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第4話 お嬢様とそれぞれの秘密
しおりを挟む「ここが僕の故郷のマークハルトです」
「ああ、俺もここには何度か来たことがある」
ロシュベルは自慢げに自分の古郷を紹介していた。
昔来た時と変わっていない。
ダディーは入り混じり人や様々な出店を見ながらそんなことを思い出す。
しかしダディーには少し気になることがあった。
「なぁ、なんで誰も話していないんだ?」
「そ、それは……」
確かに人は多い。だが、ダディーには活気が何も感じられなかった。
よく見ると笑い声も何も聞こえない。表情も無表情である。
その異様さにいち早く気付いてダディーはロシュベルに問いかける。
しかしロシュベルも下を俯くだけで明確な答え出してこない。
そして無言の時間が続く中でダディーはある光景を見ることとなる。
「あらあら辛気臭いところね……ここは相変わらず」
「……ダディーさん、あれがみんなが元気のない理由です」
優雅なドレスを着こなし、美しい女性が高らかに笑っている。
化粧もしており、宝石を身に着けてお金持ちというのが一目で分かる。
しかし彼女を見てたくさんの人は逃げるように去って行く。
ロシュベルも唇を噛みながら彼女のこと見ており恨んでいる様子が分かる。
そしてダディーも彼女のことを見つめて全てを把握する。
「まあ、もう少しでこの街もあたくしの領地になるのだから無理もないですわね!」
「なるほどそういうことか」
ダディーは小声でそう言ってお嬢様のことを見ていた。
ロシュベルも聞こえないぐらいの声量でダディーに説明する。
『あの人はドロシアという世界でも有数のお金持ちのお嬢様です』
『なんでそんな奴がこの街に目をつけたんだ?』
『この街には宝石がとれる鉱山があります……おそらくそれが狙いだと』
なるほどとダディーは納得する。ロシュベルによるとこのマークハルトには宝石がたくさん存在する鉱山があるという。
ドロシアはそれが狙いでこの街に目をつけた。
そう考えればドロシアの考えは分かる。
そしてドロシアもこちらの存在に気が付く。
「あら? まだ薄汚い野良犬がいましたの?」
「の、野良犬?」
「ダディーさん……相手にしない方がいいです」
「ふん! 冴えないおっさんですわね! あたくしのお父様とは大違いですわね」
ロシュベルはダディーのことを止める。しかしダディーはここまで言われて引き下がる訳にはいかなかった。
怒りを込み上げてお嬢様のドロシア相手でも容赦はしなかった。
「いきなり会って名前も知らない奴に冴えないおっさんなんて失礼じゃないか?」
「はぁ? 実際そうだし仕方ないでしょ? 老け顔の臭いおっさんにはこれがお似合いだと思うけど」
「……おいおい、それは言い過ぎじゃねえか?」
するとロシュベルも雰囲気が変わりドロシアに歯向かう。
「何も知らないお嬢様が偉そうに語ってんじゃねえよ! てめぇが生きていられるのもその親父さんのおかげだろ? それがなくなったらお前は何も出来ねえじゃねえか?」
「……ふん、このあたくしにここまで言ってくるなんて面白いですわね」
ロシュベルとドロシアは対峙する。ダディーも変わったロシュベルに続くようにドロシアを睨みつける。
しかしそんな一触即発の状態の時だった。
「お兄ちゃん! どうしたのこんなところで」
「す、スズカ……」
するとダディーたちの目の前に現れる少女。
彼女は車椅子をひきながらロシュベルを見つけると笑顔になった。
そしてロシュベルも殺気のある顔から普段の優しい表情に戻る。
ダディーもそのスズカという少女の無垢な笑顔を見てたら何だか癒された。
(思い出すな、俺にもこんな娘がいたな)
ダディーはそんなことを思いながら抱き合うロシュベルとスズカのことを見ていた。
「……はぁ、何だかしらけましたわ! 次会う時は覚悟しなさい! まあ、この街がなくなっていますけどね!」
ドロシアは現れたスズカを見て気が削がれたのか。
そんな捨て台詞を吐いてこの場から立ち去ろうとした。
「ばいばーい! きれいなお嬢様! また会おうね」
「……っ! 何なんですか、ぐぅ」
「スズカ、あの人にそんなこと言ったら駄目だ」
「……いや、スズカちゃんだったか? いいところで現れてくれてありがとう」
ダディーはスズカにお礼を言って同じ目線まで下がる。
そしてスズカはきょとんとした表情で無垢な笑顔でこんな残酷なことを言ってくる。
「おじさん」
「なんだい?」
「くさい」
「……」
「あははは! ごめん、ごめん、スズカの奴はっきりと言うからさ」
(お前もさっき言ってただろ! はぁ……そんな臭いのか俺?)
