10 / 11
春の訪れ
九話【足の指にはご注意を】
しおりを挟む「涼梨ちゃんの卵焼き美味しそう、くれない?」
「いいけど、私は園山ちゃんのたこさんウィンナーがほしいかな」
「いいわよ、私は色雲くんのミニハンバーグがほしいわ」
「おーけい、じゃあ交換しようか」
園山ちゃんが友達になったあの日から数日が過ぎた。園山ちゃんも少しずつだけど、人と接するのが回復してきているから私はホクホクだ。まぁまだ男の子は苦手みたいだけどね。
今日は昼休みに教室で三人で机を囲みながらお弁当を食べていた。園山ちゃんは数日色雲と過ごすと普通に接することが出来るようになったみたいだ。それで色雲は嬉しそうにしていたけど、園山ちゃんと一番仲がいいのは私なんだからね、そこは譲らないよ。
今はお弁当のおかず交換をしているところだ、色雲は私の卵焼き、私は園山ちゃんのタコさんウインナー、園山ちゃんは色雲のミニハンバーグ、綺麗に三人別れているから交換するのが簡単だね。
「はい、どうぞ」
「ありがと、はい園山ちゃん」
「どうも、はい色雲くん」
「あざっす」
お互いのお弁当に自分のおかずを置いていく。私は園山ちゃん特製のタコさんウィンナーをゲットできたことが嬉しくて、タコさんウインナーに刺さっている爪楊枝を掴んで早速口に運んだ。もぐもぐとしっかりと噛んで食べないと、喉に詰まるから注意だよ。ゴックンと飲み飲むと、私はタコさんウインナーの美味しさを噛み締めた。噛んだ瞬間から口の中でジュワッと広がる汁がいいよね、これは本当に美味しいと思うよ。それにタコさんウインナーという、ただのウインナーのはずなのにタコみたいに可愛くなってるのがポイント高くて私は好きだよ。園山ちゃんのお弁当にはよくタコさんウインナーが入っているから、時々貰っているんだ。勿論私のおかずと交換だけどね。
「涼梨ちゃんって本当に美味しそうに食べるよね~」
「私もっとタコさんウインナー作ってくるわね」
「凄く美味しいんだからそういう顔にもなるよ、あとタコさんウインナー以外にも園山ちゃんの料理は食べたいかな」
色雲が肘杖をつきながらそう言った。別に私は何を食べても美味しそうにしているわけじゃいないんだよ、本当に美味しいものだけそうしてるだけ。だって、美味しいものを食べたら誰でも幸せな顔になるでしょ?食って大事だよね。私は食べることに幸せを感じる人だから、その美味しい料理を作ってくれた人や食材作りに関わってきた人には心から感謝しているよ。勿論動物にもね。
それと、タコさんウインナーを沢山作ってきてくれるのは嬉しいんだけど、他の食べ物も食べたいかな。私は欲しがりなんだ。
「二人とも、部活は入った?」
「俺は一年と引き続きバドミントン部~」
「私は吹奏楽部に入ったわ、部活に入れたのも羽井さんのお陰よ」
「そう、それは嬉しい報告だね」
「涼梨ちゃんは?」
「私は………帰宅部だけど」
「部活入らないのかしら?」
「あまり興味が唆れるものがなくてね」
二年生になってからでも部活は入れる。色雲は一年生の頃と引き続きバトミントン部に入っているらしい。【丘華】の漫画の中ではあまり部活については出ていなかったから、こうやって部活の話をするのも新鮮だね。園山ちゃんは新しく吹奏楽部に入ったらしい、園山ちゃんにはピッタリだと私は思うよ。まぁ私は帰宅部だけど……。前の私は恋に夢中で友達を作らない他に部活も入っていなかったらしい。本当に主人公くんのことしか見れてなかったことが分かるね。
それで私は二年生から部活に入ろうと思ったんだけど……。もう精神は大人になっているからか、運動部はキツいと思ってしまうし、文化部は興味が唆れるものがなかったんだよね。青春といえば部活も肝心なんだけどね。無理に部活に入ろうとは思っていないけれど、やっぱり部活には入りたいんだよね……。さて、どうしようか。
「いい部活紹介してくれないかな」
「そんないいバイト紹介して、みたいに言われてもな…」
「そうね、私も全ての部活を把握しているわけじゃないのよね……」
「運動部はNGかな、出来れば文化部で」
「……マネージャーはどうかしら?」
「マネージャー?運動部の?」
「そうよ、うちの学院は結構運動部強いからマネージャーも募集してると思うわ」
「ほう、マネージャーか、やってみてもいいね」
早速二人にいい部活がないか訊ねてみるも、二人ともあまりピンと来てなかった。そうだよね、高校生の部活って多いし、全て把握していないのも当然か。それで私は運動部はNGな事と、出来れば文化部がいいなと要望を伝えると、園山ちゃんがマネージャーはどうか道筋を示してくれた。
マネージャーは結構大変そうだけど、勉強になることも多そうだよね。それにマネージャーってことは、その運動部の人達とも絆を深めそうで青春っぽいね。マネージャーいいかも。
「バド部はマネージャー募集してる?」
「うちはマネージャー禁止なんだよね~残念」
「そう、じゃあ今日の放課後マネージャーだけじゃなくて文化部とかも周ってみようかな、二人は放課後空いてる?」
「俺は丁度用事があって」
「私もなのよね」
「そっか、一人で部活周りか、なんだか探索みたいでワクワクするね」
「新入してきた一年生と間違われるかもな~」
「羽井さん大人しいけど案外子供っぽいのね」
「二人とも馬鹿にしてる??」
