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春の訪れ
三話【恋愛対象が終わっている】
しおりを挟む一年生の頃はブカブカだった制服も二年生になった今の私なら丁度いいサイズになっていた。まだ肌寒い時期だからジャケットは必須だね。首が締まらぬ程度にネクタイを締めて、身だしなみを整える。
スクールバッグの中身は昨日のうちに用意したけれど、もう一度忘れ物がないか確認する。上靴を忘れてはスリッパで過ごさないといけないからね、それは阻止しないと。スクールバッグの中身を全て確認したら準備は整った。
私は玄関に向かい、褐色のローファーをトントンと爪先を立てて踵を入れて履いた。ドアの把手に手を伸ばした時、言い忘れていたことを思い出した。
「行ってきます」
そうお決まりの台詞を吐いて、私は玄関の扉を開けた。ついに私の二度目の高校生活が始まるのである。
私の家から梦蘭学院までの道のりは意外と長い。私は電車通学だ、別にバス通学でもいいのだけれど作品の中の羽井涼梨ちゃんは電車通学を選んだみたいだ。駅に着くまで、最近新しく工事されてコンクリートで出来た道をローファーでコツコツと音を鳴らしながら歩く。
子供のはしゃぎ声が聞こえる、地域の小学生が登校中なのかもしれない。犬の鳴き声も聞こえた、犬の散歩中のおばあさんがいるのかも。朝は様々な声が聞こえる、声高い音や深みのある低い声、人間の声以外にも動物の声も聞こえてくる。本当に朝は賑やかだ。
生き物が活動し始める頃が今だから、様々な音が聞こえるんだね。いい音だ、耳を澄まして聞くと何故だか心がポカポカする気持ちだ。この音を私は二度目の生を受けなかったら、もう二度と聞くことが出来ないと思うと背筋が凍るよ。
でもそれは“もしも”の話だ、私は今も生きている。現在この様々な音たちを聞いているのが証拠だね。
何となくで私は空を見上げた、清々しいほど綺麗な群青が空に広がっていた。あ、飛行機雲だ、青色には白色が映えるね。飛行機雲はどこまでも続いてるかのように真っ直ぐだった。
「綺麗だ」
思わず呟いてしまった言葉は優しく吹いている爽やかな風が掻っ攫っていった。私の髪がゆらゆらと揺れて、まるで“空を見上げる少女”と題名がつきそうなほど美しい絵画が出来上がったしまいそうだ。
時間が止まって見えた、私の周りには人々は動いているのに私だけが時が止まったように見えたのは私が空に見蕩れていたからだ。この空は雲一つ動いていないように見えるけど、本当は少しずつ動いている、だから同じ景色は二度と見れないのだ。私はスクールバッグからスマホを取り出した。
パシャ
写真を撮る音がなった。私はこの群青が広がる空を写真に収めたかったのだ。これも私の思い出に残ると思うと口角が僅かに上がる。本当はこの綺麗な空をずっと眺めていたかったけれど、それでは大事な新学期初日が遅刻という不真面目な生徒になってしまう。それは今まで優等生を築き上げた羽井涼梨ちゃんにも悪いし、私は不良にはなりたくない。じゃあそろそろ、遅刻しない内に歩きだそうか。
駅のホームに辿り着き、ピッと定期のICカードをかざし改札を通る。丁度よく電車が来たみたいだ、私は1車両に乗った。
電車の中は満員ではなかったけれど、座る席は全て取られてしまっていた。仕方なく、車両のドアの方に寄りかかり降りる駅までここで待つことにした。
電車の中には様々な人がいる、スーツを着てネクタイを締めている男性は恐らくサラリーマンだ、まだ若々しい顔をしているから社会人になったばっかりなのかもしれない。他にもスーツを着ているお姉さんや子供を連れた母親もいた。スーツを着ているお姉さんは社会人になって結構経っているのかもしれない、前世の私と同じOL社員かな。あのお姉さんはお酒飲めるのか、いいな、私も飲みたいな。まぁ今は未成年だから飲めないんだけど。子供を連れた母親はこれからどこかに遊びに行くのかもしれない。平日だけど、仕事をしていなくて主婦専門の母親はこの世の中に大勢いる、だからこの子供連れの母親も今日はショッピングでも行くのかな、それとも子供を連れて病院かな。分からないな、結局どこかに行くのは確実だろうけどね。