そんなことを思いながらダディーは苦笑いをするしかなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえずロシュベルとダディーはギルド協会へと向かうことにした。
スズカは家に帰ると言って別れた。
マークハルトは小さな街だが設備はしっかりとしている。
ギルド協会は依頼を受ける冒険者で今日も一杯だった。
ただ、相変わらず雰囲気は悪かった。
ダディーは依頼を受けるために必要なギルドカードを作成して貰う。
また一からのやり直しにダディーはため息をつくばかりだった。
「それにしてもロシュベル、お前ランク高くていいな」
「いえ、これには少し事情がありましてね」
「……? まあいいや、俺はDランクか」
ランクはEランクからSランクまである。つまり今のダディーは二番目に弱いということだ。
ランクによって受けられる依頼が変わってくるということだ。
励ますようにロシュベルはダディーの肩を叩く。
一体どっちが年上という状況だった。
とりあえず今日はこれだけにしてギルド協会を後にした。
帰り道。ロシュベルがダディーのことをしばらくの間泊めてくれるらしい。
行く当てもないダディーにとってこれほどありがたいことはない。
そして話題はお互いのことになった。
「ダディーさんは結婚とかされているんですか?」
「してたと言った方が正確だな」
「ということは……奥さんに逃げられた?」
「やっぱりお前はっきりと言うな……いや、そうじゃなくて」
ダディーはきゅっと胸が締め付けられるような感覚となった。
そしてロシュベルに真実を伝える。
「ここにはもういない俺の妻と娘は空の上にいる」
「……あ」
「俺が冒険者としてバリバリに働いていた時に、魔物が大量に攻め込んで来て、逃げ遅れた二人は喰い殺されたらしい」
今でも忘れない。ダディーは空を見上げながら思い出す。
当時はしばらく立ち直れなかったものだ。
泣いて、悲しみを依頼にぶつけるしかなかった。
そして途方に暮れている中で出会ったのがあのパーティだった。
(それなのにそこもなくなって完全に俺の居場所はなくなったという訳だ)
一気にこの場は暗くなる。ダディーはそれを思って明るくしようとした。
「お前がそんなに悲しむ必要ないだろ! もう時間が悲しみを忘れさせてくれた」
「……僕も」
「ん? どうしたんだ?」
「ダディーさんと同じですね」
「同じ?」
するとロシュベルは立ち止まりダディーの方を向く。
その時のロシュベルの表情は出会った中で一番悲しみが伝わってきた。
「僕の両親は小さい頃に鉱山の事故で亡くなったんです」
「そ、そうだったのか」
「僕だけは運がよくて無傷で助かったんですけど、妹は重症で歩けなくなって、そして僕の兄も亡くなりました」
ダディーはその鉱山事故を知っていた。
死亡者が多数いた悲惨的な事故。原因は不明。
ただ何処かの者たちが無理やり鉱山を掘ろうとした結果。
地盤は緩み、鉱山全体が脆くなったという噂もある。
その中にロッシュベルの両親や兄がいたことは当然ダディーは知らない。
お互いの境遇を知ってダディーとロッシュベルは何も言えなくなる。
(悲惨的なのはお前も一緒か、俺にしてやれることはあるのか)
ダディーは苦しみながら呼吸をしているロッシュベルを見つめる。
辛いのだろう。そして、ロッシュベルは再び人格が変わる。
威圧感が増して、ダディーは何かを察知する。
「俺はあの日から誓ったんだ……必ずあの鉱山事故の原因の奴ら……そして残った妹のスズカのために俺はもっと稼がないといけない」
「……」
「おっさん! 力を貸してくれるよな? あんたもその鉱山には興味があるんだろ?」
「ああ、ただ、ロッシュベル! その前にお前自身も決着をつけろ」
「なに!?」
「今のお前は不安定そのもの、その理由は自分が一番分かっているはずだ」
(二重人格っていうやつか? しかしこれほど顕著なのは初めて……おそらく今のロッシュベルは兄の人格そのものなのか)
ダディーはいち早くロッシュベルの人格に気が付く。
今のままではロッシュベルは完全な力を出し切れない。
これらが一つになった時。ダディーはロッシュベルの真の力が発揮されると予測した。
しかしロッシュベルは聞く耳を持たない。
「てめぇに! 俺の何が分かる?」
「この年になったら嫌でも分かってしまうんだよ、人が持っている誰にも打ち明けられない秘密や悩みっていうやつを」
「な、なに?」
(俺だってまだ打ち明けていないことが山ほどあるしな)
ダディーはそう言ってロッシュベルを悟った。
すると元に戻り普段の優しい少年へと戻った。
「そろそろ行くか、長話はまた今度にしよう」
「……はい」
こうしてダディーとロッシュベルは歩いて行く。
しかしお互いの溝は深まるばかりであった。
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