの分野で、複数人が個人的に動いて徹底的に洗い上げるなど。
向こうも想定していなかったはずだ。
「運がなかったね」
ユリウスが小さく言う。
レオンハルトは淡々と告げる。
「偶然ではない。迂闊だっただけだ」
アレクシスは少し考えてから言った。
「……彼女の不安が、発端でした」
その名前は出さない。
だが全員が同じ顔を思い浮かべている。
エリシア。
私は書類を整理しながら小さく息を吐いた。
……本当に。
けれど。
もしあの時、彼女が不安を口にしなかったら。
この計画は、もっと深く根を張っていたはずだ。
そう思うと、少し背筋が冷える。
そして同時に思う。
――守らなければならないな。
あの子は、こういう世界には向いていない。
優しすぎる。
だからこそ。
私たちがいるのだろう。
⸻
証拠書類を封じる。
流通経路。
税の不正。
禁制品の出所。
砦の記録。
隣国の関与。
反論の余地はない。
「ここからは国の仕事だ」
私たちは機関を動かしていない。
だが整えた。
すべて。
数日後。
王都に正式通達が下る。
男爵家、断絶。
領地没収。
隣国には交易監査強化。
対策会議設置。
国はようやく動き出した。
……もっとも。
本当に厄介なのはこれからだろう。
隣国はこんな小さな駒一つで、諦めるほど甘くない。
私は小さく苦笑する。
――願わくは次は、もう少し穏やかな事件で
あってほしいものだ。
……彼女が巻き込まれない形で。
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