《まもなく○○駅です、お降りの際は、お忘れ物なさいませんようにご注意ください》
どうやら電車に乗っている人を観察していたら、二駅ほど過ぎ去っていたようだ。あまり他人をジロジロ見過ぎてもあれなので観察はここら辺でやめにしよう。
私は次乗ってくる人の為に電車のドアに寄りかかっていた身体を端に寄せた。
駅に着き、プシューと電車のドアが開いた。この駅で二、三人は降りたし、この駅で二、三人は乗ってきた。結局私は席に座ることは出来なくて、少し落ち込んだ。タイミングが難しいんだよね、次はスタンバイしておこう。そう思っていると、私の同じ学院の制服を着た人が乗ってきた。スカートではなくズボンを履いていたので男の子だと思う、私は羽井涼梨ちゃんの知り合いだったら降りる駅までお喋りという暇つぶしが出来るから知り合いだといいな、なんて考えながら乗ってきた人の顔を見た。
『い、色雲柚斗(いろくもゆずと)ー!?』
まさかの【丘華】のメインキャラだったとは…、
色雲柚斗とは【丘華】に登場するキャラクターだ、漫画の立ち位置はヒロインによくちょっかいをだすお助けキャラみたいなもんだ。ヒロインちゃんと主人公くんが付き合うのを一番応援していたのもこのキャラかもしれない。作品の中の羽井涼梨ちゃんが主人公くんのことが好きだと色雲柚斗くんに言っていたら、色雲柚斗くんはどっちを応援したんだろう。色雲柚斗くんの性格は女の子なら誰にでも口説く所謂ナンパ人間だ、ナンパは必ず成功する癖に一度落した相手には興味がないらしく長続きしているのを見たことがない。本当にクズだな、あまりにもクズ過ぎて少女漫画のキャラクターなのにどうかと思うよ。まぁ色雲柚斗くんはクズだけど、ヒロインちゃんと主人公くんのことを応援していたから優しさはあったんだと思う、多分。作品の中の羽井涼梨ちゃんとは普通に友達みたいな関係であった。色雲柚斗くんは最初漫画の中で登場した時はヒロインちゃんも口説いていたから、私はライバル登場か?と思ったけれど、色雲柚斗くんはただのナンパ人間だったのでライバル役にはならなかった。あ、そう言えば女の子なら誰でも口説くのに羽井涼梨ちゃんに口説いていなかったな、あれかな?漫画には描かれていなかっただけかな。それか、口説こうと思わないぐらい羽井涼梨ちゃんには興味がそそられなかったとか?なにそれ、可哀想すぎない??まぁ恋愛対象ではなく、友達と思ってるだけかもしれないけど。
色雲柚斗くんはまだ私には気づいていないみたいだったから、私はこっそりと近づいて声をかけた。お願いだ、私の暇つぶしになってくれ。
「ねぇ、色雲」
「?、涼梨ちゃんだ おはよ」
「おはよう、座る席ないし立ってるだけなのも暇だからお喋り付き合ってよ」
「おけ」
色雲は私に気づくと、ナンパが必ず成功するその美顔で私に笑いかけた。凄い、これが色雲柚斗か、私はキャラが本当に存在して生きているんだということに感動した。私が暇つぶしの手伝いをしてと言っても快く受け入れてくれるのは流石手慣れてる。手馴れすぎて逆に怖いな。
「知ってる?杏と華月付き合ったんだよ」
「知ってる、ついにって感じ」
「そうだね、長かったしね」
「………涼梨ちゃんってさ」
「?、なに?」
「華月のこと好きだったよな」
「え?……知ってたの?」
「うん、知ってた」
「…そう、でもね大丈夫だよ 私もう華月好きじゃないし、杏と結ばれてよかっと思ってるよ」
「そうなんだ、なら良かった」
私がヒロインちゃんと主人公くんが結ばれたことを話題にしたら、なんと色雲は作品の中の羽井涼梨ちゃんの恋心に気づいていたことを知った。そうだったんだね、作品の中の羽井涼梨ちゃんは誰にも言ってなかった気がするけど、どうして知ってたんだろう。やっぱり恋する乙女は分かりやすいのかな??まぁ一番近くで私たちのことを見てきた色雲には分かっていたのかもね。そういうことなら、色雲はヒロインちゃんと羽井涼梨ちゃんの両方の気持ちに気づいていたことになるね、けど色雲はヒロインちゃんのことを応援していた。やはり色雲は羽井涼梨ちゃんよりヒロインちゃんの方が好感度が高かったのかも。なんというか、羽井涼梨ちゃん本当に可哀想…、これ手を合した方がいい??まぁ羽井涼梨ちゃんは最後まで自分の気持ちを隠していたから、色雲も羽井涼梨ちゃんはヒロインちゃんに主人公くんを譲ると思っていたのかもね。本当は私と人格が変わるまで主人公くんのことは好きだったみたいだけど。
