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本編
64.進んだ先
白蘭はそう冗談めかして言った。
足場の悪い道さえ風のように駆ける白く大きな虎。
俺は必死にしがみつきながらそんな白蘭の話を聞いていた。
···そんなに危険なのか。そう思いつつ、改めて兄貴は凄いと思ってしまった···理由が本当に俺だとしても逃げずに沢山の人を守るために危ない場所へ自ら向かったんだから。
「······止まれ!」
先輩の声が響く。抑制班の皆さん、白蘭も急停止し先輩の向いている方向を見た。屋根の上······そこには目が赤く光り、褐色の肌と元は橙色だったのか毛先はまだ色が残るものの根元から途中まで灰色から黒く色が変わり、そして大きく開けた口からは牙を剥き出しダラダラと涎を垂らす···それは人とは思えない容貌をした何かがいた。
『あらぁ、お早いこと。《潮の咆哮》』
白蘭が咆哮と共に魔法式を飛ばす。次の瞬間にはぐわんと大地が揺らぐような衝撃波が魔人へ向かった······その攻撃を魔人はまともに食らったように見えた。グラグラと数度よろけた後、バランスを崩しながらも屋根から地面へと降り立つ。立てないのかフラフラして座り込み空を見上げていた。
そこへ抑制班の人達が麻酔針らしきものを打ち込む。
数人が同時に発射し、何針か当たったのか数秒後にその魔人はその場で倒れ込んだ。倒れ込んだのを確認後、かなり頑丈そうに見える拘束具を取り出すと数人がかりでその魔人の両手両足に着用させる。
『魔人を拘束したらね、本当は迅速に治療院へ送らないと行けないのだけれど今回は他にも魔人がいるかもしれないからこの魔人は入口付近で待機してる抑制班にお願いすることになるわ』
そう白蘭が言うとほぼ同時に抑制班の一人が発煙筒を空に向かって発射した······青黒い煙が空へ上がる。赤の煙は増援要請、青の煙は魔人の捕縛を知らせるものらしい。倒壊の恐れのない安全な場所であれば魔人はその場に放置。さっきの合図で待機中の抑制班が来て治療院までの移送をやってくれる。
進む準備が出来たのか抑制班の皆さんは先輩を注視する。「よくやった、進もう」と先輩は皆に声をかけた、そして再び進行する俺達。まだ右方向の奥の方、ここからは少し遠い位置で建物が破壊されている音がする···。
兄貴はあそこにいるのか?
それとも──考えたくない事が現実になるかもしれないと思うと背筋が冷たくなっていくように感じる。それを感じ取ったのか白蘭は『やーねぇ、大丈夫よっ。あのフェニちゃんの主様なんだから律花ちゃんのお兄さんは無事よ♡もしもがあったらアタシがフェニちゃんどつくからぁっ♪』と言った。兄貴の守護獣と知り合いなんだろうか?
破壊音のした方へ向かいながら待機している班から通信があったらしい。内容は浅霧さんがこっちへ応援に駆けつけてくれている、そして常磐さんが避難所で救護と状況を見て応援に向かうと言うことだった。伯父と満星さんはまだ厳島本島へ到着はしていないようだ。
抑制班の皆さんの動きは統率されていて日頃からの訓練が相当なものなんだろうと思う。ただでさえ何が起こるか分からない場所、足場の悪い環境、だと言うのに歩みも止めずに目的の場所まで走る。さながら吹き抜ける風のように······これはかなりの経験を積まないと難しいだろう。
「来るな」
再び先頭を走る先輩の声に止まる俺達。
建物の倒壊で砂埃の舞う見通しの悪い道のど真ん中に人陰が見える。
その人陰はクルリとこちらへ振り向いた。
「あ!律花くんじゃないかぁ。僕を心配して来てくれたのかな、げへへぇ」
「お前は······!」
「団吾だよぉ。キミの愛しの旦那様さ」
「ちがっ──」
「そうだね、まだ恋人だった···プロポーズの返事を早く聞かせてよ!そうすれば僕たちは直ぐに夫婦になれる······子供は五人は欲しいよねぇ···!」
──小豆団吾、そいつは振り向いて直ぐに俺に気づいた。
先輩や抑制班の皆さん等、目に入っていないと言うように俺に語りかける。
俺は結婚はおろか、こいつと恋人になった覚えなんてない。
「まさか君がここにいるなんて·····げへ、やっぱり僕たちは運命なんだぁ!」
興奮したようにそう言うと天を仰ぐ。
燃えるように赤く光る瞳が俺を見る、さっき見た魔人のような紅い瞳だ。
決定的に違うのは言葉を話し内容を理解し自我を持っている、そして容貌も白目まで紅く染まった瞳を除き髪色も変わっておらず普通の人間と変わらない事。
「律花くん~!早く僕と一緒に行こう!」
「待て、お前は魔人か?」
「確かにこの国では僕ら親子は嫌われ者らしい······!でもあの方は違う!僕を理解し僕の有能さを評価してくれたんだ!あの方が築く国で僕は公爵位を手に入れる···君には不自由させないから安心してよ!」
先輩の問いかけにも応じずに俺に向かってそう言う。
嫌われ者って言うか犯罪者じゃん!!
