追憶の空

忠犬

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春の訪れ

十話【女の子には優しく】

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「ねぇ、寝てていいの?」

「…………」

「起きなくていいの?」

「…………」

私が勇気を振り絞って声をかけたというのに、こいつ全然起きる気配がしない。何故だ、何故こいつは起きない。もしかして熟睡しているのだろうか、マジで…?私が起こすか起こさないかの悩んだ時間をとてつもなく返して欲しい。あの時私が腹を決めた覚悟は一体何だったろうだろう……。

「部活遅刻するよ?」

「…………」

肩を揺さぶってみたが反応なし。本当に起きないな、ていうか普通部活があるのに寝るか??……黎炎なら有り得るのが怖いね。善人の方の人格だったら、絶対に部活前に寝ることはないと思うから、今の黎炎の人格は悪人の方なのかもれしない。悪人の方の人格って少し怖いから、黎炎がもし起きても友達でもない私とちゃんと話せるのだろうか……、凄く不安。

「遅れても知らないよ?」

「…………」

私がいくら声をかけても肩を揺さぶっても反応がない、もう部活見に行ってきていいかな??悪人の方の黎炎に構っている暇は私にはないんだよ。

……仕方ない、黎炎に声をかけてしまったのも私だ、これは黎炎が部活に行くまで見守ってあげようじゃないか。

じゃあどうやって起こすかが問題だね、肩を揺さぶっても起きないとなれば、強く衝撃を与えれば起きれるんじゃないかな。大声を出すのもいいんだけど、私ってあんまり大声を出そうと思って出せるわけじゃないんだよね。

では早速黎炎の頭にチョップでもしようか、勿論起こされた分際で文句の言葉なんて言わないよね。黎炎が寝ていたのが悪いんだから。

私は黎炎の頭に手刀を入れた。私だって少しは悪いと思ってるんだよ、結構いい音鳴ったし、痛そうだなーぐらいにね。でもね、これでもしないと起きない君が悪いと私は考えるよ、なんなら何回声をかけても沢山肩を揺さぶっても起きない君の神経を疑うぐらい。

「………あ?誰」

「やっと起きたみたいだね、部活あるんじゃないの?」

黎炎は手刀された頭が意外と痛かったのか、頭を抑えながら顔を上げた。凄く顔が歪んでいるよ、そりゃあ寝起きは人間の半数の人が機嫌が悪いからね、それに起こされるのがもっと機嫌悪くなるポイントだよね、刺激を与えられて起こされたなんて以ての外。ヤバいな、私。何がヤバいなんて全てだよ。ま、まぁそんないきなり他人以上知り合い未満の人に殴りかかることなんてある訳ないよね、ないよね……。これまた超不安だな。

私が部活のことを教えると、黎炎は一瞬眉が上がった。どうやら部活のことを完全に忘れてしまっていたらしい。いや大丈夫なのかそれは、バレー三銃士の一人。黎炎はポジションも獲得しているし、レギュラーメンバーなのだろう。しかもうちは強豪、凄い今君のことが心配になったよ。このクラスには頭が心配な人が多いのかな。全く、困ったもんだよ。

「……痛いんだけど」

「それは申し訳ないと思ってるよ、でも、私は何回も君に声をかけたし肩も揺さぶったんだよ?そこは起こしてあげた私にお礼の一つや二つ欲しいかな」

「……そもそもお前誰」

「私?羽井涼梨だよ、君のクラスメイト」

「……宮丘の親友か」

「そう、覚えていたんだね」

「……名前だけな」

私は黎炎に殴られる覚悟をしていたけど、痛いの一言だけだったので、それは謝った。流石に悪人の方の人格でも他人以上知り合い未満の人には殴りかからないらしい、まぁそれが普通だが。そして部活のことを完全に忘れていた頭が心配な黎炎には私はお礼の言葉を欲した。私は態々黎炎のことを人間の大事な時間を使って起こしてあげたんだから、お礼の一つや二つはもらっても当然でしょ?まぁお礼の言葉ではなく、誰と返されてしまったけど。

黎炎は私の事はヒロインちゃん経由で知っていたらしい、名前だけ。恐らくヒロインちゃんと仲良くお話している時にでもヒロインちゃんが前の私の事でも話したのだろう。ヒロインちゃんは本当にいい子だからね、前の私のいいところしか話してないんじゃないかな。

それとバレー三銃士とヒロインちゃんの関係は今でも続いているのだろうか、クラスは離れちゃったし分からないな、今度通話で聞いてみよう。

「私が誰か分かったでしょ、さぁお礼の言葉をどうぞ」

「……あり、が…とな」

「凄く嫌そうじゃん、そこまで嫌がるのって手刀入れたこと根に持ってる?」

「………あぁ」

「痛かったよねー、ごめんごめん」

「…お前棒読みだな」

「これが私のスタイルだから」

私はお礼の言葉がそこまで欲しかったわけじゃないけど、黎炎の悪い人格の方にお礼を言ってもらうことってあんまりないと思うから、お礼の言葉を欲しがった。まぁ結局凄く嫌そうな顔で言われたけど。やっぱり、手刀入れたこと根に持ってたんだね……、意外と根に持つタイプだったとは。