「色雲は好きな人は兎も角、気になる人ぐらいいないの?」
「俺はなー、女の子みんな大好きだから」
「うわっクソだね」
「今俺の心に弓が刺さったわ、なんか涼梨ちゃん雰囲気変わった?」
「落ち着いたからかな」
「今まで何かあった感じ?」
「うーん、焦っていたらしいよ」
「なんで他人事?」
「秘密」
「秘密か、」
色雲に好きな人がいないことは分かっていた、だって女の子なら誰でも口説く人だよ??一途とは思えないかな。だから、気になる人は?と聞いたら案の定女の子みんな大好きっと返ってきた。相変わらずのクズさだね。こういう所が前世では人気だった理由かな、色雲って人気ランキングTOP5には入ってたんだよね。クズな男が好きな女性多すぎない??私は優しくてちゃんとしてる人が好きかな。まぁ彼氏いない歴=年齢だったから恋愛関係はあまり得意じゃないけど。
クソだねっと私がそのまま思ったことを言ったら、色雲に雰囲気が変わったことを勘づかれてしまった。別に隠してるわけじゃないけど、色雲にもう前の羽井涼梨ちゃんがいなくなったことは言わない。だって、今まで接してきた人がいなくなって新しい人格が入った、なんて信じると思う?それに前の羽井涼梨ちゃんを返して、なんて言われたら溜まったもんじゃないよ、私だって好きで羽井涼梨ちゃんに成り代わったわけじゃないしね。だから、言わない。これは誰にも言わない私の“秘密”だ。
「一人で行くのも寂しいでしょ、このまま一緒に登校しない?」
「いいよ、女の子となら大歓迎だ」
「逆に聞くけど、女の子なら何歳までOKなの?」
「女の子なら全員だけど?」
「え?じゃあおばあさんもいいの?」
「うん、おばあさんも女の子だし」
「…………」
「涼梨ちゃん?どうかした?電車酔い?」
「……色雲の頭が心配」
「え、急に辛辣」
一緒に行かないか?なんて素直には言えなかった自分に少し驚いた。私は口実を作らないと誘えないだなんて、少し歳を感じた気分だ。ヒロインちゃんみたいに無意識で誘えるって凄いことなんだね、ヒロインちゃん尊敬するよ。
色雲は女の子なら誰でも好きだ、それで聞いてみたんだ何歳までOKなの?って、返ってきた言葉は女の子なら全員。その言葉は前世で耳に胼胝が出来るほど聞いてきた。私が聞きたいのはそういう事じゃない、だからつい冗談でおばあさんもいいの?って問いかけたら…
“うん、おばあさんも女の子だし”
これはあまりにもおかしい、流石に少女漫画のキャラの設定でもあまりにも可哀想ではないか。なんだおばあさんも好きな男子高校生って、いくら女の子が好きだからってそれはない。もう色雲は末期なのかもしれない。私は色雲の頭が心配だよ。
羽井涼梨(はねいすずり)
生き物が活動し始める朝の賑やかな音が好きな前世OL社員。電車通学で1車両に乗っていたら、○○駅で【丘華】のメインキャラクターの色雲柚斗が乗ってきて吃驚。色雲が羽井涼梨ちゃんの恋心を知っていてこれまた吃驚。色雲のクズさは前世から知っていたけど、まさかのおばあさんも恋愛対象ということを知って色雲の頭が心配になった。色雲のことはクズな友達と思ってる。
色雲柚斗(いろくもゆずと)
【丘華】のメインキャラクター。ヒロインちゃんと主人公くんのことを一番応援していた人。女の子なら誰でも好きでよくナンパしている、ナンパは必ず成功するが、落としてしまった人には興味がない。凄いクズ。まさかのおばあさんも恋愛対象。羽井のことは表向きには程よい友達だと思ってる。本音は██████と思っている。
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