バトミントン部にはマネージャーは募集していないらしい。親しい友達がいたほうがやりやすいと思ったんだけど、募集していないなら仕方ないよね。今日の放課後、マネージャーの他にも文化部も見て周ろうと思ったんだけど、二人は用事があるみたいだ。一人で行動なんて、最近ずっも二人と一緒にいたから久しぶりかな。あと、園山ちゃんは兎も角、色雲は完全に馬鹿にしてるよね??相変わらずのクズさだね、逆に尊敬するよ。
そうして昼休みは三人で部活の話や授業の話をしながら仲良くお弁当を食べたよ。明日も一緒にお弁当が食べれると思うと嬉しくなるね。
───────
────────────
放課後になり私は少し教室に残ることにした。部活は六時間目の授業が終わってすぐ始まるわけではないから、数十分教室で本を読んで暇を潰してから、大体の部活が始まる時間まで待とうと思う。
隣の席の園山ちゃんやわざわざ私の席までやってきてくれる色雲に「また明日」と挨拶を交わす。二人は私と帰りの挨拶を交わすと、教室から出ていった。私はどんどん教室から出ていくクラスメイト達を眺めながら、本をスクールバッグから用意する。
私が用意した本は恋愛小説だ。この本の題名が【君の空は何色?】という空に関係しているから、空好きの私はつい書店で購入してしまったものだ。題名だけで購入したものだったけど、読み始めたらまるで【丘華】のような私の好きなストーリーだったからお気に入りになったんだよね。
私は栞を挟んでいるページを開いて、本に集中するため周りの音をシャットアウトしてから本を読み始めた。
数分読んでいると、教室は先程の賑やかさはなくなり、シーンとした静寂に変わっていた。私は何となく、教室に私以外の人がいないか確認するため顔を上げた。
『黎炎奏匁(れいえんかなめ)……!?』
まさかの【丘華】のメインキャラクターがまだ教室に残っていたとは。私は悲鳴を出すところだった、我慢したけど。危ない危ない、本当に危ない。
いや黎炎奏匁が同じクラスなのは知っていたけれど、まだ話したこともなかったので油断していた。そうだ、このクラスは【丘華】のメインキャラクターが大勢いるんだった……、今迄色雲と園山ちゃんと仲良く平和ボケしていたから完全に忘れていた。何と言うか無念……。
黎炎奏匁とは【丘華】のメインキャラクターで、バレー三銃士のリーダー的な立ち位置だ。黎炎は前世でもとても人気なキャラクターだったんだよね、私の友達は確か黎炎推しだった気がする。黎炎の特徴は二重人格なことかな。少女漫画ならではの設定だと私は思うよ。
黎炎の一つ目の人格は無気力で少し性格が悪いんだよね、別に悪人ほどではないんだけど、善人とはならないかな。そして二つ目の人格は明るくて圧倒的に善人って感じ、口調も明るくて優しいんだよね。この二つの人格のギャップが好きで、前世黎炎のことを推している人達は多かったかな。人気ランキングも上位だったし。
バレー三銃士の三人は主にヒロインちゃんと主人公くんと仲が良かったから、前の私とは友達というより知り合いな感じだったみたいだ。【丘華】のストーリーの一つに、ヒロインちゃんがバレー部のいざこざに巻き込まれることがあるんだけど、その時にヒロインちゃんはバレー三銃士と仲よくなったんだよね。だから、前の私はあまりそのストーリーに関わっていなかったから、バレー三銃士とは他人以上知り合い未満的な関係なんだ。
その黎炎は現在机の上に突っ伏している。寝ているのだろうか、それともボーッとしているだけかな。
黎炎はバレー三銃士と言われているだけあって、バレー部ではポジションを獲得している。まぁレギュラーメンバーなんだろう。そんな黎炎に聞きたいんだけど、君今日部活あるんじゃない??寝てていいの??寝てるか分かんないけど。
これは起こした方がいいのだろうか、新しく一年生も入ってると思うし、部活に遅れると先輩としてヤバいのでは??でも、黎炎だから何とかなりそうな気もするけど……。
この教室には現在私と黎炎しかいない。何故だ、何故こんな時に限って誰もいない。せめて放課後に教室で駄べりあっている女の子たちがいてもいいだろう。これは、私が起こさないといけないのか??
腹を決めるんだ私、黎炎を起こすくらいなんだ、起こしたからって地球がひっくり返るわけじゃないんだ、箪笥の角に足の指をぶつけるぐらいの痛さじゃないか。いやそれ結構痛いな。
私は本に栞を挟み、席を立った。黎炎の席に近づいて、覚悟を決める。大丈夫だ、起こすくらいクラスメイトとして当たり前のことだよね。
私は深呼吸をして息を整えてから口を開いた。
「ねぇ、寝てて大丈夫なの?」
さて黎炎の反応は以下に……、私は箪笥の角に足の指をぶつけるぐらいの痛さは味わいたくないんだ、お願いだから直ぐに起きて部活に行ってくれ。
私は平穏に事が済むことを祈ったのであった。
羽井涼梨(はねいすずり)
色雲と園山ちゃんと平和ボケしていて、クラスの【丘華】のメインキャラクターのことを完全に忘れていた人。部活は青春を満喫するためには入りたいと思っている。さて涼梨ちゃんは黎炎を無事に起こすことが出来るのか!?
黎炎奏匁(れいえんかなめ)
【丘華】のメインキャラクター、二つの人格を待っている二重人格者。善人と悪人の人格を持っている。ヒロインちゃんとは仲がいいけれど、涼梨ちゃんとはあまり喋ったことがない。さて黎炎は無事に部活に間に合うことが出来るのか!?
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる