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本編 1章

12.

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「戻りました。・・・二人して、難しい顔してどうしたんです?」
「あ、郁・・・。すっごく格好良かったよ!!」
「そうですか?ありがとうございます!!」
「てめーの方が格好つけじゃねーか!」
「はい?ははっ、仕方ないですよー。桐谷先輩との模擬試合で使ってた装備は付与つきだったんで使えなかったんですから。それで、コートを脱いだだけです」
「寒くなかった?」
「ユウ先輩の声援で心がぽかぽかしてました」
「?」

とりあえず寒くなかったなら良かった。

「能力か?」
「え?え、えぇ。まぁ」
「どんな能力なの?しゅんっ!!って瞬間移動みたいなの・・・すごく速くて見えなかった!!」
「・・・まぁ、、あえて言えば自分の“道”を作る・・・・・・ですかね」
「・・・道」
「まぁ、説明が難しい能力なんですよ。それよりユウ先輩は酷いですよ!!あんな目をキラキラさせて俺の方見て!!」
「・・・キラキラ・・・・・・?」
「あれじゃ、襲ってくださいとでも言ってるようなもんです。・・・はぁ、、耐えた俺を誉めてください!!」
「いいこいいこすればいい?」

抱きついてきた郁の頭をナデナデする。
ふにゃりと郁の笑顔が弛んでる。・・・猫みたい・・・。

「ごらっ!お楽しみのとこ悪いけど、次は俺とユウトだぞ?」
「あ、そっか」

トーナメントの第一と第二で勝った人が次の対戦。
僕が第一、伽南が第二。・・・伽南の試合見れないや・・・。

「おら、行くぞー」
「伽南の見たかったのになぁ・・・」
「俺もユウトの戦ってるとこ見たかったよ。まぁ、でも仕方ないし・・・あ、俺の相手・・・矢羽だ・・・・・・」
「矢羽先輩って・・・」
「あぁ、・・・難しいだろうな・・・・・・」
「え、矢羽君?去年の準決勝の?」

矢羽君は強い。
去年はブロックが違かったし、僕も伽南も途中棄権しちゃったから合わなかったけど教室で後で矢羽君の試合を見た。
準決勝で、魔法の連続発動が正確で速くて――。

「伽南・・・。頑張って!!」
「ははっ、ユウトの応援なら百人力だな。でもな・・・お前も頑張れよ?お前の・・・佐々屋だぞ」
「・・・。・・・頑張る」
「おう」
「俺も見てますから!ユウ先輩、頑張って下さい」
「郁は伽南の方を見に行った方がいいと思う・・・・・・」
「まぁ、そうだな・・・。矢羽はイクと戦い方、って言うか・・・発動の仕方が似てるから。見といて損はない。それにユウトの相手の佐々屋は性格に難はあるが、そこまで・・・ユウトが負けるほど強くはないし・・・」
「言っちゃいますか・・・」
「言っちゃいます。まぁ、お前のためなら俺んとこ来いよ」
「・・・桐谷先輩って、以外と面倒見良いですよね」
「悪いか」
「いいえ」


そんな感じで郁は伽南の方に行くことになった。
準備室の前までついてきて心配してくれてたけど、そんなに僕ってば信用ないのかな?
僕だって頑張るもん!!




















「今日はよろしく。ビッチ君」
「・・・よろしく。佐々屋君・・・・・・」

郁が立ち去ってすぐに自販機の影から佐々屋君が出てきた。
気の強そうな、鋭い目つき。とても綺麗な顔をしてる佐々屋君・・・・・・。
美形な分、凄みが強くてはっきり言って怖い。

「今度は郁君かよ。お前みたいなビッチ、早く消えて?ウザイし、キモイ。能力がなんだか知らないけどあざといんだよお前」

僕は何も言えない。

「何?だんまり?ウザー。そんなブスにさぁ、僕の彼氏だったライもあの郁君も伽南君も・・・あれ、野崎君もだっけ?お前に誑かされてんだよ!!いい加減にしろ!!」
「か、伽南も郁も誑かすなんて、、してないよ!」
「はぁ?まだ懲りないの?あと何回注意すれば気が済むんだよ・・・。分かる?お前は居るだけで誑かしてんの。こっち恨むのは筋違い。お前の能力のせいなんだから!!」
「してない!!それに野崎って誰!?知らないよ!!」

つい、反論した。
・・・伽南も郁も僕の友達・・・・・・誑かすなんて――。

「・・・何、その顔!!いい加減にしろって言ってんだろっ!!」

ガッ!!

「かはっ、、!!」
「・・・ふん。お前が悪いんだから仕方ないだろ?」


蹴られた。・・・痛い・・・・・・。
佐々屋君は倒れた僕をもう一度蹴って自分の準備室の方へ向かった。蹴られた左の脇腹がズキズキする。

「・・・・・・仕方ないんだ・・・・・・・・・・・・っ!!」

立ち上がろうとするとズキッっと重い痛みが襲う。
・・・自分のも治せたらいいのに・・・・・・。

















痛む左脇腹と左腕を庇いながら、何とか準備室に入る。
装備をセットして準備を終える。

気づいたら会場に転送されていた。


『第五試合
 牧野 悠仁 VS 佐々屋 マギ』

「よろしく」
「・・・よろしく、、お願い――」


脇腹がズキリッっと痛んで声がでない。
それでもなんとか認識されたのか開始の合図がなった。

「ふっ、≪展開≫・・・≪煙幕≫・・・・・・≪身体強化≫」

佐々屋君の声がした。
僕の体が煙に包まれた。フッっと軽く風が切る。
決して速くないキーの詠唱だけれど今の僕には速く感じた。


ドガッ!!


気づいたら僕の体は宙に浮いていた。


「≪風車≫!!」


宙に浮きながら風の循環する球体に吸い込まれる。
ぐるぐる回転しながら、風の刃に切り込まれる――。

「ぐぁっ!!・・・・・・っ、、」
「ははははははっ!!」

佐々屋君の笑い声が聞こえる。会場もざわざわとしている。
声がでない・・・痛い・・・・・・。
口の中が鉄の味で充満している。
懐かしいこの感じ――。








『≪収束≫』

突然マイクで魔法のキーが聞こえた。
その瞬間に僕を囲んでいた風の球体が一ヶ所に集まっていく。
あ、、、あ、

その声は――。





















『・・・・・・ユウ、、、ごめんね・・・』


嫌だ!!


『・・・迎えに来たよ。遅くなってごめんね・・・・・・』

『目を開けて。俺のユウ・・・・・・』


何、、を言ってるの・・・・・・?




『おいっ!!』

『・・・・・・誰ですか?』

『今さら・・・・・・今さら遅いんだよ!!帰れ!!』

『・・・・・・ごめん・・・』

『謝ってんじゃねー。・・・ユウトは――』

『っ俺、、・・・ユウをお願い』

『お前になんて頼まれてやらねーよ・・・・・・』



伽南と郁と・・・・・・誰・・・?
目を開けたいのに、体が重くて痛い・・・。
・・・・・・・・・。
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