無理矢理にでも連れてかれそうな雰囲気に俺は白蘭にしがみつく。
「律花くんは恥ずかしがり屋だねぇ、大丈夫だよ~僕と一緒に幸せになろう!げへへへ」
「······おい、お前の目と耳は飾りか?俺の問いにも応じず、律花の怯えた様子さえ見えないとは。そして小豆団吾、お前は何を企む。あの方とは──」
「煩いなぁ!!律花くんの名前を気安く呼ぶな!僕のお嫁さんだぞ!」
ようやく先輩へ視線を向けた。
先輩を指差し地団駄を踏みながら激高する。
「厳島龍玄!それに美園燈夜!美園燈夜は律花くんのお兄さんだから僕の義兄さんでもあるし本当は殺したくないけど愛し合う僕らの邪魔をするんだし死んで当然!厳島龍玄···お前はぽっと出のくせに僕から律花くんを奪うなんてお前の方こそ律花くんの気持ちを考えろ!愛し合う僕らを引き裂くな!」
「だそうが、律花はどうしたい?」
「嫌だ嫌だ嫌だ。行きたくない!」
俺は激しく首を横に振った。
そんなこと言わなくても分かるだろ?誰のせいでこんなに血の気が引いてると思う。目の前で自分の妄想を饒舌に語っているアイツのせいだ!先輩は白蘭に乗る俺の右横に来て、必死に首を振りながら白蘭にしがみつく俺の頭に手を置いた。
···不思議だ、先輩の手が触れると何でこんなに──。
「僕の律花くんに触るなぁああああ!!」
ズッドーン!!
小豆団吾の絶叫とも言える叫び声と共に目の前の道を右から左に土埃が舞った。何かが右、奥の方から建物に打ち付けられながら通過したらしい。
「けほっ······な、に?」
「父さん!やったんだねぇ!げへへぇ」
「おぉ、団吾ここに居ましたか。···おやぁ?何故律花様がここに···。あぁ、何という事でしょう!!このような場面を律花様にお見せするつもりは御座いませんでしたのに!」
右から左へ通過した何かの後から現れた人陰。それは小豆団吾の父、小豆大福だった。真ん丸のハゲ頭に似合わないシルクハットを直しながらそう言う。
「どういう──っ、燈夜!!」
「あ──」
右から左に通過した何か······ローズレッドの鮮やかだった髪色は砂埃で掠れ汚れて、着ている服も所々切り裂かれたように破けている。
──兄貴、?
「っ、、」
う、嘘だ。兄貴······?あのエレメントワイバーンを含んだワイバーンの群れでさえ一人で簡単に狩ってしまう程強い兄貴が、学園でも3番目に強い兄貴が······。
呼吸がおかしい。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ·······呼吸が浅くなり息継ぎをするタイミングが分からない。息をしてるのか、酸素を吸えているのか分からない。息をしているはずなのに吸えてないようで息苦しい、でも上手く呼吸が出来ない。
「律花!!」
『律花ちゃん、落ち着いて深呼吸なさいっ!龍ちゃん!!』
兄貴が、死────?