棒読みだけど労りの言葉を言ってあげたつもりなんだけど、もっと嫌そうな顔されちゃったよ。眉間の皺大丈夫??凄く寄ってるよ??眉間のところだけ皮膚の伸びが良さそうだね、黎炎がいいなら今度触らせてくれないかな、多分無理だね。

「…宮丘が言ってた羽井じゃない」

「杏は私の事どう言ってたの?」

「…優しくて可愛いって……全然優しくもないし可愛くもない」

「ねぇそれは喧嘩売ってるってことだよね??買うよ??」

「…本当のこと言っただけだ」

「…よくデリカシーなさ男って言われない?」

「…あ゙?」

「すいませんでした」

どうやらあのいい子ちゃんのヒロインちゃんは黎炎に私の事を優しくて可愛い羽井涼梨として伝えていたらしい。前の私の話だから、今の私と違うのは絶対なんだけどなっと思ったら、黎炎がとてつもなくデリカシーのないことを言ってきやがったので、つい私は殴りかかるところだった。危ない危ない、男には勝てないんだぞ、簡単に挑むなんて私も精神年齢が身体に引っ張られてきたね。いい事なんだけど、今ここで証明されても微妙だよ。

私がつい煽ってしまったら、黎炎に物凄い睨まれてしまったので即座に謝罪した。とても怖かったな、謝罪って本当に大事なんだと実感したよ。今度から黎炎には余っ程のことがない限り煽んないどこう、まぁやめるとは言わないけどね。

私がそんなことを思っていると、静まり返っていた廊下からタッタッと誰かが走る音が聞こえてきた。何か急ぎの用事だろうか、廊下は走っちゃいけませんと言われているけれど、大体の人は走ってるよね。勿論先生が周りにいない場合だけど。

その音はどんどんこの教室に近づいてくるようであった、二年二組の生徒かもしれないね。忘れ物でもしたのかな。

いよいよ誰かが走る音はこの教室の前で止まり、二年二組の教室の扉がガンと壮大な音をたてて開いた。いや扉は壊れやすいから優しく開けようよ。勢いよく扉が開いたから、私と黎炎は少し驚いて扉を開けた犯人の方を見た。そこに居たのは……






















『狼谷琉衣(かみやるい)ー!?』

本日二度目の【丘華】のメインキャラクター登場に私は流石に転倒して尻もちをついた。痛たい、凄い痛い。黎炎はいきなりすっ転んだ私に不審な目線を寄越していたけど、私はそれどころではなかった。まさかのメインキャラクターの登場だし、床にぶつけたお尻がとてつもなく痛い。痛い痛すぎる、小さい子用の遊具でふいに頭をぶつけるぐらい痛い。涙がでたかもしれないよ、久しぶりに出た涙が尻もちってなんだか嫌だね。私はお尻を擦りながら、驚かせた張本人を涙目で見上げた。

「お、おい…てめぇ大丈夫か?」

「い、いや……大丈夫…だよ」

「絶てぇ大丈夫ではないだろ!?」

「…狼谷先輩、俺に用事?」

「おう、黎炎に用事だ、って違ぇ!てめぇが部活来ないから態々呼びに来てやったんだよ!」

「…あ、そう」

「痛い、痛い…」

狼谷先輩が心配してくれたが、心配してくれるだけでとても有難いよ、まぁお尻の痛みは治まらないけどね。黎炎なんて不審な目線を寄越して終わりだからね、私へのレディーファーストとはどうした。狼谷先輩は黎炎が部活に来ないから態々呼びに来てくれたらしい、本当にいい人だ。黎炎はそれを伝えられても興味なし、私はお尻が痛くてそれどころではない、そして一人慌てる狼谷先輩、ここにカオスが発生してるね。

ここで狼谷琉衣先輩のことを紹介しよう。狼谷先輩は【丘華】に登場するメインキャラクターだよ、私たち二年生より先輩、だから今は三年生だね。狼谷先輩はバレー部でポジションを獲得しているし、レギュラーメンバーなんだ。確かウィングスパイカーだった気がするよ。ウィングスパイカーとは、ボールをアタックしてコートに叩き落とす人のことを指すよ。そんな三年生の先輩でバレー部でも活躍している狼谷先輩を一言で表すなら、『乱暴』という言葉が一番ピッタリかな。気性は荒いし、言葉使いも品がない、けれど本当は後輩思いないい先輩なんだ。見ず知らずの私のことも心配してくれているしね、本当にいい人だ。狼谷先輩もヒロインちゃんと仲がいいんだよね、ヒロインちゃんの恋を応援していた人の一人だよ。ヒロインちゃんがバレー部のいざこざに巻き込まれた時も大人な対応をとっていたし、狼谷先輩は前世でも裏で隠れて人気なキャラクターだったんだ。私も一度は狼谷先輩の男前なところに惹かれたことがあるんだよ。

そんな乱暴だけどいい人な狼谷先輩は態々私の前まで来て、手を差し伸べてくれた。

「ほら、立てるか?」

「ありがとね」

狼谷先輩のお陰で立つことが出来た私はポンポンとスカートについた埃を払って改めて狼谷先輩にお礼を伝えた。私はきちんとお礼の言葉が言える人なんだよ、誰かさんと違って嫌そうな顔もしないし、私って凄く大人だよね。

「てめぇ部活のこと今まで忘れてたとか言わねぇよな?」

「…忘れてたけど?」

「へぇ…、ポジションを獲得しているにも関わらず、そのバレーの意思の無さが窺えるな」

「…別にバレー興味がないとかじゃないし、バレーは好きだけど」

「私が起こすまで寝てたけどね」

「…ちょ余計なこと言うな」

「寝てたのか…、一度ぶん殴ったら目は覚ますかぁ?」

「いいねそれ、私も殴らせて」

「…お前も便乗すんな」

狼谷先輩の圧のある問いかけに怯えもせず黎炎は部活を忘れていたことを白状した。その悪いとも思っていない黎炎の態度に狼谷先輩はとても眉間に皺が寄っていたから多分キレてる。お大事にね、黎炎、骨は拾ってあげるよ。私が黎炎が今さっきまで寝ていたことを話すと、狼谷先輩は益々キレていた、殴ろうとしてるもんね。ごめんね黎炎、多分骨すら残らないと思う。骨まで粉々になっちゃうわ、南無三。ついでに私が尻もちをついたのは部活に行かないでここにいた黎炎のせいだから、私も殴らせてもらうよ。

そうして憤怒している狼谷先輩は黎炎に一発殴った。結構音が凄かったし、痛かったと思う。まぁ部活を忘れて寝ていた黎炎が悪いので私は庇わないよ、そもそも私たち友達でもないしね。狼谷先輩の愛の拳に耐えてるところ悪いけど、私も尻もちの恨みを込めて、黎炎の額にデコピンをかました。パンってこちらも結構いい音がなったから痛かったと思う。私の尻もちの痛さはこれの十倍なんだからね、これで済ませた私の慈悲の心に感謝しなよ。

黎炎が額を抑えて痛みに悶えている隙に私は狼谷先輩に挨拶を交わした。

「羽井涼梨です、黎炎の友達ではないよ」

「友達じゃねぇのか……、羽井って宮丘の親友か」

「そう、杏が世話になってるね」

「俺ぁ狼谷琉衣だ、こいつを起こしてくれてありがとな」

「いえいえ、ただの気まぐれだしね」

矢張り狼谷先輩はいい人だ。知り合いになれたことだし、私に悩みが出来たら相談でもさせてもらおうかな。きっと狼谷先輩のことだ、気軽に相談事に乗ってくれるだろうね。

そうして狼谷先輩はプリプリと怒りながら黎炎を引き摺って、部活に向かっていった。黎炎まだ額を抑えていたけど、そんなに痛かったのかな?まぁ自業自得だよね。

先程まで騒がしかった教室が私一人だけになり静かになってしまった。廊下にも誰もいなくて、本当に今は一人みたいだ。私は窓に近寄り空を見上げた、まだ春だからか空は青色が広がっていた。最近は晴れが多いね、いい事だ。私は静かな教室より、少しだけ騒がしい教室の方が好きかな。その方が生きてるって感じがするんだ。

私は自分の机に戻り、スクールバックにお気に入りの本を仕舞うと、部活を見に行くため教室を後にした。


羽井涼梨(はねいすずり)

勇気を振り絞って黎炎に声をかけたのに、全然起きなくて撃沈した人。黎炎とはあまり相性が合わないようだ、まぁデリカシーないしね。狼谷先輩のことを本気でいい人だなーって前世から思ってて、今世で実感した。やっと部活を見に行きます。


黎炎奏匁(れいえんかなめ)

声をかけても肩を揺さぶっても起きなかった人。ヒロインちゃんから聞いていた羽井涼梨と対面している羽井涼梨が全然違くて、頭を傾げた。部活があることを忘れていて、狼谷先輩には頭を殴られるし、尻もちの逆恨みで涼梨ちゃんにデコピンされた。凄く痛いと思う。


狼谷琉衣(かみやるい)

今回初登場、【丘華】のメインキャラクターの一人。三年生の先輩でバレー部。口調は荒いし、品はないけど、後輩思いないい人。後輩が部活を忘れて寝ていたので、カッとなって殴った。黎炎の友達じゃない子も黎炎にデコピンしていて少し驚いた。涼梨ちゃんと知り合いになったね。

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