苦しさで地面へとずり落ちた俺に先輩と白蘭が何かを言ってる。けど、俺の耳には入ってこない。目の前がどんどん暗くなってきて、真っ暗になる。
「律花·······!」
「──っは、んんぅっは、ぁあ!?」
真っ暗な視界に突然唇に触れた熱い感触と、ぬるりとした何かが口内に入り込み呼吸が出来ない。呼吸が出来なくて苦しいのに、余計に息ができない······。舌を絡め取られ、乾いた口腔内を相手の唾液が潤す。
「んくぅっ、ぢゅぅ、、はぅ、んむっ、へんぱっ──」
真っ暗だった視界が色を取り戻し始める。俺の口腔内に蹂躙していたのは先輩の厚い舌······俺の両頬に添えられた先輩の大きな手が熱い。キスをしているのに苦しそうな先輩の表情は悲哀に満ちているようにも、何かを懇願するようにもみえた。
「っぅ、、あぁ、んっ、せん、ぱい·····」
「······戻ってきたか」
優しくも呼吸が出来なくなるほどのキスに未だ視界がぼやける。
······俺、どうして──。
「ヒュッ──」
「また俺に犯されたいか?」
何が起きたのか思い出した俺はまた息が詰まりそうになった。そこに先輩は俺の両頬に添えた手に力が入り、グイッと無理矢理俺の顔を自分の方へ向けさせた。視界いっぱいに先輩の顔。······涙がボロボロと零れた、その雫が先輩の両手を濡らす──。
「いいか、まだ燈夜の安否は確定していないだろう。勝手に決めつけるな」
強く優しい声がもっと俺の涙腺を刺激した。
······そうだ、まだ分からない!!動かない兄貴を見て動揺してしまった俺は過呼吸になっていたようだ。酸素を吸いすぎたせいか、まだ頭がぼーっとする。
「父さん······アイツ、アイツアイツアイツ!!」
その声で更に意識が覚醒した。
その声の主は瞳だけでなく、顔まで真っ赤になっている。
「許さない······!僕の律花くんを!!──《》」
『《白き守護》!!』
団吾は聞こえない超音波にも似た何かを発する。
それに対抗するように白蘭が魔法式を唱えるも少し遅い。
次の瞬間には俺の周りには誰もいなかった。
──先輩······?
後ろを振り向くと抑制班の皆さんも、白蘭も、先輩もその何かによって飛ばされたのか数十メートル後ろで倒れていた。前を見るとゆっくりにやにやと気色の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる団吾。
「······律花くん、早く帰って、きれいに、しようねぇ···」
近づきながら呼吸も荒くそう言って迫る。
怖くて腰が抜けたのか、俺は迫る団吾が逃れようもずりずりと後ずさる。ガラスの破片が手に刺さったのか痛いけれど、そんなことよりも早く、早く逃げないと──!!
「逃げないでよぉ、律花くん」
ヒィッ──。
「『───────────────』」
足場の悪い道さえ風のように駆ける白く大きな虎。
俺は必死にしがみつきながらそんな白蘭の話を聞いていた。
···そんなに危険なのか。そう思いつつ、改めて兄貴は凄いと思ってしまった···理由が本当に俺だとしても逃げずに沢山の人を守るために危ない場所へ自ら向かったんだから。
「······止まれ!」
先輩の声が響く。抑制班の皆さん、白蘭も急停止し先輩の向いている方向を見た。屋根の上······そこには目が赤く光り、褐色の肌と元は橙色だったのか毛先はまだ色が残るものの根元から途中まで灰色から黒く色が変わり、そして大きく開けた口からは牙を剥き出しダラダラと涎を垂らす···それは人とは思えない容貌をした何かがいた。
『あらぁ、お早いこと。《潮の咆哮》』
白蘭が咆哮と共に魔法式を飛ばす。次の瞬間にはぐわんと大地が揺らぐような衝撃波が魔人へ向かった······その攻撃を魔人はまともに食らったように見えた。グラグラと数度よろけた後、バランスを崩しながらも屋根から地面へと降り立つ。立てないのかフラフラして座り込み空を見上げていた。
そこへ抑制班の人達が麻酔針らしきものを打ち込む。
数人が同時に発射し、何針か当たったのか数秒後にその魔人はその場で倒れ込んだ。倒れ込んだのを確認後、かなり頑丈そうに見える拘束具を取り出すと数人がかりでその魔人の両手両足に着用させる。
『魔人を拘束したらね、本当は迅速に治療院へ送らないと行けないのだけれど今回は他にも魔人がいるかもしれないからこの魔人は入口付近で待機してる抑制班にお願いすることになるわ』
そう白蘭が言うとほぼ同時に抑制班の一人が発煙筒を空に向かって発射した······青黒い煙が空へ上がる。赤の煙は増援要請、青の煙は魔人の捕縛を知らせるものらしい。倒壊の恐れのない安全な場所であれば魔人はその場に放置。さっきの合図で待機中の抑制班が来て治療院までの移送をやってくれる。
進む準備が出来たのか抑制班の皆さんは先輩を注視する。「よくやった、進もう」と先輩は皆に声をかけた、そして再び進行する俺達。まだ右方向の奥の方、ここからは少し遠い位置で建物が破壊されている音がする···。
兄貴はあそこにいるのか?
それとも──考えたくない事が現実になるかもしれないと思うと背筋が冷たくなっていくように感じる。それを感じ取ったのか白蘭は『やーねぇ、大丈夫よっ。あのフェニちゃんの主様なんだから律花ちゃんのお兄さんは無事よ♡もしもがあったらアタシがフェニちゃんどつくからぁっ♪』と言った。兄貴の守護獣と知り合いなんだろうか?
破壊音のした方へ向かいながら待機している班から通信があったらしい。内容は浅霧さんがこっちへ応援に駆けつけてくれている、そして常磐さんが避難所で救護と状況を見て応援に向かうと言うことだった。伯父と満星さんはまだ厳島本島へ到着はしていないようだ。
抑制班の皆さんの動きは統率されていて日頃からの訓練が相当なものなんだろうと思う。ただでさえ何が起こるか分からない場所、足場の悪い環境、だと言うのに歩みも止めずに目的の場所まで走る。さながら吹き抜ける風のように······これはかなりの経験を積まないと難しいだろう。
「来るな」
再び先頭を走る先輩の声に止まる俺達。
建物の倒壊で砂埃の舞う見通しの悪い道のど真ん中に人陰が見える。
その人陰はクルリとこちらへ振り向いた。
「あ!律花くんじゃないかぁ。僕を心配して来てくれたのかな、げへへぇ」
「お前は······!」
「団吾だよぉ。キミの愛しの旦那様さ」
「ちがっ──」
「そうだね、まだ恋人だった···プロポーズの返事を早く聞かせてよ!そうすれば僕たちは直ぐに夫婦になれる······子供は五人は欲しいよねぇ···!」
──小豆団吾、そいつは振り向いて直ぐに俺に気づいた。
先輩や抑制班の皆さん等、目に入っていないと言うように俺に語りかける。
俺は結婚はおろか、こいつと恋人になった覚えなんてない。
「まさか君がここにいるなんて·····げへ、やっぱり僕たちは運命なんだぁ!」
興奮したようにそう言うと天を仰ぐ。
燃えるように赤く光る瞳が俺を見る、さっき見た魔人のような紅い瞳だ。
決定的に違うのは言葉を話し内容を理解し自我を持っている、そして容貌も白目まで紅く染まった瞳を除き髪色も変わっておらず普通の人間と変わらない事。
「律花くん~!早く僕と一緒に行こう!」
「待て、お前は魔人か?」
「確かにこの国では僕ら親子は嫌われ者らしい······!でもあの方は違う!僕を理解し僕の有能さを評価してくれたんだ!あの方が築く国で僕は公爵位を手に入れる···君には不自由させないから安心してよ!」
先輩の問いかけにも応じずに俺に向かってそう言う。
嫌われ者って言うか犯罪者じゃん!!
無理矢理にでも連れてかれそうな雰囲気に俺は白蘭にしがみつく。
「律花くんは恥ずかしがり屋だねぇ、大丈夫だよ~僕と一緒に幸せになろう!げへへへ」
「······おい、お前の目と耳は飾りか?俺の問いにも応じず、律花の怯えた様子さえ見えないとは。そして小豆団吾、お前は何を企む。あの方とは──」
「煩いなぁ!!律花くんの名前を気安く呼ぶな!僕のお嫁さんだぞ!」
ようやく先輩へ視線を向けた。
先輩を指差し地団駄を踏みながら激高する。
「厳島龍玄!それに美園燈夜!美園燈夜は律花くんのお兄さんだから僕の義兄さんでもあるし本当は殺したくないけど愛し合う僕らの邪魔をするんだし死んで当然!厳島龍玄···お前はぽっと出のくせに僕から律花くんを奪うなんてお前の方こそ律花くんの気持ちを考えろ!愛し合う僕らを引き裂くな!」
「だそうが、律花はどうしたい?」
「嫌だ嫌だ嫌だ。行きたくない!」
俺は激しく首を横に振った。
そんなこと言わなくても分かるだろ?誰のせいでこんなに血の気が引いてると思う。目の前で自分の妄想を饒舌に語っているアイツのせいだ!先輩は白蘭に乗る俺の右横に来て、必死に首を振りながら白蘭にしがみつく俺の頭に手を置いた。
···不思議だ、先輩の手が触れると何でこんなに──。
「僕の律花くんに触るなぁああああ!!」
ズッドーン!!
小豆団吾の絶叫とも言える叫び声と共に目の前の道を右から左に土埃が舞った。何かが右、奥の方から建物に打ち付けられながら通過したらしい。
「けほっ······な、に?」
「父さん!やったんだねぇ!げへへぇ」
「おぉ、団吾ここに居ましたか。···おやぁ?何故律花様がここに···。あぁ、何という事でしょう!!このような場面を律花様にお見せするつもりは御座いませんでしたのに!」
右から左へ通過した何かの後から現れた人陰。それは小豆団吾の父、小豆大福だった。真ん丸のハゲ頭に似合わないシルクハットを直しながらそう言う。
「どういう──っ、燈夜!!」
「あ──」
右から左に通過した何か······ローズレッドの鮮やかだった髪色は砂埃で掠れ汚れて、着ている服も所々切り裂かれたように破けている。
──兄貴、?
「っ、、」
う、嘘だ。兄貴······?あのエレメントワイバーンを含んだワイバーンの群れでさえ一人で簡単に狩ってしまう程強い兄貴が、学園でも3番目に強い兄貴が······。
呼吸がおかしい。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ·······呼吸が浅くなり息継ぎをするタイミングが分からない。息をしてるのか、酸素を吸えているのか分からない。息をしているはずなのに吸えてないようで息苦しい、でも上手く呼吸が出来ない。
「律花!!」
『律花ちゃん、落ち着いて深呼吸なさいっ!龍ちゃん!!』
兄貴が、死────?
苦しさで地面へとずり落ちた俺に先輩と白蘭が何かを言ってる。けど、俺の耳には入ってこない。目の前がどんどん暗くなってきて、真っ暗になる。
「律花·······!」
「──っは、んんぅっは、ぁあ!?」
真っ暗な視界に突然唇に触れた熱い感触と、ぬるりとした何かが口内に入り込み呼吸が出来ない。呼吸が出来なくて苦しいのに、余計に息ができない······。舌を絡め取られ、乾いた口腔内を相手の唾液が潤す。
「んくぅっ、ぢゅぅ、、はぅ、んむっ、へんぱっ──」
真っ暗だった視界が色を取り戻し始める。俺の口腔内に蹂躙していたのは先輩の厚い舌······俺の両頬に添えられた先輩の大きな手が熱い。キスをしているのに苦しそうな先輩の表情は悲哀に満ちているようにも、何かを懇願するようにもみえた。
「っぅ、、あぁ、んっ、せん、ぱい·····」
「······戻ってきたか」
優しくも呼吸が出来なくなるほどのキスに未だ視界がぼやける。
······俺、どうして──。
「ヒュッ──」
「また俺に犯されたいか?」
何が起きたのか思い出した俺はまた息が詰まりそうになった。そこに先輩は俺の両頬に添えた手に力が入り、グイッと無理矢理俺の顔を自分の方へ向けさせた。視界いっぱいに先輩の顔。······涙がボロボロと零れた、その雫が先輩の両手を濡らす──。
「いいか、まだ燈夜の安否は確定していないだろう。勝手に決めつけるな」
強く優しい声がもっと俺の涙腺を刺激した。
······そうだ、まだ分からない!!動かない兄貴を見て動揺してしまった俺は過呼吸になっていたようだ。酸素を吸いすぎたせいか、まだ頭がぼーっとする。
「父さん······アイツ、アイツアイツアイツ!!」
その声で更に意識が覚醒した。
その声の主は瞳だけでなく、顔まで真っ赤になっている。
「許さない······!僕の律花くんを!!──《》」
『《白き守護》!!』
団吾は聞こえない超音波にも似た何かを発する。
それに対抗するように白蘭が魔法式を唱えるも少し遅い。
次の瞬間には俺の周りには誰もいなかった。
──先輩······?
後ろを振り向くと抑制班の皆さんも、白蘭も、先輩もその何かによって飛ばされたのか数十メートル後ろで倒れていた。前を見るとゆっくりにやにやと気色の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる団吾。
「······律花くん、早く帰って、きれいに、しようねぇ···」
近づきながら呼吸も荒くそう言って迫る。
怖くて腰が抜けたのか、俺は迫る団吾が逃れようもずりずりと後ずさる。ガラスの破片が手に刺さったのか痛いけれど、そんなことよりも早く、早く逃げないと──!!
「逃げないでよぉ、律花くん」
ヒィッ──。
「『───────────────』」
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